PR 2.0の現場から

ネット露出でテレビ取材依頼をゲット〜検索結果が生む信頼性/サミーネットワークスの場合

PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ

多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。

従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。

広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。

この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。

神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)

株式会社サミーネットワークス
株式会社サミーネットワークス
http://www.sammy-net.jp/

広報とマーケティングの境目があいまいになりつつある「今」の現場を訪ねるこの連載、今回伺ったのは、PCや携帯向けにパチンコやパチスロ関連のゲームを提供している株式会社サミーネットワークス

最近ではmuPass(ミューパス)やモバプリなどの新サービスでも注目を集めており、携帯電話からお年玉付き年賀状を送れる新サービス「ケータイPOST de 年賀状」も11月29日に登場しました。

1年半前にできたばかりのサミーネットワークスの広報課で、スタート当初から広報を担当している西村さんに、同社における広報活動の目的とネットの活用、さらに今後の課題についてお話を伺いました。

営業での経験を生かして

muPass
muPass(ミューパス)とは、家電や玩具、自動販売機などに組み込むICチップとそのシステム。携帯電話にダウンロードした音楽などのデータを転送できるため、組み込んだあとからでもデータを自由に書き換えられるのが特徴。
http://hp.mupass.net/

まずはmuPass(ミューパス)なのですが、わたくしどもで開発した“muPassチップ”をメーカー様の商品に搭載していただくことから始まるんですね。ですから、いかに確実に多くの人に伝えるかがポイントで、逆にいうと、そういうことができないニュースリリースはダメなんですよ」と西村さん。実は広報の前は「muPass」の営業担当だったということで、この言葉にも納得です。

muPassが経済産業省主催の「ネットKADEN2006」で優秀賞を受賞したことは、「営業が特に再訪問するときのネタとして、活用してもらえた」など、営業支援的にも効果が高かったそうです。

良いものを作れば売れるだろう、昔はそう思っていました。しかし今は、どういう風にわたくしどものメッセージやサービスを伝えるか、どうすればお客様に響くか、そういった意味での“演出”も必要だと思っています。

メーカーにいたころの話ですが、当時の上司は取引先の信頼性をすごく重視していました。営業支援という視点で考えると、(広報による)メディアのバックアップは重要だと痛感しています」(西村氏)

広報としての仕事に留まらず、営業まで意識した視点で広報活動を考えることのできる広報は、事業部としてもとても心強いパートナーとなっていることでしょう。

認知拡大をめざして

広報としての目の前の課題は認知拡大です。現在の事業の柱は、パチンコ・パチスロのゲームの配信が中心になっていますが、muPassやモバプリに続いて、今後も新サービスが立ち上がっていく予定です。エンドユーザーさんに、サミーネットワークスっていい会社だなって思ってもらいたいですね」(西村氏)

マスメディアを利用した認知向上については、「マスを使った広告というのは、瞬間だと思っているんですよ」と西村さん。「だから、継続的な広報との両輪で進めるのがとても重要なんですよね。メディアやユーザーを巻き込む力をつけたいと思っています」とのこと。

表に出る製品ではないのに、独自のブランドを作り上げているインテルやキシリトールを理想としているという西村さん。

大手電機メーカーで先方が『知ってるよ』と言ってくれたのでコンタクトがとりやすかった、そう営業が言ってくれたときは、うれしかったですね」(西村氏)

量と深さの2つの視点からアプローチ

西村 佳隆氏
西村 佳隆氏
株式会社サミーネットワークス
管理本部
経営企画部 広報課 課長

西村さんは、広報活動を考えるときに「量と深さ」の2つの視点をもっているとのこと。

“深さ”というのは、個別の記者さんを訪問して、深いコミュニケーションを実施すること。言い換えると、より良い人間関係を築いていくということにもなりますので、時間もお金もかかることでもあるんですよ(笑)」(西村氏)

一方、“量”というのは、インターネットやメールなどの新しいオンラインメディアを使ってニュースリリースなどの情報量を拡大させること。サミーネットワークスでは、毎月ニュースリリースを10本以上出して、情報発信を続けています。

新しいオンラインメディアのいいところは、量の問題もそうなんですけれども、記事の内容によって相手を選ぶことのできる“プッシュ型”のメディアである点だと思うんです。毎月10本以上といっても、面識のある記者さん全員にすべてのリリースを送りつけるのではなく、内容によって相手を選んで送付しているので、個別の記者さんにリリースが多く届くことはありません」(西村氏)

一方、検索結果のインデックス数も意識しているとのこと。

検索エンジンの検索結果ページに、信頼性のあるメディアがサミーネットワークスをとりあげているページが並び、検索結果に表示される件数も多い。さらに、サミーネットワークスが賞をとったというニュースのページもある。こういう情報がそろっていることが、企業の信頼性につながるんだと思うんですよ」(西村氏)

これまでは営業を意識していたため、ニュースリリースのターゲットとしては、メーカーの担当者をかなり意識していたそうです。しかし、7月に出した「北斗の拳」に関連したリリースでアクセス数が確保できたことから、メーカーやメディア以外の、一般の人たちがニュースリリースを見ていることを実感したとのこと。

自社ウェブサイトの課題はIRコーナー

神原 弥奈子氏

サミーネットワークスでは自社のウェブサイトを担当しているのも広報課だということで、現状の自社ウェブサイトの課題について聞いてみました。

手が回っていなくてぼろぼろなんですよね……。年明けにリニューアルオープンの予定なんです。細かなメインテナンスはしているのですが、ちょっと手の込んだ作業が必要になることは放ったらかしになってしまっている……のが現状です(苦笑)」(西村氏)

いま力をいれたいのは、投資家向け情報だということ。

ウェブサイトは“待ち”の武器。でも、当社は認知度を考えても、待っている状況じゃなくて、自分たちで攻めていかなければならない。

ベンチャーだったり、当社のようにまだ認知度の高くない企業の場合、世間一般の人がいきなり企業名で検索することは少ない。というわけで、“企業名で検索して企業サイトへアクセスしてくれる人=株主さん”となるのです」(西村氏)

そういう意味でも、ニュースリリースは、株主のみなさんに読まれることもかなり意識しているそうです。

とはいえ、現在のウェブサイトでは、ニュースリリースが多すぎて、直近の財務情報が埋もれてしまうという構造になっています。ウェブサイトのリニューアルでは、コーナー分けなどをして、この辺の対応も実現していく予定です」(西村氏)

モバプリでブロガーリレーションを体験!

オンラインマーケティングで最近話題のキーワードの1つが「BR」、つまりブロガーリレーション(Blogger Relations)です。サミーネットワークスでは、いち早くブロガーを活用した情報発信にも取り組んでいます。

「2月20日の日経1面の特集『ネットと文明』にONEDARI BOYSが出ていたのを読みました。世間ではこんなことが起こっているのか、というのに驚いて、すぐにコンタクトをしました」(西村氏)

「ONEDARI BOYS(おねだりボーイズ)」とは、著名ブロガーが集まったグループの名前。企業の製品を積極的に「おねだり」して試用させてもらい、その感想などを各メンバーのブログ上でレポートすることで、ブログを通じたクチコミに貢献している。

クチコミマーケティングのパイオニアONEDARI BOYS(おねだりボーイズ!)

企業側からコンタクトをとることも可能だが、そうした案件すべてがブログでとりあげられるわけではない。メンバーが「使ってみたい」「試してみたい」と興味をもたなければ記事にはならないのが特徴となっている。

サミーネットワークスがONEDARI BOYSに提供したのは、携帯電話から直接プリンタにデータを送信して印刷するサービス「モバプリ」。西村氏のアクションで興味をもったONEDARI BOYSのメンバーにより、次の記事が書かれました。

ONEDARI BOYS

muPassやモバプリは、メディアやエンドユーザーに向けてのステージだと思っていたタイミングだったので、おもしろいかと思って、コンタクトをとってみたんです」(西村氏)

旧態依然とした広報業務から脱せない人が多いなか、西村さんの情報感度の高さと行動スピードの速さには驚きます。

検索結果からテレビの取材依頼が

ネット上での情報ボリュームの重要性は、この連載でも何度か話題としてあがっています。サミーネットワークスさんの場合、検索結果からモバプリのテレビ取材につながったことがあるということで、まさに「情報量=コンタクトポイントの数」ということでしょうか。

私も試しにグーグルで「モバプリ」を検索してみました。すると検索結果には、提携企業のリリースと同時に、オンラインメディアの記事がずらっと並んでいます。

オンラインメディアで紹介されることは、全国紙で紹介されるよりも喜びは小さいかもしれない。でも、検索結果を見れば、モバプリに関する記事が並んでいる。こういうのがいいんです」(西村氏)

広報としてテレビにアプローチしたときは「けんもほろろだった」という西村さん。検索結果を見て、テレビ側から直接取材依頼があった喜びは大きかったようです。

もちろんメディアからの取材も良いことなのですが、「問い合わせが来たよ、と事業部の人から言われたときが一番うれしいですね」というのが、西村さんらしいところです。

西村 佳隆氏

公式ブログもスタート!

2007年8月23日より「モバプリstaff blog」というサミーネットワークス初の公式ブログがスタートしています。このブログは、モバプリのスタッフ数名が順番に書いているとのこと。

モバプリのような新しいサービスは、使用シーンがなかなかイメージしにくいものです。「ブログを通じて、モバプリの便利さや楽しさを伝えていきたい」ということで始まった「モバプリstaff blog」。まだまだユーザーの反応は少ないようですが、ページビュー数は確実に上がってきているとのこと。

現在、ヤフーでの検索結果のトップがモバプリの公式サイトになっているのは、ニュースリリースとブログの効果だと思います」(西村氏)

事業部で自発的にスタートしたブログ。これからの展開がたのしみですね。

◇◇◇
西村氏
携帯電話から年賀状を、しかもお年玉付き年賀状を送れる新サービス「ケータイPOST de 年賀状」も始まったサミーネットワークス。こちらの広報も西村さんの手腕でバッチリ?

西村さんとお話をしていて感じたのは、その情報感度の高さ。

従来のマスメディア重視の広報担当者が多いなか、ネットPRに関心の高い人は、どちらかというとマーケティング寄りの人が多いように思われます。

いち早くブロガーリレーションに取り組んでいる西村さんは、広報が立ち上がったときのメンバーということで、非常に柔軟な発想をしていると感じました。いろんな勉強会やセミナーに積極的に参加しているそうで、「そこで会った人はみなさん、情報感度は高いですよ」とのこと。

すでに広報体制ができ上がっている企業では、新しいことにチャレンジするのは難しいこともあるでしょう。ネットPRでは、既存の広報担当者と新任の広報担当者の間で経験値の逆転現象が、すでに起こっているのかもしれません。

用語集
SEO / インデックス / クチコミ / ダウンロード / ブロガーリレーション / ブログ / ブログマーケティング / ページビュー / マスメディア / 広報 / 検索エンジン / 訪問
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