750のECサイトの支援から導かれた「注文率重視」と「ユーザーファースト」の成功哲学/ecbeing
勝ち組と呼ばれるECサイトには、共通した成功哲学がある。それが「注文率の重視」と「ユーザーファースト」だ。多くのECサイトは、アクセス数稼ぎにやっきになり、「ユーザーファースト」ではなく「ターゲットファースト」に陥っているが、それで売り上げを伸ばすのは困難だ。
「アクセス数」よりも重要視すべきは「注文率」
株式会社ecbeing(イーシービーイング)は、パソコンショップからSIまでIT関連事業を広く営むソフトクリエイトのグループ企業だ。同社の営業本部マーケティングソリューション本部部長・執行役員の布田茂幸氏は、これまで750ものECサイトの構築・運用を支援してきた経験から、勝ち組と呼ばれるECサイトには共通のスタンスがあると言う。それはまず、「アクセス数以外の数値」にフォーカスしていることだ。
ECサイトでは「アクセス数×注文率×客単価×リピート率」という掛け算が売り上げになります。勝ち組の特徴は、この計算式の中で、アクセス数以外に着目していることです。なぜなら、アクセス数を向上させるには一般的にバナー広告やリスティング広告など露出にお金をかけることが必要であるため、売り上げが伸びても利益率が上がらないからです(布田氏)
布田氏がアクセス数よりも大事だとするのが注文率、すなわちコンバージョン率だ。布田氏が見てきたECサイトのコンバージョンを平均すると1%前後だという。これを2%にするだけで、売り上げは倍になる計算だ。
もちろん、それは簡単なことではない。アクセス数はある程度のコストを掛ければ、すぐにでも目に見える成果を出すことができる。だが、コンバージョンは、地道な改善の繰り返しでしか達成できないからだ。そして、それを徹底追求しているECサイトこそが勝ち組なのだという。
「ユーザーファースト」の落とし穴
さらに、そういった勝ち組サイトが、改善においてもっとも意識していることが「サイトを訪れたお客様のことを第一に考えたサイト作り」、すなわち「ユーザーファースト」だという。当たり前のことだと思うかもしれないが、そこにこそ落とし穴があると布田氏は語る。
多くのECサイトは、ユーザーファーストではなくターゲットファーストに陥りがち。ターゲットはあくまで事業者の理想に過ぎず、現実のユーザーとはズレがある。理想ではなく現実に即したサイト作りが大切(布田氏)
だが一方で、ECサイト側にも「ユーザーファーストをきちんとやっているけど成果が出ない」という主張もあるだろう。布田氏によると、そういったECサイトには主の次の2つの理由があるという。
- サイトの見た目や使い勝手ばかり改善している
- 競合でも提供できることばかり改善している
つまり、成果が出ないサイトは、インターフェイスの部分や、小手先で対応できる施策ばかりに捕らわれ、ユーザーに対して明確な利益=ベネフィットを提供できていないというのが布田氏の主張だ。ECサイトは、ユーザーに対して商品を販売するのだから、ユーザーが求める商品を提供することこそが、ユーザーに取っての最大のベネフィットとなる。
ただし、商材を変えることは、そもそもの商流にも係わることなので、簡単なことではない。その商材ありきで創業したというケースもあるだろう。
そこで、重要なのが次の2つだ。
- ユーザーが求めるサービス
- 競合には提供できないサービス
布田氏は、ユーザーアンケートやログ解析などでこの2つを考案し、定義したサービスは必ず成功すると語る。
価格勝負をせずに売り上げを伸ばした事例
そして、実際にecbeingが支援し、成功した実例をいくつか紹介した。いずれのECサイトも売り上げが伸びているが、どのサイトも価格勝負をしたわけではないというのがポイントだ。
サイト内改善でコンバージョン改善&キャンペーン実施 ―― ノーチェ
最初は、シマダトレーディングが運営する家具のECサイト「NOCE(ノーチェ)」だ。同社は、北欧テイストの安価な家具の輸入販売を手がけており、全国に数十の実店舗も構えている。NOCEのECサイトの特徴は、すでにある程度の知名度があるため、店名での検索流入が多く、また利用者の多くは実際に購入しなくても、繰り返しサイトにアクセスする傾向が高いというもの。
このNOCEのECサイトは、ecbeingによる支援によって、1年後の月間売り上げを約2倍にまで向上させた。
売り上げがアップした理由は、広告費はそのままでサイト内改善によってコンバージョンを向上したのと、キャンペーンの企画をしっかり行うようになったことです(布田氏)
では、具体的にどのような改善を行ったのか。
最も効果があった施策が、ネット限定のアウトレットコーナーへの入り口を、ファーストビューの目立つ位置にバナーで置いたことだという。「アウトレットコーナーは常時商品があるわけではないため、利用者がアクセスしてもそれほど売り上げにはつながらない」というのが、従来のNOCEの認識だった。しかし、アクセスログを解析したところ、アウトレットコーナーを見たユーザーが他のページに回遊する傾向が見られたのだという。これも現実のユーザーを見据えた改善の結果だ。
また、家具はアクセスしていきなり購入に至るのではなく、数か月にわたり繰り返しサイトにアクセスしたうえで購入に至るという傾向が強い。そこで、家具の選び方やお手入れ方法といったHOW TOをコンテンツにすることで、NOCEを指名で検索してくるお客以外に、家具全般で流入してくるユーザーを獲得することができた。
それ以外にも、特集やコーディネート紹介、バイヤーズブログなどを頻繁に更新し、訪れたお客を飽きさせず、常に新鮮な情報を提供し続けたことが、売り上げの倍増に結びついた。
顧客の知らない情報をわかりやすく伝える ―― 印鑑WebDirect
次に紹介したのは、ARCHDOWEB株式会社の印鑑販売サイト「印鑑WebDirect」の事例だ。ecbeingの支援開始後、売り上げは毎月堅調に増加し、4か月で当初の4倍にまで達した。
印鑑WebDirectの場合、先ほどのNOCEとは反対に、検索エンジンからの指名ではない流入が多く、新規ユーザーが大半である。また、単価が安いため、1回のアクセスで購入に至ることも多い。
ここで実際に行った施策は、「10年保証」「即日出荷対応」「ギフトラッピング」「選べる書体」「デザイン確認無料」などの購入特典の紹介をファーストビューに移動させたことだった。
ARCHDOWEBでは「競合も同じような特典をやっているから差別化にはならない
」という理由で、この情報を積極的に伝えることに大きなメリットがあるとは考えていなかったが、実際に競合サイトを調べたところ、似た特典を提供しているものの利用者にわかりづらいサイトが多かった。事業者にとっては当たり前のサービスであっても、利用者が知らないこと、それを知らせることでお得感につなげた。
また、印鑑の基礎知識についてのコンテンツを新たに作成することで購入時の不安解消に努めたり、男女別にオススメ商品を表示したりすることで、商品選択に迷う利用者をサポートするといった施策を行った。
印鑑は頻繁に買わないものなので、こだわりや好みがないことが多く、オススメした商品が通りやすい。ただし男女では趣向に違いがあるので、それを分けました(布田氏)
店舗とサイトのサービスの質を一致 ―― オルケス
ついで紹介したのが「オルケス」だ。若い女性向けのアパレル販売サイトで、リニューアルを機にecbeingによる支援を開始し、半年後には前期比で1.8倍にまで売り上げを伸ばしている。
オルケスの場合、ECサイトの利用者のほとんどが実店舗の利用者でもある。したがって、サイトでも実店舗と同じような購買体験が期待されている。そのため、コーディネートの提案など、店舗とサイトのサービスの質を一致させることを第一に考えたという。
まずはECサイトでのサービスや購買体験を実店舗と一致させることに注力しました。ECサイトではネット限定商品が定番の施策ですが、ネットだけの顧客が付くまでは、それをやりませんでした(布田氏)
また、ネットだけでなく、実店舗とあわせて全体で売り上げが伸びれば良いという考え方に従い、ネットで品切れの商品は、在庫がある実店舗を紹介する仕組みも構築。優良顧客に対する特典の充実や、店員をモデルにすることでより身近さを演出する特集ページなど、さまざまな仕掛けを積み重ねることが、成功につながった。
このほかにも布田氏は、集英社の雑誌連動型アパレルEC「FLAG SHOP」や、コーヒー豆などを販売する「フレッシュロースター」などの実例も紹介。講演の締めくくくりには、改めてユーザーファーストの重要さを次のように強調した。
「ユーザーが求めるサービス」や「競合には提供できないサービス」を実現することによってユーザーベネフィットを実現できれば、CRMに取り組まなくても勝手にリピーターが増える(布田氏)
株式会社ecbeing
http://www.ecbeing.net/
ソーシャルもやってます!