UXグロースハックで成功した4事例を紹介! ユーザー行動の背景ニーズを読み解く方法とは?
スマホの普及以来、生活者の情報接触行動が変化している。このため、行動データを集計して分析するだけでなく、一人ひとりの動きを時系列で追い、背景にあるニーズを読み解く必要がある。
2000年の創業以降、一貫して顧客体験の向上を支援してきたビービット。「デジタルマーケターズサミット 2018 Summer」のセッションでは、同社の宮坂氏が、ビジネス成果につなげる顧客体験(UX)向上について解説した。
マーケティングモデルはファネル型からジャーニー型へ
「2007.06.29.──最初のiPhoneがローンチされたこの日は、デジタルマーケティングを少し変えるきっかけになった日」だと宮坂氏は言う。iPhoneに限らず、スマホが登場したことによって、世の中は大きく変わった。
例えば、1979年には、視聴率30%を超えるテレビ番組は1860本あった。それが2016年には3本に激減した。もちろん、これだけでテレビのパワーが下がったと単純に言えはしないが、それだけ人間の嗜好や生活スタイルが変化しているということになる。一方、現代人がスマホの画面を見る回数は、1日に100回とも150回とも言われている。従来通りのやり方が、いつまでも通用しないことは明白だ。
デジタルが生活に溶け込む世界となり、マーケティングモデルはファネル型からジャーニー型へと転換を迫られている。ファネル型とは、例えば清涼飲料であれば、テレビCM等で多く認知を取り、コンビニの棚を押さえれば自ずと売れるという今までのやり方だ。これは今でも通用するやり方だが、テレビのパワーが落ちたことで以前ほどの効果はなくなっている。
一方、ジャーニー型とは、生活者は常にスマホを身につけているのだから、そこにうまく寄り添い、「お客様の近くに居続け、お客様に好きになっていただくことによって、商品が売れやすくなるようにする」という考え方だ。
ジャーニー型成功例:中国の保険会社「平安(ピンアン)」
ジャーニー型で成功している例として、中国の保険会社の「平安(ピンアン)」の取り組みが紹介された。
いくら工夫してもすぐに追従される金融商品(保険商品)での差別化が難しいため、平安はアプリを使って顧客の生活にうまく入り込むという方針を取った。ひとつの例が「グッドドクターアプリ」である。このアプリは1億9000万人が利用しており、平安は既にテレビCMを利用していないという。
中国では医療に対する信頼が薄く、町医者を嫌って何かあれば大病院や大学病院に行こうとする生活者が多い。そのため人気の高い病院は非常に混雑し、診察は数日後ということも多い。診察受付の整理番号が高値で取引されることもあるという。
それに対する平安の解決策が、前述したグッドドクターアプリである。平安は、信頼できるドクターを集め、アプリとしてプラットフォーム化したのだ。ユーザーはアプリのポイントを利用すると、無料チャットで医者に年中無休で相談できたり、時間指定での診察予約をしたりできる。
アプリのポイントは、「アプリを起動してウォーキングする」「アプリに毎日体重を登録する」などの行動で溜めることができる。また、例えば「5歳の息子が熱を出した。首筋にいくつか発疹がある」など、チャットでの相談内容をテキスト分析しており、担当営業から「お客様の保険は、オプションを使えば家族の分も保険対象です。支払いのお手続きをサポートします」といった電話をかけることもできる。
困っている時に手を差し伸べてくれるのはある種の感動体験になっているという。「私は平安が好きなんです。なぜなら私は平安に守られていると思うからです」と述べる平安ユーザーもいるという。
「マイクロモーメント」を捉えて、顧客体験(UX)の改善サイクルを回す
平安の例のように、ジャーニー型の取り組みをしている企業の成功パターンをシンプルに構造化すると、以下の図のようになる。
- タッチポイント:スマホを活かした顧客接点を作る
- 顧客体験・UX:タッチポイントに居続けてもらうためにUXをよくする
- データ:多くの人がタッチポイントに居続けてくれれば、大量のデータが集まる
集まった膨大なデータを使って、さらにタッチポイントの体験をよくしていくというサイクルを回すことが成功パターンだ。ビービットでは、これを「UXグロースハック」と呼んでいる。
集まった大量のデータをUXグロースハックに活用する時、ポイントとなるキーワードが「マイクロモーメント」だ。PCの場合はある程度の時間モニターの前に座ってじっくり見るのに対して、スマホの場合はかなり細切れの時間で見ている。その細切れの時間で置かれている状況、ユーザーの「瞬間」を捉えることが重要ということだ。
当然、データの捉え方も違ってくる。アクセスログを集計して「どこから1万人来て、どこで5000人遷移して、どこで300人離脱したか」分かるといった従来の方法は、基本的に集計データで捉えている。しかし、集計データは大勢のユーザーのデータをまるめたもので、モーメントは捉えにくい。モーメントを捉えるには、一人のユーザーの行動を時系列で見る必要がある。これを「個票データを見る」と言う。
例えば、ECサイトで離脱率の高いページがあった場合、従来の考え方では「離脱率が高いのは顧客の見たい情報が載っていないからではないか」、「ページを改善して離脱率を下げる必要がある」と思うだろう。
しかし、個票を見るとただ何度も繰り返し商品を確認していただけだと分かることがある。例えば、通勤電車の中で10分見て、始業前に1分見て、昼休みに5分見たという場合、同じ人が3度離脱したとカウントされる。しかし、帰宅後にもう一度じっくり見て購入してくれのなら、コンテンツに問題があったわけではない。スマホが普及したことで、このようなことが増えている。このため、個票を見る必要があるのだ。
個票データを容易に確認できるツール
個票データを見るには、まず、顧客データベースからユーザーの属性情報を取り出す。その情報とアクセスログを組み合わせ、時系列で見ていく形になる。
これまでも、こうしたやり方をする先進的なマーケターがいなかったわけではない。しかしそれには、生ログを抜き出して加工する手間やスキルが必要だった。それを、誰でも手間なく可能にするのが、「ユーザグラム(Usergram)」というサービスだ。顧客の行動を個票単位・時系列で簡単に「見える化」でき、以下のような特徴がある。
- 長期の行動を可視化
- デバイスまたぎもOK
- 簡単で見やすいUI
- UX改善を促すチーム共有やディスカッション機能
ここでは、ユーザグラムを活用した事例を4つ紹介しよう。
事例① フェリシモ「休眠顧客の活性化に成功」
ECサイトのフェリシモでは、休眠顧客の再利用を促すため、郵便によるDMを送付している。当初はDMのクリエイティブや送り方の改善PDCAを回していたが、あまり成果が上がらなかった。そこで、ユーザグラムでDMを送ったユーザーの行動を見ると、以下のようなことがわかった。
- DMを送った人の中から、多くがサイトを訪問している
- DMで提示されているキャンペーンを利用しようとして、ログインする時にパスワードを忘れているケースが多くある
- パスワードリマインダーに問題があり、うまくログインできないケースがある
- ログインできないため、新規ユーザー登録して購入しているケースがある
つまり、休眠顧客活性化の課題は、DMだけでなくパスワード照会にもあったのだ。それに気づいたフェリシモでは、パスワードリマインダーの流れを改善した。これにより、年間で1万人の離脱防止につながり、また、忘れたパスワードの照会に成功した顧客も2万人増加したという。
事例② ガリバー「ユーザーの行動パターンに合わせてコミュニケーションを最適化」
中古車販売「ガリバー」を運営するIDOM。車の実際の売り買いは店舗で行うため、Webの目的は相談予約をしてもらうことだ。ユーザグラムを利用してユーザーの動きを見ると、3つのパターンがあることがわかり、それぞれに適したボタンのデザインに変更した。
①サイトに来てすぐに相談予約してくれる人
ガリバーで購入を決めている人なので、ガリバーであることを訴求。
②ボディタイプと初心者コンテンツのページを何度も行き来する人
おそらく、自分で車を決める軸や知識がない人なので、この動きを2往復以上した人には、車探しを手伝うことを訴求。
③車種一覧と車種絞り込みを何度も行き来する人
車を選ぶ軸が明確で、それに合うものがないか絞り込みをしていると考えられる。この動きをした人には、掲載以外の車も探すことを訴求。
顧客の状況・ニーズに応じたコミュニケーションを実施したことにより、ユーザーの流れがスムーズになり、コンバージョンが増えた。
事例③ 美容系サービス会社「動画が当初の想定通りに見られていなかった」
あるエステサービス会社のWebサイトのゴールは体験施術の申し込みだ。元々は写真とテキストによる説明コンテンツを用意していたが、動画による説明コンテンツを追加した。アクセス解析によって「体験申し込みをした人は動画を見ている」ということがわかり、動画コンテンツは成功だったと思われた。
しかし、個票データで確認したところ、ユーザーの行動は想定と違っていた。施術内容は動画で見る方がわかりやすいため、まずは動画を見てもらおうと考えていたのだが、実際には、ユーザーは写真やテキストのコンテンツを何度か見た後でようやく動画に気付いて開くが、内容は写真やテキストと同じなので、数秒だけしか動画を見ないで予約に進むというケースが多くあったのだ。
集計されたデータではわからないことが、個票でわかったという例だ。同社は、サイト訪問者にまずは動画を見てもらえるよう、動画の設置位置を変更したという。
事例④ コールセンター「対応時間・品質の向上を可能に」
あるコールセンターでは、クレームの電話がかかってきた時に、まずどの商品のどの部分に対するクレームなのか、状況を聞き出すことに時間がかかっていた。そこでユーザグラムのデータと連携することで、電話をかけてきたユーザーが「どの商品を買ったのか」「直前にどのページを見ていたのか」などがわかり、クレーム対応がスムーズになったのだという。
他にもさまざまな事例があるが、個票データを見ることで以下のような課題の改善につながっていくという。
- 改善を続けているが成果が上がらない
- ウェブ接客やMAなどのツールをうまく使いこなせていない
- 複数施策のどれが効いたかがわからない
- 無駄業務が積み重なって本質的な仕事に手が回らない
最後に宮坂氏は、このセッションのポイントを以下の3点にまとめた。
- マーケティングモデルがファネルモデルからジャーニー型にシフトし、UXグロースハックが求められている
- スマホを持っているユーザーに常に寄り添い続けなければならないが、タイミングが悪ければウザイだけなので、顧客のモーメント(状況)を捉えることが大事
- そのためには、集計データだけでは難しいので、個票データを見ることが重要
ビービットは今後も、マーケティングモデルの転換期に、個票を使ったユーザー理解によってビジネス成果を上げることを支援していくという。
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