雑誌広告とネットPRの使い分けで企業プレゼンスと獲得をそれぞれ向上/ロックオンの場合
PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ
多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。
従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。
広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。
この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。
神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)
広告効果測定ツールとして有名な「アドエビス」を提供しているロックオン。2006年9月には、ECパッケージ「EC-CUBE」をオープンソース提供するなど、新しいスタイルでオープンソースの事業化にも挑戦中です。
企業マーケティング担当向けのB to Bサービスと、ネットの住人であるプログラマやエンジニア向けのB to Cサービス。大きくターゲットの異なるこの2つの商品別のマーケティングについて、ロックオン代表取締役の岩田進さんと、EC-CUBEのマーケティング担当の中田さんにお話を伺いました。
リアルとオンライン、サービス別に戦略を分けた理由
ロックオンが提供する2つのサービス「アドエビス」と「EC-CUBE」は、ターゲットが大きく違うため、マーケティングもまったく異なる戦略で展開されています。
雑誌広告を中心にマスマーケティングを展開しているのはアドエビス。恵比寿さまをモチーフにしたオリジナルのキャラクタを採用しているので、目にした方も多いのではないでしょうか。
一方で、EC-CUBEは、ネットのリリースサービスを使って、小さな情報をたくさん提供していくスタイル。あまり広告は出していません。
「広告効果測定のアドエビスは、広告を出稿する企業のマーケティング担当者に使ってもらうサービス。企業担当者が自社のマーケティング施策内容を詳細にブログで綴ることはほとんどありませんので、クチコミが見込めないサービスです。そこで、マーケティング担当者とのコミュニケーションとしては、雑誌というメディアがさわしいと考えました」(岩田氏)
アドエビスについても、雑誌で伝わりにくいところは、ネット上の記事体広告も利用しています。オンラインメディアを比較し、また企業のマーケティング担当者がどういうメディアを閲覧しているか、またRSSはどれくらい利用しているかを岩田さん自身が、お客様の声を聞きながら媒体選定をしているそうです。
「アドエビスのオンライン広告の効果指標はCPA(Cost Per Action:獲得単価)。最初にいろんな媒体に広告を出稿してチェックしたところ、獲得数が一番の媒体は、リーチが一番の媒体とは別のところだったんです。もちろん、アドエビスを使って効果測定しています(笑)」(岩田氏)
アドエビスの場合、雑誌で広くリーチして、ネットで引き上げると、明確に使い分けているとのこと。
一方で、EC-CUBEについては「話題性もあり、クチコミを見込むことができます」と岩田さん。
ロックオンの最近1年間のニュースリリースの一覧をチェックしてみると、たしかにEC-CUBE関連のものが中心になっています。情報を発信することで、ネット上での情報流通を仕掛けているわけです。
B2Bの商品にキャラクタを投入
マスマーケティングを展開している「アドエビス」。その広告の中心が前出の恵比寿さまをモチーフにしたオリジナルのキャラクタです。
B2Bの商品でキャラクタ戦略を採用しているところといえば、サイボウズが思い浮かびますが、ロックオンでは、どのような意図でキャラクタの登用を決めたのでしょうか?
「このツール(アドエビス)を開発して3年になります。当時からアクセス解析のツールはいくらでもあった。そこに我々が参入するときの最大のポイントは、『カンタン、正確、低価格』という3つのコンセプトです。すべてのプロモーションの戦略はそこから派生しているのですが、このキャラクタも3つのコンセプトをいかに表現するかということで、採用しました」(岩田氏)
コンセプトを具現化するために採用されたキャラクタは、同時に、マーケティング担当や、広告代理店の人たちも親しみやすさをアピールしています。
「広告代理店の人は、小難しいものを使いたくないんですよ(笑)」(岩田氏)
広告効果測定がどうあるべきかについて、市場に対してアピールしたいメッセージがたくさんあるという岩田さん。
「テレビの効果測定には、視聴率調査というものがあることは、だれでも知っています。ネット広告の効果測定も、これと同じくらい一般的なものになる可能性があるとは思うのですが、まだまだ認知されていません。これからは、効果測定市場全体を盛り上げていくためにも、声を大きくしていきたいと思います。」(岩田氏)
クチコミの元は、ニュースリリース
ネット上での情報流通を中心に、まさにネットPRの王道を展開しているともいえるのがECオープンソースの「EC-CUBE」。EC-CUBEを投入する際にはどういうマーケティングのイメージを持っていたのでしょうか?
「そもそもオープンソースだし、広告予算もつけにくい社内事情もあったので、最初からネット上でのクチコミを見込んでいこうと考えていました。そのためには、クチコミのもとになる情報ソースが必要だと思って、ニュースリリースを活用することにしました」(岩田氏)
「実際にリリースを出すと、サイトのアクセス数が増加します。出した直後に増えるのと、その後の休日前夜・休日には、ダウンロード数が通常より増加するという傾向があります。これはEC-CUBEに注目されている方が、業務時間中に情報を収集し、仕事が終了してから、個人的にダウンロードして検証されているのではないかと考えています。そして、ダウンロードされているデータのリンク元をみるとほとんどが開発コミュニティ経由となっています」(中田氏)
この話からもおわかりのとおり、ニュースリリースを読んでいるのは、実際に開発者に関わっている開発者の方々のようです。「すでに使っていらっしゃる開発者の方々を意識して、ニュースリリースのタイトルに機能追加などの具体的な内容を入れるなど工夫しています」と中田さん。
ダイレクトにユーザーに届いているということを意識している中田さんの方法論は、昔ながらの「リリースの読み手はプレスなどのメディアの人」という限定された発想を越えて、ネット中心のPRをうまく組み立てている良い事例ですね。
活きたコミュニティに育てるために
EC-CUBEの専用サイトでは、商品の発表時点からコミュニティを作り、コミュニティの人たちと協力しながら情報を提供しています。ネットのコミュニティは、ハコは簡単に用意できても、そこに人を集めて活きた場所にするには、時間も手間もかかります。ゼロからの立ち上げの苦労や運営の課題についても、質問してみました。
「(社内的には)有償のサービスを利用している方と同じように、コミュニティ対応をしようとやってきました。リリースしたタイミングで参加してくれたユーザーに見放されると、その後がなくなってしまう。問い合わせがあれば、必ず社内で即回答するといった施策をしていました。結果、初期のユーザーさんが、かなり熱烈な支持者になってくれていると思います」(岩田氏)
コミュニティが活性化してきて、最初に盛り上がりを見せるまでは、どれくらいの時間がかかったのでしょうか?
「実際に使ってみて、店舗の事例が上げられ始めたのが3ヵ月後なんです。それをみて、実際に作ってみようという方々が参加してきて……。サイクルが回りだしたのが3か月くらいですね」(岩田氏)
コミュニティの情報は、「不具合の問題や機能要望など、次期開発につなげるためのフィードバックの役割」という岩田さん。一方で、コミュニティから漏れている情報はmixiから入手しているというのは中田さん。
「実は、商品をリリースした翌日に、mixiでコミュニティが立ち上がっていたんです。今もコンスタントに人数が増えていて、400人を越えました。mixiコミュニティは、開発コミュニティよりもフランクに利用者同士での情報交換の場として利用されていますので、こういった場でのコメントなどから、施策のヒントを得る事もあります」(中田氏)
ユーザーコミュニティを成功させるためには、自社で用意している公式のコミュニティでの対応はもちろん、ユーザーが自主的に作っているSNSなどのコミュニティの情報も活用していく情報収集力が求められているようです。同時に、事例が登場するまでにかかった3か月間のように、コミュニティが自立していくまでに必要な時間をあらかじめ想定しておき、その間の支援体制を整備しておくことも運営を軌道にのせるための大きなポイントなのかもしれません。
広告効果測定ツールの広告効果測定の実態は?
広告効果測定ツールを提供するロックオン。自社の広告効果測定においても、かなり厳しい視点があるのではないかと予想していたのですが、その実態は……。
「(アドエビスのマスマーケティングについては)正直なところ、雑誌からウェブに流れてきて、日常のページビュー数に影響するほどの効果はないんですよ。ウェブの広告に関しては獲得中心。効果に関してはシビアにみていっています。おもしろい効果があって、同じ枠でもクリエイティブによってぜんぜん効果が違います。CPAよりもオーダーレベルや企業規模レベルと広告をいかに紐付けながら測定していくかというのを、現在、研究中です」(岩田氏)
「EC-CUBEについては、どこのブログでどれくらい取り上げられたのかを注目しています。Googleのブログ検索やテクノラティで検索した結果をRSS形式でフィードリーダーに登録して、随時モニタリングしています」(中田氏)
ブログに書かれるということは、情報がきちんと届いていること。情報源はニュースリリースからダイレクトの場合もあれば、「リリースとブログの間にオンラインメディアがある場合も多い」という岩田さん。オンラインメディアに取り上げられることで、情報が拡散し、またブログからも情報が拡散していく。そういう情報流通の動きが見えているようです。
実は、EC-CUBEとしても、2~3か月に1回くらいの頻度でバナー広告を出稿しているそうですが、「バナーから入ってきて、ダウンロードに結びついたということはあまりない」(中田氏)とのこと。
「EC-CUBEの広告は、獲得は目的にしていません。ダウンロード件数に紐づけて効果を解析できるようにはしていますが、その数を増やすことは広告の目的ではありません。実際にダウンロードしてご利用いただく開発職種の方の間では、すでにEC-CUBEという製品は多く知られるようになりました。バナー広告は従来、接触できていなかった層、たとえば、開発者にサイト構築を依頼する企業のWeb担当者層に商品を知っていただくという『認知』が目的です」(中田氏)
雑誌広告からネットへの誘導がほとんどないというのは、驚きました。紙からネットへという導線を期待するのではなく、それぞれの媒体に特性に合わせた目的を持ったマーケティング活動だと考えれば、この結果にも十分納得できます。同時に、ネットの広告においても、目的を明確にすることによって、画一的な指標はではなく、目的に合った指標を立てられるということですね。
「EC-CUBE」でオープンソースのビジネス化に挑戦しているロックオン。「オープンソースは、収益化のモデルが描きにくいので、大きな会社じゃやりにくい。でも、小さな会社じゃきつい。ロックオンの規模でやることに意義があると思っています」と岩田さん。新しいことにチャレンジすることで、企業としてのプレゼンスの向上につながっていることを実感しているそうです。
特にネットPRを活用した積極的な情報発信とブログやコミュニティの活用は、お客様はもちろん、採用においても大きな効果が出ているそうです。
マーケティングの効果を、マーケティングの枠の中だけに終わらせない。広告と広報の壁がなくなっているのと同時に、企業として、その効果の捉え方も多面的に見ていく段階にきていることを再確認しました。
ソーシャルもやってます!