編集部ブログ―池田真也

アクセス解析新手法「コンセプトダイアグラム」とは? サイトの全体像を可視化して知るべき指標を知る【レポート】

アクセス解析の新手法「コンセプトダイアグラム」を解説したセミナーをレポート

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Webサイト制作のロフトワークが主催するセミナー「ここが違った!Webで成果をだすアクセス解析セミナー」が8月4日に開催された。本セミナーは、ロフトワークが企画したアクセス解析のユーザー会「アクセス解析研究会」で得たノウハウ、特に新手法の「コンセプトダイアグラム」を共有するために企画されたものだ。この記事では、同セミナーの内容をレポートする。

各種講演資料はロフトワークのレポートで公開されているので、そちらも参照してもらいたい。

利用者と運営者、2つの視点であるべきサイトの姿を可視化

コンセプトダイアグラムとは、サイトの全体像を可視化するために、どんなユーザーがどのような経路で訪れ、サイト上の目的を達成するために、どのようなコンテンツや機能が存在するのかを図に整理したものだ。詳細は後ほどの講演で解説されるが、セミナーは16時間のアクセス解析研究会を3時間に圧縮して開催された。

株式会社ロフトワーク
君塚 美香氏
株式会社ロフトワーク
山口 謙之氏

第1部では、セミナーを企画したロフトワークの君塚 美香氏と山口 謙之氏が講演。君塚氏は、アクセス解析は戦術から入ることが多いが、研究会ではあえて戦略から入ったとし、「新手法のコンセプトダイアグラム」を用いた研究会の成果について、「小手先の技術ではなく、戦略からアクセス解析を理解して改善につなげることができると感じた。セミナー終了後にはぜひ試していただき、Webの成果を上げていただきたい」(君塚氏)と、会場へ語りかけた。

続いて、ロフトワークでマーケティングと解析を担当する山口氏は、「最近のサイトは複雑になりがちですが、コンセプトダイアグラムはサイト全体を可視化し、課題を浮き彫りにするのに有効です。自身で作ることで、知りたい指標が明確になり、何が知りたいのか見えてくる」(山口氏)と、実際にloftwork.jpを題材にコンセプトダイアグラムを作成して得た経験を伝えた。山口氏自身もアクセス解析において、見るべき指標やゴール設定に悩んだそうだが、コンセプトダイアグラムをもとにKPIとKGIを設定することで、指標に対して能動的になることができ、知りたいことが明確になったという。

ロフトワークのコンセプトダイアグラム

ここが違った! 成果を出すアクセス解析とサイト改善

ギルト・グループ株式会社
清水 誠氏

第2部では、アクセス解析研究会で講師を務め、アクセス解析の新手法を提案したギルト・グループ株式会社の清水 誠氏が講演し、新手法について解説を行った。まず、清水氏は新手法のポイントとして次の4つを紹介。

  • 効果を測定するのではない

    アクセス解析はユーザーを知るための有効な手段。アクセス解析というと、効果測定ツールというイメージが強いと思うが、清水氏は今回、顧客の理解を深めるためのツールだとした。Webサイトを企業と顧客が対話するメディアととらえ、利用状況のデータがとれるWebならではの特性を生かし、顧客を理解するために使うことができれば、より良いコミュニケーション施策へのノウハウをためることができる。

  • PVやUUは忘れよう

    全体のPV数やユーザー数の変化などをざっくりみても、それが“なぜか”まではよくわからないもの。考え方を変え、知るべきことを知るためにはどんなデータを集める必要があるのか、場合によっては必要なデータが取れるようにサイト自体を改善するなど、アグレッシブな解析をしてノウハウをためる。

  • 具体から抽象化して仮説を立てる

    戦略やコンセプトも重要だが、コンテンツを作る途中で本来込められていた意図や真意が忘れられてしまうことがある。そもそもどういった機能やコンテンツがあるのかを図解して整理し、そのうえで、なぜその機能があるのか、サイト全体の戦略やコンセプトをできあがったコンテンツからさかのぼって抽出することで、逆に足りないものが見えてくる。コンセプトダイアグラムは、そのために有効な手法である。

  • データドリブンから評価ドリブンへ

    データありきという視点を変え、評価ドリブンという手法を取り入れる。ビジネスを成功させるという最終成果は変わらないが、サイトにかかわる個人や部門が評価されるところまでいかないと、改善サイクルはまわらない。それぞれが評価されるようにアプローチする。

    評価を前提としたアプローチの例
    評価される → 行為形成 → レポート閲覧 → ツール実装 → 解析要件 → KPI定義 → コンセプト

そして、こられを実践するための具体的手法としてコンセプトダイアグラムが提案された。「コンセプトダイアグラムで重要なのは、だれにどうなってほしいのか、その機能やコンテンツはなぜあるのか、図のすべてに意図を込めることです。顧客は何を求めてサイトに来ているのか、運営者は顧客にどうなってほしいと思っているのか、いろいろな人の思いを明確にして図に描くのが大事です。そうした思いがあるからこそ、いろいろな機能やコンテンツを提供しているはず。ビジネスモデルや構造を表すマップではなく、サイトの存在意義を明確にするのが重要です」と説明した清水氏は、具体例として地ビールメーカー「サンクトガーレン」の事例を紹介した。

サンクトガーレンの事例では、「特有の消費行動をモデル化」と「機能・コンテンツの役割」の2つの図が示された。地ビールは一般的なビールと比べ、小ロット生産のため取り扱う酒屋や飲食店は少ない。飲みたいと思っても、顧客はどうしたら飲めるのかという知識がないとなかなか飲むことができず、売り切りで次々と新しい銘柄だされるため、いまは何が飲めるのかを知らなければならない。1つ目の図では、こうした特有の消費行動モデルを段階的に表している。また、ビジネスモデルとしてリピーターが欠かせないため、いかにエンゲージしてもらうかという点で、ソーシャルメディアも重要になる。

サンクトガーレンの消費行動モデル図
入り口は偶然行ったバーなどで知り検索して訪れた指名系と、ニュースなどを見て興味を示した人に分けた。

次に、清水氏は消費行動モデルの図をもとに、サイトにあるべき機能・コンテンツをマッピングしていった。2つ目の図では、初めて来た人に地ビールの特徴を知ってもらうためのコンテンツや、時期によって取り扱いが異なる商品を知ってもらうための商品カタログなどが示されている。

機能・コンテンツの役割

さらに、機能・コンテンツごとに、新規訪問者数やクリック数など対応する指標をマッピングすることで、知るべきことが新たに見えてきた。「地ビールを飲むための方法を整理すると、オンラインで買う場合、酒屋で買う場合、バーで直接飲む場合の3つがあり、最終的なコンバージョンとしては、3つとも網羅しなくてはならない」と話す清水氏は、ECの注文完了だけをコンバージョンにするのではなく、「店舗検索の地図を見た時点で、その人は店舗に行くだろうと想定してコンバージョンを立てた」ことを説明した。

また、「オンライン販売では送料がかかるため、近くの酒屋で買ってもらう方が長期的にはリピートしてもらえる。長期的に買える方法を見つけてもらうために重要なコンバージョンが見つかった」と清水氏は話し、ECの注文完了と、酒屋やバーを探すための地図閲覧を同じくらい重要なコンバージョンとして扱っており、サンクトガーレンでは次の3つのことが見えてきた、と話をまとめた。

コンセプトダイアグラムでわかった知るべきこと
  • 買える、飲める店を探したか

    店で買う、店で飲むという人のコンバージョンを測定するため、地図閲覧をコンバージョンに追加した。

  • 知らない製品を知ってもらえたか

    時期によって様々な商品を扱うのが地ビールの特徴。1人あたりの製品認知を高められているか、いくつのユニーク商品を長期間でどれだけ閲覧したのかを知るため、ユニーク閲覧商品数をKPIに加えた。

  • 地域ごとのカバー率を評価

    地ビールは地域限定だがオンラインならどこでも買える。まだ全国から注文がきていない。オンラインの地域ターゲティングによってカバー率を上げていく、そのためのKPIとして地域カバー率を立てた。

続いて、清水氏はECサイトのコンセプトダイアグラムを紹介した。サイト構造をそのままをマッピングした形だが、縦軸と横軸が設定されているのがポイントだ。図に整理することで、商品閲覧をゴールにすることがわかったという。「流入やキャンペーンの効果測定では購入完了をゴールにしがちですが、入り口と出口が多いので、全体の母数が減り統計的な意味が薄れてしまう。また、最終的に買った人しかわからないため、後日買った人などの間接効果が見えない。アトリビューションといった考えもありますが、簡単に測定する方法として、流入や特集、検索のゴールとして商品情報閲覧を加えた」と清水氏は話した。さらに、送料や返品ポリシーを見るユーザーは購買へのコミットが強いと想定し、コンバージョンポイントに設定してスコアを測定したことが説明された。サイトに「また来たい」と思ってもらえたかどうかを測定するために、メルマガやTwitterの登録はスコアを高めに設定し、間接効果を測定しているという。

ECサイトのコンセプトダイアグラム

このようにコンセプトダイアグラムでサイトの全体像を整理することで、アクセス解析で知るべき(改善すべき)KPIを明らかにできる。「わかっていたつもりでも、図解することで、漏れや抜けている重要なコンテンツが見えてきます。いろいろな人と書き進めることで議論が進み、ギャップも見つかってくる。考えを整理するためだけでなく、コミュニケーションツールとしてもコンセプトダイアグラムは使える」と、清水氏はその効果を伝えた。自社サイトの目的はこうであると、先入観をもっていると視野が狭くなりがちだが、図に書き出すことでオフラインまで含めた全体像を俯瞰して考えられるようになり、目的と位置づけが明確になる。結果として、アクセス解析で知るべき(改善すべき)KPIを明らかにすることにもつながる。

一方、清水氏は「アクションできないことは知る必要がない」と、指標を定める際の注意点も指摘する。「KPIは重要なパフォーマンスを表すので、上下しないものはただの指標でしかない。KPIを絞り込むときに1つ気をつけることは、最終的なゴール(達成度)と中間の指標(原因)を区別することです。ゴールは複数設定できますが、重要なのはそのゴールを分解し、どのKPIが上下すると連動してゴールが上下するのかという相関を考えツリー状に分解していくこと。サイト全体のPVが増えても“so what”で終わってしまう。なるべく、何を知るべきなのかを明確にする」(清水氏)。

最後に、清水氏は「仕事が評価されるような数字を提供できるようになると、各部門の人がアクセス解析によって意味を読み取り、アクションできるようになり、PDCAサイクルがまわるようになる。人が評価されるということは、サイトもうまくまわり、会社も利益があがっていることになる」と話した。知るべきことを知り、必要なデータから意味を読み取ることで、作り手も効果のあるサイトを作れるようになる。結果として、企業も制作担当者も評価される良い連鎖が生まれるようになると清水氏は伝え、講演を終えた。

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用語集
CVR / KGI / KPI / SNS / アクセス解析 / キャンペーン / コンセプトダイアグラム / コンバージョン / ステークホルダー / ソーシャルメディア / ユニークユーザー / リスティング広告 / リンク / 直帰率 / 訪問者

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