顧客のニーズは「状況」によってまったく違う! 顧客行動を観る「STPD」のススメ
デジタルマーケティングは特別なことではない
Web担当者に任命されると、最初はわからないことの多さに途方に暮れると聞きます。SEO、CMS、DMP、CSSなど耳慣れない3文字の略称はたくさんあるし、技術もどんどん進歩していくなかで、勉強しても勉強してもキャッチアップしきれないことへの不安もあるでしょう。
デジタルマーケティングの世界では、「PDCA(Plan/Do/Check/Action)」もよく聞かれる言葉です。最近は、高速PDCAという言葉も耳にしますが、やみくもに回しても成果は得られません。そこで今日、紹介するのはユーザの行動理解から始める「STPD(See/Think/Plan/Do)」のプロセスです。
なんだか難しそうだと思うでしょうか。でも、安心してください。基本中の基本をしっかり押さえておけば着実に成果を上げていくことはできるのです。「Web」「デジタル」だからといって特別に身構える必要はないのです。
経営学者のピーター・ドラッカーは次のように述べています。
マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ(ピーター・ドラッカー)
この言葉のようにデジタル時代になっても本質は同じで、ポイントは「顧客」を理解することにあります。
基本の4ステップを地道にしっかりと回すこと
デジタルマーケティングの特徴の1つは、データをもとにリアルタイムな改善ができることです。しかし、「高速PDCA」という言葉に踊らされて、「とにかく何かをやらなければ」と思いつきの施策や売り込まれたソリューションに飛びつくのは駄目です。
- どんなお客様が
- どんな状況で
- 何を求めて
- 自社のサイトを訪問するのか
という仮説を立てたうえで、そんなお客様に自社としてどのようなコミュニケーションをとれば、「顧客満足向上」「売上向上」「コスト削減」といったビジネス成果につながるのか、1つひとつ丁寧に検討をしたうえで施策を展開していくことが、結果的に早く成果につながるのです。
私は、デジタルマーケティングに取り組むうえで、以下の4ステップのフレームワークを1つひとつの施策について地道に回すことを推奨しています。
本コラムでは、この4ステップのなかでも特に「ターゲットユーザ」「シナリオ」の部分に焦点を当てて事例も交えてポイントを解説します。
その「ペルソナ」は本当に役立っていますか?
ターゲットユーザを設定しましょうということがどのマーケティングの教科書にも出てきます。具体的なユーザ像をイメージできるよう仮想のユーザ像「ペルソナ」を定義することも推奨されています。みなさんは、この「ペルソナ」をどのように作っていますか。
性別や年齢、家族構成、年収、居住地、趣味や嗜好性を具体的に定義していくことが一般的ですが、実はこのやり方だとサイトのシナリオや施策を考えるうえで役に立たないケースが多いのです。
ユーザが何らかの行動を起こすとき、もちろん年齢や性別が影響を与えることもあるのですが、そういったデモグラフィックな属性よりも、ユーザが置かれている「状況」の方が行動の理由としてはるかに大きく影響するのです。
みなさん自身にも心当たりがあるはずです。自分という人間はまったく変わりがないのに、置かれた「状況」によって欲するモノや情報がまるで変わることを。
属性が近くても「状況」によって行動は変化する
たとえば、銀行の住宅ローンのWebページを題材に考えてみましょう。
サイトのビジネスゴールは住宅ローン相談会にユーザを送客することです。ターゲットユーザを定義していくための要素として、「男性か女性か」「自行との過去取引があるかないか」「新築購入か中古物件購入か」「借り入れ金額は大きいか小さいか」などを一生懸命考えそうですが、実はこれらの要素は、サイト上でユーザと効果的なコミュニケーションをとるためにはあまり関係ない場合があります。
では、このケースでは何がユーザの銀行サイト閲覧行動に影響を与えるのか。それは、
- 購入する物件が決まっているのか
- 不動産会社の担当営業から提携ローンの紹介を受ける前か後か
- そしてその不動産会社の担当営業の推薦を信頼できているか否か
という「状況」なのです。
すでに購入する物件が決まっているとしたらどうでしょうか。そのユーザは、不動産会社の担当営業から提携するA銀行とB銀行しか提示されなかったが、
- もしかして大手のC銀行の方が有利な条件があるんじゃないか?
- 担当営業はB銀行をプッシュしていたが本当にB銀行で大丈夫なのかしら?
という「状況」でサイトを訪問しているかもしれません。
このような人と、まだ購入する物件が決まっておらず、不動産会社の担当営業から何も情報を得ずにローンの下調べに銀行サイトを訪問している人では「状況」が違います。そのため、仮に同じ属性の人間であっても求める情報がまったく異なってくるのです。
ですから、みなさんペルソナの年齢が35歳か40歳かで喧々諤々と議論をして時間を消費することはやめてください。そういった「属性」情報ではなく、どのような「状況」に置かれているユーザなのかをペルソナの記述に入れていくべきなのです。
1人ひとりの行動を「観察」することで「状況」が見える
では、このユーザの「状況」はどのようにしたら捉えられるのでしょうか。
- アクセスログの分析
- ユーザアンケート
- ユーザインタビュー
などの方法が一般的ですが、これらの手法だけでユーザの「状況」を捉えることは難しいものです。
アクセスログ分析では、サイト全体としての流入傾向や離脱傾向はわかりますが、複数ユーザの行動がまとまった数値になるため、個々の行動理由・状況を推察しづらいのです。アンケートやインタビューも、ユーザの嗜好性や好みについての質問に終始しがちで、ユーザの意見を拾うことはできてもユーザ自身も意識していない「状況」までは捉えにくいのです。
そこで、私が推奨するのは、実際のユーザ1人ひとりが起こした一連の行動を「観察」することです。つまり、自社サービスを利用しうる状況にある知人や同僚が、実際にどのように自社サイト(および他社サイト)を利用するのかを観察させてもらうのです。
流入の仕方や、自社サイトおよび他社サイトを閲覧していく一連の流れを観察していくことで、ユーザがどのような状況で何を求めており、その求めていることに対して現状のコミュニケーションが適切なのかが手に取るようにわかるはずです。
アクセスログの見方についてもデータを塊で観るのではなく、ユーザ1人ひとりに分解していきます。そして、特定のユーザが複数セッションをまたいで行動する様子(アクセスログ)を観ていくことで、ユーザの抱えている「状況」と当該状況でのサイト内行動と課題が浮かび上がってきます。
現在は、アクセスログをユーザ1人ひとりに分解して観ることをサポートするツールも登場しており、先進的なマーケターは個票データ(ユーザ1人ひとりのデータ)を時系列で観察することで課題把握と仮説出しをしています。また、数値やデータの扱い慣れていないマーケティング初心者も、時系列で顧客行動を「追体験」することで比較的簡単に気づきを得ることができるのです。
闇雲にPDCAを回すのではなく顧客行動を「観る=See」して、行動理由を「考える=Think」することが、一見遠回りに見えて実は効率的に成果につなげる方法なのです。
以上、簡単ではありますがUX起点のデジタルマーケティングの鍵となる顧客理解の手法について解説をしました。プロセスの全体像と各ステップの詳細については具体的なケースを題材に11月の「企業担当者 ウェブ初級講座 第11期」でご説明したいと思います。
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