今までのヤフーは自分の利益しか考えていなかった――Yahoo!ショッピングの3つの改革/ヤフー
2013年10月、突如発表された「eコマース革命」によって、ヤフーは一躍EC業界の台風の目となった。ヤフーが今ショッピングモール事業に注力する理由は何か。楽天やAmazonといったライバルとの関係はどうなるのか。そして、ヤフーという日本最大のポータルサイトがどのようなショッピングモールを作り出すのだろうか。
今までのヤフーは自分の利益しか考えていなかった
ネットショップ担当者フォーラム最後の基調講演の壇上に立ったのは、ヤフーの執行役員でショッピングカンパニー長の小澤隆生氏だ。2013年10月7日に孫正義会長の口から突如飛び出した、Yahoo!ショッピングの出店料無料化などをうたう「eコマース革命」の発表で台風の目となったヤフー。そのショッピング部門のトップである小澤氏が登壇するとあって、注目度は高く、講演には多数の申し込みが殺到した。
小澤氏は、現在でこそヤフーの執行役員を務めているが、以前は楽天に在籍し、楽天イーグルスの立ち上げなどを担当してきた。また個人としても、エンジェル投資家として起業を目指す人への支援を行うなうなど、ユニークな活動を数多く行っており、ネット業界でも顔の広い人物としてよく知られている。楽天退職後は、Facebookを利用したプロモーションを行う「クロコス」を設立。ヤフーによるクロコスの買収に伴って、ヤフーへ参画し現在に至っている。
その小澤氏が「10月7日の発表以来、オープンな場所で話すのはこれが始めて。1か月経っていろんな状況がわかってきた。質問も多くいただいているのでお答えしたい
」と切り出し、ヤフーのEC事業について「ヤフーはあらゆる意味で間違っていた
」と、孫会長の言葉を繰り返す形で、Yahoo!ショッピングの新戦略についての考え方を説明した。
小澤氏が語る「ヤフーの間違い」の1つ目は、「売り手や買い手ではなく、プラットフォーマーであるヤフーが儲けることだけを考えていた。Eコマース事業者の利益を無視していた」ことだという。企業である以上、利益を追求すること自体は当たり前だ。しかし「マーケットプレイスはプラットフォーマーひとりでは成り立たない」ことを見落としていたという。
マーケットプレイスは、売り手と買い手がいて、その周辺に決済などの関連事業者がいる。エコシステムをしっかり作るから儲かるし、好循環ができる(小澤氏)
売り手は一番売れるところに出店したいし、買い手は一番商品が多いところに集まるもの。この好循環をいかにして作り挙げるのかが重要だが、ヤフーはこれまでそこを重視していなかった。それ故に今回、「革命」と銘打って、大きな戦略転換に取り組んだのだ。
よく報道などで取り上げられる楽天やアマゾンとの関係についても、次のように説明した。
市場のシェアを競合から奪う気持ちでやるのではない。現在の日本のEコマース市場は小売市場全体の約6%に過ぎず、Eコマースには大きな成長の余地がある。EC化率を20%まで持っていくことで、日本を成長させ、マーケット自体を広げたい(小澤氏)
以前、孫会長がYahoo! BBによってブロードバンドインターネットを安価に提供し、一般人に広く普及させたことで、インターネットにかかわる事業者すべてが恩恵を得た過去の出来事を例にあげ、「環境を整え、パイを広げることは、インターネット事業者にとって良いことだと、ソフトバンクおよび孫正義は知っている
」と、Yahoo!ショッピング無料化戦略の大義を語った。
Yahoo!ショッピングは「料金」「集客」「機能」の3つを改革
小澤氏の話は、具体的なYahoo!ショッピングの施策に及んだ。それは「料金」「集客」「機能」という大きく3つの分野に分かれている。
改革1料金
出店料の無料化で新規出店希望“爆増”
1つ目つめの「料金」は、すでに発表したとおり出店料の無料化だ。出店に関する「摩擦係数をゼロ」にすることで、新規出店を大きく伸ばした。
無料だったら使ってもらえるだろう、というわかりやすい戦略(小澤氏)
具体的な費用に関する変更点は次のとおりだ。
従来出店資格は法人のみで、月額出店料が2万5千円、ロイヤルティは1.7~6%、カート決済手数料は3.6%、ポイント費用は実費だった。
変更後個人でも出店可能にし、月額出店料を無料、ロイヤルティを廃止、カード決済手数料は3.24%、ポイント費用は実費のままとした。
この施策の結果、新規出店希望は“爆増”したという。
改革2集客
日本で一番お客が集まるショッピングモールを目指す
2つ目は「集客」だ。無料化の発表以降、小澤氏には「出店料を無料化して買い手にどんなメリットがあるのか」「店舗数がこんなに増えたら、1店舗当たりの売り上げが減るのではないか」という質問が多く寄せられたという。
現在のYahoo!ショッピングの出店数は約2万店舗で、取扱高は3000億円のため、1店舗当たりの平均売上は150万円となる。確かに、これが単純に出店数だけが10万店舗となったら、1店舗当たりの売り上げは5分の1になってしまう恐れがある。
もちろん、そんな状況を作り出したくはない。今の平均売り上げを押し上げながら、さらに出店数を増やしていく。そのためには集客を確実に行い、日本で一番お客さんが来ているショッピングモールに仕上げる必要がある(小澤氏)
ヤフーはポータルサイトとして日本で最も多くのユーザー数を抱えている。ならばこそ、日本一のショッピングモールを目指すことも十分に可能なはずであるが、これまでショッピングの分野にまったく力を注いでこなかった。PC向けのインターネット広告で約2000億もの収益を上げていたのがその大きな理由だ。ショッピングに注力する必要がなかったのである。
しかし、スマートフォンなどのモバイルインターネットが台頭し、グーグルやアップルにこのままでは対抗できないという強い危機感を、経営陣が抱いた。そこで、これまで注力していなかったEコマースに真正面から取り組むことにしたというのが、今回のYahoo!ショッピング無料化に至った根本的な理由だ。
多くの在庫、多くの商品は、それ自体が魅力的なもの。それをヤフーが実現できれば、買い手はPCでもスマートフォンでもアクセスしてくる。たとえば、食べログやクックパッドなどのような、すばらしいデータベースを持っているサービスは、デバイスに依存していない(小澤氏)
ヤフーは、巨大な商品のアグリゲーターを目指す。孫社長は会議で、「とにかく売り手と買い手が増えれば、何かいいことがある。俺は知っている」と発言したと小澤氏は言う。実際にヤフーはインターネット全体が拡大することによって広告売り上げを伸ばした。Eコマースでも同じことが考えられるというわけだ。
そして、現時点で具体的に進めている集客施策として、Q&AサービスであるYahoo!知恵袋と検索サービスを用いたものを紹介した。
Yahoo!知恵袋は、PCから6100万ユニークブラウザ、スマホでは4600万ユニークブラウザものユーザーベースを持つQ&Aサイト。そこでは、たとえば「東芝のレグザと、ソニーのブラビア、どちらがいいか?」といった、商品の購入やサポートに関する具体的な質問が大量にあり、検索結果の上位にも表示されやすい。そういった質問に、Yahoo!ショッピングに出品されている商品へのリンクを張るという施策を、すでに開始している。
これは、アフィリエイトでも広告でもなく、純粋にYahoo!知恵袋からYahoo!ショッピングへのサイト内回遊を促すもの。このリンク自体はヤフーが独自に行うもので、出店者から広告費などは徴収しない。小澤氏は「のどが渇いている人に、さっと水を差しだすようなもの。本来なら10年前にやっているべきことだった
」と語る。
その他にも、ヤフーの検索結果の中に、売れ筋商品のランキングを表示する施策も開始している。これも広告ではなく、ヤフーが独自に行っているのだという。
このほかにも、タイムセールやヤフーの負担によるポイント還元などのセール施策も行っていくという。
改革3機能
エンジニア5倍で、5年前から止まっていた機能を次々に刷新
そして、最後のYahoo!ショッピングの施策が「機能」だ。
Yahoo!ショッピングは使いづらい。5年間も手を入れていないというのは、Webサービスの世界において考えられないことだ。そこで、開発体制としてエンジニアを5倍に増やした。
10月にはクーポン発行機能をリリースし、9日間で発行枚数7万枚を突破した。懸賞ツールもスタートさせた。
どれも今さらと言われるかもしれない機能だ。しかし、これまでなかったものを付け足せば、全部プラスになる(小澤氏)
他にも小澤氏の指示で変えたものに、売れ筋ランキングがある。
ヤフーはこれまで、ランキングの存在意義を理解していなかった。事業者はランキングに乗せるために広告を出し、ランキングに乗ることでその後オーガニックに売れていく。この流れを理解していなかったため、そのエコシステムが回るように、ビジュアルやページ構成を刷新したという。
また、7年間変更されていなかったPC向けのトップページもリニューアルし、テキストだらけだったスマホ向けページもビジュアル中心に変更した。
いわゆる「トリプル」と呼ばれるストア向けのプレミアムサービスも開始し、物流面では、ヤフーが投資する文具通販「アスクル」のシステムを使ったフルフィルメントサービスも提供する準備を進めるなど、改革は急速に進められている。
顧客へのメール送信の自由化、自社サイトへの送客の自由化もする。今までのガチガチのルールとは違います(小澤氏)
最後に小澤氏は「Eコマースのバリューチェーンのすべての要素を強化し、買えないものはない売り場を作る。そして日本一お客様が来る売り場を作る。それこそがeコマース革命だ
」と宣言。同時に、「我々に敵はいない。楽天ともアマゾンとも仲良くやっていきたい
」と、すべてのEC関連事業者とともにEコマース市場の成長を目指すという戦略を強調して講演を終えた。
※講演内容はすべて2013年11月時点。
「Yahoo!ショッピング」出店案内
http://business.ec.yahoo.co.jp/shopping/
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