KPIは「SEO順位」から「ユーザーの検索体験向上」へ、これからのコンテンツマーケティングで大切なコト
レジャー予約サイトの「asoview!」には、2つのオウンドメディアがある。その立ち上げ背景や、成長までの3フェーズ、直面した課題とそれをいかに乗り越えたかについて解説する。ポイントは「一次情報を自分たちで取りに行くこと」、そして「ユーザーと向き合うこと」だ。
「Web担当者Forum ミーティング 2017 春」において「”ユーザーと向き合う”オウンドメディアで月200万PVを実現したコツ」と題して行われたセッション。そこで語られたのは、これからのコンテンツマーケティングで大切なことだった。セッションは、FaberCompanyの月岡氏が、アソビューの宮本氏に聞くスタイルで進んだ。
役割ごとに2つのオウンドメディアを運営
「asoview!」は、陶芸体験、シーカヤック、パラグライダー、遊園地などの予約やチケット購入ができるサービスである。つまり、どこに行きたいか決めている人向けのサービスだ。
しかし、予約サイトを利用してもらうためには、お出かけして余暇を楽しむ人が増えなければならない。「asoview!」には、そんなユーザーを育てるためのオウンドメディアが2種類ある。
ひとつは開催期間が決まったイベント情報やニュースを提供する「asoview!NEWS」(フロー情報)。毎週スキューバダイビングに行くようなユーザーは少ないので、たとえば週末の代々木公園で行われるイベントや、新しくできたショッピング施設の情報のようなイベント情報をここから発信する。
もうひとつは、行楽地の魅力を深く掘り下げた情報を提供する「asoview!TRIP」(ストック情報)。たとえば上野公園に行きたいユーザーで「子どもを連れて一日遊ぶことができるのか知りたい」というような課題解決のコンテンツを提供する。
オウンドメディア成長にいたるまでの3フェーズ
オウンドメディアは成長を遂げ、月間200万PVのアクセスを実現しているが、この成長に至るまでを3つのフェーズに分け、制作体制やコンテンツの量・内容について解説していく。
第1フェーズ 一点突破期
当初は、社員2名と外注ライター5名という体制で記事コンテンツ作成をスタート。記事数は1日あたり5~15本で、主な内容はイベントやニューオープン、花見やお祭りなどのシーズン情報といった、ニュース系が中心だった。
物量である程度アクセスを稼げることは分かったが、やっていくうちに課題も生じた。
- フロー情報なので集客期間が短い
開設当時は、他がやらないニュース(フロー情報)で勝負をしようと考え、ある程度のアクセスは集まった。しかし、集客効果が1週間程度しかなく、アクセスを上げるためには量を作り続ける必要があった。
- コスト高で継続運営に不安がある
集客期間が短いため、MAU(Monthly Active Users:月間アクティブユーザー)を増やすためには記事を作り続ける必要があった。コンテンツ量を増やすために、コストも増えていく一方だった。
第2フェーズ 試行錯誤期
体制は、社員と外注ライター以外にアルバイトを4名採用した。もともとは社員が「企画」と「外注ライターが執筆した記事の品質チェック」を行っていたが、制作する記事数を増やしたことで手が回らなくなった。そこで、社員は「外注ライターのコントロール」を担当し、アルバイトが「記事の品質チェック」を行う体制にした。
フロー情報だけを大量に作り続けるのはコスト的にも継続性がない、というのが一点突破期の課題だったので、1日の記事数はフロー情報20本に加えて、ストック情報(観光・グルメのまとめ系コンテンツ)を10本加えた30本程度とした。
これにより表面化したのが、次のような課題だ。
- 手段が目的化して大量制作したためコンテンツの質が低下
ベンチマークサイトより多くのコンテンツを制作する、が目的化してしまい、1本1本のコンテンツの品質が下がってしまった。
- • 結果が見えにくく、スタッフのモチベーションが低下
ストレートニュースと違ってストック情報のSEO効果が出るのは半年から1年後。SEOとしての結果が見えにくく、メンバーのモチベシーションを維持し続けるのは大変だった。宮本氏は、「典型的なダメなメディアだった」という。
第3フェーズ 拡大成長期
体制としては、社員1名、アルバイト5名、外注ライター15名と、大きな違いはない。しかし、コンテンツ数を大きく減らし、1日にフロー情報3~5本、ストック情報1~3本の6本程度にした。大きく違うのはコンテンツの内容で、施設取材記事が追加された。その例が次の図だ。
ポイントは2つある。
- 一次情報を取り扱う(現場取材・インタビュー)
「asoview!TRIP」では、スタッフが現地で取材し写真を撮る。それまでの観光記事は画像を買ったり掲載許可をもらったりとかなり工数がかかる。しかも、どこのメディアも同じ素材を使うのでオリジナリティがなく面白くない。
また、「実際に現場に取りに行くという姿勢が大事」と考え、一次情報は現場に行って取ってくる、現場で体験して自分が本当に良いと思ったことを書くという方針に変更した。
- 「お出かけのキッカケになるか?」を指標にした
それまでは検索結果で上位になることが評価指標だったが、「読んでお出かけしたくなるコンテンツか」を指標にした。その結果、チームもユーザー目線のコンテンツ制作に集中でき、モチベーションも回復。それに伴って、SEO的な成果(キーワード順位)もついてくるようになった。
コンテンツ制作は「検索意図を知る」ことから始まる
拡大成長期は、個々のコンテンツ制作にはかなりの工数を要するが、成果が上がるものと上がらないものがあった。定期的に振り返って改善、といきたいところだが、制作で手一杯なためPDCAを回せないという課題があった。
「asoview!TRIP」のコンテンツ制作は次のようなプロセスで行われる。
- ユーザーの検索意図調査
- 構成設計
- 取材/執筆
- 校正
- SEOチェック
まず大事なことは、ユーザーはどのようなキーワードで検索したときに、どのような情報を求めているかという「検索意図」を知ることだ。
ユーザーの検索意図を理解し、ユーザーの知りたいことに応えたコンテンツを作らなければ、ユーザーに評価されない。結果、検索エンジン上も評価されない。
その検索意図を確かめるためには、分析力とストーリー設計が大事で、宮本氏はそのためのマニュアルを30ページほどのドキュメントにしている。しかし、それを使えば誰でも検索意図を導き出せるほど簡単ではなく、このスキル習得には、センスと時間が必要だった。
検索結果から一つ一つのページを分析し、ユーザーが求める内容を洗い出していくため、1コンテンツの検索意図調査には半日程度はかかる。コンテンツ制作プロセスにかかる工数は、だいたい次のようになっており、これでは1日に書けるコンテンツは1~2本に限られる。
上の図でステップ1と2は、スキルに依存するためリソースも少なく、フィードバックも難しい状態が続いていた。それを解決したのが、コンテンツマーケティング支援ツール「ミエルカ」だ。宮本氏が採用を即断した大きな理由の1つが、検索意図を可視化するサジェストキーワードのネットワーク図だった。これは、宮本氏が検索意図の分析や構成設計する時に整理していた内容とほぼ同じだったという。
上の図は、「上野動物園」で検索するときに一緒に検索されているキーワードを、ユーザーの意図ごとに分類し、可視化している。これを元に、次のような手順でコンテンツを作る。
Step1 検索意図の理解
一緒に検索されているキーワードで大きな意図、ニーズを見つける。
また「ミエルカ」では、たとえば「上野動物園」で検索したときに上位表示されるサイトのメインコンテンツを分析してユーザーにとって重要であろうテーマ・トピックを抽出することもできる。実際にコンテンツを読み込んで、こうしたトピックをあぶり出す作業は大変だが、ツールを使えば効率的にできる。
Step2 構成に落とす
サジェストキーワードネットワークを使って、どのようなコンテンツが必要かを洗い出し、記事の構成を作る。それを元に取材・インタビューすると、ユーザーの知りたいことに対する漏れがなく、結果、質の高い記事に仕上がる。
月岡氏は次のようにいう。
「ライターから上がってくるコンテンツが全然ダメ」というのは、発注内容が曖昧だからで「こういうユーザーのために、こういうことを書いてくれ」と発注側が明確に提示しなければ、思ったようなコンテンツは上がってこない
Step3 現地取材
構成を持って現地に一次情報を取りに行く。
このようにコンテンツを作ることで、ユーザーが必要としている情報を網羅することができ、かつオリジナリティもあるコンテンツができ上がり、ユーザーに評価され、結果的に検索エンジン上も評価がついてくる。
コンテンツ公開後が勝負、直帰率にはこだわらない
「asoview!TRIP」の個別キーワードの検索順位は「上野動物園」で2位、「江ノ島水族館」で2位などの成果が出ているが、これはコンテンツを公開すればすぐに達成できるというわけではない。
コンテンツは、公開後も改修・改善を続けることが重要で、「asoview!TRIP」では公開の2週間後と1か月後のタイミングでそれぞれテコ入れしているという。
そのときもミエルカが役立つ。「検索意図の抜け漏れがないか」「新たなニーズがないか」をチェックし、コンテンツの内容を付け加えることもある。
また、KPIについて「お出かけしたくなるか」は重要な指標だが、数値で判断しなければならない部分もある。PVや滞在時間、直帰率など様々な指標はあるものの、宮本氏は「直帰してしかるべきというコンテンツもあるので、直帰率にこだわらない」という。
また、滞在時間もコンテンツのタイプ(ストーリー重視型か施設紹介重視型か)によっても評価の仕方は異なるので、数字に一喜一憂するのは正しいとらえ方ではない。
さらに、ユーザーの検索体験向上も重視して、コンテンツ改善に「どこを熟読しているのか」などの分析でヒートマップも活用して。
最後に、ユーザーの検索体験向上のためのポイントとして月岡氏が述べたのは次のことだ。
ユーザーが本当に自サイトで満足してくれたのかを考え抜く姿勢、体制、評価する仕組みが重要
このためには、ユーザーに向き合う時間を作る必要があるが、リソースが少なくてそこまでできないという担当者も多い。調査・分析といった時間はツールで効率化すれば、打ち手や施策を考える時間もとれるようになるだろう。
また宮本氏は、コンテンツ施策を「楽しくやっているか」も重要だという。オウンドメディアはユーザーと自分たちの提供するサービスの距離を縮める手段であり、自分たちが楽しくなければ、自分たちが役立つと思っているコンテンツでなければ、ユーザーはついてこない。失敗してチームが楽しく運営できていなかった時代の経験から、それが重要なことだと実感しているという。
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