ECと店舗データの統合で効果的な施策立案を実現!~大手アパレル企業のオムニチャネルマーケティング事例
顧客に合わせたOne to Oneコミュニケーションのためには、生活者の行動を把握する必要がある。それは、Web上の行動だけには留まらない。必要なのは、リアルもデジタルも統合して分析するオムニチャネルの取り組みだ。
「デジタルマーケターズサミット 2018 Summer」に登壇した、デジタル領域の企画・制作を手掛ける博報堂アイ・スタジオの福島裕人氏は、顧客データを一元化する「Tealium Universal Data Hub」(ティーリアム ユニバーサルデータハブ)を使ったデータ分析の事例を示しながら、統合されたデータをどのように見ていくべきか紹介した。
「途切れない体験」のためにオン/オフID統合が必須
セッションではまず、Tealium Japanの海老澤澄夫氏が、オムニチャネルマーケティングにおける課題について解説した。
生活者の行動は多様で、Webサイトだけでなくアプリ・店舗・IoTなど、さまざまな環境での顧客接点を最適化するオムニチャネルマーケティングが求められている。オンライン/オフラインを問わず、途切れない体験が必要であり、「昨日店舗で買ったものをECサイトでレコメンドされる」などは論外だ。
途切れない体験を成功させるポイントとして、海老澤氏は以下を挙げた。
- シングル顧客プロファイルへのデータ統合
- データ収集はカスタマージャーニーの最初から
- 収集したデータはリアルタイムで活用する
- 顧客中心の施策実行とデータ管理
さまざまなチャネルで、オンライン/オフラインを問わず、同じ人だと認識する必要があり、そのためにはIDの統合が必要だ。また、会員制のサイトであってもログインしてくれるのは全体の3%と言われており、97%の人は匿名の状態となるが、IDがなくても行動履歴は取れる。
匿名状態の行動履歴は、後にそのユーザーが会員登録してくれた後にも非常に役立つので、とにかくデータは最初から取っておくことが重要だ(海老澤氏)
また、デジタルマーケティングの世界では、カスタマージャーニーマップを作ることが一般的になってきた。ユーザーの態度変容を軸に、分析・施策に必要な項目をマトリックスで表現したものだ。
しかし、このマップの通りうまくいくことは少なく、単純なカスタマージャーニーマップには限界が来ていると海老澤氏は言う。ユーザーは定義した順番通りに一方向に進むわけではないし、複数の特徴を持つこともある。細かいセグメントが定義されていないため、分類できないユーザーもいる。
カスタマージャーニーも進歩しなければならない(海老澤氏)
また、データの散在という課題もある。Webサイトのアクセス解析や店舗のPOS、広告配信のシステムやCRMなど、ベンダーやシステムごとに顧客プロファイルが分散してしまうケースがよくある。アクセス解析はCookie、CRMは会員IDなど、それぞれのシステムがユーザーを特定するキーを持っているため、どう統合すればいいか分からないという話もよく聞く話だ。
Tealium(ティーリアム)は、これらの課題を解決し、精度の高いカスタマージャーニーの作成を実現するアプリケーションだ。
データ統合とセグメンテーションで顧客を分析
博報堂アイ・スタジオは、課題に応じたマーケティングツールを活用しデータ分析・運用を行うことで、クライアント企業のデジタルマーケティング支援を手掛けてきた。
Tealiumを利用した具体的な分析の手法について、博報堂アイ・スタジオの福島氏が、ある大手アパレル企業の事例を示しながら解説した。
このアパレル企業では、店舗とECで事業管轄が分断されており、売上管理もそれぞれで行っていた。店舗とECの両方を使う顧客もいるはずだが把握していないという課題があった。そのため、「ECと店舗の両方を使う人はどのくらいいるのか、その人たちはどのような買い方をしていて、どのくらいの購入単価なのかを知りたい」という要望があった。
そこでまずは、ECサイトのユーザーIDと、店舗のメンバーズカードIDを元に、オンライン/オフラインのユーザー突合を行った。もともとオンラインデータ活用にTealiumを使っていたため、そこにPOSデータを統合する形で実施した。
その後、購入者を以下の3つのセグメントに分け、分析を行った。
- EC・店舗を併用した購入者(併用ユーザー)
- ECのみの購入者(ECユーザー)
- 店舗のみの購入者(店舗ユーザー)
分析の結果、さまざまな傾向が見えてきた。例えば、比較する項目を「平均LTV」「1個あたり平均購入金額」「平均購入個数」に分類したとする。その場合、「1個あたり平均購入金額」はECユーザーが最も高く、「平均LTV」については併用ユーザーが最も高いということがわかった。
ECと店舗における購入パターンから優良顧客を洗い出す
また、併用ユーザーを、ECと店舗のどちらで先に購入したかの順番で分けたユーザー分析も紹介された。
「初回購入チャネル」と「追加購入チャネル」の組み合わせと順序を分析することにより、新規顧客において優良顧客になりそうな購入パターンを発見しようとするものだ。
ECが先で後に店舗で購入したグループをA、店舗での購入が先で後にECで購入したグループをBとし、その購入回数で以下のように8グループに分けている。
- A-1:EC→店舗(EC回数2以上、店舗回数2以上)
- A-2:EC→店舗(EC回数1、店舗回数1)
- A-3:EC→店舗(EC回数2以上、店舗回数1)
- A-4:EC→店舗(EC回数1、店舗回数2以上)
- B-1:店舗→EC(EC回数2以上、店舗回数2以上)
- B-2:店舗→EC(EC回数1、店舗回数1)
- B-3:店舗→EC(EC回数2以上、店舗回数1)
- B-4:店舗→EC(EC回数1、店舗回数2以上)
このグループ分けにおいて、実数が多いのはA-2、A-3、B-3だった。つまり、まずECで購入してから店舗で購入する人が多く、店舗には1回しか行っていない人が多い。また、店舗購入が先である場合、その後EC来訪するユーザーはEC購入回数が多くなることがわかったのだ。
外部データと組み合わせて、より効率的な施策を
Tealiumを外部データと組み合わせて分析することも可能だ。例えばデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社が提供するパブリックDMP「AudienceOne」のインタレストカテゴリと組み合わせてLTVや購入金額を見ると、どのような趣味・嗜好の人が優良顧客かがわかる。もし優良顧客と判断できるカテゴリの顧客が現状で少ないのであれば、集中的に集客するという施策が考えられる。
セグメントに分けたことで有為な違いが見えたのは、年齢別購入金額の比較だ。全体で見ると20代後半が最もユーザーボリュームが多く、購入金額もおおむねユーザー数に比例しているが、セグメントごとに見ると、店舗ユーザー、ECユーザー、併用ユーザーそれぞれの購入金額のボリューム層が異なっていることが見て取れた。
その他にも、デバイス別コンバージョン比較や、クーポン・ポイント利用の比較、購入回数や購入点数の比較といった分析も紹介された。都道府県別の比較を地図上に表示することもできる。
また、店舗とECそれぞれの来訪回数を散布図として表示することも可能だ。下記の店舗購入回数の散布図(左)とEC来訪回数散布図(右)を比較すると、ECの場合は来訪回数が増えればLTVが上がるという望ましい形が見えている。店舗ではそれが見えていないため、何度も購入してもらうにはECの方が効果的だという仮説が成り立つ。
分析結果を施策立案に活用する
前述したように、分析の切り口はさまざまある。重要なのはこれを施策にどう活かすかだ。その施策案についても、2つの例が紹介された。
施策案① 行動タイムレンジ分析×都道府県分析
行動タイムレンジ分析の「EC来訪と店舗購入はほぼ同日である」という結果と、都道府県分析の「関東と北海道では店舗購入のCVRが高い」という結果を組み合わせたケース。EC回遊時に、店舗でも使えるクーポンを店舗CVRが高いエリアにしぼって配布し、効率的なクーポン配布を目指すことが可能になる。
施策案② 年齢別ユーザー数分析×併用ポイント利用率
年齢別ユーザー数分析と、併用ポイントの利用率を組み合わせたケース。ECユーザーに対して、店舗でのポイント還元率をUPさせる特典を実施する際に、店舗購入ユーザー数の多い20代後半にしぼって行うことで、LTVの向上を目指すというもの。
効果的な分析にはセグメンテーションが必須だが、福島氏はTealiumを「セグメントに切りながら、リアルタイムにターゲティングできる点がすばらしい」と評している。
博報堂アイ・スタジオは今後も、Tealiumを活用した効果的なソリューションをはじめ、課題に合わせたマーケティングツールを活用、データ分析・運用を通して、企業のマーケティング活動を後押ししていく。
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