【レポート】Web担当者Forumミーティング 2020 Autumn

まだ膨大なデータに疲弊してるの? ダイキンがBIツールに見出したプロモーション効率化の活路とは

ペイド、オウンド、アーンド各メディアからあがってくる膨大なデータに忙殺された経験はないだろうか。ダイキン工業ではBIツール活用により、本来時間を割くべきプランニングに注力できるようになったという

ダイキン工業のメイン事業である空調事業。その中で住宅用エアコンの商戦期は夏と冬だが、この「年に2度」というサイクルと、トリプルメディアからあがってくる膨大なレポートデータ活用法が、プロモーション担当者を悩ませるタネだったという。

Web担当者Forumミーティング 2020 秋」のセッションでは、ダイキン工業 広告宣伝グループ 土井智保子氏が、BIツールの活かし方、社内外のステークホルダーを巻き込んだダッシュボート設計のポイントを紹介した。

ダイキン工業 広告宣伝グループ 土井智保子氏

効果測定しているのにPDCAに活かせていない

ダイキン工業広告宣伝グループでは、生活者に情報を届ける手段としてペイドメディア(マスメディアなど)だけでなく、オウンドメディア(自社サイトやカタログ)、アーンドメディア(記事やSNS)のトリプルメディアを駆使している。そこで課題となっていたのが、膨大なレポートデータと、年に2度の商戦期というプロモーションサイクルの問題だ。

まず、「エアコンの商戦期は夏と冬ですが、夏は除湿して湿度コントロール、冬は加湿して湿度コントロールと、訴求するポイントが真逆」と土井氏。そして、以下の図はプロモーションサイクルを模式化したものだが、3月に夏のキャンペーンのプランニングを開始し、キャンペーンが終了するのが9月頃。効果測定のデータが広告代理店から上がってくるのは、9月末から10月にかけてというあたりになる。実は、この時期は冬のキャンペーンのプランニングを開始する時期にちょうど重なる。

プロモーションサイクル

冬のキャンペーンの計画立案期と夏のキャンペーンの振り返り期が重なるため、プランニングに要する時間がどうしても逼迫します。その結果、夏の振り返りが不十分なまま、目の前にある冬のキャンペーンに向かって走ってしまうことがどうしても多く、なかなかPDCAのチェックまで至らないという課題がありました(土井氏)

PDCAを回せず、曖昧に終わってしまうことにより、翌年の夏のキャンペーンのプランニングの際には、1年前のプロモーション効果はどうだったのか、ひもとくことから始めることになる。「そこでまた時間がかかってしまうという、負のスパイラルがありました」と土井氏は言う。

このような状況を改善するために、ダイキンではセールスフォースのDatorama(デートラマ)というBIツールを、約1年半前に導入した。BIツールは、さまざまなデータを1カ所に収集して、それを同じ指標で整理して見える化するものだ。

BIツールの導入によって、バラバラだったメディアごとの指標が統一されかつ、リアルタイムでモニタリングできるようになりました(土井氏)

膨大なレポートデータをDatoramaで整理

月一の編集会議では限界があった「記事広告」の場合

ダイキンでは、2018年から東洋経済オンラインで記事広告を月に一回のペースで連載している。掲載するテーマについては、月に一度実施する編集会議で議論するが、前回の記事のアクセス解析レポートもその時に共有されていた。

月に一回の編集会議では、どうしても、過去の反省になってしまう。世の中の関心事は日々刻々と変わっていく中で、振り返りで得た知見を次回の記事出稿に反映させるのは非常に難しく、結局PDCAにつながらないという課題がありました(土井氏)

そこで、Datoramaでダッシュボードを作り、以下のような情報の見える化を行った。

  • 記事のPV数をリアルタイムでモニタリング
    日々のPV数を確認し、予想に反して数字が落ちていたら即座に次の誘導施策を打つなどの対応が可能になった。

  • 記事を読んだ読者のアンケートをリアルタイムで確認
    伝えたいことがうまく伝わっていない場合や、極端に誤解を生んでいる場合には、タイトルの修正や記事内容の微調整を行えるようになった。

ダッシュボードの設計では、ダイキンの広報部門、広告宣伝部門に加えて、外部のPR会社も参加し、関係者全員でどのようにすればPDCAを回せるか議論を重ねた。それによって、ステークホルダー全員で同じデータを共有でき、日々の意志決定がスピーディになったという。

データの海に溺れていた「デジタル広告」の場合

デジタル広告では、大きく2つの課題があった。

  1. エアコンは購入頻度が低く、KPIの設定が難しい
    エアコンの購入頻度は、平均すると13年に一度。そのような耐久消費財は、広告などで接触してから実際の購買まで非常に時間がかかる。そのため、いつのどの広告がどう効いて、その人がダイキンを選んで買ってくれたかわからず、KPIの設定が非常に難しい。結果的に、KPIが曖昧なままキャンペーンに走ることもあったという。

  2. 膨大なレポートデータに溺れていた
    キャンペーンが終了すると、代理店各社から大量のデータが一気に届く。「これらを俯瞰的に見たいと思っても、フォーマットがバラバラで横並び比較が実に大変。そこに工数がかなりかかっていた」と土井氏は言う。さらに、人が手動でデータをまとめるとどうしてもミスが発生し、確認のやりとりが発生する。結果的に、「手元に山ほどデータがあるのに、それが全然活用できなくて、データの海に溺れてしまっていた。本質的なところが一切見えていないことを課題と感じていた」と土井氏は言う。

BIツール導入に当たっては、まず仮説を立ててKPIを設定した。そして、それをダッシュボードに掲載し、ターゲット・目的・KPIをいつでも確認できるようにまとめた。KPIの達成度合いを評価するのが下図で、こちらも広告代理店を巻き込んで設計やビジュアルを議論したという。

 
進捗状況が直感的にわかるUIに

さらに、メディアごとの比較やターゲティングごとの比較、クリエイティブごとの比較が、バブルチャートを使って一目でわかるようなページも作った。

バブルチャートによる比較

以上のように分析内容を可視化した。

広告代理店と一緒にひとつの画面をリアルタイムで見ながら、最も効果的なメディアに、最適なクリエイティブにしていく、という調整を行った。これにより、昨年の11月に開始したマーケティング施策では、CPAが2か月で1/10まで下がったという成果も生まれている(土井氏)

BIツール導入には、ダイキンにも代理店にもメリットがある。代理店にとってはデータ確認の工数削減や人的ミスの排除、他の広告主への横展開できることがメリットだ。またダイキンにとっては、一目で進捗が確認でき、リアルタイムでモニタリングできる。さらに、最大のメリットだと土井氏が言うのは、データを読み取る時間の短縮だ。従来はデータを整える作業や確認に時間をとられ、最も重要な考える時間が削られていた。それが、BIツールを導入したことで、「作業が減り、考えることに集中できる」と土井氏は言う。

アクセス解析では目的に関係ない数値は見ない

ダイキンでは、オウンドメディアとして国内サイトとグローバルサイトを運営している。どちらもGoogleアナリティクスでアクセス解析しているが、このデータもBIツールで見られるようにした。

グローバルサイトには、以下の3つの役割がある。

  • 本社として世界へ向けた企業情報の発信
  • サイトのない国への情報発信
  • 各国にあるローカルサイトへつなぐ(ハブ機能)

Datoramaを導入することにした時、土井氏のチームでは以下のように考えていた。

Googleアナリティクスがわかりにくく、使いづらので、Datoramaで俯瞰して見られるなら、便利そう。せっかくなら、ありとあらゆるデータを見られるようにしよう(土井氏)

その結果、A3で4枚以上にわたる膨大な資料が完成してしまったという。しかし、ツールでデータが見られるようになっても、分析できる量が増えるわけではない。「目的を明確にしてデータを見た結果、アクションにつながらないデータは見る必要がないということも学びだった」と土井氏は言う。

たとえば、デバイス比率やユニークユーザー数、滞在時間など、Googleアナリティクスだとつい気になって見てしまう。しかし、グローバルサイトの役割として、たとえば「サイトのない国への情報発信」ができているかという観点で考えると、流入元の国名をきちんと見れば、それで事足りる。「デバイス比率や滞在時間はまったく関係ないし、それを見ても何かアクションにつながるわけではない。データを活用するためには、そういった情報の取捨選択、優先順位付けが必要になる」と土井氏は言う。

そこで、目的に照らし合わせて見るべきデータを整理し、情報の取捨選択をした結果、非常にスリム化したダッシュボードができた。今では、Datoramaは速報値を確認するツール、Googleアナリティクスは深掘りしたい時に使うツールとして使い分けているという。また、Datoramaは毎週自動で速報値を配信するので、普段Googleアナリティクスを見ないような経営幹部へ報告する場合にも非常に役立つという。

情報の海に溺れないために

情報の海に溺れないためには、以下の3つが大事だと、土井氏は言う。

① 情報の取捨選択と優先順位付け

各企業、手元には膨大なデータがあると思う。それを見る目的は何か、データを見た後にどのようなアクションをとる想定なのかを意識する。アクションがないなら、そのデータは本当に見る意味があるのかを徹底的に考え、思い切った情報の取捨選択と優先順位付けが重要。また、BIツールに目的と評価ポイント、担当者のアクションが明記してあれば、ある日突然担当が変わったとしても、同じアクションがとれる。

情報の取捨選択と優先順位付け

② 社内外の巻き込み

PDCAをどのように回すか、ダッシュボードをどう設計すれば見やすく理解しやすいかなどを考える段階から、社内外の関係者を巻き込むことが非常に重要。土井氏は、「特にペイドメディアでは、ダッシュボードを作る段階から媒体社や代理店も入れて議論を徹底的に重ねたことによって、KPIについても認識をすり合わせることができた。ダッシュボードを作る課程自体に意味があったとすら考えている」。広告代理店にはたいていデータ活用が得意な人がいるので、そういう人の知恵を借りるという意味でも、社外を巻き込むのはお勧めだ。

 

③ 付加価値のない作業を減らす

データ分析にかかる時間を削減し、戦略的なプランニングを考える時間をいかに捻出するかは、プロモーション担当者にとって非常に重要。BIツール導入による効率化の価値は大きい。

付加価値のない作業を減らす

ダイキンの場合はBIツールのDatoramaを使って効率化を実現したが、それはあくまで手段であって、BIツールが必須というわけではない。例えば情報の取捨選択と優先順位付け、それぞれ見る目的と担当者のアクションをきちんと整理して書き出すということは、BIツールがなくても実現できる。

また、付加価値のない作業を減らすという点では、例えば代理店から出してもらうデータのフォーマットをあらかじめ決めて、レポーティングはそれを埋めてもらうというシンプルな工夫をするだけで飛躍的に比較が簡単になるかもしれない。そういった、日々のちょっとした工夫で、データ活用がより有効になるのではないかと述べ、土井氏はセッションを終えた。

用語集
CPA / Googleアナリティクス / KPI / SNS / アクセス解析 / キャンペーン / クリエイティブ / ステークホルダー / セッション / マスメディア / ユニークユーザー / 広告代理店
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