Twitterに聞く2017年の展望、ブランディング動画とネットワーク広告を収益の柱として強化
Twitterはサービス開始から10周年を迎えた(2016年3月21日)。日本のユーザーは世界のなかでも特殊であり、ビジネス面でも注目されているというが、今年は米国に次いで初めて日本国内のユーザー数(アカウント数)が正式に発表されるなど、期待の高さがうかがえる。
法人向けのサービス面では、セルフサービス型の広告、ライブ動画配信などが開始された。また、データライセンスビジネスも好調だという。一方、ここ数か月は米国本社におけるTwitterをめぐる暗いニュースが飛び交っているのも事実だ。
この10年を振り返りつつ、来年以降のTwitterが主にビジネス面でどういった方向へ進んでいこうと考えているのか。Twitter Japanの王子田克樹氏に聞いた。
共感・共有のメディアとしてユーザーに愛されるプラットフォームへ
――2016年を振り返ると、どんなできごとがありましたか。
まず、おかげさまで3月21日に10周年を迎えることができました。この10年間プラットフォームとして大きく、順調に成長してこられたのはいいことだったと思います。
10周年の記念の動画をツイート(#LoveTwitter)したとき、ユーザーの方々からツイートをいただいたのですが、社員としてとても勇気づけられましたし、心暖まるものがありました。愛されるプラットフォームを支える人間として働けることを実感できたモーメントですね。
初ツイートから10年。日本のTwitter上で起きたことを中心に、ごく一部だけをこちらの動画にまとめました。いつもご一緒くださってありがとうございます。これからもずっとご一緒くださいますように。#LoveTwitterhttps://t.co/ChOOroJXJa
— TwitterJP (@TwitterJP) 2016年3月20日
プラットフォームとしてTwitterの話をするとき、我々は「共感と共有のプラットフォーム」という表現を使います。その対象は大きな社会的テーマだったり、個人のプライベートなことだったり、さまざまですが記念の映像を見るとその幅広さを改めて実感します。
2017年に続く大きな話の1つに動画があります。動画の再生時間が従来の30秒から長くなり、ライブ動画アプリの「Periscope(ペリスコープ)」が完全に統合されたのも大きい。その成果をもっと広げていくことが、2017年の大きなテーマの1つです。
――動画では、Vineのサービス終了が発表されました。熱心なファンは多かったのではないでしょうか。
私の息子もファンだったので、文句を言われました(笑)。Vineには大きな愛情を注いでいましたが、さまざまなビジネス状況の変化のなかで、選択と集中はきちんとしなければなりません。
Twitterがどんなプラットフォームなのかを考えたとき、ライブでオープンに会話が生まれるからこそ、その会話が広がっていくという特徴があります。その特徴に沿って選択と集中を判断するとき、ライブに関してはペリスコープの親和性が高く、スケーラビリティもあります。ライブというTwitterの特徴を考えたとき、Vineのマッチングは低いという判断から、サービスを閉じるという苦渋の決断をしました。
無料のライブ動画配信をスタート
動画ではもう1つ、9月に米国でライブ動画を開始しました。木曜夜のNFLを無料ライブ中継するもので、Twitterのタイムライン上でNFLのゲームを楽しむことができます。米国発のサービスですが、日本でも視聴できます。
これによって、Twitter上で新しい動画コンテンツの楽しみ方を提供できます。今までであれば、テレビを見ながらCMの間にツイートしたり、他の人のツイートを探したりしていましたが、リビングでテレビを見ている状況でなくても、外出先であってもライブで楽しめるようになります。
ビジネスモデルとしては、コンテンツオーナーの放送局とパートナーシップを組んで配信しています。その動画コンテンツに広告を挿入したり、あるいはもう一度見直したいという人に対して、広告を出していくというビジネスモデルです。
日本独自のコンテンツという意味ではまだこれからですが、日本ではどんなコンテンツが喜ばれるのか、どんな日本のコンテンツオーナーとパートナーシップを組めるのか、2017年の展開として楽しみですね。
ユーザー向けのサービスでは、話題のツイートをキュレーションできる「モーメント」も新しく加わった機能です。当初はTwitter社内の人間だけが利用できましたが、今は個人ユーザーにも提供開始しています。こういったものが、2016年に起きた大きな変化だと思います。
セルフサービスで中小企業の広告活用が拡大
――Twitterを活用したマーケティングサービスでは、どのような変化がありましたか。
サービスのローンチは2015年11月になりますが、セルフサービス型の広告プラットフォームを提供しました。1年間を通してサービスを動かしたのは、大きな変化だと思います。1年経過して、業種業態、企業規模を問わず、さまざまな広告主に利用いただいています。
個人では、ミュージシャンやクリエイターの方々など。法人では、セルフサービスを始めてから中小規模のアプリデベロッパーの事例が増えています。これまでも、大手アプリデベロッパー、ECサイトなどで利用いただいていましたが、セルフサービスで簡単に始められるので使っていただく事例は増えていますね。
BtoB領域の事例もあります。名刺管理のソフトウェアだったり、中小企業のクラウド会計サービスだったり、BtoBビジネスでもセルフサービスを使って広告を打つ企業が増えてきています。
業種業態、企業規模を問わず、セルフサービス型広告の利用が伸びている
――セルフサービス型の広告では、ヤフーとのパートナー(2014年11月開始)があります。そちらとの関係は。
ヤフーとのパートナーシップの背景には、当初セルフサービスを始めるにあたり、我々がすぐに用意できないサポートのインフラとリソースを持っていることがありました。
それから、Twitterの広告ソリューションを利用される方のほとんどが、オンライン広告の利用経験がある方です。ヤフーは、サーチやディスプレイ広告ネットワークのほか、潜在顧客を持っていてサポートの組織体制もある。そういった理由がありました。
ところが、実際にセルフサービスを始めてみると、オンライン広告の経験がない広告主が一定数いることがわかってきたのです。米国や英国でも同じことがわかっています。
つまり、ヤフーが保有している既存の広告主とはまったく違うニーズが、SMB(中堅中小企業)という大きな市場にはある。そこにアプローチするとき、Twitter自身でも獲得していくことが合理的になってきたのです。これについては以前からヤフーと話していて、どちらか一方ではなく、SMBという大きな土地のなかで広くアピールして育てていこうと、パートナーシップが続いています。
ヤフーと互いに協力しながら、SMBという大きな土地のなかでビジネスを育てていく
――Twitter自身でも、まだネット広告のニーズが顕在化していない広告主にアプローチしていくということですね。今、それぞれのプラットフォームで機能的な違いはあるのでしょうか。
プロダクトには、ほとんど差がないと思っていただいて結構です。管理画面の使いやすさは好みもありますが、ヤフーの検索連動型広告もTwitter広告もヘビーに使っている方は、一括で管理できる方(ヤフー)が便利でしょう。一方、Twitterで初めてオンライン広告に触れる方もいます。そこでTwitterから使っているケースは結構あると思います。
――サポート体制は、すでにTwitter単独でも十分に提供できる体制が整ったということでしょうか。
ヤフーと同じレベルというと大変失礼になります(笑)。ですが我々もできるかぎりサポートをやらせていただこうと思い、実際にやっています。メールや電話のサポートが基本になりますが、セミナーで直接悩みに答えることもあります。
――SMBのなかには、まだWebサイトが整備されていなかったり、広告を打った経験がなかったりするケースもあると思います。そういった方への認知獲得では、どんな取り組みをしていますか。
昨年SMB事業が始まってから、全国でセミナーを開催しています。1年で約70回、4000人近くの方に参加いただき、東京のオフィスでやるケースもあれば、地方に行くこともあります。地方でオンラインマーケティングの勉強会を主催されている方たちと協力することもあり、担当者がバッグを持って講演して帰ってくる。
また、中小の方々にTwitterで気軽に広告が打てることを知ってもらうため、J-WAVEとラジオ番組を始めました。これは、Twitterのマーケティング的にも面白い試みだと思っています。良いパートナーシップが組めたと思いますし、Twitterがラジオで帯番組を持っているんだと、多くの方々も楽しんでいらっしゃいます。
ビジネスインパクトとして明確に数字は出せないのですが、セミナーに参加する方などの声を聞いた実感値として、ラジオリスナーの中心である30代~40代の意思決定する立場にある方たちのなかで、Twitterで広告ができることが知った方がいることを感じています。
その他、「Twitterビジネス(@Twitterjp_SMB)」というハンドル、書籍での情報提供などをしています。
Twitterの広告を知ってもらうため、全国でセミナーを開催。地元地域の勉強会とも協力してサポートしている
アクティブユーザー数の発表がマーケターの意識を変えた
――今年は初めて、日本のアクティブユーザー数を発表しましたね。世界でも米国と日本だけだそうですが。
マーケティング面では、2月に月間アクティブユーザー数(MAU)が3,500万人を超えたことを発表(9月末時点で4,000万)したのですが、そのことによってマーケターの認識が大きく変化した年だったとも思います。
数字を出したことでマーケターの認識が、大きなリーチを取りにいこうとしたとき、Twitterというプラットフォームを無視して考えられないと、大きく転換したと思います。いわゆるブランディング目的の広告主が、Twitterをより積極的に使うことのギアが1段階上がり、日本はビジネス面で大きく躍進した年になりました。
アクティブユーザー数の発表がマーケターの意識を大きく変えた
――王子田さん自身が、マーケティングの大きな変化として感じていることはありますか。
一番大きいのはモバイルシフトですね。Twitterはうまく乗れたと感じます。実際、2006年頃はデスクトップが圧倒的でしたが、それがモバイルにシフトし、接触時間はまだ増えています。相対的に旧来メディアの接触時間は小さくなっているので、そこは大きいですね。
同時にユーザーのリテラシーや慣れも大きく変化してきました。10年前だとモバイルコマースなんてあり得ないという感じでしたが、今は抵抗がないですよね。それはユーザーの感覚の変化もあるし、ユーザビリティが上がっているということも当然ある。それらがあわさって、大きく変化している感じがしますね。
データに付加価値を与えるパートナー企業
――日本は広告とともにデータライセンスビジネスも好調だと聞きました。具体的な事例はありますか。
Twitterのデータライセンスのパートナーは世界に数百社、国内でビジネス展開するパートナーは数十社あり、データ活用の方法はさまざまです。今は単にデータを再販することはしていなくて、データ分析やビジュアライズなど、付加価値を与えた情報を広告主やリサーチャーの方たちに提供しています。
たとえば、あるアルバイト求人情報メディアは、アルバイト希望者の潜在ニーズを把握するために活用しています。一番わかりやすいターゲットユーザーは、「バイトをしたい」とツイートしている人ですが、顕在化しているニーズには他社もターゲティングをかけるので競争が激しくなります。
ですがツイート分析をしていくと、「こういった発言をしている人は、しばらくすると高確率で『バイトをしたい』と発言する」ということがわかります。ツイートの傾向から潜在的なニーズを持った人を見つけることで、ちょっと早めにターゲティングをかけていくことができるのです。
あるいは、特定のユーザーをターゲティングしたいと思ったとき、ツイートの内容をつぶさに分析してグルーピングしていくといったデータの使い方もあります。ただ、そこまでの分析をするには、それなりの専門技術やセグメントを切った分析などが必要です。そういった部分をパートナーが付加価値として提供しています。
ライブ動画とネットワーク広告が戦略のカギ
――サービスレベルでどの分野に注力するかはうかがいました。来年以降のTwitter社全体の戦略を聞かせてください。
大きなポイントは2つあります。
1つは動画の活用方法を広めていくこと。特に日本は大きなオーディエンスを持っているので、リーチとブランディングの活用を強く押していきます。2016年内でも、消費財メーカーがペリスコープを活用して新商品のイベントを中継して拡散させるような事例は、少し出てきています。それが、2017年は普通のこととして使われるようにしていく。
もう1つは、Twitter以外のネットワーク広告の活用促進が大きいですね。これは、Twitterのタイムラインに掲載された広告(ネイティブ広告枠)を、他のメディアの掲載面にも配信してリーチとパフォーマンスを上げていくものです。すでに米国では大きな収益の柱となりつつあります。
米国など、他のマーケットの経験では広告のパフォーマンスが非常に良くなります。そこが我々の強みとしてありますし、広告主もTwitterのネイティブ広告枠を入稿していけば、他のメディアにも展開できて、全体のパフォーマンスやインプレッションを高められる。
日本はどちらも取り組み始めたばかりですが、これらを収益の柱に育てていくことになると思います。
ブランディング動画とネットワーク広告の活用を促進して収益の柱に育てていく
――新しいコンテンツや広告の取り組みに応じて、日本の広告主向けサポートは変わりますか。
ビジネスが大きくなれば、それをサポートするチームも大きくしなければいけません。
基本的に我々が提供するサポートは、代理店向けのものです。広告主は代理店と話をするケースが多いので、代理店のプランニングに知恵を貸したり、業界の面白い取り組みをケーススタディとして提供して横展開したり、そういった活動をしています。
もちろん、広告主と直接やり取りしないわけではなく、Twitterと代理店と広告主、3者でミーティングさせていただくこともありますし、セルフサービスでのサポートもあります。
データライセンスに関しても、パートナーがビジネスをしやすいようにサポートします。具体的な例では、何かセミナーをしたいというときに共催したり、マーケティング的なサポートをしたりすることもあります。
――最新の日本の月間アクティブユーザー数は、4,000万人(ボットアカウントも含む)。これからも順調に成長していくでしょうか。
複数アカウントの保有数を平均すると、1人平均で1.xxアカウントとなっていて、実際のユーザー数とはそれほど乖離がないと考えています。私もそうなのですが、Twitterはインタレストによって、まったく別のパーソナリティとして使い分けている方がいますね。
日本の数字は、まだまだ伸ばせると思っています。Twitterの普及率を年齢別に見ると、10代~20代が非常に高く、30代~50代になるに従って低くなっていきますが、単純に30代以上の人口割合で考えると、まだまだ埋められる隙間はある※1。
※国内ユーザー数全体では30代以上が半数を占めている。
特に30代~50代の女性層は大きいですね。そういった層にマーケティングを仕掛けていくことは必要だと考えていますが、3,500万人から4,000万人まで9か月間で増やせましたし、今も継続的に伸びていますから、息苦しくなっている感覚はありません。
9か月で500万人増加、現在もTwitterのユーザー数は継続的に伸びている
あとは利便性の向上です。人が集まるところには、悪い考えを持った人も入ってきます。広告の品質、ヘイトスピーチなど、いろいろな要素がありますが、スパムレポートなど、ユーザーの方や代理店の方の協力も得ながら、人とテクノロジーの力で対応を進めていきたい。
11月には、(アカウント登録の)QRコード機能を追加しましたが、これも利便性の1つですね。QRコードができたことで登録が簡単になりますし、ローカルビジネスの方たちが、販促物に載せるような使い方もやりやすくなったと思います。
「いまさらQRコード?」という感覚もあると思いますが、我々はプロダクトこそがユーザーに対する支援だと考えています。先ほど述べた、30代~50代の女性層へのリーチもそうですが、QRコードをきっかけにコミュニティやユーザーの裾野が広がっていけばいいと思います。
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