広報・PR術入門/インタビュー

メディアへの露出はどうやるの? 元記者の広報担当者が語る「記者目線の広報活動」

元記者が広報に転身し、記者目線での広報活動でメディアへの露出を増やす甲斐 祐樹さんに、押さえておくべきポイントなど、話を聞いた。
広報経験があまりないという方のために、ビーコミ 加藤恭子さんが、活躍中の広報担当者にインタビューし、広報として役立つTipsを紹介する本連載。

記者としてキャリアをスタートさせ、2012年に広報に転身した甲斐祐樹さん。現在は、ベンチャーのIoT家電製品・ガジェット類の企画・開発などを行うShiftall(シフトール)の広報を行いながら、執行役員も務めている。元記者ならではの甲斐さん流広報スタイルを聞いた。

今回、インタビューから得た主な知見は、以下の通り。それぞれの項目については、記事後半のインタビューで詳しく紹介している。撮影:永友ヒロミ

インタビュア加藤さんによる本インタビューまとめとアドバイス
広報の基礎知識アップ Tips
  1. プレスリリースを書くとき、意識するべきことは?
    プレスリリースには、製品の背景情報などを含めたストーリーを盛り込むことを意識する。そうすることで、記者や読者に伝わりやすくなる。ストーリーを盛り込むには、積極的に製品のことを周辺情報、エピソードも含めて調べたり、関係各所に聞いたりする習慣をつける。

  2. メディアキャラバンを効果的に実施するには?
    業界によっては効果が薄いと言われるメディアキャラバン(編集部を訪問して説明)も、実物に触れ、体験できる製品(今回の場合ハードウェア)には有効。自社サービスの特性を考えて実施したい。単にご挨拶に行きたい、では記者も時間を取りづらいので、適切な準備をして実施すると会ってもらえ、記事化される確率が上がる。

  3. 広報の仕事の幅を広げるには?
    プレスリリースや記者会見といった従来型の広報活動だけに固執しない。記者に届けることもそうだが、PRブログ、オフィス開き、海外展示会出展など形にとらわれない活動を行い、一般の人にも直接届く活動を織り交ぜることで、話題になりやすくなる。

  4. 情報発信するためのコンテンツ(ネタ)を効率よく集めるには?
    広報以外の社員を巻き込む仕組みづくりが大事。たとえば、公式ブログを社員に書いてもらう場合、細かく指示をしない。ある程度自由にやってもらう。もしくは、文章を書くことが苦手であれば、情報を箇条書きしてもらい、広報側で直してあげる仕組みも必要。

  5. 客観視する力を養う
    広報は、自社製品を客観視することが必要。たとえば、記者が興味を持ち、記事に書きやすい内容とはどういうものなのかを体感することで、より一層記事にしてもらえる情報発信ができるようになる。

リリース作成では、ストーリーテリングを心がける

加藤: 元記者の甲斐さんが、広報のキャリアをスタートしたのはいつごろでしょうか?

甲斐: 広報のキャリアという観点でいうと、2012年からですね。それまでは、インプレスの記者として7年働いて、アジャイルメディア・ネットワークに転職しました。そこでマーケティングに関する仕事を3年ほど経験して、一度フリーランスになります。モノ作りに携わりたいと考えていたタイミングで、当時のCerevo(セレボ)の代表の岩佐に誘われ、広報としてキャリアをスタートさせました。現在は、Shiftallで広報・執行役員として働いています。

Shiftall(シフトール) 甲斐祐樹さん

加藤: 2012年から未経験でスタートされたということでしょうか?

甲斐: そうですね。記者をやっていたのだから広報もできるだろう、という感じでキャリアをスタートしました。

加藤: 記者時代に、いろいろな企業の広報担当と接したことから学べているだろう、ということですか?

甲斐: ほぼそれですね。逆に、記者もたくさん見ているので、両方わかるというのが利点かもしれません。広報の場合は、イベントなどに自ら行かないと、記者はもちろん、広報の仲間も作れません。しかし、記者の場合は、記者発表や日々の記者活動を通じていろんなタイプの広報と接します。その中で、こんな情報出しをすると取り上げてもらいやすいとか、こういうのは良くないといったことが肌で学べました。いい経験だったと思います。

加藤: 記者同士で情報交換することはあるのですか?

甲斐: 情報交換もしますが、いろんなタイプの記者がいるということは、記者発表や媒体を通じて目にする記事なども含めて、横のつながりでわかります。記者として参加していることで、記者毎に大事にしている点や興味関心の違いがわかってきます。これは、広報という立場では、なかなかわかりづらいことだと思います。

加藤: Cerevoではどんな広報活動をされていたのでしょうか?

甲斐: もともと、代表の岩佐が自ら広報をやっていて、手が足りなくなったから手伝ってほしいという感じだったので、ある程度、道筋はできていたんです。また製品自体が、「他社と差別化しづらく、価格訴求するしか方法がない」というものではないので、その点は楽でしたね。記者時代の目線をいかして想像のなかで記事を書いて、この記事を書くのであれば必要な情報はこれだ、という内容を盛り込んでリリースを出していきました。

リリースは大事なので、Cerevoのグローバル展開が進むなかで広報部門の担当者も増えましたが、製品に関するリリースは私がやっていました。ニュースリリースを書いて出す、そして発表会の準備、メディア個別のアプローチも大事です。

加藤: 広報としてのコンセプトを決めることに加えて、実務の部分もなさっていたのですね?

甲斐: そうですね、メディアとの細かな対応はチームメンバーで分担して行いますが、製品をリリースするときにどんなキャッチコピーでいくべきか、という点に関しては、私と岩佐でずっとやっていました。

加藤: どのような事例があるでしょうか?

甲斐: たとえば、「BlueNinja(ブルーニンジャ)」というBluetoothのモジュールは、BtoBの商品なので、商品自体は地味でキャッチーじゃない。「モジュールを出しました。便利です」だけだと、メディアに取り上げてもらえない可能性が高いわけです。それで、背景説明からリリースの文面を作っていきました。

実際のリリース:Cerevo、試作から量産まで幅広くカバーしたIoT開発モジュール「BlueNinja」発表(サイトで見る)
2019年9月30日正午で技術サポートは終了し、品質、購入に関するサポートのみ継続するという

メーカーが試作品を作る段階では、電子基板もありもので作っておき、製品化していくときにその電子基板を改良していくのですが、基板を変えたせいでうまくいかなくなってしまう場合がある。これはハードウェアメーカーのベンチャーにはよくある苦労話です。だったら、最初に作った試作品で使った基板をそのまま製品化してしまうほうが便利だしスピードアップもできるよね、といったことがブルーニンジャ提供の背景にありました。製品開発に関わる世界観を含めた情報を出すことで、メディアの方にも理解をしていただけたんです。

加藤: 広報の方でありがちなのはプレスリリースの文章ばかりにこってしまうとか、会社の言いたいことに注力してしまって、記者にササラナイことがありがちなんですけれど、まったく違うアプローチをされていますね。

甲斐: 記者目線でみると、そんなにこった文章ではなくても、記事になる要素があればいいので、そこはわりきっています。それに、ニュースリリース自体を一般ユーザも読む時代なので、読み物として文章が成立していることで、一般の方に盛り上げてもらえる効果があると思います。

メディアキャラバンを実施する

ビーコミ 加藤恭子さん
IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業としてビーコミュニケーションをスタート。2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本広報学会理事、日本マーケティング学会理事、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。

加藤: 話は変わりますが、企業の広報がかかえる問題の1つに、記者と知り合うのが難しいということがあります。記者とのコネクションを作る方法には何があるでしょうか?

甲斐: 記者が集まるイベントに参加するとか、メディアキャラバンをしにいくのが一番いいでしょうね。メディアも情報が欲しいので、窓口がありますよ。ただし、ただの挨拶では受けてくれませんから、解禁日(エンバーゴともいう。記事として公開して良い日時)を設定した新商品を持っていって、きちんと説明する必要があります

まずは自社の製品を載せたい媒体を書き出して、次に媒体のWebサイトにのっている「リリースの連絡先」に連絡していく、という基本をやってみてください。これを怖くてできない人が多いようですが、いざやってみると、飛び込み営業よりも確率がいいです。経験からいうと、10媒体あったら、2、3媒体は反応してくれますよ。

加藤: 知っている記者じゃないと書いてもらえない、という思い込みが広報側にあるのかもしれないですね。

甲斐: 記者は読者にどんなおもしろい情報が届けられるかを意識しています。その媒体に最適な製品、情報を用意して説明しにいくと、喜んでもらえると思いますよ。

ブログ、オフィス開き、海外展示会出展など形にとらわれない活動を行う

加藤: CerevoからベンチャーのShiftallへと移られて、苦労されたことを教えてください。

甲斐:広報は私一人で、最初は発表する製品もありませんでした。それで、オフィスのオープンイベントをやることにしたんです。うちのオフィスは、天井や壁は工事のプロに頼みましたが、棚とか受付システムなどは社員が作っています。

たとえば受付のチャイム。音が小さくて部屋のなかには聞こえづらい、ということで、受付のチャイムがなると部屋のチャイムもなるようにエンジニアが作ってくれました。いまはタブレットを受付に置いているのでチャイムは不要なんですが、おもしろいのでチャイムも置いたままにしています。

受付のベルが押されると、離れた部屋のベルも鳴る(赤矢印)。現在は、タブレットで受付処理をしているが、動作がおもしろいのでベルはそのまま置いているとのこと
Shiftallの公式ブログ「私たちは、チャイムする -wechime-」でチャイムの仕組みを解説している

こうした「エンジニアに協力してもらってオフィスの仕組みを作りました」、みたいなことも情報発信をして、メディアの記者にオフィスを見に来てもらって、社長の岩佐から考えていることをプレゼンしたりしました。オフィスを見てもらうと、メディアの方々にもどういう会社かがわかりやすいですし。製品がないから何もできない、ではなくて、自分で情報を作り出すということをやりました。

※ Shiftall・岩佐CEOが今後の事業方針を説明、パナソニックとの共同開発も - 家電 Watch
https://kaden.watch.impress.co.jp/docs/news/1129551.html

加藤:Shiftallになられてからも、CES 2019にも出展されましたね。

CESとは、米国最大規模のコンシューマエレクトロニクスの体験型展示会のこと

甲斐: 経産省のJ-Startupというブースをお借りできたので、そこは楽ができましたが、それ以外は基本的に全部自分たちで行いました。もっと大きい規模であれば、外からスタッフを入れることはあるかもしれませんが、今回の説明員は岩佐を含めた計3名でした。

加藤: 手作りでもできる、ということですね。

甲斐: Cerevoのときには自分たちでホームセンターに行って、木を切ってブースを作るところからやりましたからノウハウが蓄積されていました。だから、いざ展示会に出ようということになっても困らないですね。

加藤: エンジニアの方も、広報活動に巻き込まれてくれるんですね。

甲斐: 頼むとやってくれますね。Cerevoのときから、エンジニアもブログを書くなど、協力してくれていました。

広報ではない人を広報活動に巻き込む仕掛けを作る

加藤: 広報活動にエンジニアを巻き込むコツはあるんでしょうか?

甲斐: エンジニアは、私たちからみると「こんなことができるなんて、すごい人だ」と思っても、自分では「すごいと思っていない」ところがあります。それで、「客観的にみるとすごいことだし、おもしろいからやってみない?」と話して巻き込んでいます

アドベントカレンダーは、社員に、「クリスマスまでの24日間、仕事のことでもいいし、プライベートでもいいからブログを書こうぜ」と話して行ったものです。

Cerevoの頃はTech Blogがあったんですが、名前の通り技術寄りのものが多かったので、もうちょっとライトなものがあってもいいだろうと思ってShiftallではTechを外した「Shiftall Blog」にしました。技術的なことを書ける人なのに、「リンゴのきれいな切り方」について書く人もいます。技術の深いところを書くと、エンジニア採用には有効です。一方でライトな読み物があることで会社の雰囲気が伝わりますから。会社に興味をもっていただいたお客さまに、こういう会社だというコンテンツがそろっていることが大切だと思っています。

加藤: エンジニアがブログを書く際に、これだけはやっちゃいけないというレギュレーション(決まり)はあるのでしょうか?

甲斐: 一応チェックはしますが、ほとんどないですね。他人を攻撃するといったものでない限り、自由です。全部校正が入ったブログって個性がなくなっちゃうと思うので、極論すると、「てにをは」でさえも間違ってもいいと思っています。ときには、箇条書きでいいから書いてもらって、私が文章にすることもあります。

客観視する力を大事にする

加藤: 先ほどから「記者の目線」、「客観視」という言葉が出てきていますが、初心者の広報がそれを身に付ける方法はあるでしょうか?

甲斐: ブログを始めて、客観的に評価される文章をたくさん書くといいんじゃないでしょうか。文章は数がものをいう世界です。多少文章的にくずれてもいいから、好きなものをいっぱい書いて、コメントをもらい、人と横につながっていくことのほうが、トータルでは文章スキルが身に付くと思います。ただブログを書くよりも、なんでもいいから自分の好きなもの、たとえば、映画やアイドル、ゲームのことなどをひたすら説明して、第三者に評価してもらうことが大切です。そうすると、だんだんと自社のことも客観視できる力もついてきます

甲斐さんのブログ「カイ士伝

加藤: ユニークな広報活動といえば、代表の岩佐さんがテレビCMに出演していたり、漫画のなかに登場していたりしていますが、どんなふうに実現したのでしょう?

甲斐: テレビCMは、Cerevoが入居していたスタートアップ施設「DMM.make AKIBA」で岩佐がアドバイザーをやっていた関係で、出演させていただきました。

画面左上の男性、ストラップには「Cerev(o)」と小さく書かれている
ハルロック』1巻 P8,9より

漫画は、問い合わせがきて掲載されました。それも、ブログなどで情報発信をしていたおかげだと思います。得意分野に関しては、情報発信しておくことが大切ですね。そういう意味では、会社のブログは重要です。リリースでは書けなかったことも書けますから、TwitterやFacebookでも情報発信をしたほうがいいですね。

まとめ

加藤: これから広報に取り組もうとされている方に、こういうことをしたらいいんじゃないかというアドバイスはありますか?

甲斐: 楽しみながら学んでほしいですね。広報では、手が回らなくてイベント会社やPR会社に一部を委託することもあると思いますが、その際にもそのスキルを見ながら学んでいく精神が必要です。

リリースの配信代行を利用するときにも、できるなら別途自社でもリリースを書いて送ってください。送付するリリースが同じ内容で2通届いたとしても、何千通と受け取っているメディアにとっては誤差の範囲です。基本は自分でやり、ノウハウを蓄積することが大切です。

また、リリースを送るときには、担当の名前、電話番号など、すぐにつながる連絡先を記すのは基本中の基本です。記者側から企業の広報にメールをしても返事がこないことがけっこうあると聞きますが、もったいないなあと思います。

――本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

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