第2回 視線の動きからユーザーの行動を読み解く「アイトラッキング分析」


第2回
視線の動きからユーザーの行動を読み解く
「アイトラッキング分析」
現実の店舗や窓口では、目の前にいるお客が困っていればすぐにわかるし、同じトラブルが重なれば問題が起きないように施策をとる。しかし、ウェブサイトを作っているときにはお客は目の前にいないし、公開後にお客の対応をするのはウェブサーバーやスクリプトという機械だ。そのため、現実の商売では当然のように行っている接客ができない、いや忘れてしまってはいないだろうか?
今木 智隆(株式会社ビービット)
見えなかった「ページ内の」ユーザーの動きが見える
ユーザビリティテストやアクセス解析を行うことによって、ユーザーが何を考えて、どのような流れでサイト内を行動しているか、かなりの部分を知ることができる。しかし、次のような疑問については、正確な答えを得るのは難しいことが多い。
- 本当に今のページで見せたいと思った情報を、ユーザーは読んでくれたのか
- ページ内のどの部分をどういう順番でユーザーが見ていたのか
- ユーザーがリンクを選択したときに、他のリンクも見たうえでクリックしたのか
これらの細部に渡るユーザー行動の分析を、ユーザーの目線の動きをくまなく記録することで可能にしてくれる調査手法が「アイトラッキング分析」である(図1、2)。
今回は、ウェブサイトの品質を大きく高める可能性を持つこの「アイトラッキング分析」について、その調査・分析手法とそこから得られる主な知見を紹介しよう。


4つのレポートから見えてくるサイト改善のヒント
アイトラッキング調査(Tobii社のシステムを利用)では、ユーザーごとに、?「どのような順番」で、?「どこを見ていたか」がすべて記録される。
現在ビービットで利用しているシステム「Tobii 1750 eye-tracker」では、このデータから、「Hot Spot」「AOI(Area of Interest)」「Gaze Plot」「Gaze Replay」の4つのレポートが得られる。
(1)Hot Spot
Hot Spotとは、熱感知カメラ映像のように、ユーザーがよく見ているサイトの領域をヒートマップとして表示してくれるものである。
複数のユーザーのデータを重ね合わせることが可能であるため、「ユーザー全体として(あるいは属性別に)どのような領域が見られているのか」を明確に浮き彫りにすることができる。
ビービットのウェブサイト(http://www.bebit.co.jp/ [1])を2つのユーザー群「企業のウェブ担当者」と「就職を検討している学生」に利用してもらったのが図3だ。アイトラッキング調査の結果からは、ユーザー群によって見ている領域が大きく異なることがわかる。
このように、Heat Spot分析を用いることにより、ユーザー属性にひも付いた行動内容をより詳しく把握することが可能になる。
「インターネットリテラシーによるユーザー行動の違い」「既存顧客と新規顧客による行動の違い」などは、特に貴重なインプットになるだろう。
(2)AOI(Area Of Interest)
AOIとは、ウェブページにおける領域別の注視率を表示する。領域は、自由に設定することが可能であるため、ナビゲーションや特集、あるいは主要なメッセージを掲載している領域がどの程度見られているのかを知ることが可能だ。
結果はグラフ形式で見ることが可能であり、ウェブページの枠組み(レイアウト)が有効に機能しているかを調べたりする際に大いに参考になるだろう。
(3)Gaze Plot
Gaze Plotは、時間の経過に伴う目線の軌跡をレポートする機能であり、ユーザーが、どこをどの順序で閲覧したかがすべて記録される。
注視した箇所は円形で表され、円が大きいほど注視時間が長いことを意味している(図4)。
ユーザーが最初にどこを見ているのか、そしてその後どのような順序で何を見ていくのかを知ることができる。

(4)Gaze Replay
Gaze Replayは、ユーザーのブラウザ上での全行動と、その際の視線の動きを動画形式で出力してくれる機能である。
ユーザーの行動のすべてを見返すことが可能であるため、FlashやAjaxなどを用いた複雑な動きや動的なページ、ポップアップなども含めた分析に対して大きな威力を発揮する。
また、動画やストリーミング配信の効果検証にも有効である。
今後、リッチインターフェイスやマルチメディアの普及が進む中で、さらにこのGaze Replayの価値が高まることが予想される。
ユーザーの行動を読み解くアイトラッキング分析
これまで述べたように、アイトラッキング調査を利用することで、ユーザーのサイト内の行動を把握できるだけでなく、サイトのどこが見られており、どこが見られていないのかを細部に渡るまで抽出することができる。
しかし一方で、アイトラッキング調査で得られたデータは、あくまでユーザーの目線移動と注視ポイントを示すものであり、ユーザーがなぜそのように動いたのか、そのとき何を考えていたのかという点までは知ることはできない。
また、ある対象物を注視していた結果が出たとしても、それを「好ましい」と感じていたのか、逆に「好ましくない」と感じていたのかはアイトラッキングデータだけでは判断することは不可能である。
このため、データが得られた後には、ユーザーとともに内容を振り返りながら行動をひも解く「アイトラッキング分析」を行うことが重要となる。実際にユーザーがサイトの内容をどう捉えたかという洞察を行うことで、よりよいサイト改善に繋げるということだ。
具体的には、サイトを使ってもらった被験者(ユーザー)とともに、得られたデータ、特にユーザーの行動経緯を記録したGaze Plotを見ながら、「このページではどうしてこのあたりを注視されたのでしょうか?」、「このページではナビゲーションをよく見ていましたが、どんな情報を探していたのですか?」といった形で、行動パターンに沿ったヒアリングを行う(図5)。
被験者は、自分のとった行動をすべて正確には覚えていないものだが、アイトラッキングによるデータを提示しながら行動を振り返ることで、よりそのときの記憶をリアルに思い出してくれるため、精度が高く有意義な意見を聞くことができる。
このように、アイトラッキング分析を用いたユーザビリティ調査を行うことで、より精度の高いロジカルな分析、さらには改善のためのインプットを獲得することが可能になる。
最後に、アイトラッキング分析によるページデザインの問題点発見とその改善例を示す(図6)。
調査結果
Hot Spot分析をしたところ、ユーザーに押してほしいボタンがまったく見られていないことが判明。見られていたのは画面中央部のテキストリンクだった。改善画面とその結果
見られない領域にあったボタンを見られる領域内に移動し、さらにテキストリンクに変更することで、ボタンに視線が集まるようになった。
- 制作した広告が実際に見られているかどうか効果検証したい。
- サイト利用者が注目して読んでいる箇所を知りたい。
- 視線の動きから、サイトを設計・リニューアルする際の参考にしたい。
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