広報・PR術入門/インタビュー

どうやって広報業務を効率化する? 香港在住のOrigami広報が語る「リモートで働くコツ」

現在、香港に住みながらスマホ決済サービスを提供するOrigamiの広報として働く川原さんにインタビューした。
広報経験があまりないという方のために、ビーコミ 加藤恭子さんが、活躍中の広報担当者にインタビューし、広報として役立つTipsを紹介する本連載。

香港在住でありながら、スマホ決済サービスを提供する株式会社Origamiの広報を行う川原直子さんは、大学卒業後、PRエージェンシーなどでさまざまな広報活動を行い、ナイキ ジャパンでの広報経験も持つ。そして現在は香港に住みながら、日本企業のPRを行うという珍しい働き方をしている。遠隔地からどのように広報業務を行っているのか、さまざまな経歴のなかで身に付けた広報としてのノウハウや心がけている点について話を伺った。

今回、インタビューから得た主な知見は、以下の通り。それぞれの項目については、記事後半のインタビューで詳しく紹介している。撮影:永友ヒロミ

 

インタビュア加藤さんによる本インタビューまとめとアドバイス
広報の基礎知識アップ Tips
  1. 多岐にわたる広報業務。どうやって業務を効率化する?
    会議などでは参加者が同時に参照できるGoogle Docs(グーグルドックス)などのオンラインのドキュメント共有サービスを使い、理解し合いながらメモをとり、お互いに確認をする。このドキュメントには、同意したタスクも追記することで、振り返りにも使え、議事録にもなる。後から電子メールで議事録を添付することもなく業務を効率化でき、他の部分に時間をかけられる。

  2. プレスリリースは文字だけでいい? うまく伝えるためには?
    メッセージを伝えるためのビジュアルをつくることにも力を入れる。FacebookのOGP画像やInstagramのようなビジュアルを重視する傾向が強まるなか、ビジュアルは重要となりそれなりのクオリティが求められる。

  3. 社内で出てきたメディアに発信したい内容。そのままメディアに伝える?
    「これはいい!この内容をメディアを通じて広めたい」と社内で盛り上がっていても、それが世間の関心事と合っていないこともある。社内の意見に迎合するのではなく、適切に助言する姿勢をもつ。離れた場所から俯瞰するモノの見方を心がける。自分の意見を持ち、ブレーンになる意識をもつ。

  4. 広報の目標、ずっと同じでいい?
    会社の立ち位置に合わせて目標を変更するのが重要。掲載状況を確認し、目標が達成できたら、次に進んでいく。同じことを繰り返すだけでは、広報活動が深まらない。立ち位置によって広報活動自体が変わる。

  5. キャンペーンのプレスリリースが効かない? は本当?
    会社で行うキャンペーン。キャンペーンはプレスリリースにしないのは昔の常識で、状況は変わっている。今は積極的にキャンペーンもプレスリリースにする時代。自分の思い込みや経験値だけで取り組まないで、柔軟な姿勢で若い人からも力を借りる。新しい情報をキャッチアップする。

多岐にわたる広報業務。どうやって業務を効率化する?

加藤: 川原さんのご経歴からお聞かせいただけますか。

川原直子氏(以下、川原): 大学卒業後はセールスプロモーションの会社でPR部門の仕事をして、そこでPRがおもしろくなってきて、共同ピーアールに転職しました。この二社で、スポーツ用品メーカーから自動車、通信、食品など、幅広いクライアントさんの仕事ができておもしろかったですね。共同ピーアールの次に、ホフマンジャパンに行きました。ちょうど私が30歳になるころです。

株式会社Origami 川原直子さん

加藤: ホフマンは、IT・テクノロジー系企業のPRを行う外資系企業ですよね。なぜホフマンに行かれたのですか?

川原: そのころ、女性が仕事を続けていく、という上での迷いがありました。それでまわりをよくみると、女性でも年齢を重ねて働いている方はIT業界にたくさんいらっしゃるなぁと。ITは知識が溜まることにも意味があるし、流行に左右されすぎないという意味でいいんじゃないか、と思いました。

加藤: 日本の会社から外資にうつられて、良かったことは何ですか?

川原: 一番勉強になったのは、いろんな国の人と仕事ができたことですね。アメリカやヨーロッパだけでなく、中国、香港、台湾といったアジアなど、さまざまな地域の人と働けたことで、離れた地域にいる、異なる文化を持つ人とどのようにコミュニケーションをすればうまく意思疎通ができるかを学びました。

たとえば、フランスに進出をしたいという会社さんをお手伝いしたとき、ホフマンにはフランス支社がなかったので、フリーランスのフランス人と一緒に記者発表を運営することになりました。しかも、その記者発表の日までその人と1回も会えないので、まさに試行錯誤。フランスの小さなメディアの名前を言われてもこちら側は知らないですし、一つひとつお互いに理解していくしかない。PRは、「知らない人に、メッセージを伝えることが仕事」なので、この経験は役立っていますね。

加藤: 具体的にどのような方法で確認していったのでしょうか?

川原: Google Docsといったオンラインで共有できるドキュメントだと一緒に見ている状態になるので、わかりあえますし、それが議事録にもなります。会話だけでは「can't」と「can」が混同されることもあり得ますけれど、文字だと明確になります。母国語が英語ではない人同士だと、余計に誤解が生じやすいですし。メモをとりながら、同意したタスクも書いておけば後から振り返ることもできます。日本人同士でも使えると思い、今もこの方法を用いています。

プレスリリースは文字だけでいい? うまく伝えるためには?

加藤: ホフマンの後はナイキに行かれたんですよね?

川原: そうです。知人に誘っていただき、グローバルな大企業で働く機会はあまりないので転職の決心をしました。ナイキの良かったところは、大人数でイベントを企画するとか、大きなブランドの醍醐味をあじわえたことですね。それと、ビジュアルの大切さが身にしみてわかりました。

テック系の会社はモノがないことが多いので、どうしても文字で伝えなければいけませんでした。ところがナイキにはモノがあります。メッセージを伝えるためのビジュアルをディレクションする専門部署もありました。現在はInstagramのようなビジュアルで何かを知る世代が増えてきているので、ビジュアルはますます大事になりますね。後回しにはできません。

Origamiでは社内にCreative担当チームがあり、キャンペーンビジュアルなども手がける。「オリガミで、半額」キャンペーンシリーズでは、毎回その内容にあったビジュアルを作成。

外から俯瞰する視点を大事にする

加藤: ナイキでパワーアップされて、現在のOrigamiに入られたわけですね。

川原: Origamiは、「お金、決済、商いの未来を創造する」をミッションに、2012年に設立された会社です。2015年にスマホ決済を始めました。私はもともとテクノロジーが好きでしたし、社長である康井の思いにも共感して2018年1月、Origamiに入社しました。

Origamiに入ってPRの部署の立ち上げをがむしゃらにやりましたが、入社して半年くらいたったときに、急に夫が香港に転職することが決まって(笑)。当初は夫と離れて暮らしていたんですが、そのうちやはり一緒に暮らそうということになり、上司や社長に相談しました。そのとき社長は、「家庭か仕事か、0か1の選択ではなく、両方をチャレンジしてみましょうよ。香港なんて軽井沢に行くようなものでしょ」と言ってくれました。それで現在は、月に最低1週間は日本、あとは香港で仕事をしています。

加藤: 会社と離れたところにいることで、良かったことはありますか?

川原: 広報は、会社という集団の中にいても、客観的な視点をもつ必要があります。たとえば、社内ではおもしろいプロダクトだからすぐに発表しようと盛り上がっていても、メディアの視点で見ると、よほど見せ方を考えないと、外の人にはおもしろくならない場合があります。

会社の温度感を保ちつつも、うまくメディアの人に伝え、その先にいるコンシューマーにまで伝えるにはどうするか、という冷静な視点もたなくてはいけません。その視点が、物理的に距離が離れていることで、強化されたように思います。

加藤: 広報は外から俯瞰する視点が必要ということですね。

川原: そうですね。広報は外部っぽいところがあって、「社内からはこんなおもしろいのに、どうしてメディアにのらないの?」と言われることがあります。そのとき社内の空気を読んで迎合しちゃうと、使えない広報になってしまう。そこは勇気をもって、「外から見たらこうですよ」って言わないといけないことがけっこうあります。それが広報の役割だと思ってがんばってほしいです。

意識してほしいのは、「広報としての視点をもつ」ということです。リリースの日程1つとっても、営業側に言われたままではなくて、広報視点からみると、この日よりもこの日がいいという意見をもってやっていく。製品開発の人が「こんな風に製品を見せたい」と言っても、「こうした方がもっと伝わりやすくなるのでは?」ときちんと言っていく。そうすると、最初は辛くても、広報って役に立つというふうになっていきます。

遠隔地にいても距離を感じさせない働き方を工夫する

加藤: 離れたところにいる利点をお聞きしましたが、やはりコミュニケーションをとるのに不便なこともあると思います。リモートで働くコツは何でしょう?

川原: まずはツールを使い倒すことですね。たとえば、Web会議ツールのZoom(ズーム)を使って日本の会議にも参加しています。Workplace(ワークプレイス)は社内の情報共有、Google Docsは社内の文書共有、議事録共有に使っています。その他、タスク管理やチャットなどにもツールを使っています。

ただ、ツールだけに頼らないということもTipsの1つです。チャットがかみ合っていないときもあるんですが、その場合は、Web会議や電話で直接話して解決するようにしています。あとは、日本に帰ってくるときにはお土産を買ってくるようにしていますね。今は、「変な味のスナック」をテーマにお土産を買ってきていています(笑)。テーマがあるとコミュニケーションのきっかけになりますし印象にも残ります。

加藤: リリースのネタはどのように集めていますか?

川原: ベタですけど、いろんな人としゃべることですね。離れたところにいるとフィジカルにはしゃべれないので、チャットをしたり、Workplace上のいろんなチャンネルを見たりもします。それから、現在は180人と社員数が増えていますから、チャットだけでは網羅できないので主要部署の人とは定例会議をやって情報をもらっています。

広報の目標、ずっと同じでいい?

ビーコミ 加藤恭子さん
IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業としてビーコミュニケーションをスタート。2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本マーケティング学会理事、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。

加藤: 広報として何を指標にしているのでしょうか? プレスリリースの数でしょうか?

川原: リリースの数もあるんですが、リリース数は自分だけではコントロールできない要素があります。数値的には測りにくいですが、会社をどういうイメージにしていけるのか、を指標の1つにしています。人間でも、お調子者系の人や真面目な人などいろいろなキャラクターの人がいますよね。

では、Origamiのキャラはどうしたいのか。金融のスタートアップなので、遊び感が強すぎると信頼が得にくい。では、信頼を得るために銀行と同じでいいのかというと、そうではない。新しい金融を目指しているので、親しみやすさや新しさをどういう範囲で出していくか、そこが難しいですね。

加藤: そうした判断基準が個人に寄ってしまいそうなところを、広報の中で共有していることはありますか?

川原: 広報だけではなくて、マーケやデザインチームを含めて、どういうイメージがOrigamiかを、たとえば写真を並べてみたりしてよく話し合っています。それはナイキのときにやっていたブランディングに近いものがありますね。かっちりこれが指標だよというわけではないですが、大事なことだと思います。

加藤: あるメディアにこういうふうに載りたいから、逆算してプレスリリースを出す、ということはあるのでしょうか?

川原: 1つのメディアに限定してはいませんが、どういうメッセージを届けたいかは決めています。たとえば、スマホ決済は、1回だけではなく、デイリーでお得に使っていただくことが大事です。「現金を使うよりもスマホ決済を使うことの方が賢くてお得だ」というメッセージを伝えたくて、そのために半額キャンペーンをデイリーで使えるお店で行っています。

といっても、市場が変わるのがすごく早いので、メッセージは数か月単位で見直しています。たとえば私が入った当初、Origamiはあまり知られていなかったので、まずは「Origami=スマホ決済」というイメージを作りたいと思って活動しました。

それで数か月でメディアに書いてもらえるようになり、その間にほかのスマホ決済の会社さんも出てきたので、次は「草分けのイメージ」がつくといいなということで、そのメッセージを発信して、数か月で達成しました。こうして段階的に、その時期に合ったメッセージを出すことがすごく大事だと思います。社長と話す場合にも、今は何をする時期かを同意して、お互いの要求の水準を決める、それが大切です。

加藤: 大事ですね。川原さんはPR会社にいらっしゃったから、目標を定めたビジネスのしかたをされています。新人の広報の方に知っておいてほしいやり方です。

川原: メディアに載ること自体ではなく、なんのためにメディアに載るのかが重要ですよね。「こういうメッセージでこういうことをやろうよ、メディアは〇〇がいいよね」という言葉で同意しておくこと、共通理解をつくることが大切です。

加藤: 社員が増えてくると、Origamiはこういう位置にいたいということが、新しい人には共有されにくくなると思います。トンマナ(デザインの一貫性)がずれることもあると思いますが、そういうケアは広報でやられているのでしょうか?

川原: トンマナ合わせは、クリエイティブチェックというフローを作成し、管理しています。まず営業の人が箱を作って、それをデザインチーム、PRチームがみて、最後にマーケが広告的要素をみて仕上がりというフローです。スピードも大事ですが、金融ですから変なものが世に出るのは良くないので、時間がかかってもそれはやりましょう、としています。

過去のやり方にとらわれず、時代に合わせて、自分の常識と戦う

加藤: OrigamiのPRチームには、現在何人いらっしゃるのでしょう?

川原: 最初は私一人でしたが、昨年11月に一人、今年1月に一人入り、仲間が増えました。ソーシャルのことは若い人の方が知っているし、新しいことを学べることは新鮮ですね。

時代とともに、広報の常識だと思われたことも変わることがあります。たとえば、キャンペーンをプレスリリースで出してもメディアでは取り上げにくいと私は思っていました。けれど、それは自分の思い込みでした。最近のスマホ決済の世界では、キャンペーンをリリースで打って、どんどんメディアに出ています。年齢を重ねていくと、常識だったこととの戦いもあって、若い人に気づかされることがあります。いろんな年齢層と関わることで、一緒に成長していければいいなと思います。

加藤: 20代の広報さんに話しておきたいことは何でしょうか?

川原: いろんなところに顔を出すことは大事ですね。たとえば加藤さんと付き合うようになったのも、加藤さんのオフィス移転パーティに、知り合いがいないのに乗り込んだからですよね(笑)。それから、新しいものに興味をもって、テクノロジーをキャッチアップしていくことも必要です。

加藤: 情報のキャッチアップでおすすめの方法はありますか?

川原: 自分の好きなものに情報収集の機能をつけるといいと思います。たとえば、私は語学を勉強するのが好きなので、「キャンペーンアジア」という、アジアのいろいろな国のマーケティング情報が載っているメディアを読んでいます。中国語など語学の勉強にもなるし、違う国ではこういうマーケティングをやっているんだなあというように、視点が広がります。

加藤: 最後に、新人広報さんに一言、お願いします。

川原: 広報は長く続けられる仕事ですし、自分のやり方次第でおもしろいことができます。自分ならではの広報の視点をつくって、がんばってほしいです。私のキャリアもバラバラにみえて、結局はつながっていて、それによって私の「広報の視点」が形成されてきたのだと感じています。

origami_hutari

――本日は、日本滞在中の貴重なお時間にお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

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