第6回 サイト価値を最大化するためのトップページ設計術~4パターンの訪問者を想定して作る
第6回 サイト価値を最大化するためのトップページ設計術
~4パターンの訪問者を想定して作るトップページデザイン
現実の店舗や窓口では、目の前にいるお客が困っていればすぐにわかるし、同じトラブルが重なれば問題がおきないように施策をとる。しかし、ウェブサイトを作っているときにはお客は目の前にいないし、公開後にお客の対応をするのはウェブサーバーやスクリプトという機械だ。そのため、現実の商売では当然のように行っている接客ができない、いや忘れてしまってはいないだろうか?
今木 智隆(株式会社ビービット)
トップページ設計において考慮すべき
4つのユーザー利用シーン
トップページの設計やデザインは、ウェブサイトの構築を行ううえで、最も難しいポイントの1つだろう。構成するコンテンツの多さに加え、さまざまな制約やこだわりなどによって、四苦八苦したことのある方も多いのではないだろうか。
そんなときに重要なのは、単にうわべのデザイン(見た目)や色を変えることではない。ユーザビリティテストやアクセス解析によって、「トップページは何のために存在しているのか」「どんなシーンで利用され、訪問者はどのようなコンテンツへと移動したいと考えているのか」を明確にしたうえで、「あるべきトップページの姿」へと落とし込むことが、サイトの成功には不可欠である。
トップページには、さまざまな関係者の思惑やシステム仕様など、複数の要因が絡んでくることが多い(図1)。それだけに、設計者が(調査に裏打ちされた)明確なゴールを描くことなく進んでしまうと、周囲の意見に翻弄され、無駄な情報過多やユーザビリティの低下を招いてしまう。スケジュールの大幅な伸びにもつながるだろう。
今回はコーポレイトサイトを例にとって、トップページを訪問する際のユーザーの一般的な行動パターンを分類し、設計・デザインにあたってどのようなポイントを押さえるべきかを解説する。
サイトの目的や描くシナリオによってトップページの担う役割や、ユーザーの訪問状況は変わってくるものの、トップページを訪れるサイトのユーザーの利用シーンは、以下の4つに分類できるだろう。
①目的志向ユーザー
商品やサービスについての情報を、探しにやってくるケース。何らかのサービスなど、目当てとするコンテンツが事前にあってサイトを訪れるという利用シーンである。たとえばIR情報を求めて訪問するケースもここに当てはまる。一般的にもっともボリュームが多く、重要なユーザーセグメントに相当する。②ふらっと訪問ユーザー
CMなどの各種広告や外部リンクに興味を惹かれて、トップページへと移動してくるケース。①「目的志向ユーザー」とは異なり、旬のコンテンツにある程度興味はあるものの目的意識が薄い状態のユーザーも、トップページには数多く訪れる。③サイト内迷走ユーザー
サイト内の下位ページなどで迷ってしまい、止むを得ずトップページへと戻ってくるケース。ユーザーがサイト内で、どこへ行けばわからなかったときに頼りにすることが多いのがナビゲーションとトップページである。この際、ナビゲーションで行き先を発見できなかったユーザーや、「もう一度探そう」と考えたユーザーは、トップページへと戻ってくる。④サイト内リターンユーザー
サイト内の何らかの情報を見終わった時点で、なんとなくトップページへと戻ってくるケース。ユーザーは当初の目的達成をした後、よい印象をサイトに抱いている場合は、他の情報を探すこともある。その際の行動の基点にもっともなりやすいのがトップページである。訪問状況だけを見ると、一見②「ふらっと訪問ユーザー」に近いと感じるかもしれないが、すでにサイトに対して一定の満足度を抱いており、企業から与えられる情報に対してより受動的な(コンテンツを訴求しやすい)ユーザーである。- ①「目的志向ユーザー」と②「ふらっと訪問ユーザー」の比重をどの程度に保つのか
- 本当に③「サイト内迷走ユーザー」を救えるページになっているのか
- ②「ふらっと訪問ユーザー」と④「サイト内リターンユーザー」の違いを考慮したうえで対策を立てているか
- 商品やサービスなどのコンテンツへのリンクが、Flashやバナーに埋もれてしまわないようにする
- ユーザーが頭に描いているキーワードをしっかりと明示する
- ①「目的志向ユーザー」②「ふらっと訪問ユーザー」③「サイト内迷走ユーザー」④「サイト内リターンユーザー」という、4つのユーザーの利用シーンを把握する。
- 4つのユーザーの利用シーンの違い、比率、さらに個別の対策を意識する。そのうえでそれぞれの行動を想定したトップページ設計をまず行う。
- 「なんとなく」の感覚値やその場の意見に流されず、調査結果などに基づいたユーザー行動のセグメント化を行い、それらに対する「優先度」を明確にした設計を心がける。
上記以外に、「ファン層(コアなリピートユーザー)」が多いケースも考えられるが、コアユーザーへの対応は、「新しいものをしっかりと出す」ことで満足してもらえることが多く、性質が異なるため、今回は割愛させていただく。
たいていのサイト設計者は、①の「目的志向ユーザー」と②の「ふらっと訪問ユーザー」への対応は行っている。しかしその一方で、
といった観点を欠いてしまったまま、あるいは観点そのものをまったく知らないまま、設計を進めてしまっている場合が見受けられる(図2)。
トップページ、特に中規模以上のサイトのトップページを、設計者の「なんとなく」の感覚値やその場の意見に流されて作っていては、サイトがビジネス成果につながらないただのお荷物と化してしまう。しっかりとユーザーの行動と企業ニーズを捉え、掲載すべきコンテンツの方針を明確にすることで、「本当にこのアイデアは必要なのか」「設置すべきリンクは適切か」といった検討もきちんと行うことができるのだ。
4つのユーザー行動に対する設計で
行うべきポイント、行ってはいけないポイント
それでは、上記の4つのユーザーに対して、設計者はどのように対応すればよいのだろう? ケースごとに考えてみよう。
①目的志向ユーザーへの対応
目的とするコンテンツを頭に描いてトップページを訪れるユーザーに対しては、しっかりとした振り分け機能が求められる。そのためには、次のことが大切だ。
しかし、すべてのユーザーが希望するコンテンツへのリンクをトップページのみでまかなうことは不可能である。
アクセス解析とビジネスのニーズから、しっかりとコンテンツに優先度を付けてトップページへ掲載する項目を絞るとともに、「サービス一覧」「全商品リスト」といった一覧ページのリンクを設置し、ニッチなニーズを持ったユーザーにも対応することがポイントだ。
人間の短期記憶で処理できる項目(チャンク)数は、7個程度であると言われており、「マジックナンバー7」と一般に呼ばれる(さらに脳の処理能力によって±2程度の揺れが生じる)。しかもディスプレイ画面でウェブを閲覧する場合は、リアル世界の情報よりも視認性が20%低下するとされている。この「マジックナンバー7」を意識して項目数は考え、「7」以上の項目が並ぶことは、極力避けるように設計しよう。
②ふらっと訪問ユーザー/④サイト内リターンユーザーへの対応
目的意識の薄いこれらのユーザーへの対応で欠かせないのが、“PR系コンテンツ”である。多くのサイトのトップページでは、Flashやサイズの大きな画像を使ったアプローチを採用しているが、ここではさらに一歩考えを推し進めてみよう。
PR系コンテンツにも、「新規情報」「恒常的に魅力的なコンテンツ」という2つの観点が存在する。まず「新規情報」は、キャンペーンの通知や新商品のPRである。こちらについては言うまでもないだろう。ただし、テキストでニュースをいくら並べても、コアなユーザー以外には効果的な訴求はできないことが多い点には注意しよう。
忘れてはならないのが、2つ目の「恒常的に魅力的なコンテンツ」の設置である(図3)。「新規情報」は内容が新鮮だというメリットがある反面、ユーザーへの認知が薄く、コンテンツ変更も激しいためで、常に不特定多数のユーザー、特に④「サイト内リターンユーザー」に訴求を行うことは困難なケースが発生してしまう。サイト内の情報を見てトップに戻ってきたユーザーに対しては、新しいサービスや情報ばかりを提供するよりも、ユーザーにある程度認知されており、かつ常に設置していても一定の効果が見込めるコンテンツを強調して見せるほうが効果的なケースも多い。
また、同じPR系コンテンツでも、キャンペーンなどをただアピールするだけでなく、④「サイト内リターンユーザー」を意識して、バランスのとれた情報提供を行うこともポイントだ。
③サイト内迷走ユーザーへの対応
サイト内で迷子になって、止むを得ずトップページへ戻ってきたユーザーは、心理的なストレスがすでに強い状況にある。そのため、行き先の候補となるリンクを直感的に把握することができないと、サイトを離脱してしまう可能性が一気に高くなってしまう。しかも、このような場合、ユーザーはサイトに対する不満を残したまま離脱することになるので、リピート率の低下という2次的なマイナスも引き起こす。①「目的志向型ユーザー」への対応としてあげた、設置項目の吟味とわかりやすい文言の徹底に加え、ユーザーがサイトの全体感を一目で把握できるよう、レイアウトやデザインを工夫することが大切だ(図4)。
優先度を明確に!
以上のように、ユーザーの行動をしっかりと把握し、対応すべき施策を洗い出すことで、より精緻なトップページが実現できるだろう。
ただし、ここで忘れてはならないのが「優先度を付ける」という作業である。この優先度付けを怠っては、せっかくのユーザー分類も「画龍点睛を欠く」で終わってしまいかねない。トップページという1つの画面で、全ユーザーに最大限の対応を行うのは極めて困難な作業だ。どのユーザーセグメントがもっともビジネス上重要なのかをきちんと定義すれば、自ずと対応施策が明確になり、何を残すべきで何を削るべきなのかを判断できるようになるだろう。
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