アドテクを使うと何ができるの? 活用と広告の効果検証方法を知ろう #3/3
アドネットワーク、オーディエンスターゲティング、DSP、SSP、RTB、DMP……。近年、インターネット広告業界を騒がせているアドテクノロジー(アドテク、広告技術の総称)ですが、マーケッターのみなさんにとって重要なのは、これらのアドテクを使って何ができるのかということ。
ディスプレイ広告、リスティング広告などの運用型広告の検証改善では、検証手法を正しく判断し、広告運用の最適化パターンを把握して、アドテクノロジーを適切に活用することが重要です。
これまで初級編として解説をしてきましたが、最終回はステップアップし、広告運用の検証改善として「アドテクノロジーの活用と検証手法」と「広告クリエイティブの検証」の基本を紹介します。
アドテクノロジーの活用と検証手法
ネット広告運用の最適化にはアドテクの活用が欠かせません。ここでは、もっとも基本的なアドテクを活用した検証手法を大きく3つのグループに分けて紹介します(図1)。
まず、それぞれのグループの「優先順位」と「難易度」についてチェックしましょう。
1. 広告計測・配信・入札の最適化
広告とサイトの分析から始める
各種広告キャンペーンの状況を把握し、広告掲載と入札の最適化を進めるために、まず広告とサイトの分析から始めます。そのうえで、広告の閲覧状況(インプレッション)や広告掲載面の精査、サイト流入、コンバージョンまでを計測するのであれば「第三者配信アドサーバー」での広告運用を検討します。
また、複数の広告アカウントを運用しており、広告入札管理の自動化、工数削減をしたい場合には「自動入札ツール」を活用します。いずれの場合も、ツール費用がコストや作業工数の削減に見合うか検討することが重要です。
2. 広告クリエイティブの最適化
ツールだけではわからない改善点を見つける
クリエイティブの要素検証を広告配信の前後で行い、バナーやLP(ランディングページ)が想定どおり機能しているか検証することが大切です。ただし、広告効果測定だけではクリエイティブ自体の改善点はわからないので、広告配信前にアンケートリサーチなどを用いてユーザーの生の声を集め、ターゲットに刺さりやすい訴求要素(キャッチコピーや写真など)の検証を行うこともあります。
その分析結果を基に、バナー検証やLP検証でA/Bテストや多変量テストを行い、配信コストを抑えながらクリエイティブ要素の組み合わせを最適化し、バナーやLPのポテンシャルを上げることが可能です。
3. 広告データの最適化
正しくデータを計測して改善する
広告配信の制御、正確な効果検証の前提となるのがWebサイトへの正確なタグ実装です。広告配信やコンバージョンタグの追加、変更、削除にかかるコストの削減、広告配信データの活用によるレスポンス改善や次の施策の実行など、広告運用を中長期的な視点で見て、広告配信データの最適化につながるかを判断します。ツール導入ありきではなく、実際に解決すべき課題から施策を検討することが不可欠です。
アドテクを活用した広告運用の改善
次に、前述のアドテクノロジーや手法の活用で検証できること、運用改善できることを図1の分類に当てはめながら見ていきます。本文中の広告指標については、第2回も参照してください。
広告計測の最適化
1. 広告効果測定ツール
- リスティング広告、ディスプレイ広告などの「広告施策(広告キャンペーン)単位」で広告データを統合管理し、施策間の重複CVを見たり、統一指標による施策別の効果を比較したりできる(図2-1)。
- 広告の接触パターンから「直接効果」と「間接効果」を把握し、CVへの貢献度(アトリビューション)を可視化する。
- LPにタグを実装して計測する「ダイレクト方式」と、LPとの間に挟んだリダイレクトページからLPに自動転送して計測する「リダイレクト方式」を使い分けて広告計測できる。
- 広告計測方法はクリックでの計測。
広告計測の最適化
2. Web解析ツール(アクセス解析ツール)
- 広告からの流入分析以外に、Webサイト内のページ移動、ページ回遊、ページ離脱など一連のユーザー行動を分析することで、Webサイトのどの部分にサイトの課題があるのかを把握し、広告集客後の回遊増加や離脱改善につなげる(図2-2)。
- 広告計測方法はクリックでの計測。
広告計測・配信の最適化
3. 第三者配信アドサーバー(3PAS)
- 第三者配信アドサーバーで作成したアドタグ(3PASタグ)を媒体社のアドサーバーに入稿することで、広告主側で複数の広告媒体への広告配信を一括管理し、媒体をまたいだ広告配信データを統合的に計測できる(図2-3)。
- 広告を見た瞬間には行動しなかったが、後になってサイト訪問や購買行動を起こしたビュースルー(ポストインプレッション)効果も取得できるため、広告貢献度、広告重複率、リーチ、フリークエンシーの比較分析を行える。
- リッチメディア配信など表現力豊かな広告配信、広告クリエイティブの最適化(パーツごとの最適化、シナリオ設定)ができる。
- 広告計測方法はクリックとビューの2種類。
使い分け | サイト外分析 | サイト内分析 | 成果 | ||
---|---|---|---|---|---|
広告配信 | 流入経路 | ページ移動 | 回遊/離脱 | CV | |
広告効果測定ツール | × | ○ | × | × | ○ |
Web解析ツール | × | ○ | ○ | ○ | ○ |
第三者配信アドサーバー | ○ | ○ | × | × | ○ |
広告入札の最適化
4. 自動入札ツール
- 複数のアカウントでリスティング広告を運用している場合でも、1つの管理画面で広告のリンク先や広告文の編集、入札管理が可能。一括管理することで、広告運用の工数削減とキーワードや広告の運用ルールに沿った入札がしやすくなる。
- 最終的な落札額は「広告品質」の影響を受けるため、定期的に「除外キーワードの設定」や「キーワードの停止」などを見直して最適化する必要がある。
- 広告全体のポートフォリオを組み、全自動で入札の管理・最適化をする「ポートフォリオ型」と、CPAやクリック数など、個別の入札ルール(条件)にそって入札を最適化する「ルールベース型」、2つの入札管理の方法がある。
広告クリエイティブの最適化
5. アンケートリサーチ(手法)
- パネル調査会社の調査モニターなどを利用。バナー、LPについて、どの部分に興味があるか、クリックしたいかなどを配信前に事前調査し、配信するクリエイティブの絞り込みやデザインの改善を図る(図4)。
- CTRやCVRなどの配信結果データだけでは判断できない、ユーザーの生の声(アンケート結果)もとに仮説立てして広告効果を向上させる。
- 広告配信後に、広告接触者/非接触者でのエンゲージメント(認知・ブランド好意・購入意向)の差を比較して計測する。
広告クリエイティブの最適化
6. バナー検証(手法)
- キャッチコピー、ボタン、写真などバナーの構成要素を分解し、A/Bテストや多変量テストでクリックされる勝ちパターンを見つける。
- 自社の競合がどのようなバナー広告を掲載しているか調査する。
- CV直前に検索したキーワードと広告掲載したバナーの相関性から、バナーのCV影響度合いを把握する。
広告クリエイティブの最適化
7. LP検証(LPO:ランディングページ最適化/LPOツール)
- 広告経由のLP訪問者の直帰率を下げ、CVRを向上させることを目的に、A/Bテストや多変量テストでLPを検証する。
- 複数のLPのなかからCVRの高いページを自動で出し分けたり、流入キーワードによってLPのデザインやコンテンツを差し替えたりして検証する(図5)。
「6. バナー検証」と「7. LP検証」については、後半の「広告クリエイティブの検証改善」で詳しく説明します。
広告データの最適化
8. タグマネージャー(ワンタグ)
- リマーケティングタグ、Web解析ツールタグなどのHTMLタグを一元管理することで、正確なタグの実装、追加・更新作業工数の削減、Webページの表示速度の安定化を図る。
- ユーザーのアクション(ページ滞在時間、PV数など)でイベント条件を設定し、仮説に基づくユーザーの購買意欲にあわせて広告の配信制御を行い、CVRやCPAの改善を図る(図6)。
広告データの最適化
9. データフィード(DFO:データフィード最適化)
- 自社製品・サービスのブランド名、カテゴリ、写真、価格などの情報を広告配信先フォーマットに自動変換して送信する(図7)。
- 商品リスト広告(PLA)やレコメンドなどのディスプレイ広告、アフィリエイトなど、さまざまな広告フォーマットにあわせて送信することで、EC通販や旅行、人材、不動産などを筆頭に、大量データ更新の管理・運用に有効。
広告データの最適化
10. DMP(データ・マネジメントプラット・フォーム)
- 自社で保有するデータ(Web解析データ、広告配信データ、会員情報など)を統合。複数の条件設定によってセグメント化(リスト化)し、高度なターゲティングに活用する(図8)。
- 媒体が所有するオーディエンスデータなど、外部データを利用する「パブリックDMP」と、自社保有のデータベースの情報を中心にデータ統合する「プライベートDMP」の2種類がある。
広告クリエイティブの検証改善
次に広告効果の改善に欠かすことのできない「広告クリエイティブの検証改善」の基本手法を紹介します。事前に検証設計をしたうえで、バナー制作や広告運用を行うことが大切です。
検証要素の洗い出し
広告クリエイティブの検証方法は大きく分けて2つ、1つの要素を比較検証する「A/Bテスト」と、2つ以上の要素について複数の要素を変更して検証する「多変量テスト」があります(図9)。
広告バナーの場合、「コピー」「画像」「ボタン」「ロゴ」などの複数要素を個別に検討し、その組み合わせや構成を考え、「検証要素」を洗い出します(図10)。
上記の例では、バナーの検証要素が、「コピー」「画像」「ボタン」の3要素に2パターンずつあるため、多変量テストでは2×2×2=8パターンのバナー検証が必要です。この8つのバナーをすべて広告配信して比較・検証することが理想ですが、限られた予算と期間、作業工数を鑑みれば効率的だとはいえません。
複数のバナー検証を効率的に行う方法
必要な検証要素を決めて多変量テストを行う際、統計手法の1つである「実験計画法」を組み合わせることで、すべてのバナーを配信しなくても効率的に検証することが可能です。図10の例の場合、すべての検証に必要な8本のうち、4本のバナー配信だけで検証できます(図11)。
さらに、「Excel」のT.TEST関数(t検定)や、無料の統計分析ソフト「R」を用いることで、どのバナー要素の影響度が高いのか分析できます(図12)。
広告効果への影響度の高い要素を中心に改善することで、迅速にクリエイティブの改善を行います。ツール上で計測できるクリック数などの数値データだけで判断するのではなく、なぜバナーの反応が良かった/悪かったのか、その要因を特定し、次のアクションに活かすことが重要です。
広告の優劣を正しく判断し検証する
バナー広告の成果の良し悪しを判断するとき、一般的にはCTRやCVRの数値の差で判断しますが、その「差」が統計的に「意味のある差(有意差)」になっているのか、偶然生じた「誤差」なのかを判断することが大切です。
この判断には統計学の小難しい数式を使うのですが、要は「有意差95%以上(場合によっては90%以上)」となって初めて、比較する数値の差に統計学的な「意味のある差(=バナーの違いによる成果の差)」があるといえるのです(図13)。
次の例では、同一インプレッション数のバナーAとBをCTRで比較しています。この場合にも、有意差95%以上が検出できるまでクリック数(母数)を確保して比較する必要があります。逆に言えば、検証に必要な母数に達した時点で広告配信を停止すれば、無駄な配信コストを抑えて検証期間を短縮することもできます。
ネット広告運用における検証改善事例
最後に、中上級者を目指してステップアップするための実践的内容として、ネット広告の検証改善例を紹介します。
広告クリエイティブ最適化のケーススタディ「バナーの検証改善」
新しく見込顧客となるユーザーにリーチするためにDSPでディスプレイ広告の配信を行い、新規見込顧客に刺さるクリエイティブ(バナー)の勝ちパターンを検証しました。
- 広告からの見込顧客の刈り取りが進み、すでにCV数が頭打ちとなっているため、新規の見込顧客を増やしたい。
- 見込顧客となるユーザーに向けた訴求広告クリエイティブ(バナー)の勝ちパターンがわからない。
- 検証期間とコストは削減したい。
- DSPで潜在層に対し、ディスプレイ広告を配信する。
- 勝ちバナー検証の時間とコストを削減するため、バナーを大量制作・配信するのではなく、バナーのクリエイティブ要素を分解し、制作・配信するバナーの本数を絞り込む。
- 「コピー」「イメージ画像」「ボタン」の3要素×3種類の組み合わせ(27通り)を、統計手法(実験計画法、有意差検定)を用いることで9本のバナーで検証する。
- 検証期間を1か月に設定し、有意な差が出た時点で、CTRなどの結果が芳しくない広告の掲載を停止。無駄な配信コストを最小化する。
- 効率的かつ具体的な改善示唆を得ながらクリエイティブをブラッシュアップし、高速PDCAを実現。真に効果の高い勝ちパターンを抽出し、集中的に出稿することでコストを抑えながら短期間でCTRを10%改善した(図14)。
広告データ最適化のケーススタディ「タグマネージャーを活用した検証改善」
次に、タグマネージャーの「Yahoo!タグマネージャー(YTM)」を活用した広告運用の検証改善例を紹介します。
サービス認知を広く獲得したうえで、ポテンシャルのある見込顧客にはより詳しい情報を提供してCVにつなげたい。そのために、アドネットワークを使ったディスプレイ広告のノンターゲティング(ブロードリーチ)配信とリターゲティング配信を行い、ユーザーのポテンシャルに合わせた広告運用の最適化を図りました。
- サービス認知を拡大し、新規の見込顧客を増やしたい。
- 新規見込顧客の中から新規顧客の獲得を強化したい。
- 不特定多数のユーザーに広く認知してもらうため、バナー広告をアドネットワークによって、低単価のブロードリーチで配信する。
- 広告からのLP訪問者のうち、ページ滞在時間が15秒以上かつ訪問回数が2回以上のユーザーをサービスへの興味の高いユーザーと想定し、リターゲティング広告を配信する。
- ブロードリーチでLPに送客したユーザーのポテンシャルを見極めるため、クリックの有無だけでなく、Web解析ツールを使ってLP滞在時間、訪問回数、サイト内の回遊状況などを計測。
- LP滞在時間、訪問回数の設定条件を満たす訪問者に対してリターゲティング配信するため、YTMでユーザー行動のイベント条件を設定し、ユーザーのポテンシャルに応じた広告配信を実施。その結果、通常のリターゲティングと比較してCVR200%の効果改善を実現した(図15)。
これまで3回の連載にわたりネット広告運用に必要な広告集客の方法、広告効果測定、アドテクと検証手法など基礎知識を紹介してきました。どのような施策をするにしても、広告運用の課題を明らかにすることが大切です。そして、短い期間で効率的に大きな成果を生むためには、広告運用に必要なアドテクを有効活用しながら効果検証を繰り返し、ノウハウを蓄積することが必要です。
本連載の内容がみなさまの広告運用や集客改善の一助につながれば幸いです。
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