【レポート】デジタルマーケターズサミット2020 Summer

ダイキン工業のSNS施策は「なぜ」若年層にハマったのか? 担当者が語る目的・目標設定と施策設計のツボ

エアコンのトップメーカーとして知られるダイキン工業だが、若年層への認知拡大、タッチポイント改善が課題としてあったという。その解決策としてSNSを活用したPR事例を広告宣伝担当の天野氏が紹介した。

エアコンのトップメーカーとして知られるダイキン工業。高いブランド力を誇りながらも、ライフサイクルの長い耐久消費財であるため、若年層との接点を持ちにくいことや、快適性に不可欠な“湿度コントロール”の重要性について認知が低いといった課題があった。その解決に向けダイキン工業の天野貴史氏は「Instagramストーリーズ」を使ったプロモーション施策を実施。その戦略の背景を「デジタルマーケターズサミット 2020 Summer」で明かした。

ダイキン工業株式会社 総務部 広告宣伝グループ
天野貴史氏

伝えたかったのは「快適さには湿度コントロールが大切」という1点

「うるるとさららシリーズ」のブランドラインなど、総合空調専業企業として知られる「ダイキン工業」。事業の9割が空調関係であり、世界150カ国以上で事業を展開している、グローバル企業だ。

エアコンのプロモーション期は、春と秋。そこでいかに強く自社の優位性を印象づけるかが、エアコン商戦の決め手となる。その際の大きな課題となっていたのが、同社の技術的優位性を象徴する“湿度コントロール技術”の認知度が低いことだった。

多くの人がエアコンに求める『省エネ性が高いエアコン』は既にコモディティ化(一般化・均質化)しつつあります。そこでダイキンの湿度コントロール技術を“最高品湿”として積極的に訴求するものの、残念ながら良いエアコン = 『湿度コントロールができるエアコン』と結びつけて考える人はまだ十分に多くはありません。そこで『湿度コントロールができるエアコン』を訴求するためには、技術力を伝える手前で、『エアコンの快適性で、温度とともに重要なのは湿度である』という事実を浸透させることが不可欠だと考えました(天野氏)

湿度コントロール技術(最高品湿)を訴求

湿度が20%下がれば体感温度は4度下がり、快適性が向上するといわれる。また熱中症のリスクを表す「暑さ指数」は温度(3):湿度(7)の割合で算出されるほど、湿度が身体に与える影響は大きい。本来、そうした情報によって湿度の重要性を知り、「湿度コントロールができるエアコン」の価値を理解してもらうことが望ましい。

しかし、世の中の情報量は爆発的に増大しており、生活者は情報に溺れている状態だ。そのため、CMをはじめとする企業から発信する情報に対して、消費者はバリアを張ってブロックする傾向がある。また、エアコンの購入頻度は13年に一度で、商品自体の購入頻度が長いならではの難しさもあった。

車や宝飾品なら『いつか買おう』と思って情報を集めると思います。しかし、エアコンは『ほしい』と思ってから購入するまでの時間が短いので、その間にリーチできなければ検討もしてもらえない可能性があります。そこで、チャネルを増やし、広告だけでなく『トリプルメディア』を戦略的に組み合わせることで、情報を伝える力を強化しています。(天野氏)

オウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアを組み合わせた戦略

そして、さらにエアコンのプロモーションならではの難しさとして、若年層が自分自身で購入する機会が少ないため、そもそも関心が低く、認知を高めにくいという問題があった。

認知度の低さは就職活動にも影響しており、大学生を中心とした就職先の候補として考えられにくいという問題がありました。さらに将来的な購買層でもあるため、長期的な接点を持ち続けておく必要性もありました。採用と将来的な購買層への販促という二つの目的で、若年層をターゲットとしたプロモーションを考えるに至ったというわけです(天野氏)

SNS × インフルエンサーで若年層に「気づき」を与える

2019年夏、若年層(大学生)へのダイキンの認知向上、並びに「ダイキン = 湿度」のイメージ醸成を目的にプロモーションが実施された。実施にあたって、まずプロモーション展開先として、若年層が多く利用する「YouTube」や「Instagram」などのSNSメディアを選定。さらにインフルエンサーとして、タレントやモデルとしても活躍するYouTuberのkemio(けみお)氏を起用。

起用の理由としては、同氏が環境破壊や人種差別など若者が接点を持ちにくいトピックを自ら率先して扱っていることや、独自の「kemio語」を駆使して軽妙に訴求できることを重視したという。

天野氏はインフルエンサーを起用する際の注意点として、

  1. SNSは好きな人やモノを見にいく場なので、文脈が合っていないと不自然な印象を与えることがある
  2. フォロワー数だけで、インフルエンサーの起用を判断するのは危険

などを上げ、「普段、湿度のことには無意識で、考えることもない。しかし、インフルエンサーであるkemio氏を介して気づきや認知が高められるのではないかという期待があった」と起用の目的を語った。

プロモーションに活用した動画サンプル

制作された動画「クイズ!湿度のせい」は、約1分間で梅雨に発生しがちな湿度トラブルをテーマにしたクイズにkemio氏が挑戦するというものになっており、デザインのトンマナ(トーン&マナー)はkemio氏の世界観に合わせ、口調や動きなどもkemio氏自身の提案を採用した。

普段のkemio氏のコンテンツと同化させることで広告感を薄めつつ、ダイキンのロゴや“うるるとさらら”のキャラクターである「ぴちょんくん」を登場させ、PRであることを正しく伝えるものとなっている。動画はダイキンの公式YouTubeチャンネルや制作会社であるワンメディアの各種SNSなどを通じて配信された。

またInstagram ストリーズの動画は、尺が最大15秒のため、短時間で興味を持たせる工夫が必要になる。そこで、2019年にローンチされた「アンケート機能」付きストリーズ広告を作成し、シンプルなクリエイティブと、動画を使ったリッチなクリエイティブの2種を比較テストした。さらにアンケート機能なしのものも作成し、効果を比較した。

結果としては「アンケート機能あり × シンプル」が最も CTRが高く、「アンケート機能あり × リッチ」が最も3秒再生率が高かった。アンケート機能についてはいずれのアクションにつながるプラス要因となり、クリエイティブについてはシンプルな方がクリックされやすく、閲覧時間についてはリッチなものが好まれやすいという傾向が見られた。

アンケート機能あり・なし

目的・目標が不明瞭で成果の評価が曖昧に
広告主とパートナーで目的・目標を握ることが大切

今回の施策の総合的なKPIに設定したインプレッション数については、想定の約3倍を獲得することができた。また、動画に対するコメントも「エンターテイメント的に面白い」「地味で堅実なダイキンのイメージがびっくり仰天」など、好意的なものが多く得られた。

ブランドリフト調査では、「広告想起(広告を見た覚えがあるか)」「メッセージ想起(湿度コントロール = ダイキン)」では十分な成果は得られなかったが、「メッセージ同意(湿度コントロールは重要)」では業界平均の0.6の倍となる1.3ポイントを獲得。施策としては「大成功」という結果報告を受けた。

ブランドリフト調査の結果

しかし、天野氏は「報告を受けても、情報が整理できず、成功したかどうかわからなかった」と振り返る。その原因として、目的・目標値(KPI)が曖昧であり、2019年夏の施策では、大学生に対する訴求と「湿度コントロール = ダイキン」の認知向上を目的としたが、その手前である「湿度コントロールは重要」を訴求する方が目的として望ましかったとした。

この反省を踏まえ、2020年夏に実施した施策では改めて、「快適になるためには温度だけでなく、湿度が大事!」を訴求目標として設定。さらにインプレッションではなく、中身を見てもらう「再生率」を15%、「100%再生率」を1.5%、ブランドリフト調査では「メッセージ同意(湿度管理は快適に暮らすために重要)」で2.5ポイントアップすることをKPIに定め施策を行った。

また、出演者(インフルエンサー)は詐欺メイク動画で人気を集めるまあたそ氏、-23kgのダイエットを成功したカリスマとして注目を集めるヴィエンナ氏が起用された。

出演インフルエンサーを変更

さらに再生率をアップさせるために、冒頭でキャストの顔アップとともに3秒以内にコンテンツのタイトル「クイズ!それは湿度のせい」を見せる、ダイキンロゴを目立たせるために中央に入れて画面を分割するなどの工夫を行った。また、最後まで動画を見てもらうために10秒に1度「湿度に関するクイズ」を出し、キャストらしいリアクションを多く入れ込むなど構成も調整した。

またInstagram ストーリーズについては、アンケート機能をあえて削除。選択肢を並べておくよりも、「快適は湿度で決まる!」という明確なメッセージを強く押し出すことを優先し、動画と静止画を組み合わせたクリエイティブを作成した。7月中旬から配信され、結果分析はこれからだが、天野氏は「いずれにしても目的・目標を明確化したことで的確な振り返りができると思う」と期待を寄せた。

「ダイキン側に加えて、制作会社であるワンメディアと目的・目標を共有したことで、提案内容や工夫ポイントについての理解ができ、施策を進めていく上でも建設的な協議ができるようになりました。背景的な目的・目標に対して、“施策としての”目的を明確にすることが大切であり、その目的に合わせた目標値を広告主とパートナーの双方で合意することが重要であると考えています。たとえ結果が悪くても、その理由や改善点がわかることで価値のある施策となるのではないでしょうか」と天野氏は語り、まとめの言葉とした。

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