大企業のローカルSEOは、中小企業とは異なる考え方が必要だ(前編)
大企業のSEO担当者、特にローカルSEOを推進する人には、世の中にある中小企業向けの情報とは異なる「大企業向けのローカルSEOの知識とノウハウ」が必要だ。
そうした情報を、「大企業に適さないアドバイス」「チェックリスト」「ハイパーローカル対応」などの情報とともにお届けする。
大手企業――拠点が数百や数千あるような大企業――のマーケティングを担当している人に訊きたい。貴社に合ったローカルSEOの情報を、いつも使っている情報源から得ていると自信を持って言えるだろうか?
担当しているブランドは、技術的な基礎だけでなく、新しい市場への進出を支えてくれるハイパーローカルな調査もチェックしているだろうか?
ローカルSEOに関する私の経験といえば、2010年にMozで働き始めるまでは、中小企業モデルに関わるものがほとんどだった。仕事の範囲が限られていたので、当然ながら当時の私にできる助言にも限界があった。
だがその後、Moz Localが登場し、105カ所の拠点を持つCrate & Barrelや、400拠点のPAPYRUS、2000拠点以上のBridgestone Corporationのような、高く評価されている大企業顧客のより複雑なニーズについて、もっと学べる機会が増えた。
そうした経験を経て、業界向けのローカルSEOの情報や戦術が「中小企業的な発想で大企業にとっては現実味がないもの」なのか「すべての企業モデルに適用可能なものなのか」が、よくわかるようになった。
この記事は、次のような目標を持って書いた。それぞれ前編・中編・後編に該当する。
よく目にするが、大手ブランドにとって最善ではないアドバイスの例を示す。
進行中のキャンペーンの戦略を策定したり、代理店やSEO部門がもっと野心的な顧客との関係を追求する準備をさせたりするのに役立つ、ローカルSEOに関する大企業向けチェックリストを示す。
地域のさまざまな状況に対して、企業はハイパーローカル市場の初期調査においてどのような点を考慮すべきかを示す(カリフォルニアを例にする)。
目に触れる情報すべてが大企業向けとは限らない
ローカルSEOをうまく進めるには、「小規模なビジネス」と「大企業」でまったく異なる考え方が必要になる。
1店舗しかない家族経営の小売店のように小さなブランドの場合、無料の学習と便利なツールがいくつかあれば、社内に担当者が1人いれば会社のローカルSEOを管理できるだろう。
しかし拠点が複数ある大規模なブランドは、組織が複雑なため、事情が異なる。サイテーション(引用、言及)ビルディングの核心に至る前に、大企業は以下の問題を解決しなければならない。
数百あるいは数千の拠点を貫くデータ標準化。
どのデータと資産を誰が管理するかを曖昧にしかねないフランチャイズ関係。
実際にデータ管理と戦略実行を担当する職員の指名と、目標達成に向けて協働しなければならないチーム間の架け橋作り。
リスティング管理からサイトアーキテクチャやコンテンツ開発まで、すべてのスケーリング。
販売店レベルから全社レベルへと問題のあるデータを報告する体系への対応。
ここではざっと説明するにとどめるが、簡単に言うと、家族経営の企業なら簡単な業務だったとしても、「企業の規模」や「拠点が複数あるブランドの活動範囲」によっては、会社全体に及ぶ大問題になりかねないということだ。
ということは、「ローカルSEOのアドバイス」として公開されている情報があったとしても、大企業の担当者はすぐに飛びつくべきではない場合もあるということだ。そうした情報に「これは中小企業向け」「これは大企業でも同じ」のように明示されていないと、前述のような問題に突き当たってしまうからだ。
ここからは、私がこれまでに出くわした「大企業では問題があったり、当てはまらなかったりする」一般的なアドバイスを3つ、紹介する。
- × すべてのローカルビジネスリスティングからトップページにリンクを張る
- × ローカルビジネスのリスティングは1度やれば十分だ
- × ただ○○するだけでいい
それぞれについて解説していこう。
大企業には適さないアドバイス①
すべてのローカルビジネスリスティングからトップページにリンクを張る
すべてのローカルビジネスリスティングから、企業サイトのトップページにリンクを張るといい
ローカル検索順位を引き上げるおススメの施策として、このように提案されることがしばしばある。ウェブサイトのトップページは一般に、各拠点用のランディングページよりもオーソリティが高いため、そうするのだ。
だが、大企業の場合、これが正解だとは限らない。理由は2つある。
1つ目の理由は、検索ユーザーの体験を悪化させる可能性が高いことだ。
検索ユーザーが、ある拠点のリスティングを選ぶと、企業サイトのトップページに飛ばされるとする。となるとその人は、サイトのメニューから選んだり店舗を検索したりしなければ、目当ての拠点のランディングページにたどり着けない。
「目的の店舗がわかっているのだから、そう行動するだろう」と考えるようでは、ユーザー体験への配慮が欠けている。消費者の時間を無駄にしているし、コンバージョンが下がるリスクを自分から抱え込んでいると思う。
もう1つの理由は、拠点ごとのランディングページを十分に活用しないと、地域や顧客ごとにウェブサイト体験をカスタマイズすることが非常に難しくなることだ。
リスティングから拠点ごとのランディングページに直接リンクを張れば、
- その地域のレビュー
- その地域のスポンサーやイベントに関するニュース
- 特典
- その地域限定の商品の紹介や画像
などを使って、その拠点の独自性を説得力のある形で瞬時に示せる。しかし、企業サイトのトップページにユーザーを飛ばした場合は、こうした情報は提供できない。
次に示す統計について考えてほしい。
新たな調査によると、ブランド全体のページと拠点ごとのページが両方存在する場合、消費者のエンゲージメントの85%は、ローカルページ(Facebookのローカルページや拠点用のランディングページなど)で発生している。全国版のページやブランド全体のページで発生するインプレッションとエンゲージメントは、少数(15%)にとどまる。
拠点が複数ある大企業の場合、検索順位を上げようとしたために、行き届いたユーザー体験を提供できない結果になってしまっては、カスタマーファーストとは言えない。
大企業には適さないアドバイス②
ローカルビジネスのリスティングは1度やれば十分だ
ローカルビジネスのリスティングは、最初にちゃんと作れば、それで十分だ。
こうしたアドバイスは、特に厄介だ。大企業レベルではまるっきりの間違いだし、実際のところ中小企業に当てはまるとも思えない。
このアドバイスは、拠点を1つしか持たないローカル企業を想定しているのだろう。そうした企業は、Googleマイビジネスのリスティングを作成し、適切なデータでおそらく20~50のサイテーションを構築している。
では、大企業がこのアドバイスを実践すると、どういうトラブルが起こるのだろうか? こんな風になってしまわないだろうか?
10年前とは社名が変わったのを忘れてしまっていた。
ああ、それから5年前には街の反対側に移転していた。
そして、こういった古いデータがAcxiomのような大手アグリゲータのどこかに残されていた。
どういうわけか、悪名高いデータフローの気まぐれな変化によって、古い情報がBingに掲載されてしまっている。
それによってBingユーザーは混乱し、Googleマイビジネスのリスティングの新住所(正しい情報だ)が間違っているとGoogleに報告した。
そんな具合だ。データフローとクラウドソーシングによる編集の間で、ローカルビジネスのリスティングに対して、「1回設定したら後はほったらかし」というアプローチを採ると、いつトラブルが起こってもおかしくない。
このような混乱が、大企業が抱えている1000か所のビジネス拠点で発生すると考えてみてほしい。
昨日、2店舗を新たにオープンし、1店舗を閉鎖した。それに、新たなチェーンを買収した。それらの資産すべてのブランドを変更しなければならない……。
しかも、会社に寄せられたクレーム情報を見ると、25のリスティングに掲載した電話番号が間違っているようだ。
それと先週、対応しなければならないレビューがGoogleだけで500件あったし、ライバルの1社が否定的なレビューを残しているようだ。
おっと、Moz Localから重複リスティングが700件あるというレポートが来た!
おまけに、今週は、Google Questions & Answersで250件の質問に回答しなければならない。
しかも、サンタフェの誰かがGoogleマイビジネスのリスティングに大型ごみ入れの画像をアップロードしていた……。
ローカルSEOのビジネスリスティングは、作成するだけで終わりではない。更新しなければいけないデータがないか監視したり、ビジネスにおいて避けられない出来事に対処したりしなければならないし、消費者やスパムにも対応しなければならない。
中小企業でもこれをすべてうまくやるのはなかなか大変だが、大企業がこれを無視するのは危険だ!
大企業には適さないアドバイス③
ただ○○するだけでいい
新しいローカル検索機能やベストプラクティスが登場するたびに、「○○を実行すればバッチリ」と書かれた記事が見つかる。私が大企業から学んできたのは、「○○するだけでいい」ことなどまったくない、ということだ。
そのいい例を紹介しよう。Googleが2017年に導入したGoogleマイビジネスの「投稿」機能に関するものだ。
健康習慣促進プラットフォームPatientPopのジョエル・ヘッドリー氏は、大勢の顧客が何十万ものリスティングで影響力の大きいこの機能を利用できるようにするソリューションを、迅速に開発しなければならなかった。最近のインタビューで説明してくれたように、彼らはその機能を驚くほど短期間に実装してみせた。
しかし大企業では、PatientPopが実装したからといって、それをすぐ使えるわけではない。大企業レベルでは通常、新たな導入のたびに、段階を行きつ戻りつしながら無数のステップを踏む必要がある。そういったステップとしては、
- 新たな機会の認識
- 機会追求に対する承認
- 取り組むチームの指名
などがあるし、場合によっては、
- 目標達成に向けた新しい資産の買収
- 大規模な実装
- その取り組みから得られるROIの可否の判断を受けるために報告できるよう、成果を追跡する下準備
なども考えられる。
小規模な企業は、新しい機能や戦略にきちんと取り組む時間を見つけられれば、比較的機敏に動けるが、大企業は、インフラやコミュニケーションのギャップによって危険な泥沼にはまり込んでしまう恐れがある。特定地域のニーズに合わせたコンテンツのハイパーローカライズのような単純なことでも、大企業では1つの大仕事になる。
家族経営のローカルな金物店ならば、郡の品評会が毎年開催される地域最大のイベントであることを知っており、
- ブースの出展
- コンテストの開催
- 写真撮影
- トラクター牽引選手権の後援
- リンクの獲得
- イベントについてのブログ執筆
などに必要なものをすべて持ち合わせている。
しかし3000店舗あるフランチャイズの金物店はと言えば、そのイベントに関するマーケティングを実施する許可を社内で得るのはもちろんのこと、郡の品評会の存在を支店から本社に伝えるだけでも、営業拠点から経営幹部へ、さらに経営幹部から営業拠点へと、煩雑な連絡が必要になるのだ。
大企業で仕事を進めるのに、「○○をやればOK」なんてことは、あり得ないのだ。
この記事は、前中後編の3回に分けてお届けする。中編となる次回は、大企業がローカルSEOの準備を整える際、考慮すべき項目のチェックリストを紹介する。→中編を読む
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