数百万ページのイントラネットをCMS化
社内情報を俯瞰して“見える化”を促進
NECエレクトロニクス
+NOREN4 Content Server(株式会社アシスト)
取材・文:加藤さこ
URL | — |
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目的 | 社内コミュニケーション |
総ページ数 | 数百万ページ(PDFやWord、Excelなどのファイルを含む) |
PV数 | — |
ビジター層 | NECエレクトロニクスグループの社員(約2万人) |
オープン | 2002年 |
更新頻度 | 随時 |
- 既存サイトとは別に新規サイトを構築
- 配信形態は静的HTMLファイル出力を選択
- 選定期間:約2週間(以前から検討は進めていた)
- 導入期間:約3か月
- CMS導入費用:1,000万円弱
- テンプレート構築費用:数百万円
- プロジェクト人数:2〜3人
- 既存コンテンツの扱い:共存。既存のコンテンツは残しておき、そこへのリンクも簡単に張れるようにした
50事業部2万人のためのイントラネット
伸び悩み傾向にある半導体市場で、NECエレクトロニクスは中国国外で製造された半導体を中国国内にも輸入販売する権利を国内半導体メーカーとして初めて取得するなど、意欲的な活動をしている。
NECエレクトロニクスは、2002年11月1日にグループ社員約2万人の専業メーカーとして日本電気株式会社(NEC)から分社し、新たな一歩を踏み出した。しかし、NECから離れたことで、自前のイントラシステムが早急に必要になった。NECエレクトロニクスがこの問題にどのように取り組み、CMS導入に至ったのかの経緯を、コーポレートコミュニケーション部エキスパートの野口 勇氏に聞いた。
「NECからの分社によって、これまで使っていた社内向けポータルサイトをはじめ、多くのシステムが使えなくなってしまいました。早急な解決が求められ、会社設立と同時に社員向けのポータルサイトを作りました」
コンテンツとしては当初は毎週更新の“社長通信”や総務からのお知らせに限られていたが、次第に各部門からも発信したいという声が高まった。そこで、ポータルサイトに各部門専用のコンテンツを作成し、部内情報発信/共有サイトとして活用できるように作り変えていった。
しかし、NECエレクトロニクスには約50の事業部、数百部門があり、グループ社員数は2万人にも上る。Web担当者がすべてのコンテンツ作成に関わることは不可能だ。実際のコンテンツは現場で作成、管理することになり、各部に作成を専門に行う社員を置き、必要な場合は外注も出した。NECエレクトロニクスにはスキルの高い社員が多く、現場に任せることで負担はなくなった。しかし、スキルがある故の問題も持ち上がった。
「作成についてのルールがなかったので、各部門がそれぞれの方法で作成したために、統一されない50とおりのコンテンツができてしまいました。HTML的にも、タイトルを表示するのに使用されているタグも各部門で違いがあり、社内検索が役に立たない。これではせっかくのコンテンツも正しく検索されず、利用価値が半減してしまいます。
その解決として、まずは約10項目のガイドラインを設けて、ページのヘッダー/フッターのデザインや標準ナビゲーションなどを統一し、月報、業務分担表、業務連絡などは階層をそろえ、フォントも統一させました」
このようにして環境を改善していったが、すべて手作業で行うという作業効率の悪さは問題として残った。さらに、分社からしばらくは頻繁に組織変更があったため、そのたびに部門公式サイトを作り替えたりコンテンツを移動したりする必要があった。
導入失敗に終わった自由度の高いCMS
スタートして4年後には、イントラネット上のコンテンツ数は、HTMLやPDFなどで数百万ファイルにもなっていた。のべ数百人の担当者がホームページ作成ソフトを使って手作業で更新することに限界を感じた野口氏は、作業効率をアップし、各部のコンテンツを統一させるためにCMSの導入を決断したのだが、想定外の問題が起きてしまった。
「社外向けサイト用とイントラネット用の両方にCMSを導入しようとしたんですが、そのときは社外向け用途が主眼でした。また、社員からの要望に応えられないと困るので、なんでもできる自由度の高いCMSを選ぼうと思ったわけです。そこで、作り込みさえすればなんでもできる多機能なフレームワーク的なCMS製品が選ばれました。
しかし、自由度が高いというのは、その分、カスタマイズが必要だということなのです。イントラネット向けのテンプレートを作ってもらったのですが、できあがってきたテンプレートは利用者にとって大変に難解であったうえに、使いやすくするためにユーザーインターフェイスを変えるのにもオプションが必要となり、テンプレートを作るたびに費用がかさみ、このままいくと結局数千万円もの費用が追加になることが見込まれました。
このCMSは、複雑な要求を満たす必要がある社外向けサイト用には良かったのかもしれませんが、とにかく安く簡単にサイト構築をしたいイントラネット向けにはこのCMSは使えないという判断をせざるを得ませんでした」
なんでもできるという自由度の高さが故に費用も手間もかかってしまったのだ。ごく当たり前のことを実現したいだけなのに、その当たり前の仕組みをイチから作らなければいけなかったからだ。この失敗を教訓とし、2006年に改めてCMSを導入することとなった。今回は、大規模なカスタマイズなどの手間なく利用できる手軽なパッケージという条件で野口氏が製品を選定することになった。
「実は、公開サイト用に使っているものとは別にCMSを導入する必要性を説得するほうが大変でした。まずは経費削減ということで、それこそ『50事業部それぞれにあるDreamweaverのようなHTML作成支援ソフトを1本4万円でバージョンアップしたら、それだけで200万円じゃないか、パッケージソフトを個別に買っていたら全部の資産管理も必要だし』なんて言って説得しましたね。
それに、百数十人からいるイントラネット更新に携わるスタッフがそれぞれホームページ作成ツールのセミナーに行って勉強をして、それでもやっぱり私のところに質問に来たりという時間も費用もばかになりませんし、“HTMLフリーで手軽に使える”CMSの導入は必須でしたね」
2年前に比べるとCMSは進化をしており、製品の数も増えていた。そのため、条件に合う良い製品を20〜30種ほどの中から検討することが可能だった。手軽という条件の他に、既存コンテンツとの共存とウェブサーバーの負荷軽減のために静的HTMLを配備するタイプのものであることや、大手企業が大規模サイトに導入しているという事例を公開していて実績がはっきりしていて、構築の参考にできることが挙げられた。
その条件でふるいにかけた結果、残ったのは2〜3社のCMSだった。その中で選定時にバーションアップしたばかりの『NOREN4』が最適だと判断された。
「成功事例のあるところにこだわったのは、CMS導入の予算を取るのに上司を説得するためと、その事例で私自身もシステム構成をイメージできるためです。実際に、NORENは日立グループ全社導入という事例があったため、稟議は一発で通りました。また、事例で利用しているハードウェアの性能なども問い合わせれば教えてもらえたのも大きかったですね。そこがわかれば必要なライセンス規模やハードウェアのコストが明確になりますから」
サイト構造化の見直しと各部でトレーニングを開始
導入決定後、まずはNOREN4の発売元である株式会社アシストへ事業本部がトレーニングを受けに行った。そこでNOREN4の豊富な機能に触れた野口氏は、自分たちでシステム作りをするよりも、やはりNORENを良く知った人に頼むべきだと判断し、アシストのパートナー企業を紹介してもらった。そうして巡り会ったのがWebシステムのトータルソリューション会社である株式会社アイアクトだ。7月からアイアクトと共同で移行の準備を開始し、導入には3か月を費やした。
「アシストさんからアイアクトさんを紹介してもらえたのは非常に助かりました。どう構築していくのがNORENのパフォーマンスを最大限に引き出せるかという点を、このCMSを知り抜いているアイアクトさんがしっかりと考えてかつ具体的な形にしてもらえましたから。
また、イントラネットでは、その部でそのときにどんな活動がされているかを知るために月報や週報は重要なコンテンツなので、そこを徹底的に考え抜き、自由度も利便性も高いものにしようと。月報や週報は、週末にエクセルやワードで作って月曜日にファイルをアップロードする人が多かったので、ファイルを簡単にアップロードできるようにして、サイト上の情報が常に最新の状態にできるようにする部分には相当こだわりました」
アイアクトの南澤氏は、今回のCMS導入に関してこう語る。
「ポイントとしては、バックナンバーやコンテンツ一覧、パンくずリストを自動生成したりと、サイト構築時に必須ではあるが面倒で忘れやすい部分を自動で処理するようにするなど、更新者の工数を最大限に軽減してあげる部分も、徹底的に考え抜いて構築しました」
バックナンバーを自動的に作ることで、見やすいサイトが実現し、テンプレートの使用を促すことによってコンテンツもシンプル化できる。
また、以前に手作りで作っていたサイトは、削除もCMSへの移行もせずにそのまま残しておいて、既存のコンテンツへのリンクも簡単に張れる選択肢も用意した。すべてのコンテンツをCMSに移行せず、既存のコンテンツの一部を残した理由は、野口氏によると「既存のコンテンツをCMSに移行してください」と言うと、現場の人が「いつまで? どこからどこまでを? 絶対にやらなきゃダメ?」と身構えてしまうからだということだ。
「ですので、こちらからは使いやすいほうを使ってくださいと。月報や週報はCMSを使うほうが楽ですから、まずそこから使ってみてもらうことにしました」
導入に向けて各事業本部への説明会を開き、担当者にはマンツーマンで1時間ほどのトレーニングも行った。トレーニングでは、まずはイメージをつかみやすいようにサンプルページを作成し、それを元に説明していった。
「トレーニングを実施する際に、CMSは一種のブログのようなもので、専門知識がなくても簡単に扱えることを話すと、理解を得られました。サンプルを作ったことで実際に操作しながら教えることができ、非常に役立ちました。
実際、手作業で面倒な点はすべて自動化させていたので、難しい操作は一切必要ないんですよ。中身を入力するだけで、パンくずリストが自動的に作られてトップページや一覧が勝手に更新されるのを見ると、社員は『おぉ、これは助かる』と驚いていました(笑) NORENの簡単さを見て『もうHTMLなんて覚えたくないです、この画面から入力します』という営業の人もいましたし(笑)」
ファイルを置く階層も、部門内に知らせたい情報は部門のトップページへ、社内全体に知らせたい情報はトップのポータルへというルールを作り、情報所在の明確化を図った。また、点在していたり欠けてしまったりしていた過去記事の一覧は、自動的に指定のフォルダに生成し、保存され、人的操作する必要もなくなった。
利用する社員の間口を広げることは、CMS導入を成功させるには非常に大切だ。コンテンツ入力画面を使いやすくし、インターフェイスを統一することに気を遣った。さらに丁寧にトレーニングを行ったことで、社内にCMSは使いやすいという認識が高まった。これにより、CMS導入目的の1つである『全部門がきちんと情報を出してくれるように』という点は解決可能となり、導入準備が整った。10月から導入を開始し、年内に20部門を目標としてイントラネットのNOREN化を進めている。
俯瞰性・検索性・用語統一の改善で「見える化」を実現
NORENの導入により、その操作の手軽さから、これまでイントラを利用しなかった社員も積極的に情報をアップロードするようになった。
構造が統一された形のサイトをCMSで構築して情報の俯瞰性を高めたNECエレクトロニクスでは、Googleアプライアンス(社内ネットワーク専用のGoogle検索システム)を導入することで過去のコンテンツも含めて検索性を高め、さらに用語の違いによる検索漏れを防ぐために、Wiki(ウィキ、簡単に中身を編集できるある種のCMS)で用語集を作り、用語統一を行うように進めている。
このようにしてイントラネット内での情報を出したり見つけたりする仕組みを整備することで、進行中のプロジェクト状況や問題点などが随時見えるようになることが期待される。野口氏にとっては、CMSの導入は情報の『見える化』のためなのだという。
「今は情報を“出しているだけ”で、共有がうまくできていません。そのため、異なる事業部で同じものを開発していたという無駄なことが起こりやすいのです。時間のロス、費用のロス、すべてにおいて無駄が生じます。
NORENの導入で積極的に情報発信されると、このような問題を早期発見できるようになって、社内情報の『見える化』は格段にアップしていくと期待しています。情報発信を円滑に行うことで作業の無駄を省き、サイトを俯瞰できるようにし、検索性を高め、用語統一をしていくことで、現場の問題点をより効率的に発見していくことができるようになるでしょう」
また、NORENには、利用してみて初めて痛感した利便性があった。それに気づいたのは組織改正のときだ。
「組織改正が頻繁にあり、半年に一度のペースで実施されるのですが、その際、人事や部の異動に伴ってサイトも移動することになります。この作業は本当に大変で、これが面倒だからと、極端な例ではサイト自体を放棄してしまうケースすらあります。
しかし、NORENはサイトの横展開が得意だったんですよ。50事業部、つまり50個のサイトを統一して簡単に管理できるだけでなく、部から部へのコンテンツの横移動も楽に行えますし、新設された部のサイトを作るのも非常に簡単です。一から作るのが当たり前だと思っていたことが、こんなに簡単に実現できるとわかり、非常に助かっています。アイアクトさんは、このNORENの長所を最大限に引き出してくれました」
強力なパートナーと共に半歩先を見てまず実践
野口氏は次のステップとして、各部門がコンテンツを更新したら連動して自動更新されるRSSでのサイトマップ一覧を作成する予定だという。そして将来的には1社員1ブログも想定している。
「まずはCMS導入、そして次に何ができるかを考えていきます。社員ひとりひとりにブログを持たせ、それをRSSで各部に吸い上げてポータルに載せるという構想もあります。
あと、構想レベルですけど、不特定多数の個人間で直接情報のやり取りを行う社内P2P(ピアツーピア)などもアイデア的にはありだと思います。でも、これをイントラ内で実現するのは、セキュリティ的にも文化的にも当分先のことでしょう。二歩も三歩も先に取り組んでいても良い結果は得られませんし、だれもついてきてくれません。欲張らずに、まずは半歩先を見越して取り組んでいくことが成功につながると思います」
また、スキルが高く、要所で提言してくれるような、長くつきあっていけるソリューション会社やCMSベンダーといったパートナーを持つことも非常に大事だと野口氏は言う。
協力しあい、現状の問題点をしっかり把握し、CMSを活用するとどのような解決が得られるのかをシミュレーションしていく。そして二歩三歩先を頭の片隅に置きながらも、大きくは「半歩」先を見て、まず実践してみる。それがCMS導入成功への鍵となるようだ。
導入の目的・解決したかった問題点
- 情報の俯瞰性を向上して見える化を推進する
- HTMLからの解放によって情報掲載の敷居を下げる
- 作業工数や教育費用を低減し、HTML作成環境を統合することでTCOを削減する
製品名 | NOREN4 Content Server |
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提供事業者 | 株式会社アシスト |
URL | http://www.ashisuto.co.jp/prod/noren_cs/ |
提供形態 | インストール型 |
出力形態 | 静的HTML出力/動的ページ生成 |
対応OS | Windows/Linux/Unix |
特 徴 | 日本市場特有のニーズに対して積極的に機能を改善し続けている「使いやすさ」「便利な機能」が売りのCMS |
従来のシンプルな使いやすさはそのままに、日本市場の特徴である複雑な企業形態や大規模サイトにも適用できる柔軟性/スケーラビリティを強化したバージョンとなっている。また、J2EE、XML、ウェブサービスなど業界標準へ準拠するなど、小規模サイトから大規模サイトまで利用できるコンテンツ管理システム(CMS)として幅広いリファレンスユーザーを有している。
- 高度なカスタマイズを行わなくても使えること
→以前の製品では自由度が高すぎて何をするにもカスタマイズの手間やオプションが必要だったことから - 静的HTMLファイルを出力できること
→数百万ページのコンテンツがあるので、動的に出力するよりも必要なハードウェアの性能を低く抑えられるように - 大規模サイトでの実際の運用実績があること
→導入の予算を確保するためには、成功事例を示すと説得力が増すため
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.3』 掲載の記事です。
※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時(2006年11月)のものです。
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