資生堂のWebブランディングをクリエイティブディレクターの小助川氏に聞いてきた

買ってもらった後までがブランディングだ! そのためにも接点ごとの最適化を!!
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ブランディングにおけるWebサイトの位置づけは、間違いなく最重要項目である。資生堂のクリエイティブワークは、日本のデザイン史や広告史でトップレベルの成果を残している。今回は、資生堂の美白系商品ブランドHAKUを担当するクリエイティブディレクターの小助川雅人氏と、サイト制作を担当したビービーメディアの古沢典子氏に、2015年3月にHAKUのWebサイトをリニューアルした際の話をうかがった。

(左)株式会社資生堂 クリエイティブディレクター 小助川 雅人氏
(右)ビービーメディア株式会社 ディレクター 古沢 典子氏

商品開発の段階から媒体全体のコミュニケーションプランは決まっている

――資生堂のブランディングにおいて、Webサイトはどのような位置づけでしょうか。

小助川氏(以下、「小助川」):私の個人的な考えですが、あらゆる接点において、顧客がどのような印象を持ち、どのような体験を得られるかがブランディングです。まずお客様のニーズがどこにあるか、情報収集であればその行動パターンを、購買であればどういうきっかけで買いたくなるのか、全方位で知ったうえで、どういう関わり方をすればブランドとの関係性がもっとも強まるのかと考えなければいけません。ですから、接点ごとに役割があります。ブランディングが単なるビジュアルや上品な語り口といったことだけではなく、接点ごとにニーズにあった接し方は何かを考えなければなりません

例えばHAKUの場合、ある程度高額の美白のスキンケア商品で、関与度が高い。化粧品の購買行動では、アットコスメさんなどのように第三者が評価するサイトがあり、それを見てそのまま購入に至るケースもありますが、そうでないケースもある。HAKUの場合は、内容成分や使い方などの正しい情報を求めてWebに来る方がいらっしゃいます。そういうニーズに対して、適切に、分かりやすく、スピーディに伝えられる媒体がWebだと思います。

また、安全性という意味では、その商品の研究の歴史や研究者自身が語るようなコンテンツも充実させています。つまり、それぞれのチャネルでニーズを想定して、ストレスなく解消していただける、ある種の「おもてなし」がブランディングだということです。

――Webとマスメディアの役割の違いについて、具体的に教えていただけますか。

Webはお客様のペースで理解できるメディア

小助川:Webのいいところは、お客様が自分のペースで理解できるということです。テレビCMと違って好きなタイミングで見ることができるし、じっくり時間をかけて見ることもできます。

特にHAKUの場合は薬事上の制約などもあり、商品説明がかなり複雑になりますので、15秒のテレビCMでは伝えきれません。CMの役割としては、新製品であれば登場感や期待感をどう盛り上げていくかということになります。結果として、検索キーワードやキービジュアルを、非常に単純な形で伝えるのが役割になるので、絞り込まれたメッセージになります。

店頭の場合は、同じような他社製品が並んでいる中に置かれていることと、近づいて目の前で見るという距離感が違います。アイテムがたくさんある中で、これだと分かるビジュアルが提示され、近づいたら違いがよく分かる必要があります。美白製品が同じような場所に置かれていることも多いので、美白に興味があるが、どの製品がいいか、という絞り込みのタイミングで、一押しするのが店頭の役割になります。また、スキンケア製品は実際に触って試せるのも大きな違いです。化粧品は感触や香りが非常に大事ですから。

――HAKUのサイトで、ブランディングが成功したかどうかを決めるのは何ですか、そのゴールはどの段階で決めますか。

小助川:想定した疑問やニーズにストレスなく応えられて、しかも気持ちも満足して、顧客がサイトを離脱すれば、成功だと思います。チャネルやコンテンツごとに役割が違いますが、その役割が果たせたら成功です。

ブランドによりますが、媒体全体のコミュニケーションプランが商品開発の段階からあり、役割はサイト制作の段階には決まっています。

――Webサイトを作るときに、どのような人のどのようなニーズに応えるために作るか明らかになっていないということはないのですね。

小助川:二―ズを見極めどう対応するかを考えておくことが必要だと思います。

「美白」はSNSでシェアするより検索する。だからSEOを重視

――小助川さんがおっしゃるブランディングは、昨今よく聞かれるカスタマーエクスペリエンスという言葉と近いように思います。

小助川:ブランディングとはある意味すべて「体験」なのではないでしょうか。

――あまり詳しくない人はブランディングはビジュアルのことだと思いがちですが、ブランディングにとって大事なのはビジュアルでしょうか、体験でしょうか。

小助川:ビジュアルは体験のひとつの要素です。ブランドとは、結果的に使う人の心の中で形成されるものです。つまり、ビジュアルやWebの使いやすさといったものはゴールではなく、それを体験したお客様の中でどう蓄積させていくかということがゴールなのです。

――とはいえ、Webの場合は表示速度やデバイスごとの表示の違い、インタフェースの分かりやすさなど、細かい要素がたくさんあります。それはブランディングに重要でしょうか。

古沢:それもやはり大事だと思います。表示が遅くて、そもそも見てもらえないようでは、Webの意味がありません。制作側としては、見てもらえるように、負荷にならないサイトを作らなければと思います。

――美容に関する企業ですから、美しく見せることにこだわりがありそうです。

古沢:資生堂さんの「美しさ」へのこだわりはもちろん強いと思います。でも、昔はフラッシュアニメにしたり、凝った演出や作りというものを重視していた時代があったように思いますが、今は作り自体はシンプルな方向になってきているように思います。

その理由としては、Webサイトは見るものではなく使うものになったからかもしれません。デスクにあるパソコンだけでなく、持ち歩くデバイスが増えたこともあるし、いろいろなことが関係していると思います。リッチに見せるべきはリッチに見せて、その必要がないところはさくっと見せる。だんだん細分化されるというか精査されるようになっているようです。どのようなニーズを持っているかによって、作り分けるようになっています。

Webサイトは見るものではなく使うものになった

――HAKUのサイトは、比較的シンプルな作りですが、これはなぜですか。

古沢:元々のブランドのイメージが、デコラティブではなくシンプルな機能美が強調されるとうかがったので、そのへんを意識しました。

――Webフォントを使っているということですが、どのような経緯で使われることになったのですか。

小助川:ビービーメディアから提案がありました。HAKUはエレガントさや先進性をイメージしているので、それをフォントの部分でも表現できた方がいいと思っていましたが、画像にはしたくありませんでした。

Webフォントについては、以前にもいくつかのブランドで検討したことがあったようですが、あまり導入されていませんでした。理由は、重くて画面のちらつきが気になったことのようです。しかし、Webフォントサービス「TypeSquare」が改善して速くなったので、使ってみたらどうかと提案がありました。テストサイトなどを見ても、重さは感じませんでした

――画像にしたくなかったのはなぜですか。

小助川:SEOのことを考えると、やはり、文字は画像ではなくテキストにしたかったからですね。

WebフォントはSEOの点で有効

古沢:HAKUは商材的に検索されるだろうと思っていました。美白製品ですが、美白は女性にとってはコンプレックスです。シミを消したいという話を、みんなでわいわいすることはありませんし、SNSでシェアするような話でもありません。やはり、個人的に検索するだろうと思うのです。だから、検索は重視しなければと思い、提案しました。

リニューアル前との比較はできないのですが、検索での流入が徐々に上がっているという感じはしています。

小助川:弊社の他のブランドと比較しても、HAKUは検索で来る率が高いので、いいと思います。あとは、体験という意味からも、ビジュアルのエレガント・先進性といった世界観を壊さず、スムーズに読めるというのは非常に強いと思います。

――黎ミンという、比較的新しい書体を採用したのはなぜでしょうか。

文字修正が簡単なのはすごく助かる

小助川:黎ミンは文字と余白との関係が絶妙でお互いを引き立てていて、ブランド「HAKU」の世界観に合っていると感じました。また、黎ミンは太さの種類が豊富で、雑誌、Webから店頭POPまで幅広い媒体に対応できるのも選んだ理由のひとつです。

古沢:制作する立場では、簡単に文字修正できるのですごく助かります。

小助川:特に弊社はデザインに非常にこだわるので、修正が多くなりますからね。

古沢:修正が大変だとミスも出やすいので、簡単にできると間違えることも減ります。

コンバージョンに至るまでがブランディング

――昨今、コンバージョンが最も重要で、ブランディングなんてごまかしだという論調もあるのですが、これについてどう思われますか。

コンバージョンに至るまでがブランディング

小助川:お客様が来る理由と目的にそっているべきだと思います。とにかく派手な文字、大きい文字ということではないでしょう。資生堂では4、5年前に「ワタシプラス」というWebサービスを始めました。そこにECもあるのですが、つまり資生堂はECの歴史がとても浅く、そういう文化がありません。そこで、最初はコンバージョンの専門家といわれるような方に入ってもらったのですが、その方の言うことが必ずしも正解ではありませんでした。この文字は大きくしなければダメだという場合も、その通りにすればコンバージョンが上がるわけではなかったのです。

その商品を求めているお客様の中には、自分の文脈があります。資生堂はこうあって欲しいというイメージもあります。つまり、ブランディングを無視したコンバージョンはあり得ない。うまくバランスをとる必要があるのだと思います。だから、どちらが重要かではなく、「コンバージョンに至るまでがブランディングであるべき」ではないでしょうか。そのために、接点ごとの最適化が必要ということです。

――別の物として捉えてはいけない、買ってもらうまで、さらには買ってもらった後までがブランディングということですね。ありがとうございました。

※このページはモリサワのWebフォントサービス「TypeSquare」の「黎ミン」「新ゴ」「ゴシックMB101」を利用しています。

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