検索順位下落からのV字回復! 「DOORS」が考える本質的なSEOとは
Googleのコアアルゴリズムアップデートにより、ビッグキーワード、ミドルキーワード、ロングテールキーワードなど、多岐にわたるキーワードで検索順位が下落したブレインパッドが運営するオウンドメディア「DOORS」。
特にビッグキーワードの順位下落の影響が多く、オーガニックの検索流入数が順位下落前の60%程度まで低下したという。検索順位およびオーガニック検索流入数の回復をすべく、SXO(Search Experience Optimize、検索体験最適化)を意識して、コンテンツの見直しを行ったところV字回復をとげ、下落以前の130%にまで回復した。DOORSの運営に携わる次のお二方にお話をうかがった。
Googleコアアルゴリズム変動で順位下落も。どのように復活させたか?
「データ活用の促進を通じて持続可能な未来をつくる」をミッションに掲げるブレインパッド。世の中で「DX」がバズワードになる中、同社ではDXの本質であるデータ活用に20年以上携わっており多くの実績があるにも関わらず、「DX分野での知名度が低い」という潜在的課題があった。「世の中にDXに関する正しい知見を提供したい」という強い思いから、2020年11月にDX・データ活用専門メディア「DOORS」を立ち上げた。
メディアとして順調に成長していたが、2021年11月頃に実施されたGoogleのコアアルゴリズムアップデートにより、一部のキーワードについてセッションが落ちた。変動はビッグキーワードからミドルキーワード、ロングテールキーワードまで多岐にわたり、特にビッグキーワードの順位下落の影響が大きく、オーガニックの検索流入数が順位下落前の60%程度まで低下したという。
長岡氏が毎日検索順位をチェックしていたため、すぐに順位変動に気づき、即座に対策を考え着手した。その結果、1月下旬から検索順位およびオーガニックの検索流入数が回復しアップデート前と同程度のセッションに、その後は130%程度まで増加している。
対策としては、まずは検索品質評価ガイドラインの更新内容をチェック。加えて、Googleの公式ブログやGoogle関係者のTwitterを確認した。その結果、
- ユーザーニーズに沿った品質の高いコンテンツになっているかの見直し
- 検索体験をより良くするためのサイト整備
上記2点が検索順位回復のポイントであると判断した。下落したコンテンツを中心に約1か月間、集中的に見直しを行い、最新情報への更新と専門的知識の追加を行った。これに加えて、titleタグやmeta description、内部リンクの調整など検索体験をより良くするための技術要件の整備も行ったところ、検索順位およびオーガニックの検索流入数がV字回復した。
SEOよりもSXOを重視。読者が何を求め、期待しているかを考える
メディアグロースのために意識していることは、ユーザー起点で考えるSXO(Search Experience Optimize、検索体験最適化)だ。Googleガイドラインに従って、Usability(ユーザービリティ)、Relevance(関連性)、Authority(権威)の3つの観点を重視している。検索エンジンアルゴリズムの対策をするというよりも、このフレームワークを使って、常に改善を行っているという。
検索順位の下落の主な要因は、SXOのうちRelevanceでした。メディアグロースを考える上で、SXO視点は欠かせませんので、アルゴリズムによる下落を経験して以降、定期的に見直しを行うようにスケジュール化しました(長岡氏)
Usabilityについては、ユーザーが使いやすく、読みやすいサイト設計にしている。Googleガイドラインをチェックして、コアウェブバイタルへの対策、サイト構造の最適化も実施している。施策の一つとして、自社製品であるレコメンドツール「Rtoaster(アールトースター)」を導入し、関連リンクの自動化やポップアップレコメンドを実装している。このツールを活用し、読者ニーズの喚起だけでなく、ニーズの仮説・実証にも役立てていく予定だ。
Relevanceでは、検索ニーズに寄り添ったコンテンツを作成するために、ユーザーの検索意図の深掘りを行っている。DX界隈は、情報の変化が早いので常に最新の情報を取り入れるようにしている。専門的な記事であっても、図や動画も記事に取り入れてDX初心者の読者でも伝わりやすいようにしている。
Authorityでは、専門性(Expertise)、権威性(Authoritativeness)、信頼性(Trustworthiness)のE-A-Tが重視されるが、データ活用を専門とするブレインパッドの社員が執筆、運営していることで満たしており、強みでもあるという。
Googleが第一に考えているのは、ユーザーの検索体験です。Googleのアルゴリズムのアップデートがあるたびに、上位表示のためのテクニックが話題になりますが、それよりもユーザーの方を向いて、検索体験を最適化することこそが本質だと考えています(長岡)
プロフェッショナルを集めた少数精鋭のチームで運営
DOORSの運営に主に携わるのは、編集経験があり、プロジェクトマネジメントを務める高田氏、SEOの知見のある長岡氏、それに主に企画を担当するもう1人を加えた3人だ。社員に担当している案件やプロダクト開発についてヒアリングし、その中からテーマと記事骨子を決める。記事執筆は社員が中心で、一部外部ライターに依頼している。
DOORSが扱うテーマは、DXプロジェクトに関わるさまざまなフェーズを網羅している。ターゲット読者は「DX推進に関わる方全て」となり、記事ごとに業種、部門、役職などを意識して用意している。
ブレインパッドにおけるDOORSの役割は、同社のDX・データ活用の知見を広め、DX推進パートナーとしての認知を高めることにあるため、専門的な記事は社員が執筆し、理解しやすいようかみ砕いて知見を伝えている。外部ライターに依頼する記事は、DXカンファレンスのレポートや社員の取材記事などに加え、キーワードを選定して執筆依頼する記事がある。
弊社のプロフェッショナルサービス、プロダクトサービスに関わる全社員がいわば『記事執筆者』『記事登場者』候補です。すでに記事を執筆した社員は約40人、イベントレポート記事などで登場した社員も入れると70人以上がDOORSに関わっています。メディアの核となる企画、執筆、編集まで内製化することで、メディア運営のノウハウを蓄積しています(高田氏)
現状、広告を使っていないため、良い記事ができても検索で表示されないと露出できないため、SEOのキーワード選定はしっかり行っています。DXなどのビッグキーワードに加えて、需要予測、数理最適化などのニッチなキーワードの検索ボリュームや現状の検索表示などを調査し、キーワードを決めて記事を制作することもあります(長岡氏)
検索キーワードについては、ローンチ前に長岡氏が1か月半かけて調査し、約500キーワードの選定を行ったという。その上で、キーワードに優先度をつけて記事作成をした。ニッチなキーワードだけでなく、ビッグキーワードも含めて、バランスよくキーワードを網羅させた。2020年11月のローンチ時の公開記事は10本、うち5本が社員による専門的な記事、5本が検索流入を見込んだ記事でスタートした。ローンチ後これまでに公開した記事は約200本。毎月約10本の新規記事を公開している。
なお、企画、執筆、編集からSEOまで内製化しているため、膨大なメディア運営コストがかかっているわけではないという。一部外部ライターと、初期のメディア構築時に制作パートナーに依頼した費用程度だという。ローンチ当初から現在にいたるまで、広告による集客も一切行っていない。広告を使っていないのは、まずは自然検索からの流入に力を入れ、長期的なファンづくりを目指しているからだ。
運用フェーズにあわせてKPIを変更
DOORSでは、運営フェーズにあわせてKPIを変更している。
ローンチ前、ローンチ直後の「立ち上げ期」では、公開記事本数、検索エンジンでの上位表示をKPIとした。キーワードは、主要キーワード30を選定し、表示順位やトレンド調査などを実施した。
ローンチ後3か月からの半年間の「成長期」では、記事企画、制作の安定化を図り、2021年6月末時点で合計100記事公開することをKPIにし、達成した。サイトの更新頻度が安定し、セッションが増えていった。
そして、2021年夏から現在に至る期間を「安定期」とし、記事本数もセッションも増加が続いている。
今、取り組んでいることは、DOORSをより、『社内で使われる』メディアにすることです。営業が商談で活用する、広報がメディア向けのブリーフィング資料で活用する、人事が求職者やエージェントに記事を紹介するなど、社員がDOORSを自身の『武器』として活用することを広げています。メディアは『Pull』のイメージが強いですが、編集長/プロマネとして『Push』も意識した働きかけを行っています(高田氏)
これまで予想以上のスピードでメディアが成長してきたが、今後は、目的に対して最適な運用が行えているかを再度模索し、事業への影響を定義し、読者の認知を得たことを計測できるようにしていきたいと考えている。その先には、記事カテゴリやUIの見直しもあり得るとしている。
なお、KPIにはしていないが、DXカンファレンスの申込みもメディア経由で獲得できているという。広告費ゼロで、カンファレンスの集客ができていることは大きな強みになっている。
正しいSEOを目指して、メディアを成長させていく
その他の施策としては、DOORSの読者との親和性が高いサービスとのコラボ記事の作成など外部メディアやサービスとの連携企画も実施している。最近では、カンファレンスに登壇した企業から記事作成の依頼があったり、外部の有識者との対談企画があったりと新たな挑戦も増えている。今後も外部との連携は強化していく予定だ。
先述したAuthorityの観点では、自然に獲得する外部リンクも重要となる。自社から関連性の高い企業やメディアにアプローチして、新しいコンテンツとしてユーザーに還元し、同時に被リンクも獲得できれば、有益な施策になる。
また、高田氏は情報収集、検索体験のマルチチャネル化を意識して、最近ではDOORS編集長としてTwitterの運用を開始し、SNSなど他メディアや動画を含めたマルチチャネルの展開も企画中だという。
DXメディアと謳っておきながら矛盾しているかもしれませんが、今後は『ビヨンドDX』を探索していきたいと思います。DXが成功している企業ほど、DXという言葉をあまり使わなかったり、最近は『DX疲れ』が起きていたりするようにも感じます。国際情勢の変化、ESG経営への対応により、よりビジネス環境は変化する中で、DXはどうなっていくのか。DXの本質は『変革』にありますし、ビジネス変革がどんな様相を呈していくかをキャッチアップし、DOORSだからこそ発信できるコンテンツを作っていきたいです(高田氏)
長岡氏は、SEOに従事する立場から、SEO業界の人達に向けてメッセージを送った。
世間ではまだ間違ったSEO対策が溢れています。キーワードを含んだ長文コンテンツでとりあえず上位表示を目指すなどSEOに関する情報を表層的に捉えて施策をおこなっているサイトはまだまだあります。SEOでは、アルゴリズムを攻略するテクニックが語られがちですが、Googleが目指しているのは『検索ユーザーによりよい体験を提供する』で一貫しています。SEOに関わる方に、細かい技術論などに振り回されずに、検索ユーザーのことを考えて検索体験向上を第一に考えればいいのだと伝えたいです(長岡氏)
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