うわっ…ウチの広告、こんなサイトに出てたらブランド毀損じゃん! を防ぐアドベリフィケーションとは?
御社のネット広告に「ブランドセーフティ(ブランド保護)」という判断は入っているだろうか?
DSP(広告主向けプラットフォーム)やAd Exchange(アドエクスチェンジ)、また一部のアドネットワークなどで出稿したネット広告は、予期せずとんでもないサイトや内容の相性が悪いページに広告が掲載されてしまっているかもしれない。そうなれば、長い時間をかけて築いてきた企業ブランドを損ねてしまう。
ネット系の企業や広告代理店(特に若い人)は、企業のブランド価値と、それを育て守ることの重要性を改めて認識するべきかもしれない。
「とはいえ、いろんなアドネットワークとかDSPとか使わないと、ROASをキープしてインプレッションの幅を増やせない……
」という人も多いだろう。
そういう人のために、この記事では、
- ブランド保護に利用できる「アドベリフィケーション(アドベリ)」というアドテクに関して解説したうえで、
- 大和ハウス工業がブランド保護のためにアドベリツールを利用してDSPを通じて出稿した事例を紹介し、
- ブランド保護をしっかりとした場合にAd Exchange出稿のROASがどうなるのかの事例も紹介
している。ネット広告で「ブランド保護」を意識したことがない人、「アドベリフィケーション」というアドテクを理解したい人など向けの内容だ。
- ネット広告におけるブランドセーフティ
- なぜDSPやAd Exchangeへの出稿でブランドを毀損する可能性があるのか
- ブランド保護にも役立つ「アドベリフィケーション」というアドテク
- 大和ハウスのアドベリ活用事例:ブランド保護を含めた場合のROASは?
御社のネット広告は、苦労して作り上げたブランドを毀損していませんか?
ネット広告の世界では、自社のブランド保護について意識されていないことが多いように思われる。
特にネット広告代理店の若い人のなかには、CPAやROASの意識は強いものの、ブランドに関する意識がまったくない人もいる。マーケティング全体を理解せずにネット広告のやり方だけを学んできているからだろうか。
CPAが大切なのは否定しないが、ブランドを守ったうえでのCPAであるべきだ。まっとうな世界で生きていく企業、ずっとやっていく企業にとって、ブランドはそれほど大切なものだ。
そう話すのは、大手広告主の古株の1人。全国にオフィスや店舗を構える会社で、Web担当者としてマーケ担当者として、ネット関連の業務に長年携わってきた人だ。
企業は、ブランドを築き認知してもらい育てるために、多くの“投資”をしている。テレビCMに多額の資金を投じ、屋外広告を展開し、場合によっては施設のネーミングライツを購入したりプロ野球の球団を買収したりしている。
それは、ブランドというものが、広告“費用”の効果をみるROASの数値が表すものとは違う次元で、企業活動に大きな価値をもたらすからだ。
そして、そのブランドを保護するために、広告においても出稿先を選ぶ。テレビCMならば番組の内容を吟味してから出稿するし、新聞であっても広告主にとってネガティブな話題があるときは、その面には出稿しないものだ。
しかしネットの世界では、(インターネット初期にはブランドという概念があったものの、その後は)ブランド価値が軽視されてきたように思われる。
特にネット広告の世界では、データによる効果測定を詳細に行えるようになったことから、CPA・ROAS偏重の時代が続いている。実際に、広告出稿に関する話題のなかで、
その広告は、苦労して築いてきたブランドを毀損するおそれはないか?
ということが語られることは少ないのではないだろうか。
なぜDSPやAd Exchangeへの出稿にはブランド毀損のリスクがあるのか ~多段再配信がもたらす意外な場所での広告掲載
しかし、さまざまなアドネットワークがあり、DSPやAd Exchangeなどの仕組みが整ってきた昨今、気軽に出稿したネット広告が、企業のブランド価値を損なってしまう可能性が以前よりも高まってきている。
というのも、DSPやAd Exchange、配信先が担保されていないアドネットワークなどに出稿した広告は、どんな面に掲載されるか定かではないからだ。そうした配信プラットフォームでは、広告がどんなサイトに掲載されるのかを問い合わせても教えてくれない。というのも、彼らも把握できていない場合があるからだ。
また、プラットフォームによっては、配信先がその広告枠を含めた別のアドネットワークを構築して多段の配信となっている場合もあり、予期せぬ場所で広告が表示されている場合もあるのだ。
実はこうした問題は以前から発生している。ハーバード・ビジネス・スクール経営学助教授のベンジャミン・エデルマン氏は、複数の広告ネットワークを経由して不正なサイトにリスティング広告が掲載される問題を、2010年の時点で指摘していた。
御社の広告が、公序良俗に反するサイトや不適切なコンテンツに掲載されたり、同業他社と同載されたりしたら?
これが企業のブランドにどう影響するのだろうか?
たとえば、御社のディスプレイ広告が、掲示板の書き込みをまとめたブログや、アダルト・思想・宗教・暴力のようなトピックを扱うサイトに掲載されていたらどうだろうか。
一般的には、自社ブランドを大切にする企業は、公序良俗に反する内容が含まれる場所に自社の広告を掲載したくないはずだ。しかし実際には、そうしたサイトに一部上場企業のディスプレイ広告が掲載されているのが散見されるのだ。
テレビ番組でも内容によってはテレビ局ではなくスポンサー企業に「なぜあんな番組に協賛するのか
」とクレームが来ることがある。ネットでも同様に「この企業はこんなサイトを応援しているのか
」といった反応が起きている可能性がある。それが積み重なると企業のブランドに悪影響を及ぼすだろうことは、想像に難くないだろう。
では、配信先のサイトが公序良俗に反しなければいいのだろうかというと、そうとは限らない。自社にとってネガティブな内容を扱うページにも、企業は広告を掲載したくない。
たとえば新聞社のニュースサイトは掲載サイトとしては問題ないが、自社の社員が不祥事を起こした事件を報じているページには広告を掲載したくはないだろう。
また、事故や災害を報じるページで、そうしたことに対する保険の広告を掲載していたら、人の不幸に便乗していると思われてしまうおそれがあるだろう。
出稿した広告がどこに掲載されるのかわからなければ、こうした問題が発生する可能性がどれぐらいあるのか判断できないし、どこに掲載されたのかのレポートがなければ、問題が発生していたことも把握できないのだ。
ブランド保護にも活用できる「アドベリフィケーション」
では、ブランドを重視する企業のネット広告担当者やそうしたクライアントを担当する代理店は、アドネットワークやAd Exchangeを活用した広告はあきらめなければいけないのだろうか。
そういった場合に活用できるのが、「アドベリフィケーション(アドベリ)」と呼ばれるアドテクノロジーだ。「ベリフィケーション(verification)」はなじみのない単語かもしれないが、「確認」「検証」「証明」という意味だ。
アドベリは、主に次の2つのことをチェックしてデータ化したり保証したりするツール(サービス)だ。
ネット広告がどんな場所(サイトやページ)に掲載されたかを確認したり、不適切なページには掲載されないようにしたりする。
ページ内に掲載されたネット広告が実際にユーザーのブラウザ上で画面内に表示されたかどうかを確認したり、スクロールしないと見えない場所には掲載されないようにしたりする。
IABのアドベリフィケーションに関するガイドラインでは、上記の2点に加えて「広告閲覧者のいる場所・地域指定」「競合との同載禁止」「広告掲載の不正検知」なども、アドベリの機能として含まれている。
代表的なアドベリフィケーションのツールとしては、次のようなものがある。いずれもクラウド型のサービスで、さまざまな配信サービスと組み合わせて利用できる。
Integral Ad Science(インテグラル・アド・サイエンス、旧AdSafe)
validated Campaign Essentials(バリデーティッド・キャンペーン・エッセンシャルズ、旧AdXpose(アドエクスポーズ)をコムスコアが買収)
DoubleVerify(ダブルベリファイ)
DoubleClick Verification(ダブルクリック・ベリフィケーション、グーグルのdoubleclick for advertisers)
こうしたツールは2011年ごろから台頭してきたもので、すでに米国のブランド広告主では、DSPなどを通じてネット広告を出稿する際にはアドベリを利用するのが一般的になってきているともいわれる。2012年2月には前述のようにIAB(インタラクティブ広告協会)でガイドラインの最終版が作成されていることからも、その状況がわかるだろう。
アドベリ活用事例:ブランド保護を含めた場合のROASは?
大和ハウス工業がテストしたアドベリフィケーション
では、実際にアドベリフィケーションを利用した事例として、住宅メーカーである大和ハウス工業のケースを紹介しよう。
ディスプレイ広告の出稿先を広げるために、DSPやAd Exchangeに新たに広告出稿。その際に、ブランドの保護をしっかりとするため、アドベリフィケーションツールを利用。
配信先のチェックと設定への反映は1週間ほど必要で、広告主としてチェックなどの工数がかかるし、ツールの導入だけでなく運用ノウハウも必要であることがわかった。
出稿単価の安いDSPでも、掲載先をフィルタし、アドベリフィケーションツールの費用を併せると、しっかりと管理された(プレミアム)アドネットワークと同じぐらいの単価になることが判明した。
リーチ拡大のためにDSPを通じて広告出稿したいが
「どこに掲載されるかわからないのは問題」
大和ハウスではこれまで、Yahoo! JAPANの広告サービスや、配信先が担保されているプレミアム枠のアドネットワークを使ってネット広告を展開していた。
DSPやAd Exchangeを通じての広告出稿も検討したこともあるが、調べれば調べるほど「どこに出るかわからないから怖い」と感じていたのだという。というのも、どこに掲載されるのかを開示してくれないし、広告掲載を認めるサイトのホワイトリストを指定することもできないからだ。
大和ハウスが扱う商材は、住宅という信頼が必要なものだ。そのため同社は半世紀以上にわたって、大和ハウスのブランドを構築してきた。そのブランドを毀損するような広告施策をとるわけにはいかない。
しかし、オンラインでのリーチを広げるためにはDSPなどを使った広告出稿は費用対効果の面から見ても魅力的だ。
そのため同社では、リーチを広げつつも、ブランド保護はしっかりとするといったことが可能かどうか確かめるために、米国で一般的になってきていたアドベリフィケーションのサービスを使った広告出稿をテストしてみることにした。
アドベリフィケーションのツールを3種類テスト
大和ハウスでのアドベリ実証実験は、2012年5月以降複数回行われた(コムスコアのツールに関しては自社運用で実験)。大手メディアレップのCCI(サイバー・コミュニケーションズ)がアドベリサービスの導入と運用に協力し、大和ハウスの総合宣伝部の担当者と、大和ハウスのハウスエージェンシーである伸和エージェンシーの担当者が実務を行った形だ。
テストの目的は、ブランドを保護したうえでAd Exchangeに広告を出稿することによるリーチ拡大の検証だ。
今回のテストで検証したアドベリフィケーションツールは、AdSafe、AdXpose、DoubleVerifyの3つ(テスト当時はグーグルのツールはリリースされていなかった)。いずれのアドベリツールに関しても、配信先のAd Exchangeは同じものを使った。
今回はアドベリツールの初めてのテストということもあり、出稿する広告素材は特別なものを用意した。配信先として問題がないサイトの場合と、配信先として不適切なサイトの場合それぞれ用に、通常のディスプレイ広告とは別のバナー素材を用意したのだ。また、海外製品を日本に導入した直後ということもあり、日本語解析品質が完全でない可能性があるため、初回のテスト実施時はさらに万全を期して、配信先として問題がない場合にも、通常のディスプレイ広告と同様だがロゴマークを掲載しないもの(「Daiwa House」の社名は記載)を使った。
また、アドベリツールを使う場合は特定のカテゴリのページでは広告を表示しないようにするものだが、今回はテストのため、そういった場合にも広告を表示させることで、実際の掲載先やその判定状況を確認するようにした。ただし、ツールが不適切なサイトだと判定した場合には、大和ハウスの広告とは異なる代替クリエイティブを表示する設定で出稿した。
広告配信先ページのカテゴリ分類は、各ツールベンダーが事前にクロールしてカテゴライズしている。今回のテストでは、ツールによって不適切なカテゴリに分類された配信ブロック数の多いサイトに関しては、レポートを元に1サイトずつ目視で確認したうえで、Ad Exchangeのブラックリストを完成させていった形だ(ただし、テストの段階によっては、配信レポートをもとに全サイトを目視でチェックした)。
大和ハウスでは、まず1週間で500万インプレッションほど出稿した。そのレポートで掲載先を確認していったところ、掲載先として「不適切」と判断されたのは3パーセント~12パーセントほど。実際にはそれら「不適切」判定された配信先の8割以上を十数サイトが占めていたとのことだ。
実際に試してみた各ツールの特徴は次のとおり。
- DoubleVerify
- ブロック指定は、不適切カテゴリとドメイン名
- レポートでは「掲載先URL」「掲載ブロックURL」「配信先不明(iframeによる多段ネットワークなどのため)」を確認できる
- 実験時点では日本への進出準備が整っていなかった
- AdSafe(Integral Ad Science)
- ブロック指定は、6つの不適切カテゴリそれぞれでのスコアリング指定。
各サイトにAdSafe側で点数が付けられており、広告主が「このカテゴリでは600点以上のサイトにのみ掲載」のように指定する。ドメイン名でのブロックも可能。 - レポートは、掲載ブロックURLのみ(掲載先URLのレポートはなし)のため、「800点以上」で出稿した場合と「1000点のもの」で出稿した場合との差分で掲出先を確認する必要がある。
- AdSafe側の自動カテゴリ分類が適切かどうかのチェックはできない。
- ブロック指定は、6つの不適切カテゴリそれぞれでのスコアリング指定。
- AdXpose(コムスコア)
- ブロック指定は、カテゴリとドメイン名。
- レポートは、ツールが識別した全インプレッションが対象で、掲載先URLもレポートされる(ただし、多段掲載の場合はネットワーク名となることが多い)。掲載先として不適切だと判断された場合、サイトのURLと該当カテゴリ(ブロックされた理由)がレポートされる。
- カテゴリ指定で配信してブロックリストに含まれる掲載先があった場合に管理画面で警告を表示することも可能。
あるサイト自体は配信先として問題ないが特定のページには配信したくない場合などに、(URL指定でのブロックはできないため)こうした警告ベースで判断するなどの利用ができるが、警告が頻発しすぎてチェックの工数が膨大になる場合もある。
ちゃんとフィルタするとDSP出稿のコストはさほど安くない
アドベリを実際に運用して見えた本当の姿
2012年の5月~11月にかけて、3つのツールを試した大和ハウスだが、テストから見えてきたアドベリフィケーションツールのネット広告施策における位置づけとしては、次のような結論を得たということだ。
ブランド保護の観点からも安心して広告を出稿できるようになる
そもそものテストの目的である「ブランドを保護したうえで出稿先を拡大」することは、ツールと適切な運用によって達成できることがわかった。
これまで出稿したことがなかった配信チャネルでも、レポートで確認しながら不適切な掲載先を除外できることは、広告出稿を担当する側からすると、安心できることだ。
運用が大切で工数がかかる
ツールを100%信頼してただツールを利用すればいいという段階にはまだないため、配信先レポートを見ながら掲載先を確認し、ブロックするサイトのリストを作るなどの工数がかかる。
広告代理店がこうしたツールを提供していても、その性質上、結局は広告主がチェックする工数が発生するのは避けられない。
実際に、自社運用を行ったAdXpose(コムスコア)のテストでは、その確認に1週間ほど必要だった(そうしたチューニングの間は広告を掲載したり止めたりという試行錯誤があるため、プレミアム枠の場合よりも高いCPMになっていた)。
ただし、こうした運用のための工数は、運用側にノウハウが蓄積されていけば軽減されるだろう。
安いと思われるDSPでも実際には安くない
DSPやAd Exchange経由での出稿は単価としては安価にみえるが、アドベリツールを利用して配信先を適切なものに絞っていくと、実際にはさほど安くはなかった。
また、アドベリツールの利用自体にも、CPMベースで3円~10円ほどの費用がかかる(ツールによって異なる)。
こうした費用を併せると、当初は安いように見えていたチャネルでも、実際には、しっかりと管理されている(プレミアム枠の)アドネットワークと同じぐらいのコストになる。そのため、安心して出稿できる適切な掲載先であることが保証されているのならば、これまで価格表では割高に見えていた媒体でも実際には高くはないことがわかった。
アドベリツールを利用する価値があるのはどんな企業か
アドベリツールを正しく使えば、さまざまなネットワークを通じて広告を配信する際にも、ブランド毀損のリスクを事前に下げ、問題が起きている可能性があることも把握できるため、安心できることはわかった。
とはいえ、アドベリツールは万人向けのツールだというわけではない。ではアドベリツールは、どんな人が利用するのが適切なのだろうか。
アドベリツールを利用する価値があるのは、こんな組織だろう。
広告リーチを増やしたいが、ブランド毀損はNGだという広告主企業
ダイレクトレスポンスを重視しているが、ブランド価値を大切にしたいECサイト
金融系・政党・自治体・公共機関のような「問題を起こすわけにはいかない」文化が強い組織だが、パフォーマンス目標が高くリーチを拡大する必要があるところ
また、出稿先の種類によるアドベリツールの有用性は以下のとおりだ。
出稿先 | アドベリツールの有用性 |
---|---|
純広告 | 利用する必要はない(場合によってはin-viewのみ利用) |
アドネットワーク(プレミアム) | 利用する必要はない(場合によってはin-viewのみ利用) |
アドネットワーク(ノンプレミアム) | 利用することが望ましい |
Ad Exchange(主にDSPから利用) | 利用することが望ましい |
御社では、ネット広告の施策でブランド保護をどれぐらい意識しているだろうか。もしそこに重要性を感じていて、とはいえ配信先を把握できていないのならば、アドベリフィケーションを検討してみるのも手だろう。
取材協力:大和ハウス工業、伸和エージェンシー、サイバー・コミュニケーションズ、その他
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