あなたのサイトはIEにどれくらい対応しているだろうか。IEなどの古い「レガシーブラウザー」にいつまでも対応し続けることは、決してユーザーのメリットにはならず、逆に多大なセキュリティリスクを背負わせてしまうことになる。
Webブラウジング環境を最新のモダンブラウザーに移行することで、ユーザーに対してより安全かつ快適、高機能なコンテンツを提供することが可能となり、同時にWeb開発者が抱えている作業負担やストレスも大幅に軽減することができる。
本記事では、なぜヤフーは古いIEのアップデートを促したのか、そのポリシーと方法もインタビューで明らかにする。
20年の歴史を経て、Webブラウザーは新世紀を迎えた
マイクロソフトはWindows標準のWebブラウザーInternet Explorer(IE)のサポートポリシーを大きく変更した。新ポリシーが発動するのは2016年1月12日(米国時間)である。この日を境に
各OSの最新版のIEのみをサポートする
という形に改められる。具体的にはWindows Vista SP2ではIE 9のみ、Windows 7 SP1やWindows 8.1 UpdateではIE 11のみをサポートすることになる。
お使いのWindows OS | Internet Explorer のバージョン |
---|---|
Windows Vista SP2 | Internet Explorer 9 |
Windows Server 2008 SP2 | Internet Explorer 9 |
Windows 7 SP1 | Internet Explorer 11 |
Windows Server 2008 R2 SP1 | Internet Explorer 11 |
Windows 8.1 Update | Internet Explorer 11 |
Windows Server 2012 | Internet Explorer 10 |
Windows Server 2012 R2 | Internet Explorer 11 |
Windows 8 | Windows 8.1 へ アップデートが必要です |
きっかけとなったのは、Windows 10とともにリリースされた「Microsoft Edge」である。1995年に公開された初期バージョンのIEから数えれば、実に20年ぶりの抜本的な“刷新”を成し遂げたMicrosoft Edgeが重視しているのが、HTML5に対応したモダンブラウザーとして、「Web標準」のコンセプトに準拠すること。これによりGoogle ChromeやApple Safari、Mozilla Firefoxとも足並みを揃え、PCのみならずスマートフォンやタブレットを前提に制作されたWebサイトとも相互運用が可能となる。
インターネットの黎明期から20年の時の流れを経て、今まさにWebブラウザーは“新世紀”を迎えたといって過言ではない。
レガシーブラウザー対応の引き延ばしは、ユーザーにリスクを背負わせるだけ
ただ、この動きを
ベンダー側の勝手な都合
ととらえる向きは少なくない。現実問題として、IE 8以前のレガシーブラウザーを利用しているユーザーは数多く残っている。これらのユーザーの切り捨てにもつながりかねないからだ。
最も強い抵抗感、拒否反応を示すと考えられるのは、企業のコーポレートサイトの運営管理者たちだ。顧客が会社のPC環境の都合でIEを使っており、きちんと見られないと困るのではと考えるからだ。
また、広告掲載や課金型のコンテンツ配信などで収益を得ているWebサイトの運営者や制作者たちだ。レガシーブラウザーを対象外とすることは自社サイトへのアクセスやページビューの低下を招き、ひいては売上の減少に直結してしまうのだから、彼らの気持ちも理解できないわけではない。
とはいえ、いつか“けじめ”をつけなければならない時期は必ずやって来る。
レガシーブラウザーにいつまでも対応し続けることが、本当にユーザーにとって良いことなのでしょうか。実際には、多大なリスクを背負わせていることに他なりません
と警鐘を鳴らすのは、ほかでもない、日本マイクロソフトのエバンジェリストである物江 修氏だ。
物江氏が懸念するのはセキュリティである。
インターネットを通じたエンドポイントに対するサイバー攻撃はますます悪質化、巧妙化している。マイクロソフトとしてもこうしたセキュリティの脅威に対抗するため、IEの潜在的な脆弱性の解消に日々務めているが、提供当時の環境を前提に設計・開発された古いバージョンのIEでは、定期的な更新プログラムの適用だけではどうしても対応が困難になるケースも出てくる。
セキュリティ製品のテストおよび研究を手がける第三者機関のNSS Labs によると、悪意のあるソフトウェアに対してIE11では99%以上の精度で保護を行っているのに比べ、IE8では69%にとどまっているという結果も示されている。
設計が老朽化してしまったOSでは次々に新手を打ってくるセキュリティ脅威に対抗することができず、最新OSへのアップグレードが必要であることは、だれもが知る常識となった。Webブラウザーもまったく同様なのだ。
古いIEを企業サイトがサポートするのは一見ユーザーに優しいように見えるが実はその反対であり、Webブラウジング環境を最新のモダンブラウザーに誘導していくことが、ユーザーの利益を守ることにつながるのである。
最新IEへのアップデートを促すヤフーの取り組み
最新IEへのアップデートに向けたユーザーの喚起と啓蒙に、いち早く乗り出したのがヤフーである。マイクロソフトによるセキュリティポリシーの変更を受け、旧バージョンのIEからアクセスしてきたユーザーに対して「機能を正しくご利用いただくには、下記の環境が必要となります。」というメッセージを表示する。
また、「Internet Explorerは最新バージョンへのアップデートが必要です」という特設ページも作って啓蒙している。
この取り組みを主導してきたのは、同社 CMO室の岡部 和昌氏である。ヤフーでは2013年より特定の専門分野に突出した知識とスキルを持つ第一人者を「黒帯」と認定しているのだが、その厳選されたごく少数の黒帯の称号を持つエキスパート人財のひとりが岡部氏だ。HTML5やCSS3を用いたサイトの開発と運用、JavaScriptやPHPを用いた動的なサイト構築を得意とする“ウェブデベロップメント黒帯”として、社内外での講座やインターン受け持ちなどの業務に携わっている。
そんな岡部氏だからこそ、なのだろう。
お客様のセキュリティリスクを低減することが何よりも大事です
と、先のようなメッセージを発するに至った理由を語る。
もっとも、岡部氏といえども当初は
営業部門を中心に、社内からも異論が噴出するのではないか
という一抹の不安を抱えていたと明かす。ところが、これはまったくの杞憂で終わった。ヤフー社内にはCEOの宮坂学氏が掲げた
ユーザーファーストであることが大事
というコンセプトが隅々まで浸透しており、岡部氏の発案が予想以上にすんなりと受け入れられたのである。
岡部氏は
全社的に同じ危機感を持っていてくれたことに、ヤフーとしての誇りを感じました
と振り返るとともに、
この動きをヤフーだけにとどめてはならず、インターネット業界全体に広げていく契機としなければなりません
と語る。
モダンブラウザーに移行することでWeb開発者が享受するメリットは、コンテンツ制作や検証の大幅な負担軽減
2016年1月12日以降、実際に旧バージョンのIEへの対応をどうするかは、
各サービスへのニーズと、ユーザーのアクセス状況を詳しく分析してから方針を決めます(岡部氏)
という考えだが、
モダンブラウザーへのシフトを進めていきたい
という基本路線に変わりはない。
これによりHTML5はもちろん、とくにMicrosoft Edgeなど業界標準のモダンブラウザーを利用するユーザーに対しては、Dolby AudioやGamepad API、HLSなどのマルチメディア系のAPI、HTTP/2やHSTSなどのネットワーク系プロトコル、さらにはRegionsやExclusionsまで、最新のWeb技術を積極的に採用したWebコンテンツの展開が可能となる。
機能とパフォーマンスの両面で、お客様により満足度の高いエクスペリエンス(体験)を提供できます
と岡部氏は語る。
また、この取り組みをインフラ面から支える同社 システム統括本部 技術支援本部 開発促進部 セキュリティプラットフォームの山井 明文氏も、
これまで旧バージョンのIEに合わせるしかなかったSSL暗号化アルゴリズムなどのセキュリティレベルを、大幅に引き上げることができます
と賛同する。昨今、RC4やssl v3の脆弱性を突いたサイバー攻撃も多発しているだけに、業界としても対応が急がれるところだ。
そして何よりWeb開発者にとっての大きなメリットは、コンテンツ制作や検証の負担軽減だ。これまでPCからモバイルデバイスまで乱立するブラウザーの歴代バージョンに対応しなければならなかった負担が、最新のモダンブラウザーのみに対応を絞り込むことで大幅に軽減される。
作業工数のみならず精神的なストレスからも解放され、Web開発者はよりクリエイティブな領域にチャレンジできるようになります
と岡部氏は語る。
こうしたヤフーの取り組みは、必ず近いうちにインターネット業界全体の新たな潮流となるだろう。ならば、この波にいち早く乗ることが得策である。
あなたのサイトでは、それでもまだ古いIEをサポートしますか? ユーザーをセキュリティリスクにさらし、さらに新しい技術を採用できなくなるようにしてまでも。
Microsoft Edgeについて
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