「忙しすぎて新しい施策を考える余裕がない!」~疲弊する現場を救った“デジタル行動観察”の4事例
多くの企業がデジタルマーケティングの取り組みを強化しているが、どんどん積み上がっていく施策に担当者が疲弊し、考える余裕をなくしているケースが多い。
そこでビービットが提唱するのは、顧客行動を可視化することで施策の効果を判断し、本当にやるべき施策を見極めることである。カスタマードリブン・マーケティングへの転換に成功した企業の事例を取り上げ、デジタル行動観察の重要性を説いた。
Web担当者フォーラムが開催したデジタルマーケターズサミット 2018 Winterで、ビービットの生田啓氏は、「カスタマードリブン・マーケティングへの転換は現場から! 成功企業の取り組み」と題し、“デジタル情報観察”の重要性を解説した。
本当にやるべき施策を見極める処方箋
デジタルマーケティングの現場では、多くの担当者が「忙しすぎて、新しい施策を考える余裕がない」という課題を抱えている。なぜそのような状況に陥っているのか。原因は過去から業務がどんどん積み上がっていることにある。
たとえば前任者が数年前に始めたコンテンツブログを引き継ぐ一方、上司からは「ライバル企業はLINEを使って効果を上げているらしい。うちもやってみたらどうだ」といった指示が投げかけられる。
それぞれの施策にまったく意味がないわけではなく、実際に少なからず事業に貢献しているだけに、簡単にはやめられない。だからといって施策の担当者を増やせるほど組織の人員に余裕はない。結果として、一人の負担は増していくばかりなのである。
適切なタイミングで施策の棚卸を行い、どれを本当にやるべきかを見極め、業務を効率化する必要があります
生田氏はこう説いた。そして提示したのが「デジタル行動観察」という“処方箋”である。
すでに多くのマーケティングの現場でアクセスログを集計し、「ページビュー」「CVR」「直帰率」などのKPIの監視は当たり前のこととして行われている。ビービットが提唱するデジタル行動観察がこれと違っているのは、そうした「全体の統計」を見るだけでなく、アクセスログを個々の顧客の情報とひもづけて行動を可視化する点にある。
たとえば顧客Aさんについて、「土曜の夜9時にGoogleのディスプレイ広告からランディングページに入っていくつかの商品情報を閲覧し、翌日はGoogle検索から直接トップページに入って商品を購入した」というように、前後関係も踏まえつつ、より“生々しく”行動を明らかにできる。「こうした新しいデータの使い方をもとに、本当にやるべき施策を明らかにしていきます」と生田氏は語った。
デジタル行動観察で業務を効率化した事例
デジタル行動観察によってマーケティング業務をどのように効率化し、成果を上げることができるのか。生田氏はいくつかの事例を紹介した。
事例 ① ECサイト ―― ページ改善の必要はないと判断
まずは、あるECサイトの事例だ。
こだわりをもった商品をプレゼントとして購入できることを強みとするECサイトだが、離脱率の高さを危惧し、商品詳細ページを改善しようとしていた。
- 離脱率が高いのは、顧客の見たい情報がそのページに載っていないからでは?
- ページを改善して離脱率を下げる必要があるのでは?
と考え、さまざまな改善案を立ててはA/Bテストを繰り返していたのである。
だが、どんなにページを改善しても離脱率はほとんど変化がなかった。
そこで10~20人の顧客を選んでデジタル行動観察を行ったのだが、そこから思いもよらない事実が明らかになった。実は多くの顧客は購入を検討するために、「ブックマーク」「商品指名での直接検索」「スマホのタブ残し」などによって、気になった商品を何度も確認しに来ていたのだ。
結果として見かけとしての離脱率は高くなってしまうが、ページ自体にはまったく問題がない。「そうなると商品詳細ページの改善を続けることに意味はないため、B社は施策をすぐに中止しました」と生田氏は述べた。
事例 ② ホテルサイト ―― 予約成約率を最高水準に
次に紹介したのは、ホテル・グリーンプラザの事例である。
同社のサイト担当者は、ホテルの担当者から「宿泊客に人気の日替わりランチメニューを掲載してほしい」という要望を受けて対応していたが、毎日ページを更新する必要があり、重い負担となっていた。
そこでデジタル行動観察で顧客の行動を調べたところ、実際には宿泊当日にはほとんどサイトを訪れておらず、訪れた場合でもほぼ交通アクセスしか見ていないことが明らかになった。ランチメニューはほとんど見られていないという事実を示すことで、ホテル担当者の納得を得て、サイト担当者は施策を中止できた。
単に日替わりランチの更新を止めるのではなく。代わりに予約前のお客様にランチメニューのおいしさを伝えるコンテンツを掲載するようにしました。仮説の精度を高め、改善を積み重ねることで成約率が向上し、あるホテルでは、ここ数年での最高水準になりました(生田氏)
事例 ③ 女性向けコスメのECサイト ―― 1週間の売上が140%に
3つめの事例は、女性向けコスメのECサイト「DAZZSHOP」を運営しているエステティクスの取り組みだ。
DAZZSHOPは商材と顧客層の特性上、スマホからのアクセスが多く、今年3月に新商品を発売するにあたり、キャンペーンページを作るとともに、トップページにバナーを貼って誘導するという施策を打った。ところが当初、新商品の売上は思っていたようには伸びなかった。
原因を探るべくエステティクスは、デジタル行動観察によってスマホサイト上での顧客の行動を可視化した。これにより明らかになったのが、トップページを訪れた顧客のほとんどが、すぐに商品カテゴリーに移動して目的の商品を購入していることである。
考えてみればこれは当たり前のことで、既存顧客はもともと買いたい商品が決まっているからこそECサイトを訪れている。その購買プロセスにバナーなどで割り込もうとするのは、得策ではない。
「クリエイティブをどう変えるか」でなく、「いつもの行動のなかでどう訴求するか」が本当の課題だった(生田氏)
そこでエステティクスは、顧客が買い物をすませて落ち着いた段階にキャンペーンのバナーを移動した。具体的には、カートの入口ページやサンクスページだ。この結果、新商品の1週間の売上は140%に急増を見せたという。
事例 ④ 大手通販サイト ―― 約1万人の離脱防止、忘れたパスワードを照会した人が2万人増加
最後の事例は、大手通販のフェリシモだ。
同社は休眠顧客を活性化すべく特別なクーポンを紙のDMで送ったのだが、このクーポンはほとんど使われなかった。DMを改善しても、結果は変わらない。
そこでデジタル行動観察を行ったところ、実はDMを受け取ったかなりの割合の顧客がフェリシモのECサイトに戻ってきていることが明らかになった。にもかかわらず離脱してしまうのは、パスワードを忘れてログインできないからだった。原因はDMの良し悪しとはまったく別のところにあったのである。
この事実を受けてフェリシモは、パスワード再発行ページを改善しました。これにより年間換算で約1万人の離脱を防止し、忘れたパスワードの照会に成功した人は2万人も増加しました(生田氏)
成功事例に共通する「ユーザグラム」の活用
これらの4つの事例に共通して利用されたデジタル行動観察ツールが、ビービットの「ユーザグラム」である。生田氏は直感的に理解できる同ツールの画面と使い勝手をデモンストレーションで紹介。
「10人くらいのユーザーの行動を観察すれば大まかなことをつかむことができ、スピーディに判断して行動に移せるようになります」と訴求した。
ユーザグラムがリリースされたのは2017年4月とまだ日は浅いが、大手企業からネット先進企業まですでに120社以上に導入されているとのことだ。
データを集計して定量的に数値で見る従来の手法に加えて、「データを1人ひとりの行動に分解して観察する」デジタル行動観察を取り入れることで“どの施策が本当にやるべき施策なのか”を見極めるヒントを見つけることができるだろう。
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