PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ
多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。
従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。
広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。
この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。
神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)
1971年創業のジャスダック公開企業であるサン電子は、パチンコ関連、情報通信関連、ゲームソフト関連の3つの事業を展開しています。
今回の取材にあたって、国内初のブロガーリレーションを活用したマーケティングを実施したのもサン電子だったということを知りました。いつも新しいことに積極的にチャレンジしているサン電子のインターネットを活用したマーケティング。現場の最前線で新しいチャレンジを続けている同社のコンシューマー向けサービスや製品を統括しているサンソフトユニット戦略部の水野 政司氏と原 亨子氏にお話を聞きました。
ネットPRの仕掛人は、ネットの住人
サン電子では、マーケティング担当がいるのはB2Cの部門だけで、コーポレートのPRはIR中心だということ。ウェブサイトの担当も含めると9名体制。オンラインでの情報発信とコミュニケーションに力を入れていることがうかがえます。
いち早くネットでの情報発信を始めた背景には、水野さんのウェブ経験の影響が大きかったようです。
「私は、もともと携帯電話や通信機器のプログラマをしていたんです。携帯電話系の通信プロフトコルの開発は海外向けのビジネスだったため、日本語の使えない環境でサービスを構築するなど、ウェブには早くから取り組んでいました。特に海外に向けての営業ツールはウェブサイトしかない状況でしたら、SEO(検索エンジン最適化)にもずいぶん早くから興味をもって実践していました」(水野氏)
ウェブサイトを単なる情報提供の場としてだけでなく、営業の最前線ととらえていた水野さん。その可能性をご自身で実感しながらの運営だったようです。
一方、主にPRを担当している原さんはどんな経歴だったのでしょうか?
「当初は、ハード機器を販売していた事業部で営業アシスタント的な仕事をしていました。東京営業所の広報担当スタッフが退職したタイミングで、広報業務を引き継ぎました。外とのやりとりが好きだということで、広報と営業をかけもちでやるようになりました。店舗や営業所訪問と同じようにメディアへのキャラバンなどもしていたんです」(原氏)
「ネットでファンを増やしていくという時代になってきた」(水野氏)ということでマーケティング担当部署ができたそうです。サン電子のネットPRは、マーケティングのプロフェッショナルではなく、ネットの住人が中心になって展開しているんですね。
国内初のブロガーリレーション
サン電子は、ブログを中心としたクチコミに関する書籍『クチコミの技術』の中にも登場しています。人気ブログ「ネタフル」を運営しているコグレマサトさんが「初めて製品を提供されて、試用後の感想をきかせてくださいといわれた」と、サン電子とのやりとりを書いています。なんと驚くことに、サン電子がネタフルにコンタクトをとったのは2004年11月なのです。
いまでは当たり前になったブロガーリレーションの国内最初の事例の1つではないでしょうか? 2004年というかなり早い時期に、どうしてブロガーに製品を使ってもらおうと思ったのでしょか。
「もともとは、ブロガーというよりもホームページを運営している人にコンタクトしようという趣旨だったんです。自分たちが売ろうとしているものに関心のありそうなホームページを運用している人に、個別にメールを送ることからスタートしました。SUNTAC FMトランスミッターの最初のモデルで、これはiPod用の製品だったので、iPodに関するホームページを書いている人にコンタクトをしたんです」(原氏)
「以前から相互リンクの依頼などの経験もありましたし、そこから購買行動に結びつきやすいというのもわかっていました。広告よりも効果があるかどうかはわからないけれど、やってみる価値はあるのではないかと思ったんです」(水野氏)
特に「ブロガーに向けて」と構えてコミュニケーションをしたわけではなかったんですね。ホームページからの情報発信の力と可能性を知っていれば当然、という感じで、あくまでも自然な流れの中での行動だった様子が逆に新鮮です。
それでは、その効果については、どのように考えているのでしょうか。
「広告と比較したこともあります。メディアサイトの編集タイアップ記事のPVと、モノ系ブロガーのPVを比較してみると、ピークは広告のほうが高いのですが、長続きするのはブロガーや一般の人が書いたもの。アテンションとして使うには広告のほうが効きますが、ロングテール的にいうとブログのほうが長く続くようです」(水野氏)
実際には、アクセス解析による効果測定よりも、営業が現場で聞く「ホームページをみました」という一言のほうが、はるかにやっていることを実感してもらえるとおっしゃる水野さん。ネットでの活動が、リアルな現場の声になってフィードバックされているわけですね。
ダイレクトコミュニケーションは
「特別なものじゃない」
サン電子の人気商品「トークマスター」。そのユーザーが運営しているブログをネット上で発見したのでアクセスしてみました。すると、サン電子の社員の方がその方を訪問されたというエントリーがありました。
マーケティングやPR担当だけでなく、営業の現場でもユーザーとのダイレクトなコミュニケーションが積極的に行われているサン電子。その社風や雰囲気についてお話を聞いてみました。
「今まで(製品について)書いてくれていることは知っていたけど、直接面識はなかった方だったそうで、コンタクトをとってみたようです
うちは名古屋のさらに田舎のほうなので(笑)、お客さまとできるだけ直接接しないといけないよねという考え方なんです。ウェブを通じて知り合った方などは、最初はメールだけのやりとりで、何年か越しで直接お目にかかるということもありました。だから(直接訪問の例も)特別なことではありません」(水野氏)
現場の普段の活動が、そのままユーザーを媒介としたネット上での情報発信につながっているということのようです。
“クチコミを生むために”といった話題作りのための行動ではなく、あくまでも自然な形で生まれるクチコミ。そして、そこにはなんの作意も計画性もないという事実に驚きました。
製品の魅力が、企業の魅力に発展していく現場をのぞいたような気がします。
CGM活用も自然体で
YouTubeでトークマスター2のPRビデオを発見。2007年3月8日に公開され、取材当日までの1年程度で1万8000回以上再生されているそのビデオについて聞いてみると意外なお答えが。
「(担当者が)書店店頭用の商品PRビデオを作ったけれど、これをネット上で流すにはどうすればいいかと相談されたので、『You Tubeに載せてみたら?』と言ったら、ほんとうに担当者が実行していた(笑)
つい数日前に、社内スタッフが(このビデオがあることに)気づいて『出てるんですけど』と聞かれたので『出しているよ』と回答したんです。最初の頃はそんなにアクセスがなかったんですが……。1万8000回も再生されているんですか? すごいなぁ」(水野氏)
多くの企業が慎重に検討し、恐る恐る活用するCGMですが、サン電子の場合、ここにも特に大きな仕掛けや企みがあったわけではなかったようです。
社内の承認プロセスなどは、特にないんでしょうか。
「自社サイトのリニューアルなど全体に関わることはプロセスを経て活動しますが、細かいことについては軽いですね。普段のお客様との会話みたいなノリです」(水野氏)
今年に入って、アップル関連のイベントMacworldに出展。このときに現地のアメリカから生の情報をブログで発信されました。こちらを主に担当しているのは原さんです。
「昼間は展示会場で、夜はメディアの人と会ったりブログを書いたりで、ばたばたでした。私自身もブログ初心者で、最初がんばりすぎて大変でした」(原氏)
更新がちょっと止まっているようですが、今後、あのブログはどうなるんでしょうか。
「最初は期間限定のつもりだったのですが……用意されたURLが一時的なものじゃなかったので、続けざるを得ないですよね(笑)」(水野氏)
イベント会場の盛り上がりを伝えるブログは、内容そのものも「お祭り感」があります。原さんが風邪でダウンしたときには、水野さんも登場したというこのブログ。今後の更新を期待したいですね。
ニュースリリースにQRコード
サン電子のPR活動で特徴的なのは、携帯関連のニュースリリースにQRコードをつけている点。
「“上海”などの携帯ゲーム系については、パソコンで見てもらってもケータイでアクセスしてもらわないと意味がない。アドレスを入力する手間を減らすためQRコードをつけることにしました」(原氏)
「だれに見られるかはあんまり意識していないですね。ただ、ホームページに情報がある以上、アクセスされ続ける。だから、すべての人がお客さまですよね」(水野氏)
インターネット登場以前の広報パーソンにはなかった発想です。マスメディアだけでなくエンドユーザーも含めてあらゆる人々に情報が届くというニュースリリースの特性をよく理解している「ネットの住人」ならではの発想ですね。インターネットでのユーザー行動を自然に理解している。それがサン電子のネットPRの強みの1つです。
2007年11月にリニューアルしたオンラインショッピング「サン電子ダイレクト」のサイト運営にも、その視点が生かされているようです。
「以前、直販を伸ばそうということで、ダイレクトショップの強化をはかってリニューアルをしたのですが、メーカーなのに、販売が全面にでてしまっていました。コーポレートの製品ページがダイレクトと一緒では『売り』の雰囲気が強すぎますよね
(情報と商品の販売を)分けなきゃというのは思っていたんですよ。制作会社に制作を委託したところ、古いページのURLが変わっしまったり、古い情報だからといって削除されてしまったりと、気がつくと困った状態になっていました。その辺も含めて再度整理しました」(水野氏)
水野さんは「URLは一度決めたら変えちゃいけないとか、過去のものは残すといったことは、1、2年経つと、みんなわかるようになるんです」と、継続してサイト運営に関わることの重要性を指摘しています。
サン電子の新しい試みの数々。取材前には、どんな壮大な企みがあるのだろうかと思っていたのですが、実際にお話をうかがってみて驚いたのは、すべて自分たちの日常の活動の延長にあっただけだということ。
限りなく自然体に近い形でネットを活用することで、結果的にブロガーリレーションの先駆けになったということは非常にユニークで興味深いお話でした。
実は、現場担当営業のアドバイスによって2003年からCGMマーケティングをしていたという原さん。2003年12月のFMトランスミッター発売のときには、すでにホームページ運営者への直接コンタクトは始めていたそうです。いち早く時代を先取りした行動力には、ほんとうに感服します。
「一時期、成果主義を先鋭化した時期があり、将来に対する目線がなくなっていた。いまはそれを変えたいという時期」だという水野さん。だからこそ「PRもインターネット時代に合ったPRをやればいい」という会社の雰囲気があるのかもしれません。
企業文化や企業の雰囲気まで伝わってしまうネットPR。公式発表の情報だけでなく、現場の担当者一人ひとりの活動が、ネットPRでは大きく影響してくることを改めて確認しました。
ソーシャルもやってます!