Googleの不透明な闇 vs 広告主の権利章典 - IAAデジタル・ダウンロード レポート
IAA(国際広告協会)は去る11月、オンライン広告産業を対象としたフォーラムイベント「IAAデジタル・ダウンロード ビハインド・ザ・ヘッドライン(IAA Digital Download. Behind the Headlines)」を都内にて開催した。「オンライン広告主の権利章典」やネット広告の現状について語られた模様をレポートする。
オンライン広告主の権利章典
フォーラムで最も賞賛が寄せられたのは、ハーバード・ビジネス・スクール経営学助教授のベンジャミン・エデルマン氏による講演。
「オンライン広告主の権利章典に向けて」と題したエデルマン氏の講演では、ネットに実在するさまざまな問題のある事例を挙げながら、広告主が主張すべき4つの権利を提案した。その内容は、次のとおり。
- 自分の広告がどこに掲載されるのか把握する権利
- 個別項目も含めた意味のある請求書を受け取る権利
- 自社の広告データを使い、コピーし、コントロールする権利
- 争議を公平かつ透明な形で解決する権利
法律で定められているものではないが、こういった権利章典が今後は必要になるのではないかとして、エデルマン氏はそれぞれの権利について次のように説明した。
自分の広告がどこに掲載されるのか把握する権利
これは、キーワード広告が検索結果ではなくコンテンツサイトに掲載される場合に、現状ではどのサイトに表示されるのか、広告主は把握すらできていない点に関して言及したもの。
世の中には悪質なサイトがあり、ページに高さ0、幅0の<iframe>を使って広告を埋め込むようなことをしている。この場合、ユーザーには見えていないのに広告システムでは表示されたことになる。CPM(表示回数課金)で広告を出稿している場合、物理的に見られることのない「隠された広告」に対して広告主は支払いをしなければいけない。悪質な場合は、この処理をJavaScriptで行うことで、ページのHTMLソースを普通に見ても非表示iframeの仕込みが判明しないのだという。
また、「アドウェア」と呼ばれるプログラムがインストールされている場合、通常ならば支払わなくて済むはずの広告費が発生させられるケースがあるのだという。たとえば、ある種のアドウェアは、ブラウザの検索ボックスを乗っ取るような使われ方になり、たとえばデルのサイトに行こうと「DELL」をブラウザから検索すると、アドウェアの表示する検索結果が表示される。ユーザーはその検索結果をクリックしてDELLのサイトに行くのだが、実際にはそこに表示されているのは、キーワード広告なのだという。
問題は、こういった悪質なケースで表示される広告はというと、複数の広告ネットワークを経由しているものの、実は一般的なキーワード広告などに出稿している広告だということ。ある事例では、Googleのアドワーズ広告に出稿した広告が、2つの広告ネットワークを通じて、最終的にはこういった悪質なサイトに表示されていたとエデルマン氏は言う。
さらに悪いことに、広告システムや広告ネットワークを運営している企業は、広告が悪質なサイトで表示されていることを知ったうえで看過している場合もあるのだという。おかしなサイトに広告が表示されていることに気づいてクレームを出してきた広告主の広告だけは悪質な広告ネットワークへの配信を停止するが、何も気づいていない広告主の広告は配信し続けていることもあるのだという。
個別項目も含めた意味のある請求書を受け取る権利
エデルマン氏は、「POSレジでは、客に見せる小さなスクリーンがあり、消費者は買ったものが1つ1つ見える。なぜオンラインではこれができないのか
」と、この権利について触れた。
通常ならば、たとえばキーワード広告でどのキーワードでいつどこに表示されたかを細かく1つひとつチェックする必要はないだろう。しかしエデルマン氏は、不正が発生したときにこういった詳細な情報が必要なのだという。
たとえば、前述のような不正を発見して広告システムに対してクレームを出した結果、システム側が不正なサイトへの配信を認めて500ドルの返金をしたとする。しかし、本当に損害額が500ドルなのか、もっと多いのではないか、といったことを確かめる手段は、広告主には提供されていないということだ。
自社の広告データを使い、コピーし、コントロールする権利
当然のように見える権利だが、実は担保されていない。というのも、現状では、自分でアドワーズ広告用に入力したキーワードや広告などを、プログラムを使ってヤフーのスポンサードサーチに自動的に移すことは、グーグル側のAPIの利用規約で禁止されいるからだ。そういう行為が発見されると、APIの利用キーが停止されてしまうのだという。
争議を公平かつ透明な形で解決する権利
エデルマン氏によると、現状のオンライン広告で何らかの問題が発生した場合に利用できる解決方法は、あまりにも不透明すぎるのだという。
たとえば、グーグルのアドワーズ広告の利用規約では、グーグルが載せると決めた場所どこにでも広告を掲載できるものとする一文がある。
広告は、……(中略)……(z)Google が広告を掲載する第三者(「パートナー」といいます)提供のコンテンツまたはプロパティー(「パートナー・プロパティー」といいます)に掲載することができます。
にもかかわらず、返金に関しては、グーグルが決定権をもつとされているのだ。
法令で許容される限り、返金がある場合、Googleの裁量により……(中略)……なされます。
さらには、広告主がグーグルに対して訴訟などのアクションを起こす場合、日本の広告主であっても、米国カリフォルニア州サンタクララの管轄裁判所で審理するものとしている。
また、関連の通知は、広告主がグーグルに対して通知する場合は、書面をアイルランドに送付し、その写しを法務部に送付しなければいけない。にもかかわらず、グーグルから広告主への通知は、電子メールまたはアドワーズの管理画面への表示でよく、メールを送信した時点または画面に表示された時点から15日経つと、通知は受領されたものと自動的にみなされる。
Googleに対する通知は、原本を以下にあてて、その写しを法務部に宛てて確認済みファクシミリで送付するものとします(写しを第1級郵便、航空郵便もしくはクーリエで発送):
Google Ireland Limited Advertising Programs
1st & 2nd Floors, Gordon House
Barrow Street, Dublin 4
Irelandお客様に対する通知は、お客様の口座に指定されたお客様のe-mailのアドレスに送付し、またはメッセージをお客様の口座のインターフェイスに掲示して行うことができるものとし、e-mail送付の日またはメッセージをお客様の口座のインターフェイスに掲示して15日後に受領されたものとします。
会場で「日本は良いですね。朝起きて、『今日はPPCをグーグルで出そうか、ヤフーで出そうか』と悩めるから。グーグルのシェアが9割を越えている米国ではそうはいきませんから
」という冗談が言われることなどに、英語圏でのグーグルの寡占状態と広告主に対する不親切・不透明な状況への不満が見て取れた。
しかし、エデルマン氏の指摘したような問題点は、グーグルに限った話ではないはずだ。
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