翻訳経済の歴史、そして今こそ「オプトイン」を
書籍『グローバルWebサイト&アプリのススメ』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開!
この記事は、序章「翻訳経済の歴史」と「本書の目的」の内容をお届けします。
翻訳経済の歴史
グローバル化は、現代の傾向としてとらえられがちですが、グローバル化を推進する力はシルクロード以前から存在しています。2つ以上の文化が商品を取引したり、弾丸を売買したりすれば、そこには必ず情報やアイデアの交換があります。しかし最近まで、この情報の受け渡しは比較的少人数に限られていました。
翻訳経済は、インターネットやモバイルプラットフォームの力によって多数の人々がつながり合っている現代ならではのものです。私たちが住む世界は、Microsoft、Google、Apple、Wikipedia、Facebook、Snapchatといった企業や組織によって、たった数十年で変貌しました。これほど多くの人が、世界中のさまざまな国や文化にわたって多数の人間にアクセスできた時代は、今までありませんでした。
シルクロードからシリコンバレーへ
私が考える翻訳経済の始まりは、当時、世界トップのサーチエンジンであったYahoo!が初めて日本にサービスを展開した1996年です。それからの20年、以下のような注目すべき発展がありました。
1996年 | Yahoo!がYahoo! JAPANを開始。Webサイトローカライゼーションの最初の重要な事例となる。 |
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1998年 | Amazonがグローバル展開を開始。ドイツ、イギリス向けにローカライズされたWebサイトを開設。 |
1999年 | 創業わずか1年のGoogleが、検索エンジンインターフェースの翻訳を手伝うボランティアの募集を開始。 |
2000年 | H&R Block※1がヒスパニック系アメリカ人にターゲットを絞った、スペイン語のWebサイトを開始した最初の企業となる。 |
2001年 | Wikipediaが開設される。 |
2002年 | AOLとAlta VistaがBabel Fish※2を使用して無料のリアルタイム翻訳を提供。 |
2002年 | Googleが60以上の言語で検索インターフェースを提供。 |
2005年 | Googleのサポート言語が100を超える。 |
2006年 | GoogleがGoogle翻訳の言語範囲の拡大を開始。 |
2007年 | Wikipediaが250以上の言語でコンテンツを提供。 |
2008年 | Facebookがボランティア翻訳者に頼って、初めてローカライズされたWebサイトをスペインで開始。 |
2009年 | Google翻訳が41言語に到達。 |
2010年 | Facebookが18ヶ月で2言語から70以上の言語に展開。 |
2011年 | モバイルアプリのローカライゼーションが主流に。 |
2013年 | Google翻訳が65言語をサポート。 |
2014年 | Wikipediaのサポート言語が270を超える。 |
2015年 | Gmailが59言語をサポート。 |
2015年 | Uber※3のモバイルアプリがUber Webサイトを超える36言語をサポート。 |
2016年 | モバイルメッセージングアプリ、Facebook Messengerが29言語で提供される。SnapchatとWeChatが20言語で提供される。 |
2016年 | Google翻訳が103言語をサポート。事実上、全インターネットユーザの99%の言語ニーズに対応。 |
過去を振り返ると、言語サポートの拡大とこれが企業の成功に与える直接的な影響は、決して見逃せるようなものではありません。FacebookやGoogleなどの企業にとって、グローバル化への早期の積極的な投資が、成功の大きな要因となっています。
長年にわたってグローバル化の価値を過小評価し、十分な投資を行ってこなかった企業は、どこも惨たんたる状況です。
本書の目的
グローバルに成功するには、世界について博識な人(たとえば6カ国語を話し、ページが追加された分厚いパスポートを持ち、まるで国際線出発ロビーで生まれたかのような人)でなければならないと広く信じられています。
実のところ、グローバルな成功には、皆さんが思うほどの国際線マイルは必要ありません。グローバルな成功に必要なのは、自分の国の外の世界を理解したいという単純な欲求です。
今こそ「オプトイン」を
私がこの原稿を書いているとき、イギリスは国民投票でEU離脱を決定し、アメリカは貿易協定を破棄する気満々の国家主義者を自認する大統領を選出しました。グローバル化を恐れる人たちの気持ちもわかります。多くの企業や政府が、構成や実施に不備のある取引協定を有利に利用し、人々や動物、環境が大きな苦痛を強いられています。しかし、倫理的に共感をもって実施されていれば、グローバルな商取引はプラスの力になります。人々をつなぎ、互いの違いを乗り越えるのを助け、全世界の生活水準を高めます。
人と人の間にある違いを明らかにすること。これこそが、私がこの本を書いた大きな理由です。ときに国境の外の世界は、計り知れないもののように感じられるでしょう。膨大な数の言語や、文化的・宗教的慣習、そして社会が進化するスピードによって、人は心理的に広い世界から距離を置く(オプトアウトする)ことを選んでしまうのです。
この本は、参加する(オプトインする)ことを目的としています。イギリスやアメリカの主導者たちから聞こえてくる耳障りな言葉とはうらはらに、国どうしの貿易の終わりを示唆する人は誰もおらず、単に異なる協定に従って貿易しようというだけのことです。人は文明が始まったときから商取引を行っており、文明が終わるまで続けていくことでしょう。
グローバル経済からオプトアウトする人たちは、結果的にチャンスを逃します。仕事上のチャンスも新しいことを学ぶチャンスも逃し、人間の複雑さの中にある魅力も見逃すことでしょう。
グローバルジェネラリストになろう
私は、この約20年間で自分が学んだことを皆さんと共有するためにこの本を書きましたが、その道のりは6カ国語を学ぶことから始まったのではありません。実際、多数の言語を少しずつ学ぶために多くの時間を費やしてきましたが、私が自由に使いこなせるのは英語だけです。私が学んだのは、言語および文化のジェネラリストになれば、企業やWe bサイト、製品のグローバル化に十分に貢献できるということです。本書は厳密にはWe bサイトやモバイルアプリをグローバル化するための本ではありませんが、その方法を示す実例をたくさん見つけることができるでしょう。この本の最終的な目的は、皆さん自身をグローバル化することです。新しい市場に製品を投入してほしい、あるいはグローバルなマーケティングキャンペーンを立ち上げてほしいなどと皆さんが依頼されたときに、何を検討すべきかわかるよう、本書ではグローバル化のプロセスや、国や文化の考察を説明しています。
本書が対象とする読者は、自分が所属する組織が、恥ずかしいミスや高くつく間違いを犯すことなく、なるべく効率的に新しい市場に参入できるよう力を尽くしたいという方です。また、本書はこうした市場で働いている人たちに敬意を表すことも目的としています。
すべての言語を話し、すべての文化を理解することはできません。それでよいのです。すべてを知る人などいません。多言語を操る人や、すべてを知っているかのような自称グローバル専門家はたくさんいます。
しかし、その人たちもすべてを知っているわけではありません。
ただし、たくさんのことについて、少しずつ知ることはできます。もっと重要なのは、何を問うべきかがわかることです。本書では、知らないことを学ぶのと同じくらいに、知っていることについても学びます。
広い世界に目を向けましょう。すべてを理解している人などいません。だからこそ、こんなにワクワクするのです。
グローバルジェネラリストなWeb担当者を目指して
- 独身の日 !? ブラックフライデーって !?
- 世界が100人なら58人はアジアの人 !?
- 3Gの低速モバイル通信が世界の主流 !?
- 右→左と左→右が混じるアラビア語のWeb !?
すべてに精通したスペシャリストである必要はありません。
あなたのコンテンツやビジネスにグローバルな成功をもたらす事例・考え方・ヒント満載の手引き書が登場。
Webサイト・サービスやアプリケーションなどのプロダクトを提供するのは、今や企業の大小に関わらず、広くビジネス機会を求める上で重要な視点です。そして、それは1つの国や地域のスペシャリストである必要はなく、ジェネラリストとして幅広い国や地域に対して知見を持っておくことが重要です。
この書籍は、そのような観点に立った知識と豊富な実践を解説する書籍です。Webサイト・サービスやアプリケーションなどのプロダクトを、英語圏や中国語圏、中東圏、スペイン語圏などグローバルにマーケティングする際のポイントを、数多いケーススタディにもとづいて解説します。文字表現、デザイン表現、プロモーション戦略などを各地域の商慣習に合わせて細かく例示した他に類を見ない内容となっています。
著者が運営するBlog「Global by Design」の日本語訳を手がける、株式会社ミツエーリンクスの木達一仁氏が監訳! Web担当者、Webマーケター、広報・PR担当者はもちろん、Webデザイン/サービスのデザイナーやアプリ開発者など、幅広く役立てていただけます。
推薦コメント:木達一仁(監訳者)
日本の将来の景気低迷を懸念する記事を多く目にする昨今、日本企業は今後ますます海外に目を向け、インバウンドとアウトバウンドの両面からビジネスの拡大を検討することになるでしょう。ビジネスの、ひいては自社のWebサイトやアプリのグローバル化に取り組もうとされている皆さんにとって、本書が良き手引きとなることを願ってやみません。
コメント
1996年のヤフーの画像は違うのではないでしょうか。
1996年のヤフーの画像は違うのではないでしょうか。
ご指摘ありがとうございます
ご指摘ありがとうございます。
確かに、おっしゃるとおり1996年当時の画像ではないですね。
この記事を提供いただきました出版社のボーンデジタルさんともお話しして、追記を加えました。
ありがとうございます!