【レポート】Web担当者Forumミーティング 2020 Autumn

サッポロビールの事例から学ぶコンテンツマーケ!ポイントは「分析・文脈・ビジネスゴール」

コンテンツマーケティングを始めるときに準備すべきこと、全体設計、確認すべき指標とツール、データの活かし方についてサッポロビールの福吉敬氏、パートナーとしてサポートするTrendemon(トレンデーモン)の栗田宏美氏が事例をもとに解説。

顧客とのコミュニケーションとして欠かせない存在となりつつあるコンテンツマーケティング。しかし、何をどう発信すればいいのかコンテンツに迷ったり、何にどう成果があったのかという分析で悩んだり……、取り組んでみると壁に突き当たることも少なくない。

Web担当者Forum ミーティング 2020 秋」にて行われたセッションで、サッポロビールにおけるコンテンツマーケティングの施策を例に取りながら、コンテンツマーケティングを始めるときに準備すべきことや全体設計の方法、確認すべき指標と分析ツール、データの活かし方などについて、サッポロビールの福吉敬氏、パートナーとしてサポートするTrendemon(トレンデーモン)の栗田宏美氏が紹介した。

(左)Trendemon Marketing Director 栗田宏美氏
(右)サッポロビール株式会社 コミュニケーション開発部 メディア統括グループ シニアメディアプランニングマネージャー 福吉敬氏

メディア当事者・支援者の経験で感じたコンテンツマーケティングの課題

Trendemonの栗田氏は、かつてクレディセゾンでオウンドメディアの立ちあげから、開発・運営に取り組んだ経歴を持つ。当時を振り返り、「コンテンツの価値・ROIを明確にできなかったことが反省点」と語る。閲覧者がどう態度変容してクレジットカードに入会したのか、などのビジネスゴールへの貢献度が可視化しづらく、特に従来の計測ツールが複雑でトラッキングの範囲に限界があったため、クロスドメインでのレポートを作成するのが難しかったという。その結果、「報告のための作業」が大変な手間となり、現場のスタッフへの負担が増えていたという。

栗田氏は、当事者としてやりたかったこととして、次のようなことを挙げた。

  • ユーザー対象のブランドリフト調査(コンテンツを読んでブランド認知や利用意欲に変化はあったか)
  • ほかドメインとの関連性の可視化

当時の反省として、「コンテンツの価値をクロスドメインで可視化し、そこで得た知見をアウトプットとして他の施策に反映することができなかった」と語った。

その後、スタートアップ投資の仕事でコンテンツマーケティングドリブンツール「Trendemon」に出会った。「もしかしたらコンテンツマーケティングの担当者のペインを一気に解決するかもしれないし、日本ではまだまだ市場のポテンシャルがあるのではないか」と思い、CVCでプレゼンテーションを行い、Trendemonへの投資が決まった。さらに2020年3月からTrendemonにジョインし、今度は支援側としてコンテンツマーケティングに携わるようになった。

栗田氏は、当事者と支援者、それぞれの立場でコンテンツマーケティングを見てきた経験から、「PV至上主義からエンゲージメントの評価へ、KPIなきコンテンツの量産ではなくKPIに紐付いたコンテンツ制作へ、トラフィック量ではなくコンテンツを読んでいるオーディエンスの質の評価へ、これまでのコンテンツマーケティングから意識のアップデートをしていきたい」と語る。

コンテンツマーケティングのアップデート

かつて当事者として感じたジレンマや悩み、それを払拭するコンテンツマーケティングの新たな知見や方法について、サッポロビールの事例を通じて提供することが本セッションの目的というわけだ。

ターゲティングの最適化により、潜在顧客にリーチできていないのではという課題

それではサッポロビールではどのような施策が行われているのか。栗田氏に続いて登場したサッポロビールの福吉氏が、コンテンツの世界に入るきっかけは、2003年頃から自分でドメインを運営していたことだという。現在も、個人としてもずっとコンテンツを書いているという。

福吉氏は「今でもコミュニケーションの基本は『ワンビジュアル・ワンメッセージ』であり、テレビCMのような印象的な言葉とビジュアルが大切であることは間違いない。それで認知は獲得できても、理解深耕にはつながらない」と語る。福吉氏はミドルファネルといわれている”関心・検討”の領域でのコミュニケーションに注力しており、認知の後、デジタルコミュニケーションによってアクション・購入への橋渡しをすることが仕事だ。

福吉氏が主に受け持っているのは“関心・検討”の領域だ

デジタルコミュニケーションは万能ツールではない。ペルソナやセグメントを選定して配信できたとしても、潜在ユーザーにリーチしていない可能性がある。また、サイト来訪時のクエリ分析をしてブランド名でサイト来訪が大半という結果は喜ばしいものの、既に接触したユーザーに偏った来訪になっている可能性もある。

福吉氏は「戦略的にデジタルコミュニケーションのアプローチを先鋭化させるほど、潜在顧客にリーチできず、ビジネスチャンスを逃しているという懸念を持ち続けていた」と語り、栗田氏も「ペルソナを設定する方法に疑問を感じてきた」と同意した。

ターゲットを定めないと対象が拡散し、内容も取り散らかる。しかし、ターゲティングを最適化するほど、それ以外の人には届きにくくなる。はたしてそれがブランド、そして顧客にとって望ましいことなのか――。

ユーザーに伝えたいことをユーザーの文脈に寄り添い発信する

ターゲットアプローチに偏る施策に違和感を覚えた福吉氏が、まず一番に重視したのが、「文脈」だ。その考えのもと、サッポロビールが各所で展開していたコンテンツを集め、コンテンツポータル「CHEER UP!」を作成した。「1サイトでさまざまな人が集まる入口をつくり、さらに新しいコンテンツを足していくという発想で、分散していたコンテンツを1つに集めて検索しやすくし、新たなコンテンツも活用しながら回遊を促していくのが狙い」と福吉氏は語る。

サッポロビールのコンテンツポータル「CHEER UP!」

「コンテンツがあっても、ユーザーは回遊していない」という分析結果を示し、1年半かけて社内を説得し、コンテンツポータルを立ち上げたという。

メッセージをユーザーに伝えていく際の重要なポイントとして福吉氏が強調したのが、「我々がユーザーに残したいメッセージをユーザーの文脈に寄り添って発信すること」だ。一方的なメッセージでは、これまでの広告と変わらない。顧客の文脈に寄り添って、ブランドと企業の価値を伝えていくことが重要だ。

顧客の文脈に寄り添って、ブランドと企業の価値を伝えていくことが重要

コンテンツの掲載カテゴリーは、ビールにまつわる話にはじまり、食やワイン、旅、音楽など多岐にわたる。なぜそうしているかと言うと、さまざまな顧客がサイトに来ていることが分かったから。その方たちが興味のあることをコンテンツ化していき、ポータル化し、ユーザーにリーチすればサッポロビールに興味を持ってもらい、エンゲージメントにつながるのではないかと考えた。1つひとつのコンテンツがブランデットである必要はない。さまざまな情報の中にブランドコンテンツがあることが大事(福吉氏)

「CHEER UP!」では、「ライセンスドコンテンツを含むさまざまなカテゴリーのコンテンツの森に、ブランドにまつわる情報やブランドのビジュアルを置いておく」という考えで運営されている。ここで重要なのは"置いておく"ことだという。

押し付けがましいブランドや企業のアピールは嫌われ、コンテンツの中に自然に溶け込んでいることが望ましい。福吉氏は「入口はあくまで顧客の興味関心から入っていくべき。読み進めるうちに『そういう話だったんだ』とブランドストーリーとシンクロすればいい。雑誌の記事広告の手法と似ている」と語った。

企業がユーザーとコミュニケーションする際の”文脈”を掘り当てる

次は「分析」についてだ。福吉氏は定量目標のKPIとして「総流入ユーザー数」や「総PV数」など6項目を紹介。分析というとPVなどの「総量」を考えがちだが、福吉氏は「量はみていくが、それほど重要な要素ではない」という。

どれだけ深くエンゲージメントしたのかをみるための「平均滞在時間」や、人を連れてこられたのかを見るために「検索流入ユーザー数」、そしてコンテンツポータルからブランド関連サイトに訪れてくれたのかをみる「ブランド関連コンテンツ送客数」なども定量目標として追っている。

さらに、福吉氏は「定量だけでは不十分」として、下記の4つの重要な確認事項を紹介した。

  • 検索クエリ
  • 人気記事推移
  • 送客レベルの高い記事の確認
  • 顧客満足度

たとえば、「検索クエリ」であればブランドワードではなく”周辺ワード”で来訪したユーザーが、ブランドコンテンツに触れているのか。「送客レベルの高い記事の確認」では、なぜその記事の送客数が多いのかを紐解いているという。「顧客満足度」ではサイト来訪者やメルマガ会員に、どんな記事に興味をもったかなどのアンケートを取っている。

顧客満足度の調査は取り組みをはじめたばかりだというが、「なぜ来訪したのか、コンテンツを読んだあとにブランドに興味をもってくれたのかを聞くことで、コンテンツが寄与しているのかを定点的に分析していくことが大事。分析を四半期または半年ごとに行い、効果があったのかを可視化していきたい」という。

定量的ではない重要な確認事項

気になる分析ツールだが、Google Analytics、Google Search Console、これら2つのデータをGoogle Date Portalでダッシュボード化しているという。加えてTrendemonを使っている。さらに今後、顧客満足度測定の調査ツールを導入予定だ。

Google Analytics、Google Search Consoleに加え、Trendemonを導入した目的について、福吉氏は「別ドメイン間の行動の可視化が難しかった。それを可能にするツールとしてTrendemonは“目からうろこ”だった」と語った。Google Analyticsではページの遷移を量的に把握はできるが、“誰”が“どう遷移したか”はわからない。

Trendemonなら、量的な把握と時系列分析などに加え、ディレクトリ単位で関係コンテンツの寄与を確認でき、誰がみても感覚的に理解できるわかりやすさが大きなメリットだという。たとえば、あるブランドサイトにどれだけの人がどこから流入しているのかの内訳を円グラフで見ることができ、ぱっと見てイメージを掴むことができる。

お客様との親和性の高いコンテンツや接触後の行動分析から、私たちがコミュニケーションする際の”文脈”を掘り当てることが大事。これができると、『このコンテンツはブランドに寄与する』とか『こういうコンテンツはいいけどこの文脈だとあまり効果がないね』と、細かくわかるようになり、より精緻に文脈を考えられるようになる。なので、コンテンツを作成したあとに分析するのはとても重要(福吉氏)

購入CVの出口がなくても中間指標の置き方・捉え方でビジネスゴールは導ける

最後は「ビジネスゴール」についてだ。多くの事業会社は「購入コンバージョン」の出口をもっていない。サッポロビールはリテール企業に販売を委ねており、自社ECサイトでの販売割合が低く、「購入コンバージョン」の出口を持っていない。

そのため、コンテンツコミュニケーションの価値を疑問視したり、効果測定を断念したりする人も少なくない。しかし、福吉氏は「前述したような中間指標の置き方や捉え方でビジネスゴールを導き出せる」と語る。

量は少なくても購入行動の推移をとって拡大推計を行い、エンゲージしそうな人を見出すことができるという。そうした分析結果を示すことが、社内のコンセンサスを得るために大切というわけだ。

福吉氏は、「分析によって、ペルソナの解像度が上がり、ブランドと親和性の高いコンテクストが見えてくる。また、コンテンツを通してエンゲージメントの向上が見込まれ、その結果としての購入や発信といった行動が可視化されるようになる」と語り、「だからこそ、分析データを精緻に見たり、データをつなげて分析したりする価値がある」と語った。

そしてもう1つ重要なこととして、サードパーティーCookieの規制により、ターゲティングがほぼ終焉しつつあることを指摘。企業はユーザーから能動的に提供されるゼロパーティーデータの拡充が必要となる。ゼロパーティーデータの拡充のためにもコンテンツは重要な鍵になるという。

自社やブランドに興味を持つだろうユーザーにコンテンツを通して語りかけ、そのコンテンツを通してブランドを好きになってもらえると、おもしろい情報を提供してくれそうだと、ユーザーからゼロパーティーデータが提供され、関係をつくっていくことができる。さらに分析を通してよりユーザーに刺さるコンテンツを提供していく、というお客様とのコミュニケーションをコンテンツポータルでやっていきたいと福吉氏。

何よりも担当者に求められるものは真の情熱

事例の紹介の後で、栗田氏と福吉氏による公開質疑応答が行われた。それぞれの内容について紹介する。

コンテンツマーケティングにおけるビジネスゴールの設計は、海外ではどのように行われているのか?

まずは福吉氏から栗田氏へ海外事例についての質問だ。

Trendemonの事例によると、記事広告やSNS広告などの外部資産、ECサイトやメルマガ、オウンドメディアなどの内部資産に加え、MAやCRM/CDPなどのインプットに対し、「クリエイティブの最適化」や「広告予算配分の最適化」、「CTA(パーソナリゼーション機能)」といったアウトプット(打ち手)に結びつけるのがトレンドとされる。海外事例の9割以上がTrendemonとMAを連携しており、ジャーニーデータに基づいてユーザーごとに異なるメールを送るなど、個別化されたコミュニケーションが行われ、全体最適が図られているという。

肝心なのはアウトプット(=打ち手)

具体例として、栗田氏は米国Walmartのケースを紹介。出稿しているすべての記事広告にTrendemonのタグを埋め込み、どの媒体のどの記事がECサイトでのいくらの売上に結びついたかを、管理画面上で可視化している。「どの記事が一番貢献したか」を数値で見て、メディアへの予算配分を最適化するというわけだ。

なお、Trendemonではこうしたビジネスゴールの貢献度を可視化する取り組みを日本でも行う。ピークス株式会社が運営する趣味メディアプラットフォームの「FUNQ」とタイアップし、どの記事がどのビジネスゴール(ECサイトでの購入・キャンペーンの申込等)に貢献したかを可視化し、出稿企業にレポートするという取り組みだ。

ビジネスゴールへの貢献度を可視化する取り組みを日本でも

コンテンツマーケティングに不可欠な「各部門メンバーとの共通理解」を実現する共有手法とは?

次はメンバーとのコンセンサスの取り方について栗田氏から福吉氏への質問だ。

一緒にデータを見ることで目線合わせをしていると福吉氏。はじめはGoogle Analyticsと、Google Search Consoleのデータを一緒に見ていたが、見るページが多く大変だったため、福吉氏が見るべきデータを一元化したダッシュボードを作成した。データが1ページで見られるようになり、メンバーからは好評だという。定期的に社内勉強会を実施し、データからブランドエンゲージエントを読み解くことができるという体験をつくっていくことで、共通理解を深め、メンバーの意識も徐々に変わってきているという。

コンテンツマーケティングで成果を出すための工夫は?

最後に栗田氏から福吉氏へ成果を出すための工夫ポイントについて質問があった。

福吉氏は「オリエンテーションが大事」だと言う。

事業会社は正しくオリエンを実施し、制作会社は正しくオリエンを受けること。ゴールイメージの共有が重要であり、そのために押さえるべきポイントは『誰に』『何を』メッセージするのか、そして『どう受け止めてほしいのか』を事業会社は伝え、制作会社は噛み砕いて理解をするということ(福吉氏)

福吉氏は「事業会社と制作会社がラウンドテーブルを囲み、同じゴールに向かう答えを探すこと。さらに、同じレイヤーで語れる場を持つこと、そして、ユーザーから返ってきた結果と向き合うことが大切」と語り、最後に「何よりも担当者に求められるものとして『One True Passion=真の情熱』が必須」と強調し、セミナーを締めくくった。

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