広告ではなくSEOの重要性への気づきがきっかけ、ITバブル崩壊を乗り越えた成長の軌跡/ケンコーコム
健康関連商品・医薬品のネット販売におけるパイオニアのケンコーコム。手探りでEコマースを切り拓いてきたケンコーコムの成長軌跡と、突如立ちはだかった医薬品のネット販売規制問題への対応、そして海外展開と楽天との資本提携の成果について、後藤玄利代表取締役が語った。
競合の少なかった健康分野にいち早く着目
2000年5月に健康関連商品のEコマースとしてローンチしたケンコーコムだが、そのルーツをたどると、後藤玄利代表取締役の実家が営んでいた、大分県の「うすき製薬」という製薬会社にさかのぼる。同社は、オリジナルの風邪薬や健康食品を製造していた。
後藤社長は当初、家業を継ぐ気持ちはまったくなく、大学卒業後はコンサルティング会社に就職していたという。
うすき製薬はそこそこ儲かっていました。でも、それ以上の成長が見込めないので、継ぐ気はなかった。ところが、コンサルティング会社に勤めるうちにインターネットが出てきて、情報が世の中を動かして行くのが見えたんですね。それで自分で会社を作ろうと思いました(後藤氏)
そうして、後藤氏が94年から始めたのが、実家の製薬会社が製造した健康食品のダイレクトメールによる通信販売だ。当時はEコマースではなかったが、一定の成功を上げることに成功した。
そして99年、渡米した後藤氏は、ダイレクトマーケティングアソシエーションのカンファレンスに参加したことで、Eコマースの時代が来ると確信、健康分野のEコマースサイト「ケンコーコム」を開設した。健康分野を選んだのは、勘所があっただけでなく、Eコマースは先行してカテゴリトップに立った事業者が圧倒的に強いので、競争相手が少ない健康分野ならトップに立てると見込んだからだ。
ITバブルの崩壊を乗り越えたのはSEOへの気付き
そして、2000年5月にローンチしたケンコーコムだが、実は直前に大きなトラブルに見舞われていたという。
着手した99年はITバブルで、資金調達がしやすかったんですね。ところが、ローンチ直前の2000年4月にITバブルが崩壊して、調達予定が狂ってしまった(後藤氏)
それに輪をかけたのが、ローンチ当初に実施した流入施策だ。カテゴリトップになるために、1か月あたり2000万円ほどかけてヤフーのトップページへとバナーを出稿していたのだ。そのため、あっという間に資金ショートの危機に陥ってしまった。資金繰りに奔走していた後藤氏だが、ほとんどの投資家が手の平を返して取り合わなかった。その中で唯一、投資してくれたのが経営コンサルタントの大前研一氏だったという。これによって、無事サイト流入のためのバナー広告を買うことができた。
だが、すぐに第二の危機が訪れることになった。なんと、肝心のバナー広告がまったく効果がなかったのだ。バナー広告どころか、メルマガやアフィリエイトなどの施策を実施しても、どれも売り上げにつながらないのだ。行き詰まってしまった後藤氏だが、当時あるスタッフが作成した、月次ごとの取扱商品数のグラフを見た際、それが売上高の変動とほぼ一致していることに気がついた。
取扱商品数×1万円が、ちょうど売り上げになっていることに気がついた。そこでバナー広告を買うのを止めて、商品数を増やすことにフォーカスした。そこから大きく売り上げが伸びました(後藤氏)
後藤氏がそのことに気づいた2001年初頭は、ちょうどグーグルが日本語対応したタイミングであり、ケンコーコムへのサイト流入の多くはグーグルからのものだった。
ウェブページのほぼすべてをインデックスするグーグルは、商品の数が多いEコマースととても相性が良いという事実、つまりSEOの重要性に気がついた後藤氏は、次々と商品数を増やし、ページ内容を充実させたものにしていった。それに比例して売り上げは増加し、ケンコーコムは危機を乗り越えたのである。
この「月次売上高=商品数×1万円」の法則は、現在のケンコーコムでも生きており、2013年11月時点で取り扱い商品数が19万点に達しているのに対し、月商は約15億円となっている。
ただし、この商品点数は、2013年3月時点で20万点だったのに比べると、一時的に減っている。その理由は、単価の小さいものの整理だ。「100円や200円のものは近所のスーパーと大きく違いを出せないのに、配送とピッキングコストに数十円かかるため、単品では赤字になる
」のだという。そこで売り方を変えたため、見かけ上の商品数が減っているのだという。
突如訪れた「医薬品ネット販売規制」という荒波
そして後藤氏の話は、再度ケンコーコムに訪れた危機、医薬品のネット販売規制へと及んだ。
2009年6月に改正された薬事法によって、一般用医薬品、いわゆる大衆薬のネット販売は規制の対象となった。ケンコーコムはそれを不服として国を提訴、2013年1月11日に最高裁がケンコーコムの主張を認める判決を下したため、ケンコーコムでは規制対象だった大衆薬のネット販売を再開している。
規制により第3類という副作用リスクが比較的低い医薬品しか売れませんでしたが、判決後は第1類と第2類も売れるようになって、医薬品の売り上げは4.6倍に増えた(後藤氏)
だが、その後、厚生労働省では再びネットにおける医薬品販売に規制をかける方向で動いている。後藤氏は、その規制に至るまでのプロセスの不透明さと、規制に当たっての当局のロジックの曖昧さに対して、強い不満を露わにした。
処方箋医薬品は、利用者が医師に診察を受けたあとに、医師の判断のもとに出される処方箋に従って処方される。ネットや電話やメールなどを通じた薬剤師からの服用方法の丁寧な説明を実現できるとしたら、処方箋医薬品のネット調剤は問題がないというのが、後藤氏の認識だ。
現実に、薬事法においても処方箋医薬品のネット販売を妨げる条項は存在しない。そこでケンコーコムは11月12日に国に対して、「処方箋薬郵便等販売の地位確認」を求めて行政訴訟を東京地裁において行っている。
処方箋医薬品を薬局で渡すのと、ネットで適切な情報提供をしながら郵便などで配送するのと何が違うのか。一律に禁止する理由がないというのが、僕らの主張。そのために安全販売の仕組みも強化していきます(後藤氏)
楽天とのシナジーで流通改善
後藤氏は、新しい取り組みとして、親会社である楽天とのシナジーによる流通面での改善にも言及した。
楽天では、楽天24や楽天ブックスなどにおいて、当日配送などの迅速なデリバリーを実現するために、独自の物流センターを全国に構築している。また、ケンコーコムでも、福岡に独自の物流センターを設けている。
そこで、首都圏にある楽天の物流センターにケンコーコムが入り、また福岡のケンコーコムの物流センターを楽天の九州物流センターとするため準備を進めている。これによって、ケンコーコムは当日・翌日配送可能なエリアが全国に広がり、また楽天は九州エリアの物流センターを少ない初期投資で手に入れることができるというわけだ。
最後に後藤氏は、海外への展開にも触れた。ケンコーコムでは、2012年に中国の大手ドラッグストアとジョイントベンチャーによって中国国内向けのEコマース事業に取り組んでいた。中国製品と日本製品を中国のユーザーに対して販売するものだが、価格競争が激しく優位性を見出すことができなかったため、合弁を解消した。
それに変わって今年から、「Tモール」のクロスボーダーサービスを利用して、日本の製品を中国の利用者向けに販売するサイトをスタートさせた。日本の健康食品や化粧品は、中国国内で人気が高いため、かなりのハイペースで伸びているという。
最後に後藤氏は「対面とネットを比較して、ネットは危険だと考える人もいるが、ネットだからこそ便利かつ安全を担保できる部分がある。より安全で便利な世界を作っていくために、行政に対して声を上げていきたい
」と、改めて医薬品のネット販売への不当な規制の撤廃を訴えて公演を締めくくった。
ケンコーコム株式会社
http://www.kenko.com/
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