良いWebライターの見つけ方・選び方って? 紙メディア出身の編集者はココを見る!【後編】
ライフスタイルWebマガジン「Pacoma(パコマ)」を8か月で検索流入を295%、月間PV数317%に急成長させたのは、紙の雑誌で編集者をしていた武蔵(むさし)英介氏。インタビューの後編は、記事を執筆するライターの採用についてです。
メディアの成長を支える大きな柱は、その分野に特化した良いライターの存在。しかし「どうすれば良いライターさんが来てくれるの?」とお悩みのメディア運営者も多いのではないでしょうか。そこで、紙からWebまで10年近くメディアに携わってきた武蔵氏ならではの「ライター採用とマネジメントのコツ」を聞きました。
>>前編の「8か月で検索流入数が3倍に! Webメディアで生かされた紙メディア編集者のノウハウとは?」から読む
SEOを意識して書いてもらうなら「やさしくてまじめ」な人が良い
――武蔵さんはSEO未経験からスタートし、3か月目にはユーザーの検索意図をもとにした構成案をライターさんにレクチャーしていましたね。Faber Companyのコンサルタントも「体制作りが早い!」と驚いていました。
武蔵英介氏(以下、武蔵)いま僕のチームでは、8名の外部編集者とライターさんがいます。その多くはWeb用語をほとんど知らない、紙メディア専門で仕事をしてきた方々です。
それでもSEOを意識したライティングに早く慣れてもらえた理由は、僕が7年間、出版社の主婦と生活社で雑誌を作っていた編集者だったからかもしれません。僕自身もかつては「Web怖い、SEOって何?」と思っていたので(笑)。自分の経験から、ライターさんたちに何をどの手順で、どんな言葉で伝えたら早く理解してもらえるか、ある程度わかっていたんです。
――ライターさんの役割も大きいと思いますが、武蔵さんの考える「SEOにおける良いライターさんの条件」を教えてください。
武蔵SEOのことを考えるなら、次の4つの条件にマッチしたライターさんが理想だと考えています。
- 論理的な文章が書ける
- 細かい情報をまとめるのがうまい(苦と思わない)
- 取材がていねい(構成案+αの情報まで取材をしてくれる)
- やさしくてまじめ
SEOでは「1つのテーマをいかに深掘りし、自然な流れでユーザーの知りたいことに応えていくか」が軸になると考えています。だから、①~③の条件がとても大事。取材がていねいな方は、構成案にない情報まで拾ってきてくれます。記事のオリジナリティが増し、話題の幅も自然と広がります。
④の「やさしくてまじめ」については、「そんなことより大事な条件があるのでは?」と思われるかもしれません。しかし僕はとても大事なポイントだと思います。SEO記事では精密な内容のライティングが必要で、構成案や原稿のチェック時に大幅な修正やリライトをする場合が多々あります。内容の細かさ、修正の必要性を理解いただき、冷静に対応いただけるライターさんの方がいいのです。
ライター採用時における4つのポイント
――そんな良いライターさんとはどうやったら出会えるのでしょう?
武蔵人脈をたどってスカウトできたらそれが一番。お金もかからず安心です。僕も最初はひたすら知り合いに聞きまくりました。その後は、とにかく「質が高く良いコンテンツを作り続けること」に尽きると思います。
記事としての質が良く、写真やビジュアルにもこだわったコンテンツが多くの人の目に触れ続ければ、魅力を感じて、「自分もこのメディアで書いてみたい」と思うライターさんが出てくると僕は信じています。実際、Webマガジン「Pacoma」のサイト内のライター募集ページから応募いただくことも少なくありません。
――ライターさん採用までのステップを教えてください。
武蔵サイト内募集ページで実際にライターさんから応募があった場合、基本的に4つのステップを踏んでいます。これは出版社時代、前職のWebメディアの経験もふまえて「僕の場合はこうしています」というだけで、あくまで参考ですが……。
ステップ①書類選考
応募があったらまずここを見る
――ライターさんからの応募があったら、まずは履歴書と過去の実績などの書類選考ですね。どのあたりをチェックされますか? ライティングスキルは過去記事を読んで判断するのでしょうか。
武蔵いいえ。一見良さそうな原稿でも、担当編集者の校正やリライトの力によるものである可能性があるからです。過去記事は「どんなジャンルに知識があるか」を見る程度で、ライティングスキルについてはすべてテストライティングで見極めます。
武蔵あと「絶対に」というわけではありませんが、次の2つに当てはまる場合は、すぐに次のステップに進んでいただきますね。
その1: それまでの経歴がメディアの方向性と一致する
僕のチームでは収納や掃除など、生活にまつわる課題解決型のコンテンツを取材して書くことが多いので「ライフスタイル系のメディアで書いていた」「How to系の細かな情報をまとめた」などの経験を重視します。
経験のあるライターさんなら「キッチンの収納について書いてください」と依頼すれば、細かく指定しなくてもちゃんとシンク下や冷蔵庫周りなどポイントを押さえてくれます。その文脈で書ける知識と感性を持ち合わせているので、焦点が合いやすいのです。
これがたとえばメンズ誌など畑違いのメディアでしか書いたことのない方を採用してしまうと、たぶんお互いにつらい思いをしますね。一度、すごく文章がうまいファッションライターさんに他ジャンルの記事を書いてもらったことがありましたが、やっぱりなかなか焦点が合わずリライトで苦労しました。
その2: 1つでも得意ジャンルがある
得意ジャンルのあるライターさんは、その中にネットワークをお持ちです。取材先や監修をお願いしたいときに助けてもらいやすいというメリットがあります。しかし最大の理由は、SEOでも強みになる「専門性」です。
「1つの情報を深掘りして書くこと」に長けた人は、SEOでもやはり強いですね。僕は1つのジャンルをなるべく同じライターさんに担当してもらっています。たとえば「カビ」のテーマで、同じライターさんに17本書いていただいたことも(笑)。書けば書くほどライターさん自身もその分野に詳しくなって、深みが出てくるんですよね。
ステップ②テストライティング
答えが複数あるお題でスキルをチェックする
――書類を通過した方は、全員テストで執筆してもらうのですか?
武蔵経歴にもよりますが、基本的には書いてもらいますね。僕はライター採用で最も重要な要素は「文章力」だと思っています。編集部が求めている文章力に満たない方をアサインしてしまうと、校正のときに大量の赤字が発生して、時にはリライトに半日かかってしまうことも。それでは時間がいくらあっても足りません。
逆にまったくなくてもいい要素は「SEOライティング」の経験です。募集要項に一応「経験があれば望ましい」とは書いていますが、SEOライティング経験を必須にしてしまうと優秀な編集者・ライターさんを逃す可能性が高くなってしまうのです。優秀な方なら、SEOについてもすぐにインプットできます。実際に僕のチームは全員SEO未経験でしたよ。
――テストライティングはどんなお題がいいのでしょうか?
武蔵なるべくアバウトなテーマで、正解が複数あるようなお題がいいですね。ライターさんの視点や構成力を見やすくなりますから。納期はちょっと短めに設定し、5~7日ぐらい。もし締め切りの1日前ぐらいに送ってくれたら「まじめに取り組んでくれそうな方だな」と思います。
- お題: 「一人暮らしの節約」
- ターゲットユーザー: 20代社会人・女性
- 文字数: 800字以上1,300字以内(本文・見出し・タイトル含む)
- 締め切り: 20●年●月●日(●曜)
- テストライティングについて
- お題に対して「ユーザーがどのような情報を求めているか」をイメージし執筆ください
- Webや書籍・雑誌からリサーチいただき、ライティングください(取材不要)
- 文章のテイスト・校正は、WebマガジンPacomaに合わせて執筆ください
- 文章だけでなく、タイトルや見出し、章分けなどの構成等も採点基準にあたります
- 画像・表組等の情報は不要です
- ワードファイルで送付ください
武蔵テストライティングで見るポイントは、主に7つです。
- 文章力・構成の組み立て力
- 媒体のジャンルへの知識
- 情報収集力
- 論理的な思考力があるか
- 締め切りを守れるか(スピード感)
- 正確さ(誤字脱字)
- 他者の著作物をコピペをしてないか(コピペチェックツールを利用)
もし、この記事を読んでいらっしゃる採用担当者さんが文章力に自信がなくて判断しづらいという場合は、具体的には次の項目をチェックするといいですね。
- 接続詞(接続詞的な言葉)を多用していないか
- 1文が70文字以上のものがないか(1文内の情報を簡潔に整理できているか)
- 同じ文章の止め方が連続していないか(文章のテンポが悪くないか)
例)~です。~です。/体言止め。体言止め。 など - 結論と解説が簡潔にまとまっているか(遠回しな表現や似たような情報のくり返しで、読者が求めている答えがなかなか出てこない文章は好ましくない)
- 1つの情報をさまざまな角度で深掘りできているか
僕はこれまで多くの文章に触れて、自分ならではの基準を作ってきました。上記のチェックポイントはその一部です。「これさえ見れば、絶対に良い文章を見分けられる」というわけではありません。
「良い文章(媒体に合う文章)」を見極めるためには、自分でも書き、さまざまなライターの文章を読み、自分ならではの基準を作り上げることです。
――最初はちょっと気になる文章を書く人でも、「育てる」という手があると思いますが……。
武蔵それは何度もトライしたことがあるんですよ。結論は「ライターさんの文章力を(媒体に合うように)育てるのは難しい」でした。新卒やインターン生など熱量のある若い人を育てるのはありかと思いますが、フリーのライターさんは大なり小なり自己流のクセがあるものです。大量の赤字を入れてお互い苦労するより、最初から方向性が合う、スキルの高い方を採用した方が効率的だと思います。
ステップ③面談
気軽な雑談でライターさんの内面を探る
――次はいよいよ面談ですね。
武蔵はい。面談は「○○さんの経歴、面白いですね! 一度会ってお話できませんか?」といった軽い感じで、「上から目線」にならないようにお誘いするといいですね。初めて会うフリーランスの方に「面接・面談にきてください」というのは堅すぎる(笑)。採用後も「気軽に仕事が頼める関係」を築く目的もあります。僕が会話するときは、こんなポイントを心がけています。
- いきなりメディアの説明はしない。雑談or相手の話しやすいことから聞く
- 雑談からコミュニケーションの取りやすさを見る
- これまでのキャリアを聞く(専門性を見る)
- 人脈を聞く(取材先になる監修者やライター仲間がいるか?)
- 趣味を聞く(これまで仕事にはなっていないが、潜在的に書けるジャンルの可能性もあるため)
ステップ④仮採用
2~3本ライトな企画を依頼して本採用へ
――お会いして「いいな」と思ったライターさんは、いよいよ本採用ですか?
武蔵いいえ、まだです。面談とテストライティングの内容をもとに、ライターさんが書きやすそうなジャンルの企画を2~3本お願いします。簡単な構成のものを依頼し、「やりとりがスムーズにできるか」「レスが早いか」「原稿はていねいか」をチェックします。1本だけだと本当に媒体にマッチするか判断に迷うため、必ずギャラをお支払いして、複数書いてもらいますね。
採用後はビジネスライクになりすぎず気軽なコミュニケーションを
武蔵以上が採用までのステップですが、応募されたライターさんのキャリアによっては、一部を省いたり入れ替えたりもしますよ。人づての紹介のときは、テストなどはせずに、実際に一度会ってみて、媒体とマッチしそうだったら初回のライトな企画をお願いしちゃうこともあります。
――念には念を入れて採用されているんですね。採用後のライターさんとのやりとりで意識されていることはありますか?
武蔵優秀なライターさんとは、仕事の合間にチャットで雑談したり、記事への反響を伝えたり、飲みに行ったりと、しっかりコミュニケーションを取るようにしています。
コミュニケーションをマメに取ることは、作業が円滑になり、いろいろなお仕事もお願いしやすくなると思います。というのは結果論で、僕自身は社交辞令でコミュニケーションを取っていたわけではありません(笑)。
「本当にいい仕事をしてもらって助かりました!」という喜びや「仕事を抜きにして○○さんと飲みたいな!」と、相手に思っていることをありのまま出している感じです。仕事のパートナーだからといって、ビジネスライクになりすぎる必要はないと思いますね。
ライターに「検索意図を意識した執筆」を伝授してSEOを強化
――ユーザーの検索意図を把握した構成案の作り方を、今はご自身でライターさんに教えておられるそうですね。
武蔵はい。僕は2017年4月にSEOを学び始めました。ライターさんを雇って自走し始めたのは6月ですが、すぐに「自分1人で構成案をがっつり組み立てて、編集までしたら月10本が限界。構成案を作る人を増やせないか」と考えたのです。
ちょうど同じころ採用したライターさんが、すごく論理的な文章を書く方だったので、「ちょっと会えませんか?」と誘いました。そこで「MIERUCA(ミエルカ)というツールを使って、SEOの構成案を作れるようになってみませんか? SEOのスキルが身に付きますよ!」と口説きまして(笑)。
そのライターさんも「興味がある」と言ってくれたので、自分がFaber Companyから学んだことを駆け足で3時間、凝縮して伝えたのです。その後も随時赤字を入れつつ、レクチャーし続けました。
――今はどれぐらい成果が出ているのですか?
武蔵そのライターさんが頑張って急成長してくれたおかげで、翌月の7月から投入できるコンテンツの本数が2倍に増えました。10月にはさらに2名、構成案制作のステップに進んでいただきました。そして12月には検索流入295%、月間PV数317%を達成。このころ、「チーム全体でもっとSEO施策の精度を上げたい」と相談したら、Faber Companyの中本さん、皆川さんが出張勉強会を開いてくれたのです。
武蔵新しく構成案を学ぶライターさん1名のほかに、すでに僕がお教えした2名にも参加してもらいました。「検索ユーザーの知りたがっていることをどうやって構成案に落とし込めばいいのか」をあらためてプロから学べたので、僕自身も良い復習になりました。
――今回、新しく構成案制作を学んだライターさんの感想はいかがでしたか?
武蔵その方は紙メディアのみで活躍してこられた女性ライターさんで、これまではガーデニングの原稿を依頼していました。最初は「Webの話は横文字が多くて話についていくのが大変!」とおっしゃっていましたが、勉強会後は「SEOを意識するって、『ユーザー目線できちんとまとまった情報をそろえる』ってことなんですね」と新しい発見があったようです。
「紙メディアでは読者の声や大まかなニーズをもとにして取材していたけれど、ツールを使ってユーザーの検索意図を読み解くと“細かいニーズ”を見つけることができる。これは意外な発見がありますね。こうした細かいニーズにていねいに応えていけば、いずれは“ガーデニング情報といえばWebマガジン『Pacoma』”というぐらい質の高い情報にあふれたWebメディアにできるのでは」と力強く意気込みも語ってくれました。
――ライターさんにステップアップしていただくと、メディアも成長できますね。
武蔵そうですね。この女性ライターさんのように、編集者が舌を巻くほどその分野に詳しく、深い知識を持つ書き手はたくさんいます。ライターさんが持つ本来のスキルを存分に生かしつつ、補助としてツールを使いこなしてもらえれば、そのWebメディアはきっとユーザーに評価されます。SEOでも大きな成果を上げられると思いますよ。
紙メディアでていねいな取材・執筆をしてきたライターさんは、SEO施策にとても相性がいいのです。今後も「これからWebでも書いてみたい!」という紙媒体出身のライターさんのサポートや活躍の場を提供できたらと思っています。
――貴重なお話をありがとうございました!
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