【レポート】Web担当者Forumミーティング 2020 Autumn

「デジマはつらいよ」原作者が指南! DX時代に必要なマーケターのスキルセットとは?

激変する時代のなかで、マーケターが本質的に必要とするスキルセットとは何なのか?「デジマはつらいよ」の原作者中澤氏がズバっと解説。
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10月末で無事完結したWebコミック「デジマはつらいよ」。マーケターにとっての“あるある”を絡めながら、マーケティングの本質を鋭く突く内容で人気を集めた。

そのコミックの原作者が、Reproの取締役CMO 中澤伸也氏だ。「Web担当者Forum ミーティング 2020 秋」では、連載にも登場した「integrity」「真因遡及力」などをキーワードに、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代のマーケターに求められる資質・スキルについて解説した。

マーケティングソリューションを提供しているRepro株式会社 取締役CMOの中澤伸也氏

デジタル・ディスラプションはマーケター像をも変える

中澤氏は、パソコン・家電量販店ソフマップのWebサイトリニューアルプロジェクトを担当。その後、ゴルフダイジェストオンラインのマーケティング責任者、中古車買取「ガリバー」で知られるIDOMのデジタルマーケとDXの推進責任者を経て、2020年4月より、マーケティングソリューションを提供するReproで現職に就いている。

マーケティングの定義

最初に語られたのはマーケティングの定義。いろいろな定義が世の中にはあるが、中澤氏の作った定義が次だ。

マーケティングとは、顧客の真の欲求を満たす価値を創造し、その価値を多くの顧客が持続的に体験できる状態を構築する、体系化され成長性をもった活動である。

マーケティング活動は「I-V-V」の構築

そして、マーケティングの活動とは「I-V-V」の構築だという。「I-V-V」は、次の3つの頭文字を順に並べたものだ。

  • Insight(真の欲求)
  • Value proposition(コアとなる提供価値)
  • Value Delivery Process(持続的価値提供プロセス)

中澤氏は、「顧客の真の欲求を理解し、それを満たすためにどのような価値を作り、さらにその価値を持続的に提供できる体制をどう構築するか」が大切だと語る。

I-V-Vとは?

Value Delivery Processとはやや聞き慣れない用語だが、優れた顧客体験(CX)を“提供し続ける”ための一連の活動を意味する。1回かぎりの仕組みではないため、人員や体制整備は欠かせない。それを提供し続けたうえで、LTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)を向上させるのがValue Delivery Processにとってのゴールである。

デジタル・ディスラプションなサービスの登場

ただLTVを追求するには、次々に変わっていく世界をも考慮する必要が出てくる。現在ではデジタル化が進み、市場を根底から変えてしまう“デジタル・ディスラプション(既存産業を破壊するほどの革新)なサービス”も生まれている。中澤氏は「UberやiPhoneのように、まったく新しい体験価値をもったものが生まれている状況だ。今後は5G、AI、IoTなどの台頭でもっと加速する」と話す。

ここで、これまでのタクシーと「Uber」の関係をもとに、“デジタル・ディスラプション”の例を示し、「これからは小手先のサービス改善やプロモーションでは戦えない時代になる」と警告した。

タクシーは、長年の取り組みで料金・乗り心地・接客などのレベル向上を図ってきたが、顧客が本当の意味で求めているのは「快適で便利な移動」である。この本質的ニーズを満たすために、デジタル技術を使ってUberは「向こうからくる」「選べる」「決済が終わっている」というまったく別のアプローチ、顧客体験を提供した。

こうなってはタクシーが旧来の価値観のまま努力していても、その効果は薄く、既存の市場プレイヤーであるタクシー市場が駆逐されてしまう。それが、Uberのような「デジタル・ディスラプションなサービスの登場」によって起こることだという。

デジタル・ディスラプションのサービスの登場で、小手先のマーケティング戦略は通じなくなる

マーケターがDXの主役に

特に「5GやIoTが浸透し、デジタルがリアルを内包するアフターデジタルになると、デジタルにより近いマーケターが重要な役割をはたすだろう」と語る。マーケターの役割もアップデートされるべき──これが中澤氏の主張だ。

これまでは、マーケティングの“4P”のうち、社内マーケターはプロモーションだけを担当してきたのが実態だった。これからは、 “4C”を意識し、サービスそのものをプランニングして生み出す、本来的なマーケターの役割が求められていく。つまり、「マーケターがデジタルトランスフォーメーション(DX)の主役になるべきだ」という。

なお、4Pとは、Product:製品・サービス、Price:価格、Place:流通、Promotion:プロモーションのこと。4Cとは、Customer Value:顧客にとっての価値、Customer Cost:顧客の払う対価、Convenience:顧客にとっての利便性、Communication(顧客とのコミュニケーション)を指す。

マーケターの役割をアップデートし、本来のマーケティング担当者としての役割を果たすことが求められる

体幹

ではDXの主役をはれるマーケターには、どんなスキルが求められるのだろうか? 本講演では、SEOや広告に関するテクニック論ではなく、より本質的かつ普遍的な能力、ベーススキルの磨き方について解説していった。

マーケターとして本来必要なベーススキルをアップデートするには、次の図のように、その順番が特に重要だという。

体幹→コアスキル→知識・テクニックの順番に身に付けることが重要

最初に取り組むべきなのが「体幹」で、次の3つの要素から構成されるとして、順に説明がなされた。

  • integrity(インテグリティ)
  • 無知の知
  • FACTFULNESS(ファクトフルネス)

integrity

中澤氏は、integrityを日本語で直訳する言葉はないが、「高潔さ」「誠実さ」「真摯さ」が近いのではないかという。そして4つのステークホルダー「お客さま」「自分自身」「社会」「所属組織」に対して、integrityがある状態を保たなくてはいけないと語った。

そして、integrityを保つ人物になるために、経営学者のピーター・ドラッカーが語る「integrityに欠ける人物の特徴」をあげた。

  • 人の強みではなく弱みに注目する者
  • 冷笑家
  • 何が正しいかではなく、誰が正しいかに関心を寄せる
  • 部下の人格ではなく、頭脳を重視する
  • 有能な部下を歓迎するのではなく恐れる
  • 自分の仕事に高い基準を掲げない

さらに、「マーケターにはグレーゾーンな仕事が多い。integrityを意識しなければ、数字としての短期的な成果を出すことはかなり簡単だ」と話す。「それこそ通販サイトではレビューを買って、引き上げるのは容易だ。だが、いつかはバレる。バレたときは仕事の成果どころか、会社・ブランドも傷つく。だからこそ、マーケターにはモラルが必要なのだ」と注意を促した。

カスタマーレビューの購入やステマ的な企画の提案など、誘惑も多い。マーケターにこそモラルが求められる

無知の知

無知の知は「知ったかぶりをやめること」「自分が知らないことを認めること」だという。中澤氏は、アメリカのペパーダイン大学の研究「知的過信な人(知ったかぶり)と知的謙遜な人を比べた場合、後者の方が学習効率、成長率が高かった」ことを紹介。無知の知の実践が重要だと訴えた。

そして、マーケティングにおいては「顧客のことを自分はわかっていると思い込む」のは大変危険で、究極的にはどんな優秀なマーケターでも、顧客の真の姿を理解できないだろうと断じる。「わからないからこそ顧客に対して聞くし、問いかける。この姿勢がマーケターを成長させる」のだとした。

「自分はお客さまのことを理解している」と思い込むことは危険

FACTFULNESS

2019年刊のビジネス書のベストセラー『FACTFULNESS』のテーマでもある「思い込みを捨てる」「前提条件を疑う」は、マーケターにとっても重要だと中澤氏は語った。特に同書冒頭の“チンパンジークイズ”は、思い込みの危険性を知る上で最良の教材だという。

「世界の人口の大半が住んでいるのは? [1. 低所得国、2. 中所得国、3. 高所得国]」、「世界の平均寿命は? [1. 50歳、2. 60歳、3. 70歳]」といった全12問のクイズに、14か国に住む学者や大企業の経営者など1万2000人とチンパンジーが解答。正解数の分布をみると、人間の80%はチンバンジ―に敗北したという例だ。中澤氏もチンパンジーに負けたという。「きっと世界の人口の大半は低所得国に住んでいるに違いない」といった思い込みに支配されているためだ。

「顧客が見ているのは結局、価格でしょ」「前回上手くいったから今回も大丈夫」「過去に失敗したから今度やってもダメ」とかいった会話をしていないだろうか? 「本当にそうなのか。それを疑い、自分で考え、調べ、実践しないと本当のことはわからない。自分の頭で考えないと、イノベーションを起こせない」と中澤氏は語った。

コアスキル

体幹をしっかりと鍛えた上で、次に習得すべきが「コアスキル」だ。筋の良い問いを立て、仮説を導く能力のことである。次の3つの要素で構成され、繰り返し練習さえすれば誰もが体得できると中澤氏は助言する。

  • Insightの洞察力
  • 真因遡及力
  • 右目・左目分析

Insightの洞察力

顧客自身も言葉にできない、「顧客の真の欲求」がInsightだ。「潜在ニーズ」とも呼ばれる。たとえば顧客に「痩せたい」という悩みがあり、それをアンケートなどで表明したとする。これでわかるのは「顕在ニーズ」である。しかし、その背景には「モテたい」「健康的になりたい」など、顧客自身が気づいていない、意識していないニーズ、つまり「潜在ニーズ」がある。「そもそも、なぜ痩せたいのか」を洞察するわけだ。「マーケターにとっては、この洞察力がコアスキルになる」と中澤氏は語った。

「そもそも何を求めているのか」を繰り返し洞察していくことで潜在ニーズを探る

Insightを探り当てるためには、実際の店舗であれば、顧客を実際に見て、その行動とその背景にある理由を洞察する「行動観察」という方法があるという。しかしWebやアプリからの客をマーケターの肉眼で見ることは難しい。その場合は「顧客の行動を妄想する」のだそうだ。たとえば、電車の中でアプリを使う顧客を想像し、吊革をもつのは右手か左手か、どの指でスワイプしたのかを映像で想像し、顧客の行動・表情・気持ちにフォーカスして妄想するのだ。

顧客の心にフォーカスして疑似体験する方法もあるという。自社あるいは競合のサービスを顧客になったつもりで使ってみて、自分の心にひっかかったことを、「なぜひっかかったのか」と自分の心に問う。そうすることで、本当は何を知りたいのかを、“妄想”によって徹底的に突き詰めていくわけだ。

真因遡及力

行動・現象の裏にある、本当の原因を突きつめるための作業を「真因遡及」と呼ぶ。中澤氏は「垂直方向の要因分解」と「水平方向の共通因子」の2つを組み合わせて、真因遡及を行うことが多いという。

たとえば、次の図のように、「コンビニの売上が落ちている」という事象があるとする。その事象を分解すると、「既存顧客の客数が落ちている」といった事象がみえてくる。こうしたプロセスを経ることで、「コンビニの売上が落ちている」現象から「弁当、飲み物、タバコの組み合わせ購入が減っている」という、より個別な現象を探ることができる。このように細かく分解していくことが「垂直方向の要因分解」である。

真因遡及のプロセスには「垂直方向の要因分解」と「水平方向の共通因子」を使う

ただし要因分解は、漏れナシ・ダブりなしの“MECE(ミーシー)”な分解でなければならない。「慣れないうちは、MECEな因数分解は難しいため、ゲーム感覚でとにかく繰り返しトレーニングし、習慣化するとよい」と中澤氏は語る。

そして訓練の1つとして、会社関連のいろいろな数字をバラバラにするのがオススメだという。たとえばコンビニの売上は、客数と客単価に分解できる。しかし同じ売上でも商品A、商品Bなどの構成比でもバラせる。同様に曜日別、時間帯別でも売上を分解できる。「この分解の軸をたくさん探すことが訓練になる」と中澤氏はトレーニング方法を提案した。

こうやって現象を分解したら、分解した要素の「共通因子」を見つけていく。「要は何なの?」「それってすなわちどういうこと?」という問いに答えるための分析が該当する。

右目・左目分析

解析ツールなどによる定量的な事象の把握を左目で行い、個人の行動観察を右目で行う。こうした「群としての動きと個としての動きを見比べながら分析すること」を、中澤氏は右目・左目分析と呼んでいる。右目分析にあたるものとしては、Google Analyticsの「ユーザーエクスプローラ」機能などによって一人の行動履歴をみるという方法がある。

右目・左目分析の考え方

知識・テクニック

本講演の最後は、効果的な打ち手を効率よく生み出す方法として、次の3点が紹介された。

  • PDCAは質より量
  • ABテストは顧客との対話
  • 知識は本の乱読で効率的に吸収

中澤氏は、「PDCAは最初から答えがわからないからやるので、徹底的に早く数をこなしていけば必ず成果が上がる」と語る。その際には、「お客さんと会話しているという意識をもって、A/Bテストを行うこと」が重要な視点になるという。

マーケター向け「乱読」のススメ~シーズン2連載も決定!

新しい知識の習得方法として、中澤氏はその分野の簡単な本の乱読を勧めた。というのも、どの本も最も重要なことに言及しており、その本たちに共通していることがコアなナレッジになるからだという。

そのコアナレッジを吸収しさえすればよく、しかも、それぞれの著者は、そのナレッジに対する見解を別々の角度から書いているので、理解もしやすい。この方法であれば、「どんな分野についても1カ月あればコアな部分がつまめる」と語った。

「乱読」でコアナレッジを吸収することが大事

そして最後に、「デジマはつらいよ」シーズン2の連載が決定したことを報告。今後もマーケティングに役立つ内容を届けていくと語り、本講演を締めくくった。

中澤さんが原案監修を務める漫画「デジマはつらいよ」はこちら→

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