『グローバルWebサイト&アプリのススメ』Web担特別公開版

特別寄稿② 実践して見えてきた、グローバルWebサイト案件で判断が難しい2つのポイント

書籍『グローバルWebサイト&アプリのススメ』監訳者の木達一仁氏が、Web担向けに特別寄稿!
木達一仁(ミツエーリンクス) 2018/5/25 7:00 |

書籍『グローバルWebサイト&アプリのススメ』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開!

書き下ろし特別寄稿: 木達一仁(ミツエーリンクス)

前回のジョン・ヤンカー氏の書き下ろし記事を受けて、「グローバルWebサイトの構築・運用における難しさ」について、私のこれまでの実務経験を踏まえつつ、2つのポイントに整理してお伝えします。

トランスクリエーションのさじ加減

ヤンカー氏は記事の前半部分において、インターネットユーザーの母語の多様性について具体的なデータを示しながら、グローバルWebサイトにおける多言語対応の重要性を説きました。

「では、具体的にどの言語をサポートすべきか」は、どの国や地域に対してビジネスを展開するかという企業固有の戦略と密接にリンクしている以上、一義的な正解はありません。とはいうものの、ヤンカー氏が提示した、「代表的なグローバル企業で共通してサポートされている10言語」は参考になるでしょう。

ヤンカー氏が前回の記事で提示した「代表的なグローバル企業で共通してサポートされている10言語」

  1. 英語
  2. 中国語(簡体字)
  3. フランス語
  4. ドイツ語
  5. 日本語
  6. スペイン語(ラテンアメリカ)
  7. ポルトガル語(ブラジル)
  8. ロシア語
  9. イタリア語
  10. 韓国語

さて、どの言語をサポートすべきかを決めたら、次のステップとして重要になるのが、トランスクリエーションです。これはヤンカー氏の前回記事では触れられていませんが、書籍『グローバルWebサイト&アプリのススメ』では第4章で触れられています。

この「トランスクリエーション」という言葉は、「単純な言語の変換ではなく、その言語の使われる国や地域の文化的背景をも踏まえ、読み手がより自然に感じられるようクリエイティブに訳すこと」を意味します。監訳を担当した私も、原著を読んだ際に初めて知った言葉です。

グローバルWebサイトでは、「トランスレーション」よりも「トランスクリエーション」の方が、マーケティング的には高い効果が期待できます。しかし、次のような欠点もあります。

  • 当然ながらコストは高くなります。
  • 直訳ではありませんから、原文に対してトランスクリエーションがどれだけ理にかなった訳文になっているか、確認も難しくなります。

そのため、トランスクリエーションの対象に関するさじ加減が重要になるでしょう(見出しやキャッチコピーなどに限定するか、もう少し範囲を広げるのかなど)。

そしてそのさじ加減は、サイト構造や情報設計にも相関します。トランスクリエーションを採用する程度は、

  • 特定の国や地域に特化したコンテンツ
  • それ以外のグローバルに同一なコンテンツ

のバランスという側面もあるからです。

すべてのコンテンツ、すべてのページを完全に1対1の関係で多言語化しているサイトもあれば、そうでないサイトもあります。いずれの場合も、サイト構造なり情報設計と整合させつつ、トランスクリエーションのさじ加減を考える難しさがあります。

特定の国や地域に由来する要件

2018年の春先から、EU一般データ保護規則GDPR: General Data Protection Regulation)についての記事を見かける機会が次第に増えてきたように思います。ちょうど5月25日に適用開始されることもあり、GoogleやFacebookをはじめ各社の動きも活発化していました。

GDPRについては、違反した際に課せられる制裁金の金額の高さゆえに注目が集まっている印象がありますが、日本企業も決して無関係ではありません。たとえEU域内に拠点を持たなくとも、EU域内の個人に商品やサービスを直接提供していれば、GDPRの適用対象となるからです。

GDPRが求める個人情報の取り扱いは、今後グローバルスタンダードとなるのでしょうか?

正直なところ、私にはわかりません。

しかし、サーバーやデータベースなどを一元的に管理しているグローバル企業においては特に、GDPRに対応すべく加える改修を、EU域内向けのサイトのみならず、あらゆる国や地域向けのサイトに反映しやすい状況があります。すべてのサイトに一括で反映したほうがコスト的にもユーザー視点からも好ましいケースが増えれば、その合理性ゆえ徐々にGDPR対応がグローバルスタンダードとなっていく可能性はあります。

実は、これに似たような流れがWebアクセシビリティの分野でありました。アメリカの航空アクセス法ACAA:Air Carrier Access Act)です。

この法律は、アメリカ国内に乗り入れる定員60名以上の路線を有する場合、どの国の企業であってもWebサイトをアクセシブルにするよう求めています。具体的には、WebコンテンツのアクセシビリティガイドラインであるWeb Content Accessibility Guidelines(WCAG)2.0のレベルAAに準拠するよう求めているのです。

ACAA自体は、航空業界に限って適用される法律ではありました。しかし今や、公的機関Webサイトのアクセシビリティ対応は多くの国や地域で法制化されており、多くの場合はグローバルスタンダードであるWCAG 2.0への準拠が求めらています。

そもそも障がい者の権利を守ろうという動きは全世界的なものであり、ACAAのような一般企業を対象とした法制化も今後広がりを見せるかもしれません。そうしたなか、グローバル企業のWebサイトについては今後、WCAG 2.0レベルAA相当のアクセシビリティの確保が事実上の必須要件となる可能性はあります。

GDPRとACAA、2つの例を挙げましたが、こうした特定の国や地域に由来する要件をサイト全体でどう取り扱うかは、グローバルWebサイトの構築・運用における難しさの一つであると思います。

グローバルなガバナンスの重要性

ここで挙げた

  • トランスクリエーションのさじ加減
  • 特定の国や地域に由来する要件

のいずれも、結局のところはガバナンスの課題に帰結します。つまり、「単一のブランド・単一の企業として、Webサイトの何をどこまで中央集権的にコントロールし、あるいは地方分権的にコントロールするか」ということです。

私がグローバルWebサイトのガイドライン策定をお手伝いしてきた経験から痛感するのは、まさにこのガバナンスの重要性です。日本国内向けのWebサイトであっても、組織構造や予算按分を背景としてガバナンスが難しい状況というのは決して珍しくありませんから、比較的規模の大きなグローバルWebサイトとなれば尚更です。

ヤンカー氏は、書籍の第2章「グローバルに考える」において、次のような等式を挙げました。

グローバル化 = インターナショナライゼーション + ローカライゼーション

また同時にインターナショナライゼーションとローカライゼーションに関しては、この2つが組み合わさっている状態を太極図をモチーフとして図解しています。グローバルなガバナンスとは、いわば両者のブレンドをうまくコントロールすることに他なりません。

ガイドラインのような、ガバナンスの拠り所となるドキュメントを取りまとめるには、言語の壁や文化の壁を乗り越えたところで関係者が一致団結し、合意形成しなければなりません。

そうした合意形成を進めるなかで避けるべきことの例としては、次のようなことがあります。

  • 字形のシンプルなアルファベットを基準に考え、漢字のもつ複雑さに配慮がなされないまま、比較的小さな文字サイズを規定してしまう

  • 企業のブランドカラーに合わないからと、特定の国や地域で使用が好ましいとされる色使いをグローバルで禁止してしまう

取りまとめのコミュニケーションでは、「総論賛成・各論反対」といった意見が出てくるものです。そうした状況それぞれに対し、企業ないしブランド固有の最適解を自ら模索し続ける努力が、忍耐強く求められるように思います。

◇◇◇

「グローバルWeb案件の難しさ」がテーマだっただけに、ことさらに難しさを煽りすぎてしまったかもしれません。

しかし、見方を変えればその「難しさ」は「やり甲斐」でもあり、グローバルWebサイトならではの「面白さ」でもあると思います。今まさにグローバルWebサイトを運用されている、ないしWebサイトのグローバル対応を検討されている皆様が、何かしら今後のヒントを書籍『グローバルWebサイト&アプリのススメ』から得られることを願っています。

グローバルWebサイト&アプリのススメ グローバルジェネラリストなWeb担当者を目指して
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推薦コメント:木達一仁(監訳者)

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