失敗を乗り越え月200万PVに急成長! 小川卓氏が聞く、アソビューのオウンドメディア運営術とは?
SEOの知識や執筆の経験がなくても、Webメディアは健全に成長できます。
上記のように語るのは、レジャー関連の予約サービスを提供するアソビューの宮本武尊氏。同社の旅行情報を掲載するオウンドメディアでは、コンテンツ制作に携わる社員はスタート時は2名だったが、現在は1名のみ。あとは5人のアルバイトという少人数体制で、1年半で200万PV/月のサイトに成長した。
ウェブアナリストの小川卓氏が、「成長するメディアを作る秘訣」を聞いた。ポイントは次のとおりだ。
- リーチするユーザーを広げるためにフロー型とストック型の2つメディアを作成
- ビッグワード狙いの記事作りは大失敗。「現地取材」で再スタート
- キーワード分析に丸一日かけていた無駄はツールで解決
- 検索意図を踏まえれば記事のリライト施策を回すことも可能
「ユーザーの課題解決の手段はもっとほかにもあるかも」と考えた
小川卓氏(以下小川)オウンドメディアを始めた経緯というか、御社の思いを教えてください。
山野智久氏(以下山野)「『余暇の時間の課題解決』を通じて人々の心を豊かにし、社会を幸せにしていこう」というのがアソビューのミッションです。もともとは、バンジージャンプやダイビング、陶芸教室など有料のレジャーコンテンツを予約・購入できるサービスを提供していました。
山野しかし、予約・購入に直結する検索クエリだけではリーチできるユーザーに限界を感じ始めていました。「有料レジャーコンテンツの予約・購入だけが、果たしてユーザーの課題解決の手段なのだろうか?」と考えたことが、オウンドメディアを始めたきっかけです。
たとえば「海外で人気の新しいお店が表参道にオープンしました」とか、極端な例だと「スーパー〇〇で卵のタイムセールをやっています」といった情報も、広い意味ではお出かけ意欲をかき立てて、ユーザーの課題解決につながるかもしれない。こうした無料も含めた情報を発信して「リーチできる領域」と「ユーザーの課題解決の総量」を増やしたい、というのがもともとの着想でした。
宮本武尊氏(以下宮本)現在は「asoview!NEWS」と「asoview!TRIP」の2つのメディアを運営しています。「読むとお出かけしたくなる」をコンセプトに、その土地・季節ならではのイベントやグルメ、施設紹介などの情報を発信しています。
小川2016年4月からメディアを2つに分けたそうですね。その狙いを教えてください。
山野「asoview!NEWS」は、花火大会やフェスの案内など、フロー(単発)型のニュースを発信しています。一方、「asoview!TRIP」は、各レジャー施設や観光スポットの魅力を掘り下げたストック(長期)型のコンテンツが専門です。
宮本最初に取り組んだのは、期間限定イベントなどのフロー型のニュースでした。内容と配信タイミングさえ良ければ、公開直後でも検索結果の1ページ目に載ることが多いんですよ。ただし、集客効果は長くて1週間。そのとき一瞬だけアクセスを稼いで終わってしまうんです。だから「メディア内に蓄積させていくコンテンツもしっかりやらなくちゃ」と、別途ストック型の「asoview!TRIP」を立ち上げました。
小川なるほど。瞬間型の記事とストック型の記事、どちらも大切ということですね。ちなみに、サイトの規模は今どれぐらいですか?
宮本両メディアを合わせて月間約200万PVです。レジャー業界は8月が繁忙期ですが、2016年夏のセッション数は前年比の約2倍、メディア開始時と比べて約10倍に増えました。
ビッグワード狙いは大失敗。それを救ったのは「現地取材」
小川どんな体制でコンテンツを制作していますか?
宮本最初の半年は、社員2人と外注のライター5人でフロー型ニュースを1日5~15本リリースし、100万PVまで伸びました。そこで2015年9月ごろから、社員2人とアルバイト4人、外注ライターも15人に増員して「東京 観光」「新宿 グルメ」などのビッグワードに挑戦し始めたんです。「東京○○、20選!」のようなコンテンツも含めて1日最大30本ほど投稿しました。
小川ビッグワードのまとめコンテンツは、流入増が狙えそうですね。
宮本ところがこれは大失敗でした。人員が少ない中で「検索上位を狙う」という手段が目的化してしまったんです。結果、内容が薄い・品質の低いコンテンツが大量に生まれてしまい、校正の負荷は増大。コンテンツ公開後も、検索順位に反映されるまで時間がかかるので、結果がすぐ出ません。みんなイライラして、チーム全体の士気が低下してしまったのです。これを打開しようと始めたのが「現地取材」でした。
小川なるほど。SEOは大切だけど、そのためにコンテンツを作っているわけではないですからね。
「ユーザーが喉から手が出るほど欲しい情報」を発信する
小川確かに「asoview!TRIP」は取材記事がとても多いですね。検索キーワード「上野動物園」で1位になったコンテンツ(編注:2017年2月現在2位)なんかは、自分がまるで現地に行って見て回っているみたいな臨場感があります。新規投稿のうち何割が取材記事ですか?
山野現在は約7割です。取材を始めた理由は、「われわれは情報メディアであって、キュレーションメディアではない。競合は大手レジャー雑誌だ。そこと差別化するには、圧倒的な情報量はもちろん、質の高いコンテンツで、ユーザーの知りたいことにしっかり答えるべきだ」という本質に立ち返ったからです。
実は、われわれが予約サイトで取引をさせていただいているパートナーさんの施設では、せっかく面白いイベントをやっているのに「手が足りなくて事前にWeb告知していない」ということも多いんですよ。それってユーザーからすると喉から手が出るほど欲しい情報だったりすることもあるわけです。この「実は」という情報を、施設の魅力を熟知したわれわれが取材して発信することで、情報拡散のハブになれるのではと考えました。
小川チームのモチベーションは変わりましたか?
宮本はい。一番大きく変わったのが、編集メンバー全員が「この情報はユーザーにとって価値のある情報なのか?」「読んでお出かけしたくなるか?」をベースに会話できるようになったことです。ユーザー満足が起点だと、企画も取材もこんなに楽しいのかと。「現地で詳しい人に話を聞けば、基本、ユーザーが知りたいことはカバーできるはず」と始めた取材ですが、それが結果的にトラフィック拡大にもつながったのです。
ただ、課題もありました。取材をしても全然検索順位が上がらないコンテンツもあったのです。当時は評価の術がなく、メンバーと「これ、何で順位が上がらないんだろうね?」と、原因を深掘りできないままでした。
キーワード分析に丸1日かけていた時間の無駄はツールで解決
小川せっかく「取材記事」というオリジナリティあるコンテンツを書いているので、大勢の方に読んでもらいたいですよね。書く前に、キーワードの調査はされていましたか?
宮本もちろん戦略は立てていました。取材前に僕が検索上位のサイトを1つずつ見て、ユーザーの検索意図や、その場所へ行く動機を読み取って「こういうことを取材しようね」と話をしていました。けれど自分の手と頭を使ってやる調査なので、場合によっては丸1日とか、ものすごく時間がかかりました。その調査方法をアルバイトにフィードバックしようにも、みんな覚えきれず、引き継げない。「これは横展開でスケールできないな」と当時は相当悩んでいました。
小川なるほど。ある程度スキルがある人なら、キーワード調査も手作業でやってできなくはない。でも、その作業ボリュームと、投入したいコンテンツ本数を比較すると、なかなかそこまでの手間はかけられないですよね。
宮本おっしゃるとおりです。なんとか検索意図の調査を楽にできないか、そういったツールはないのかと探していて「MIERUCA(ミエルカ)」というツールを知りました。あまりにも僕たちの悩みにドンピシャだったので「ああ、これだ」と思いました。
小川具体的には、ツールをどう使っていますか?
宮本コンテンツの企画段階では、ユーザーの検索意図を分析するのに使っています。たとえば先ほどの「上野動物園」の検索意図を調べると、「営業時間や入場料、交通アクセスは?」「パンダ、カピバラ、爬虫類などについて知りたい」といった検索ユーザーの意図が見えてきます。これを手でやるのは大変です。
宮本次に「上野動物園」と関連が深そうな共起語を調べると、「ハシビロコウ」や「ゾウ」など、上野動物園を語るうえで押さえておきたいテーマ・トピックが出てきます。
出現回数 | ワード | 出現回数 | ワード |
---|---|---|---|
46 | パンダ | 4 | スカイツリー |
23 | 開園 | 3 | ハシビロコウ |
31 | 東京 | 3 | いくら |
5 | 園 | 3 | プラン |
23 | ゾウ | 4 | 子供 |
21 | 無料 | 2 | 駐車場 |
27 | 日本 | 2 | 入場料 |
13 | 無料開園日 | 3 | 車 |
10 | リーリー | 2 | 高崎 |
32 | 西園 | 2 | 電車 |
8 | 飼育 | 1 | 東京観光 |
39 | 東園 | 1 | 往復 |
22 | ジャイアントパンダ | 2 | 出口 |
11 | 駐車場 | 2 | 弱 |
10 | パンダ舎 | 2 | 無料 |
17 | おすすめ | 2 | 昼食 |
宮本これらを踏まえて、社員が「こんなテーマを取材して、こんな流れで書いて」と構成案を作ってアルバイトに指示します。取材の結果、「2時間で楽しむ」といった独自の切り口や、取材しなければわからなかった情報などを織り交ぜて、実際に園内を歩いているようにガイドするコンテンツに仕上げました。
小川なるほど。検索意図から逆算して、取材ポイントを共有できるようになったんですね。この持参するという方式(左図)はすごく良いですね! 取材時の質問の聞きもれもなくなりそうですし。この方法に変えて、どのぐらい工程や時間が縮まりましたか?
宮本めちゃくちゃ縮まりました。これまでは取材から記事の投入まで3、4日はかかっていました。でも今は、私が人力で事前調査する必要はありません。1本作るのに都合1日もあれば終わるようになったんです。社員1人+アルバイト5人で首都圏の取材をし、遠方は外注ライターに依頼する体制で、1日最大6本投稿しています。コンテンツ1本あたりの制作コストも、ツールの活用で50%近く削減できました。
小川ある程度検索意図がグルーピングされていると、「このテーマ群で○本作った方がいいね」とかもわかるようになりますよね。
宮本そうなんです。先ほどの「上野動物園」でいうと、「パンダ」がめちゃめちゃ強かった(笑)。だから、記事内で「パンダ」について語りすぎると、多分そっちのキーワードに偏ってしまうと考えて、パンダの別コンテンツも1本制作しました。
検索意図をベースにすれば記事のリライト施策も回せるようになる
宮本分析にツールを使うようになって気づいたのですが、取材側の思い込みと、ユーザーの検索意図とのずれってけっこうあるんだなと。たとえば「八景島シーパラダイス」って、施設を知っている僕たちからすると「遊園地+水族館」ですけど、検索意図を見ると、もう完全に「水族館だけ」のイメージなんですよ。
小川確かに、名前からしても遊園地があるとか、わからないかもしれませんね。私も遊園地があることを今知りました!
宮本はい。そうすると「遊園地の魅力を取材するつもりだったけど、水族館の部分をきちんと訴求しないと読んでもらえるコンテンツにならないね」と、取材前にわかるようになったんです。検索意図を客観的に、数秒で調べられるようになったのは大きな変化でした。
小川効果検証で「書いたものがずれていたな」という場合は、リライトするんですか?
宮本そうですね。「上野動物園」のコンテンツは50位から1位に順位が上がるまで3回ほど改修しました。サイト構造を変えたのも大きかったのですが、改修ごとに効果が出て、検索順位が上がっていきました。ここ2、3か月は、新規投稿よりも過去コンテンツのリライトの比率が高いくらいです。
実は以前は、リライトなんてしてなかったんですよ。どこをどう直していいかはっきりわからなかったので。でも今は、ミエルカでユーザーニーズの網羅性などの品質をチェックして、Google Search Consoleとデータをひも付けて順位計測・分析までできるので、リライト施策も回るようになりました。
分析や仮説の構築を「チームの誰もが同じようにできる」のが理想
小川私がオウンドメディアを分析するときは、よく「初月率(コンテンツのPV数のうち何%が公開から1か月間のPV数なのか)」という評価ポイントを見ますが、効果検証はどのタイミングでしていますか?
宮本投稿や施策から1か月半後です。「ここはゲストが興味を持っているはずだけれど、深掘りが足りないのでは?」とか「コンテンツの文章と写真自体はいいはずだ。だから構成で読みにくさを解消しよう」といった仮説が立てられます。そうした分析を、チームの誰もが同じようにできるのが大きいですね。同じコンセプトで改修したコンテンツが、軒並み検索10位以内に入ったときは大きな手ごたえを感じました。
小川ほかのコンテンツにも応用できる「気づき」を手に入れられたということですよね。コンテンツやSEOの知見がそれほどない人にも横展開できる「虎の巻」のような感じの。
宮本まさにそうです。「メンバーと共通認識が持てた」ところが一番うれしかったですね。全員「事務」で採用したので、SEOの知識も執筆経験もありません。それでも、しっかりと結果が出せる。いまメディアに投入しているコンテンツは約10,000本あります。SNSでバズを集めるような特別な施策はしていないのに、約30%が狙ったキーワードで検索10位以内に入るようにもなりました。
検索エンジンではなく「ユーザー」に向き合わなければならない
小川お出かけというと、「事前にPCで調べるけど、外出先ではスマホを使う」というユーザーが多いと思います。アソビューさんのサイトも、スマホが多いですか?
宮本圧倒的にスマホが多いです。なので、ある程度読まれるコンテンツになったら、ヒートマップツールを使ってスマホのユーザビリティを高める施策をしています。「どこまで読まれているのか」「この位置にあるボタンは押されているのか」といったことを調べて、コンテンツ構成やボタン配置を再設計することは、スマホでは特に重要です。最近はコンテンツ構成を改善すると、検索順位が上がるケースも増えています。
小川これからのコンテンツマーケティングは、そこまで見なければいけないってことですね。
宮本そうしないと結局、ユーザーの満足度を最大化できないと思うんです。目的がSEOだけならほかの方法でも対策できる。でも、SXO(Search EXperience Optimization:検索体験の最適化)を考えるなら、そこまでやらなきゃいけない。ミエルカはそこまでできるので、調査や分析などの作業に時間をかけず「ユーザーに向き合った仕事」をしっかりできるんですよね。おかげで、ブラウザで表示しているタブの数も激減しました(笑)。
電子チケット販売の25%がオウンドメディア経由
小川今後のサイトの目標を教えてください。
山野今はまだ売上よりも「オーガニックからどれだけメディアにユーザーを集められるか」に重きを置いています。「お出かけしたい」「観光に行きたい」という人は、まだまだわれわれのサイトユーザーの10倍以上いるのではないかと思っているので。ただ、2016年の6月から試験的に、温浴施設やレジャー施設の電子チケットの販売も始めました。すると、夏の繁忙期は、新規販売件数のうち25%がオウンドメディアのコンテンツ経由という結果になりました。
小川すばらしい。きちんと読まれるコンテンツに育ててから、施設側にチケット販売の場として開放することもできそうですね。
山野情報発信をしたいパートナー様からも、自分たちの魅力を客観的に伝えてくれるメディアがあって、最新情報をアップデートしてくれ、さらに販売にも結び付けられる、という点で期待をいただいています。これからもパートナー様のご協力をいただきながら、ユーザーの「余暇の課題解決」ができるメディア運営をしていければと考えています。
宮本集客を最大化できたら、その後は「ユーザーのライフスタイルに溶け込むこと」にチャレンジしたいです。たとえば、普段はメディアで発信するイベントや温浴施設などの身近なお出かけ情報に触れてもらい、アクセス解析とCRMを組み合わせてユーザーとコミュニケーションして、月1回はアクティビティを予約してもらったりといったユーザーを増やしていきたいです。
小川となると、今おっしゃったように再訪率や回遊率が重要になってきますね。コンテンツがアップされたらプッシュ通信を送ったり、コンテンツのページネーションの3ページ目を次のコンテンツにしてしまって、自然に次に誘導するとか。いろいろ考えられますね。今日は大変貴重なお話ありがとうございました。
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