8か月で検索流入数が3倍に! Webメディアで生かされた紙メディア編集者のノウハウとは?【前編】
ホームセンターで配布しているフリーペーパーを前身として、2016年3月に誕生したライフスタイルWebマガジン「Pacoma(パコマ)」。
ライフスタイル系メディア群雄割拠の時代、編集長の西面冬樹氏は「後発でも着実に読者を増やしたい。SEOで戦うには、絶対に紙メディアの編集者が必要だ」と確信していました。そこで採用されたのが、出版社で7年間、女性向けのインテリア・生活情報の雑誌を編集してきた武蔵英介氏。
武蔵氏着任から8か月後、Webマガジン「Pacoma」は検索流入295%、月間PV数317%と大きな成長を遂げます。お2人にWebでも生かせる紙メディアのノウハウを聞きました。
前編では、SEOで成果を出すための「武器と戦術の立て方」について、そして後編ではその原動力を生み出す「ライター採用テクとマネジメント」に迫ります。
地に足のついた編集で、しっかりと価値を提供するメディアにしたい
――まずはWebマガジン「Pacoma」の成り立ちを教えてください。
西面冬樹編集長(以下、西面)もう20年以上続いているフリーペーパーが前身です。M&Aでわれわれ日宣が出版することになり、紙とは別にWebメディアも立ち上げることになりました。DIYや掃除、ガーデニング、収納など、生活に近い話題を幅広く扱っているメディアなので、Webとの親和性も高いと考えたのです。
――どんなWebメディアを目指したのですか?
西面最初考えたのは、やはり紙メディアとの相乗効果です。いずれは紙と同程度の広告価値を創出できるようになりたい。そのためにはまず読者を増やす必要があります。芸能人やインフルエンサーを起用したコンテンツのほかに、検索ユーザーに向けた課題解決型のSEOコンテンツも必須だと考えました。
西面絶対にこだわりたかったのが「コンテンツの質」です。企画当時、競合となるライフスタイル系の人気メディアは、キュレーションサイトも含めて大量に記事を投入する手法が一般的でした。なかには誤った情報や、出どころが不確かな情報も多かったのです。
広告のみならず、印刷や編集にも60年以上の社史の中で“深く”取り組んできた日宣がその中に飛び込むなら、たとえ歩みはゆっくりでも、地に足の着いた編集でしっかりと価値を提供できるメディアに成長させたい。だからこそ「紙メディアの編集者が必要だ」と感じていました。
SEO知識はゼロでも構わない。紙メディアの編集者がほしい
――SEO経験者ではなく「紙メディアの編集者」。それはなぜですか?
西面私自身、集英社で編集に携わった経験から感覚知があったのです。「求める質をかなえるなら、女性読者のニーズを深く理解しつつ、一歩引いた客観的な目線で生活情報の記事を作ってきた男性の雑誌編集者がいい。興味さえあれば、SEOの知識はゼロでも構わない」と。
紙メディアで鍛えられた編集者は、「言葉と言葉の間に文脈を見い出す」感覚に優れているので、最短の時間で優れた分析ができるはず。その視点は、SEOでも最強の武器になると考えました。そこで、マスコミ向け転職エージェントに募集を出したのです。
――そこに中途採用で応募されたのが武蔵さんだったのですね。
武蔵英介氏(以下、武蔵)はい。「なんて自分にぴったりの募集なんだ」と面接に行ったら、西面も「まさかこんなにぴったりの編集者が来るとは」と驚いていて(笑)。僕は出版社の主婦と生活社で7年間、インテリアやライフスタイルの雑誌を編集した後にWeb業界に入り、1年半ほど他社で女性向けWebメディアを担当していました。
当時からWebマガジン「Pacoma」はコンテンツの質が高く、写真ビジュアルにもこだわっていたので「作りがいがありそうだ」と感じていて。西面から「いいツールがあるのでうまく使ってSEOに取り組んでほしい」と聞いて、ますます魅力を感じました。
――武蔵さんの入社前もSEOに取り組んではいたのですか?
西面はい。自力で1年間メディア運営をしてオーガニックで月間10万PVほどまで伸ばしてきたなかで、SEOの「成果」と「限界」を感じたことを武蔵に話しました。たとえばこちらの「ネジ頭がつぶれた(なめた)ビスを意地でも回す5つの方法」は、初期に成功した記事広告です。
まず私がユーザーになりきって、ターゲットキーワード「ネジ山 つぶれた」で検索上位に表示されているサイトを1つひとつ読み解きました。次に重要なテーマ・トピックを要素分解して、独自の取材と視点で肉付けし、さらに写真や動画を探して……と原始的な方法でやっていたら、書き終わるまで5日もかかってしまったんです。
――自力でキーワードやコンテンツを分析するのは時間がかかりますよね。
西面本当に。このコンテンツは検索順位1位(2018年2月現在)になりましたが、「これを1人でやり続けるのは無理だ」と思い知りましたね。そこで「自分がやった分析・調査を仕組み化できるツールはないか」と探して、展示会でたまたま見つけたのが「MIERUCA(ミエルカ)」です。
まさにドンピシャの機能すぎて、デモを見た瞬間「あ、これ使おう」と。ただ、武蔵を面接したころは、ツールは導入していたもののまだ使いこなせていませんでした。面接で私が「ミエルカって知ってる?」と聞いて、武蔵が「知っています。今の会社で使っていますよ」と答えた瞬間、「コイツは絶対に雇おう」と思いましたね(笑)。
武蔵本当は他部署でミエルカを導入していて、おもちゃ程度に使わせてもらったことがあるレベルだったんですけどね(笑)。でも前々からSEOに取り組みたいと思っていたので、西面の提案は願ってもない話でした。ツールだけでなくコンサルティングもつけてもらい、一から学べることにもなったので。
そうか、構成案って雑誌のラフコンテと同じなんだ
――そのコンサルを担当したのがFaber Companyの皆川や中本です。皆川さん、武蔵さんの最初にお会いした印象は?
皆川えり(以下、皆川)初回のミーティングで、キーワードの分析を一緒にやりました。一度で理解できるお客様はほとんどいらっしゃいませんが、武蔵さんも困った顔で「……ちょっともう一度お願いします」とおっしゃって。特にサジェストキーワードを検索ユーザーの意図ごとにまとめる「グルーピング」には苦労しておられましたね。
武蔵ツールの分析結果は数値で出てくるので、構成もロジカルに組み立てていかなければならないのだと思い込んで、雲をつかむような作業をしていたんです。皆川さんたちに毎日チャットで質問していたら、ある日こんなことを言われました。
ここは感覚でいいんですよ。ユーザーが何をどんな順番で知りたいのか、おもてなしの気持ちで考えてみてください
この言葉で「感覚でいいのか!」と目からウロコが落ちました。
しばらくすると、「そうか、構成案って雑誌を編集するときのラフコンテ(誌面の配置や内容をライターやデザイナーに示す指示書)と同じなんだ!」と気付いたんです。
皆川そこから本当に早かったですね。2~3か月もするとこちらが教えていただきたいぐらい秀逸なタイトルで、精度の高い構成案が返ってきて「さすが編集経験者は違う!」と感銘を受けました。
紙とWebの違い① 1コンテンツにつき1ペルソナを徹底する
――武蔵さんは、どんなところで紙メディアの編集とSEOを考慮したWebメディアの編集に違いを感じましたか?
武蔵2つほどあります。1つは「Webでは1コンテンツにつき1ペルソナを徹底する」という点です。
「クレソンの育て方」のコンテンツを例に取ると、修正前は「特徴→育て方→レシピ」という流れのものでした。タイトルも「『クレソン』栄養素ナンバー1野菜!栽培方法とおすすめレシピ」という栄養素・栽培方法・レシピの3点にフォーカスするようなものでしたね。皆川さんから、「このコンテンツのペルソナは『クレソンの育て方を知りたい』という人だから、育て方の部分を前面に出した方がいいですよ」とアドバイスを受けたのを覚えています。
武蔵そのときは「育て方だけでなく、栄養やレシピなどのコラムも網羅されていることをアピールした方が読者の興味を引きつけられるのに……」と半信半疑でした。でもサジェストキーワードの結果を見て納得。「クレソン 育て方」のコンテンツをペルソナの意図に合わせたタイトルとディスクリプションに変更し、章の順番を「育て方→特徴→レシピ」に修正しただけで検索順位が26位から2位に上がったのです。
幅広い人に見てもらおうという考えではなく、「これを知りたい」という1人に絞ってタイトルとコンテンツを作ることが大切だと実感しました。
西面紙の編集者が慣習でやってきた誌面作りが本当にユーザーの求めるものだったのか、原点に立ち返って問われるのがWebだと感じています。ゆっくり雑誌をめくる人と違って、移動中に慌ただしくスマホで検索する人は「知りたい情報と違う」と感じた瞬間、もう離脱していますから。
紙とWebの違い② ユーザーは全員初対面。基礎的なことでもていねいに解説を
武蔵もう1つ、「ユーザーは全員初対面だと思うこと」も重要なポイントです。僕は10年ぐらい生活情報のメディアに携わっているので、「重曹を使った掃除方法なんてみんな知っている」「手垢がついたネタを出すのは編集者として抵抗がある」ぐらいに考えていました。
でもツールで分析すると、「重曹」のニーズって、まだこんなにあったのかと。自分がいかにユーザーの気持ちから離れていたのかを痛感しました。雑誌を定期購読している読者なら常識の話だったとしても、Webの場合は全員が初対面だということです。以来、そこにユーザーニーズがある限り、基本的な情報でもていねいに解説することを心がけています。
キャッチーなタイトルとSEOを重視したタイトルの2種類を使い分ける
――Webマガジン「Pacoma」の成長について、中本さんはコンサルの1人としてどう感じますか?
中本俊一(以下、中本)武蔵様は2か月ほどでライターさんの取材執筆のディレクションを始め、3か月目にもう構成案の作り方を教えておられましたね(※ライター採用については後編で紹介)。SEO未経験から始めてこんなに早く人を教えるまでになられた担当者様は、当社のお手伝いした企業様でも異例だと思います。着任されて8か月で検索流入が3倍になったときは、私たちも「おお~!」という感じでした。
武蔵SEOコンテンツは、他社の提携メディアからの流入を増やすための工夫もしましたね。SEOを狙ったタイトルだとどうしてもキーワード重視のあっさりとした印象になりやすいんです。
それだとニュースアプリ内でユーザーの目をひきつけられないため、コンテンツをアップするときはキャッチーなタイトルメイクをし、配信が終わった2~7日後にSEO用タイトルに修正するという方法をとりました。施策が功を奏し、8か月目に月間PV数も317%にできました。
月間PV数317%を達成した秘訣は「ツールに頼り切らない」こと
武蔵短期で成果が出せた理由は、たぶん多くのSEO担当者が感じる「頑張れば頑張るほど、検索上位のサイトと似たコンテンツができてしまう」というジレンマを早めに解消できたからじゃないでしょうか。僕も最初はツールの分析結果だけに頼って成果を出そうとしましたが、これは失敗でした。
中本SEOで真剣に成果に出そうとするなら、プラスアルファで「オリジナリティの追求」が大事になりますよね。
武蔵そうなんです。そこでふと、出版社時代の先輩に教えられた「記事の企画を考える段階では書店に行くな」という言葉を思い出しました。書店には同じテーマで書かれた成功事例があふれている。それを最初に見てしまうと、その完成された印象に引っ張られて、似通った企画ができやすい。これと同じ状態になってしまっていたんです。
――なるほど。それを、どうやって解決したんですか?
武蔵出版社にいたころと同じく、「まず自分の頭と足を使う」やり方に変えました。スーパーや薬局などでネタになりそうなものを見つけたり、自分が生活していて不便に感じたことをメモしておいたりして、それを企画に生かすようにしました。
いきなりツールを使って構成案を組み立てるのもやめました。ツールにキーワードを入れる前に、自分がユーザーの気持ちになって知りたいことを箇条書きでノートに記したり、頭の中でイメージしたりしてから、企画を立てるようにしたんです。
友人知人、家族への簡単なヒアリングもいいですね。妻からも「キッチンの排水溝の臭いをどうにかしたい」とか「洋服のたたみ方を知りたい」とか、企画の種をいくつかもらいました。そうやって泥臭く動いて、自分なりに構成を組み上げた後で、はじめてツールで検索意図を分析します。すると、ユーザーの知りたい情報に答えたうえに、新鮮な関連情報まで含まれたオリジナルコンテンツが完成するのです。
皆川未経験の方ほど、ツールの力に頼りきってしまいがちですが、本来ツールはあくまで補助具。ユーザーの気持ちに寄り添うことが成果につながるんですよね。
武蔵ええ、ツールとのほどよい距離感が大事ですね。ターゲットキーワード「アイビー 育て方」で、いま検索順位3位(2018年2月現在)のコンテンツでも、自分で構成を練った後に検索意図を分析しました。たくさんのテーマ・トピックが出てきますが、「見逃したユーザーニーズはないか」を確認したのです。その際、検索ボリュームではなく「ペルソナに合った文脈に違和感なく入れられるか」を重視しました。
中本当社役員の山田明裕もまさに同じ方法で、一次情報から企画を始めます(過去の記事参照)。社内でWebマーケターを育てるときも「自分なりの仮説を持ったうえで検索結果を見なさい。アナログな気付きや検索結果とのギャップこそ、いいコンテンツの材料だから」と教えています。
トピックを参考にまず目次を作り、肉付けして構成案を作る
武蔵ユーザーが注目しているテーマ・トピックを分類して目次を作ったら、次に構成案へと肉付けします。なるべくライターさんやカメラマンへの指示も詳しく入れますね。そうすると打ち合わせ時間が大幅に短縮でき、時には構成案を渡すだけですぐ理解してもらえます。
キーワードを無理に入れるような指示は出しません。その分野に詳しいライターさんを採用すれば、指示しなくても「水やりについての項目だから、季節ごとの頻度の違いや霧吹きにも触れないと」と自然に入れてくれますから。
西面ミエルカのデータって、平たくいえば「一般人の総意」なんですよね。出版社でよくやるアンケートや意識調査が数秒でできるイメージです。「膨大な手間を省ける」というメリットを生かした使い方をすべきだと思います。
武蔵一方で、ツールから「これは手だれの編集者じゃないと企画できないな」とうなるネタが生まれることも多いんですよ。
たとえば「出産祝い」の検索意図を調べると「二人目」と出てくる。それをさらに分析にかけると、ユーザーは「一人目で出産祝いを送った相手に二人目ができたら、どんなものをあげたらいい? その相場は?」ということを知りたがっていたんです。その立場に立った経験がなければ、なかなか気付かない着眼点でした。
職人の手から生まれて鍛えられた道具は外さない
西面ミエルカを初めて使ったとき「これはエンジニアが楽しんで作っているツールだな」と直感しました。見るたびに機能がアップデートされていて、たまに「またインターフェイスが変わったぞ」と迷子になることもありますが(笑)、日々進化しているからこそ信用できると感じます。
中本ミエルカの機能はどれも、Webマーケティングを10年以上追求してきた当社の職人たちの手から生まれたものです。「自分たちのこの分析・調査を、こういうふうに自動化できればWeb担当者の生産性が上がるはずだ」という発想で開発しています。だから現場で生きる機能が実装されているんです。
西面どんな分野でも、現場の職人に鍛えられ、明確な目的をかなえるために作られた道具ってポイントを外さないですからね。
武蔵ツールを使えば、Webを知らない人にも共通言語のように伝えられるので助かります。僕の編集チームは今8名のライターさんが働いてくれていますが、やはり紙メディア出身者が多いんです。最初はWeb用語もほぼ知りません。
「SEO」や「html」「h1、h2」と話しても「武蔵さん何ですかそれ……」って。でもツールで仕上げた構成案を見せて「これ、ラフコンテと一緒なんです。これを見ていつもどおり取材して書いてくれれば大丈夫ですから」と伝えると、「何だ、同じなんですね!」と笑顔になって、速攻で理解してくれます。
中本優れたライターさんをどう採用し、マネジメントするかはメディア成功の要ですよね。
前編では、紙メディアで培ったノウハウを生かしながらSEOでも成果を上げたWebマガジン「Pacoma」の成長軌跡を紹介しました。後編では、その原動力を生み出す「ライター採用テクとマネジメント」について、出版社時代から培われた武蔵さんのノウハウを詳しく伺います。お楽しみに!
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