【レポート】Web担当者Forumミーティング 2018 Autumn

中古車の「ガリバー」が実践、PDCAを回せるデジタルマーケターを育成する方法

「マーケターを育成するには、技術よりもまずは体幹を鍛える」と語るIDOMの中澤伸也氏。「Web担セミナー 2018 秋」

「マーケターをどう育成するか」中古車の「ガリバー」でまさに実践されている養成術を披露した。

Web担当者Forum ミーティング 2018 秋」に登壇したIDOMの中澤伸也は、PDCAを回せるデジタルマーケ人材を6ヶ月で育成する方法を公開した。

株式会社IDOMの中澤伸也氏(デジタルコミュニケーションセクション)

ガリバー来店者の50%はオンライン集客

中澤氏はPC・デジタル機器販売大手のソフマップで社会人キャリアをスタートさせた。店頭での接客に始まり、店長業務も経験。国内初の100億円規模のEC、Sofmap.comの立ち上げを経験し、およそ10年在籍した後、ゴルフ情報ポータルのGDO(ゴルフダイジェストオンライン)にてマーケティング責任者を務めた。

中古車買取・販売の最大手「ガリバー」の運営主体である「IDOM」に転じたのは3年半前。Webでいかに集客するか、どう顧客と接していくかを科学的・データ的なアプローチで検証、そして施策を実践すべく、日々の業務に取り組んでいるという。

ガリバーは国内に約600店舗を構え、中古車販売・買取のシェアはともに国内ナンバー1を誇る。中澤氏によれば、中古車市場は、車の買い換えサイクル、新車市場との関連性が非常に大きい。国内の自家用車数は現在約6,000万台とされ、販売比率は3:2(新車:中古車)程度だという。

中古車市場の特徴

また、車の買い換えサイクルは平均で8年に1度、検討に要する期間は2週間から3か月程度である。このため、CRMが上手く機能せず、むしろアクイジション(新規顧客の獲得)やナーチャリング(見込み客の育成)が重要だと中澤氏は解説する。

ガリバーにおける最終コンバージョンは営業商談である。客に店舗に来てもらう、あるいは客先に出張する、これらがマーケティング上の最重要目標だ。

意外なことに、お客様がなんの前触れもなくふらりとやってきて営業商談に至るのは全コンバージョンの50%。つまり、残り50%はWeb広告などの集客、専用フォームからの申し込み、コンタクトセンターでの電話接客などでのオンライン集客によって行われている。O2Oが極めて重要な施策となっているのだ。

デジタル広告にかけている費用は恐らく国内でもTOP10に入るレベル。それくらいデジタルに積極投資している(中澤氏)

営業商談の50%はすでにオンラインからの集客

チャット接客にもMA風シナリオを準備

ガリバーでは現在、全社的にマーケティング体制の改革を図っている。これまでの体制は「フロー型」と呼ばれ、広告でいかに大量に顧客を獲得し、営業商談のためのアポイントに繋げられるかが重視されていた

これに対し、新体制が目指すのは「ストック型」。MAやチャットなどの技術を使って顧客の購買意欲を温め、その上で営業商談へと結びつけようとしている。

たとえば「クルマコネクト」は、チャットで希望車種など聞き、ガリバーの担当者がチャットの流れの中でオススメ車種などを提示する。すでに2年運営されており、収益も黒字化しつつあるという。またガリバーのアプリにも別のチャット機能が内包されている。

チャット接客に注力

このように、チャットを使ったコミュニケーションには非常に力が入れている。中澤氏が率いるセクションでは、このチャットサービスへの集客、プラットフォームそのものの開発を手がけているが、特に重要だと指摘するのが「コミュニケーション企画」だという。

営業メンバーにあたるチャット担当者は40~50名ほどいるが、お客様対応にあたっては、MAに非常によく似た、会話のシナリオをあらかじめ設計している。これをプランニングするのが「コミュニケーション企画」です(中澤氏)

このシナリオでは、お客様がどのような発言をしたらどう対応するか、会話プロセスが事細かに決められている。チャット担当はこのルールに則って対応するのが原則で、会話シナリオをルール化する事で、デジタルマーケティング的なA/Bテストを実現している。中澤氏は「チャットでのコミュニケーションのメインは、科学的なPDCAに基づいた“型”。ルールベースとなっている」と明かす。

チャット接客では、事細かに対応シナリオが決められている

人材育成論その1 マーケティングとマーケターの定義

中澤氏のチームの面々は、ほぼすべてIDOMに新卒入社した20代後半の若手が中心。1~2年の店頭営業経験を経た後、転属となったメンバーが多く、マーケティングの経験もほとんどない。そんな中で人材をどう育てていったのか? これが講演の主題だ。

経験の少ない若手を、どうやって有能なマーケターに育てていくのか? これが講演の本題

まず大前提として、中澤氏はマーケティングをする目的は「顧客の創造」、そして「営業を不要」にする。つまり売り込みをかけることなく、モノやサービスが売れる状態を作ることだと定義づけている。これは、かのピーター・ドラッカーの言がもととなっている。

この「営業を不要」の状態にするには、なんらかの“仕組み”が要る。究極的には「誰が、いつ、何度やっても同じ成果を出せるシステム」が中澤氏が言うところの“仕組み”であり、これを生み出すための人材が「マーケター」だ。

「営業を不要」とするための仕組み作りをするのがマーケター

ただ、中澤氏の言うマーケターは「リスティングができる人」「SEOができる人」などに限定していない。「営業を不要」の状態にするための、企業のあらゆる関係者をマーケターと位置付けている。

枚挙に暇がない まずは「体幹」から鍛えよ

では、マーケターに求められるものとはなにか? 中澤氏は次の3つを挙げる。そして、これを鍛える順番が極めて重要だと語る。まず育成すべきは体幹、続いてコアスキル……という具合だ。

  1. 体幹
  2. コアスキル
  3. 知識・テクニック

逆から鍛えると大きく育たない。さきに筋肉を付けてしまうと、それ以上体幹が伸びない。……もしかすると今日の講演に来てくれた方は、たとえば、SEOをどう取得させるかという話を期待していたかもしれない。しかし正直なところ、それは(人材育成にあたっては)それほど重要ではないと考えている。重要なのは体幹であり、コアスキルだ(中澤氏)

マーケターに必要な3つの要素。鍛える順番が大事という

そして、最も重要とされる「体幹」は、3つの要素で構成される。順にご紹介しよう。

体幹の要素① integrity「真摯さ/誠実さ/高潔さ」

これもドラッカーの言葉である。「真摯さ」「誠実さ」「高潔さ」などと訳される。社会、会社、顧客、そして自分自身にもintegrityが必要だと中澤氏は言う。

これが非常に重要なのは、ともすれば忘れがちだから。とにかく安価に顧客を獲得したいとなると、ことテクニカル論になり、時にはお客様に不誠実な態度をとることにも繋がってしまう。だが、それは必ずしっぺ返しを食らう。恥ずかしい話だがIDOMで一番徹底できていないのがintegrity。これをなんとかしようと今、頑張っている(中澤氏)

ドラッカーがその重要性を指摘する「integrity」

体幹の要素② 無知の知

こちらはソクラテスの言葉。「自分は何もわかっていない」という事をわかる事自体が、重要だという。顧客の心理状態・行動は不可思議であり、いくら考えてもわからない事はある。それを念頭に置いて、行動すべきという指摘であろう。

体幹の要素③ お客様を信じる

どんなに誠実に顧客対応したつもりでも、その成果が現れるまでには時間がかかることが多い。たとえば、顧客満足度を上げる施策をしても成果がすぐには出ず、経営者がしびれをきらして施策をやめるといった例は枚挙に暇がない。「CRMの取り組みは、それこそ3年後に成果が出たりする」と中澤氏は言及する。

人材育成論その3 体幹の次に「コアスキル」を鍛えよ

続くコアスキルについても、中澤氏は3つの要素を挙げる。前述の体幹がいわば哲学であるのに対し、こちらは習慣付けの部分。中澤氏は部下に対して、それこそ念仏のように繰り返し唱え続けているという。

コアスキルにもやはり3つの構成要素がある

コアスキルの要素① 映像思考力

顧客行動を考える際、静止画ではなく映像をベースとする。電車の中でスマートフォンを使うとする。それを静止画として捉えるのは簡単だ。だが映像であれば、実際には揺れていて持ちにくいのではないか、吊革に掴まるときはどちらの手が塞がるのか、手が疲れて吊革を持ち直すのではないか……など、さまざまな気付きが増える。

コアスキルの要素② 真因訴求力

トヨタ生産方式で言及される「なぜなぜ5回」に近い発想。事象を分析した、その結果が出た、その結果が出たのは何故か分析する……これを5回繰り返して真因を導き出す。そして、その真因への対策が、おおもとの事象の解決手段たり得るのか、検証する。

この作業を日々あらゆる場面で徹底するには論理的思考が欠かせないが、中澤氏によれば「営業職が最も苦手とする部分」。繰り返し練習するしかないが、あらゆる概念を因数分解するのが練習になる(売上は客数と客単価、客数は新規客と既存客……といった具合)。この参考書には『世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく』(渡辺健介著、ダイヤモンド社刊)を挙げている。

物事を「因数分解」することで、論理的思考が鍛えられる

コアスキルの要素③ インパクトと容易性

解決すべき「問い」を立てる方法のこと。仮に問いが複数立てられたとして、どれをやるべきか。解決時のインパクトが大きく、それでいて最も容易に解決するであろう問いこそ、最も優先すべきである。

解決すべき問いが複数あるのなら、解決したときのインパクトが大きく、より容易に解決できる問題から手を付けるべき

人材育成論その4 「知識・テクニック」を学び、PDCAの打数を増やす

体幹とコアスキルを体得して、その次がはじめて「知識・テクニック」論になる。

繰り返しになるが、ここはぶっちゃけ、どうでもいい。リスティングとかのテクニカルな話は半年やれば自然に覚える。何度も言うが、体幹とコアスキルがしっかりしていればどんなテクニカルなことでも身につく(中澤氏)

ただ、唯一、必須事項としたのが「PDCAの基本的な回し方」。結局のところ、PDCAで成果を出すには打数(回数)を重ねるしかない。どんなに時間と手間をかけた施策でも8割方当たらないとは中澤氏の弁だ。

PDCAは結局のところ「打数」

となると打数を増やすには、スピードを上げるか、回数を増やすか。しかし回数を増やすのは至難の業という。それだけの「問題設定」をしなければならず、いずれはネタ切れを起こす。

この対処として中澤氏は「右目左目モニタリング」を提唱している。定型帳票や解析ツールの数値を左目で追い、もう一方の右目で行動観察する。これを互い違いに繰り返すことで、なんらかのイシューを発見しようというアプローチだ。

行動観察には、ログベースで行うGoogle Analyticsの「ユーザー エクスプローラ」機能、Bebitの「USERGRAM」ほか、動画ベースでユーザーを観察できる「FullStory」、アプリ分析の「Repro」などのツールが適しているという。

「右目左目モニタリング」の概要
右目にあたる「行動観察」を行うためのツール

動画系の行動観察ツールは、たとえば、ユーザーがどこで迷っているかが「滞在時間」以外の要素で感覚的にチェックできる。中澤氏はチームメンバーに対して、毎朝30分、特に目的を設定させないまま行動観察をさせている。

これは食事のようなもの。企画を発想するための栄養補給。気付きとか、想定外の発想をここで取り入れてもらう(中澤氏)

こうして課題を見つけたら、管理表にまとめ、実施していく。ここで明確にすべきはKGIとKPIを両方定義すること。「この施策をやったらKGI(おもに売上)が上がる」ではなく、「問い合わせ数などのKPIが上がり、だからこのKGIが上がる」と決めさせる。これは前述の真因訴求力のトレーニングにもなるとのこと。また、実施した施策は、やはり「右目左目モニタリング」で検証していく。

施策管理表の記入例

まとめ~繰り返しで習慣付け、上司も自ら実践

この一連の流れを徹底的に繰り返す。そうすることで、未経験者でも半年~1年あれば十分立派なマーケターとして成長するはずだと中澤氏は説明する。

ただ、マーケティングの強化にあたっての人員補強で、もし明確に人選できるのであれば、現場経験者を選ぶのが良いだろうとアドバイスする。

現場を知らないと、当然お客様の生の声、顔もわからない。そこは映像思考力で非常に重要な部分(中澤氏)

その上で、育てる側にも大きな責任があるとも語る。今回の講演で話した内容のほとんどはOJTでしか身につかない。教える側(育てる側)が自ら実践して、説得力を示すべきとした。また、最低限でもGoogle アナリティクス、行動観察ツール、課題管理表などの環境も整備しておかねばならない。

学ぶ側については、ズバリ「習うより慣れろ」の一言。筋力トレーニング同様、毎日実践することが重要で、上司側もとにかく口酸っぱく、体幹の向上のためにアドバイスし続けよ――中澤氏はこう述べ、講演を締めくくった。

学ぶ側は「習うより慣れろ」の精神で
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