正々堂々と、正直に消費者と向き合う。データ活用で果たすべき企業の責任とは【DataSign×電通×LINE】
広告のコントロール、透明性、プログラマティックデータ活用の安全性、消費者視点……。今、広告とデータ活用を取り巻く状況は、複雑化するとともに岐路にさしかかっている。Web広告研究会の11月月例セミナー第2部では、「アドテクノロジーとデータ活用が健全に機能する時代は本当にくるのか? ~企業や個人が安心してデータを活用(提供)できる世の中にするために必要なこと~」をテーマに、DataSign、電通、LINEが、それぞれの立場から現状の課題と今後の方向性を議論した。
※肩書きや数値などはセミナー当時のものです。
「アドテク」と「データ活用」を巡る6つの質問
今回のセミナーは、「サブタイトルである『企業や個人が安心してデータを活用(提供)できる世の中にするために必要なこと』に力を込めた」(亀井氏)という。その内容を各社の立場で掘り下げていったが、その立ち位置は次のとおりだ。
亀井:本日は「アドテク」と「データ活用」という、2つの大きな観点で話していきます。一気に話し合うと散漫になりますので、今日は6つの質問に集約しました。
【アドテクノロジー】
1. 最も守らないといけないことは何だと思うか?
2. 誰がしっかりしないといけないのか?
3. 今Web広告上で、データ不正事象はなぜ起こっているのか?
【データ活用】
4. データ活用して誰が得(利)をして誰が損(害)しているのか?
5. ユーザーにとってデータを提供するメリットはどこにあるのか?
【まとめ】
6. 世の中(広告)を良くするためにはどうしたらいい?
アドテクノロジー
1. 最も守らないといけないことは何だと思うか?
亀井:最近の(法規制や透明性にかかわる)具体的な事例では、「海外SNSサイトがGDPRに違反していた」「ウェブサイトに掲載されているプライバシーポリシーの説明で、一部提供サービスが言及されていない」といったことが起きています。こうした事例を見ると、改めて「最低限守らないといけないこと」について考えさせられるのではないか。
太田:僕は、DMP開発にずっと携わってきた延長から、「透明性を持たせて、誰もが安心してデータ流通ができる環境」を作りたいと思いDataSignを立ち上げました。ですから、「透明性」が一番大事だと思っています。さらに、そこに「選択権」と「バイアスの明確化」がひも付いてくる。「こういうデータを取得しています」「こういうことに使います」と利用サイトやサービスに書いてあったとしても、そこに選択権がないと意味がない。
また、「特定の人に、最適な広告を出す」ということは、「特定の人しか広告を見られない=行動に影響を与える」ということでもある。例えばケンブリッジアナリティカの問題では、広告の仕組みを利用して、選挙行動に影響を与えたという疑惑があります。こうしたバイアスが、どのようにかかっているかを明確化することが必要です。たとえば、「位置情報を取得します」「マーケティングに利用します」といった告知だけでは足りない。配慮がもっと必要でしょう。
片山:「透明性」にも関連しますが、私はもっと前の段階、「意図と認識」が大事だと思っています。実は、データには法律上、所有権がない。個人情報や知財などを守る法律はあっても、データそのものには所有権がない。だから、まずは自分がどうしたいのか、どういう状態なのかを認識する必要がある。一般の人にはそれが難しいので、企業側、さらには行政側がサポートしていく必要性があると思うが、現状こうした問題をちゃんと認識していて、かつ「自社のデータの保有状況の全体像」を把握できている企業はほとんどない。
池端:プラットフォーマーとしては、どうユーザーに説明するかが大事。だから、最も守らないといけないのは「ユーザー」だと思っています。その説明も、ユーザーがどう受け取るか次第。理解してくれなければ書いていないのと一緒なので、ユーザー体験のなかで当たり前に理解できるようにしていくべきだと考えています。データ提供については、「ポジティブに合意してもらう仕組み」を考えないといけないでしょう。
亀井:リターゲティングなど、広告の仕組みすら知らないユーザーも守ってあげないといけない。
池端:LINEでは、この1年半ぐらいでリターゲティングが出せるようになったが、実際に広告をコンテンツだと思っている人がたくさんいて、タイムラインに流れてくる広告を見て、おもしろいコンテンツがあると楽しんでいる。そういう人は、リターゲティングされて自分に合った広告が表示されるとすごく驚く。初めての体験で、過敏に反応するユーザーがまだ多いなかで、プライバシーポリシーやデータ利用を説明することは難しいと思う。
亀井:ユーザーを守ろうとしたときに、広告主・代理店・ベンダーがどうするといいのか、アイデアはありますか。
太田:ユーザーを守るには、事業者も広告主もベンダーも、自社がどうデータを取得して利用しているのかわかっていないといけない。そうでないと、プライバシーポリシーをわかっている範囲でしか書けないため、実際のデータ利用と乖離ができてしまう。
たとえば、ツールベンダーが広告主やメディアに対して、こういう技術でデータを取得して情報提供しているから「プライバシーポリシーにこう書く必要がある」と、フォーマットに従って守られるようにすることが必要だと思う。
亀井:ユーザーを守るためのデータ整備で、まだまだなところがある。
アドテクノロジー
2. 誰がしっかりしないといけないのか?
亀井:消費者を守るためのルールを整備すべきだというとき、広告主・メディア・代理店・ベンダー・消費者の誰がしっかりしないといけないのか。たとえば、アップルはITP 2.0をスタートさせて、3rdパーティCookieを制限した。広告配信側の観点では、これによって「リタゲの配信量や新規獲得が減るのではないか」といった懸念がある。誰かがしっかりしないと、仕組みを持っているプラットフォーマーが一気にルールを変えることで慌ただしくなってしまう。
池端:これはすごく難しい問題ですが、結論としてメディアやベンダーなど、すべての「広告利用者」がしっかりしないといけないと思っています。いま、データ利用の“その先”をイメージしながらデータを取得している人は少ない。実際、プラットフォーマーである我々も、データが貯まってきたから活用方法を考え、後からユーザーに「データを使ってこういう体験を提供します」と問いかけることがある。
ユーザーの満足度を変えられるのは、商品を手にしたり、サービスを利用したりした後の体験部分しかない。ユーザーとコミュニケーションする部分という意味では、「プラットフォーム」か「広告主」が一番しっかりすべきだと思う。この二者で共通認識を持ちながら、データ利用の世界を描いていくことが大事だと思う。
片山:利用者は「どこまでコントローラブルでいるか」「どこまでリスクを負っているか」「どこまでメリットを受け取っているか」という3つの傾向で分類できる。逆にいえば、この3つの割合がもっとも高い利用者(=コントローラブルではなく、リスクがあるのに、メリットがない)が、しっかりしないといけない。特に、メリットと比べるとリスクは理解されていないかもしれない。あとはIRの観点があってもいい。(リスク認識がしやすい)「投資家」や「ベンチャーキャピタル」、あるいは「執行役員」や「株主」は母数が少ない分、啓発しやすいでしょう。
太田:「透明性を担保するのがユーザーを守ることになる」という立場ですから、「ベンダー」が一番しっかりすべきだと思ってます。どういうテクノロジーがあって、どういうふうにデータを取得していて、どういう効果があるのかなど、いま以上に、より詳細に利用者に説明すべきです。たとえば、GDPRには違反するが、日本の個人情報保護法に照らし合わせるとどうかなど、法律まで踏まえてちゃんとサポートしなければいけない。
池端:亀井さんにうかがいたいが、実際に広告代理店がデータを利用するとき、データの取得方法や法律まで説明して提案するケースはあるのか。LINEもプラットフォームとして、広告主からデータを使いたいと言われる機会が増えているが、どうやって取るのかわからないまま来る方もいる。
亀井:現場ではそこまで説明できていないのではないか。聞かれないから説明しないというパターンもあれば、そもそもそこまで理解できていなくて、広告を売ることや効果に注視してしまい、データのリスクや取得まで説明することはあまりないのが実態としてあるのではないか。消費者と広告主目線で、メリットだけでなく、デメリットをも説明したうえで利用してもらうことが必要だと思う。
片山:案件ベースでいうと、ペイド広告の場合はほとんど聞かれないが、ヘルスケアの機微データを取得したいなど、情報のリスクや重要度の重みによって説明することがある。あとは、聞き方がわからないこともあるが、ベンダーによっては知財なので開示できないというケースもある。
太田:ベンダーの経営層の意識改革も必要でしょう。米国や欧州には罰則があるが、日本にはない。規制があるのなら、その規制を明確にして個人情報保護法委員会が公表するなど、規制強化の論点もあると思う。
亀井:日本でもルールや法整備は無視できない。より良い広告のためには、特定の「誰か」ではなく、みんなで日本版のGDPRのようなものを作るなど、もっと活動を推進していかないといけない。
アドテクノロジー
3. 今Web広告上で、データ不正事象はなぜ起こっているのか?
亀井:守るべきことはなにか、誰がしっかりすべきなのかと話してきたが、海外サイトのメールアドレス不正利用のような事例は、なぜ起きてしまったのか。
1つはやはり、代理店の立場として、広告を売りたいというビジネス活動があると思う。たとえば、データを取るのは「新しいリターゲティングやオーディエンス拡張ができる」と、広告主に言うためにやっている部分があるのではないか。一方、最近は広告のでない「YouTube Premium」が発表された。有料サブスクリプションモデルになると月額の収入があるが、こうした動きをどう考えているか。
池端: YouTube Premiumのユーザーのほとんどは「お金を出す代わりに、優良なコンテンツが見られる」と思っているはずです。それは間違いないが、ユーザー情報が渡されていることについて説明が不十分だと思う。プラットフォーマーが、よりリッチなユーザー体験を提供するためだと考えていても、それをユーザーに伝え切れていないし、データを活用しきれていないから誤解がうまれる。そこにジレンマがあると思う。
太田:これも、最初に述べた「バイアス」の1つだと思います。広告モデルだと、プラットフォームは広告主のためにデータを使う発想になってしまう。そこでは、ユーザーは「企業に広告を見せられている」と思うが、有料にして広告がでないとなると、データを集めるにしても「自分たちのために使ってくれるのだろう」とイメージするので、ユーザーはデータを提供しやすい。
今は、お金もデータも取られる話になっていますが、ユーザーは有料サービスに対して「データは自分のために使ってくれている」という暗黙の了解を持っているため、あまり炎上することがないのでしょう。
片山:企業側がデータを不正利用してしまうのは、「ものさし」となるマインドがないからでしょう。GDPRのように明文化されている法律は守るべきだとわかっているが、グレーゾーンが限りなく大きい。マーケティングがわかりやすくチェックできるバージョンや、ベンチマークを業界で作るべきではないかと思います。1つ手前の段階として、たとえば優良企業に対しては、企業名を出して表彰するとかの顕彰制度も有り得ると思います。
太田:個人情報保護についてはTRUSTeやPマークがありますが、どちらかというとデータ「保護の観点」であって「活用の観点」ではないし、一般の方は認知されていないと思う。データ不正事象については、データ活用によってできることが増えたことが背景にあります。拡大にあわせて、「こんなこともできるの?」という一般の方とのギャップが広がっている。
最近ではJapanTaxiの事例(※1)がありましたが、自分の行動データが広告配信に使われたり、アプリ利用後も数分間は取得されていたりすることをユーザーは想像すらしていなかったんだと思います。
※1 タクシー配車アプリで取得した位置情報の広告利用について説明が不十分だとの指摘を受け、広告利用目的の位置データ取得を停止した(『JapanTaxi』アプリ 位置情報データ取り扱いについて)
片山:AIやセンシングで取得されるものまで含めると、データの取得の量や速度に歯止めがきかなくなってくる。ユーザーにも認知してもらうには、ここ数年が勝負になると思う。
池端:ベンチャー企業、新しいプラットフォームやアプリなど、データを保有する企業の「マネタイズ」の意識が強すぎると感じている。我々もデータを保有するプラットフォームとして、そうしたベンチャーと話す機会は多いが、「何がルールかを勉強する」より「データをどう使うか考えている」企業が多い。こうした考えや雰囲気が問題を促進しているようにも思います。
データ活用
4. データ活用して誰が得(利)をして誰が損(害)しているのか?
亀井:「個人データを取られているわりに、メリットを享受できていない」「取られ損」と感じているユーザーが多いのではないかと思います。今は、FacebookやTwitterなど、プラットフォーム側のデータと結合して広告配信できるカスタムオーディエンスもある。どこかに説明があり、ユーザーは了承したことになっていて、データが使われている。
亀井:また、ドローブリッジのようにCookieデータとモバイル広告IDデータを掛け合わせる手法も広まってきている。
池端:損得でいえば、「データを持っている会社が得をしすぎている」と見えるシーンが多い。データを持っているところが強いといわれがちですね。
データ活用
5. ユーザーにとってデータを提供するメリットはどこにあるのか?
亀井:そうすると、もっと、ユーザーにデータ提供の価値を見いだしてもらう必要がある。ユーザー側がデータを提供するメリットは何なのでしょう。
池端:データを提供してくれたユーザーには、さまざまな体験が広がっていると思います。たとえば、LINEでは「ZOZOTOWN」とのID連携を図っていて、在庫切れ商品をチェックしておけば、LINEの通知で入荷情報を受け取れます。パーミッションを取るときには、しっかりビジュアルでも仕組みを見せて、ユーザーの理解を得て連携しています。データ提供のハードル自体を下げられているわけではないですが、データを提供してくれたユーザーの満足度、広告効果は高まっています。
亀井:「自分からデータを提供したくなる」という考えも重要ですね。たとえば、DNA検査のための個人情報、あるいは災害情報を受け取るための位置情報、みたいなものが考えられます。
池端:自分にとってのデメリットを解決する手段としてデータ提供があるといいですね。広告、コンテンツ、エンタメなど、「データを提供することで楽しくなれる世界」をみんなで作りたい。
太田:ちょうど、メリットを提供するとどれだけデータをくれるのか実験しています。事業者として情報銀行をやっているが、アンケートで答えた情報が「PDS(パーソナルデータストア)」に入っている。これをもとに、化粧品会社が「あなたにあった化粧品をお勧めします。肌の状態を教えてください」とパーミッションを取ったところ、85%が承諾してくれた。簡単な説明でも、一貫性があれば抵抗なくデータを提供してくれる。
片山:何にデータを使うのかを明確化することは大切だと感じています。以前、電子書籍のアプリを作っていたとき、ユーザーの生年月日などを取得するフォームに利用規約と同じ内容でデータを何に使うかを抜粋してあえて注意書きをしていたんですが、それだけで通過率が10%ほど向上しました。ユーザーがデータ提供をためらうとすれば、何のために使う情報なのかが「わからなくて怖い」から。ネガティブだと感じている情報でも、堂々と出せばわかってもらえる。
太田:我々も、Webサイトで使われているツールを自動的に抽出してプライバシーポリシーを作るサービスを提供しているが、そういった内容を掲示すると、「遠慮して誰も同意してくれないんじゃないか」、さらには「いろいろばれるじゃないか」(笑)という人もいる。堂々と出して説明すれば同意してくれるし、正直に出せないことをやるべきではない。
亀井:ルールや法整備の話もあったが、まずはユーザーにとってどんなメリットや体験があるのか、もっとオープンにするべきですね。
まとめ
6. 世の中(広告)を良くするためにはどうしたらいい?
亀井:現状とその問題点、広告の価値、ルール整備、伝え方、いろんな観点から議論してきましたが、世の中(広告)を良くするためにはどうしたらいいでしょうか。どんな意見でもいいので伺いたい。
片山:CSR活動みたいですが、小中学校の情報リテラシー教育でも、「データの扱い」や「個人情報」といったテーマを、子ども向けにもとりあげてほしいですね。こうした観点はすでに、社会科などのある部分に関わってきていると感じています。
太田:世の中を良くするには、そもそも「なにが良い世の中なのか」を話し合ったほうがいいかもしれません。たとえば、欧州ではプライバシーは人権であり、データを使ってお勧めのお店を提示されるだけでも、「不快だ」という人が多い。逆に中国では、個人のスコア化が急速に進んでいて、良いお店に入れたり、入れなかったりする。米国は、どちらの立場に立つか個人が選択できる。日本はどっちに向かうのか議論することが、ファーストステップになるのではないか。そうしたとき、業界団体はきちんと提言していくべきです。
亀井:くしくも、2018年のWAB宣言は「消費者一人一人が多様な趣味嗜好を持つ時代=『一人多色時代』に企業はしっかり向き合おう。」だった。より深くお客様を理解し、多様な消費者にいかに向き合うか、ぜひこれを「正々堂々」とやりましょう。さらに議論したいですね。
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