初代編集長ブログ―安田英久

Google広告のブランド効果測定サービスは、「さすがグーグル」というスゴい仕組みだった(しかも無料)

調査会社に依頼しなくても、無料で、適切なターゲットを自動的に調査でき、数日で結果がわかるサービス
Web担のなかの人

グーグルは、インターネット広告の効果を「ブランド認知」「広告想起」「検索上昇率」といったブランドリフト指標で効果測定できるサービスを提供している。その名も「Google広告 ブランド効果測定」。

しかも、「さすがグーグル」という洗練された仕組みで実現されており、調査会社に依頼しなくても、しかも無料で適切なターゲットを自動的に調査でき、しかも数日で結果がわかるサービスだ。

ネット広告の効果を、CTRやCPAなどの刈り取り指標“だけ”で測るのは、おかしい

広告を見てもらうことによるブランドリフト効果があるはずだ

ブランドリフト効果を活用することで、ファネルの上部にいる潜在顧客への働きかけを強化できる

――そう信じている広告業界の人(筆者を含め)にとって、このサービスの洗練された仕組みは、僥倖のはずだ。

グーグルで「Google広告 ブランド効果測定サービス」を担当する中村全信氏とユリ・ウェン氏に、サービスについて詳しく聞いた。

「さすがグーグル」という仕組みで実装している効果測定の方法とは?

「Google広告 ブランド効果測定サービス」は、

  • YouTubeでの動画広告(TrueViewインストリーム広告)
  • Googleディスプレイ広告

で出稿した広告キャンペーンによって、次のような指標がどう変わったかを測定するサービスだ。

  • 広告想起率
  • ブランド認知度
  • 比較検討の対象として含めたか
  • ブランド好意度
  • 購入意向
  • 検索上昇率(Google検索とYouTube検索で特定のキーワード検索がどれぐらい増えたか、キーワードは事前に指定する)

どのキャンペーンに対して、上記のどの指標を測定するかは、広告主が決定できる(ただし現時点では、ディスプレイ広告で測定できるのは「検索上昇率」のみ)。

新しいキャンペーンでは認知系の指標を測定し、商材の認知が浸透してきたら比較検討や購入意向といった指標を選ぶのがいいだろう。

ポイントは、「だれに対して・どうやって、これらの指標を調査するか」だ。

通常ならば、調査会社に依頼するなどしてコストをかけなければ調査できず、その場合でも調査対象はばくぜんとしたセグメント化しかできない。少なくとも、「このネット広告に触れたが、それを覚えていない人」を適切に調査対象に含めるのは、なかなか難しい。

しかしグーグルは、ここを「さすがグーグル」という仕組みを作り、実現している。具体的には、図のような仕組みだ。

これによって、「ターゲット層におけるブランドリフト効果」などを適切に測定できるのだ。

アンケートは、次のような画面でユーザーに対して表示される。

このアンケート画面の質問文は固定だが、選択肢は広告主が設定できる。また、選択肢の順序は回答者によってシャッフルされる。

アンケートの回答率は高く、数日のうちに数千の回答を集められるという。もちろん、アンケートが表示されるのは、キャンペーンでターゲットに含めていたユーザーだけだ。

広告に触れたユーザーのグループと、ターゲットだが広告に触れていないユーザーのグループの回答の差から、ブランドリフト効果を算出できるというわけだ。

同様に、2つのグループのGoogle検索での行動データから、特定のキーワードで検索する比率が広告接触でどのように変わったかの「サーチリフト」の効果も測定される。

レポートは、年齢・性別、さらにフリーケンシーなどの属性でグループ分けして行われる。

効果測定は無料、ただし現時点ではグーグルの担当者がついている広告主のみが利用可

「Google広告 ブランド効果測定サービス」のサービスは、日本では2014年上期にスタートしており、2015年12月時点で500件以上の効果測定が実施されている。

この効果測定サービスの利用に追加費用はかからない(調査統計の有意差が出るだけの広告インプレッションは必要)。

ただし、残念ながら現時点では、このサービスの利用は、オンラインからは申し込めない。利用したい場合は、グーグルの営業経由で依頼をする必要がある

ということは、相当な出稿額がある広告主しか現時点では利用できないのだが、あなたがGoogleパートナーの認定を受けている代理店経由でグーグルの広告を利用している場合は、代理店の人に相談して、グーグルに頼んでもらうのがいいだろう。

グーグルの中村全信氏とユリ・ウェン氏に聞いたブランド効果測定サービス

「Google広告 ブランド効果測定」について、グーグルでブランドソリューションを担当する中村全信氏とユリ・ウェン氏に話を聞いた。

コストをかけずにブランディングの効果を測定

――なぜGoogleがブランド効果測定に取り組むのか?

ユリ・ウェン 氏 (ブランドソリューション エキスパート)

このサービスは、広告主にとって、投下した広告費に対する効果を把握するためのツールの1つです。

グーグルの提供する広告サービスでは、これまでも、さまざまな効果測定のツールを提供してきました。

インプレッション数・クリック率・コンバージョン率などは当然確認できるし、YouTubeアナリティクスもあります。Googleアナリティクスで「広告向け機能」を有効にすれば、ユーザー属性やインタレストカテゴリを判断できます。

しかし、クリックやコンバージョンではなく「広告に触れてもらうことによるブランディング」が目的のYouTube広告やディスプレイ広告などでは、そうした効果測定では不十分でした。

とはいうものの、これまで「認知」「理解」「ブランディング」「想起」といった効果を測定するには、調査会社に依頼してアンケートを実施するなどの手法を使う必要があり、コストや時間が問題でした。

「Google広告 ブランド効果測定」サービスを利用すれば、そうした問題を解決し、広告のブランドリフト効果を適切に判断できます。

――効果測定する以外にも活用できそうなサービスだが。

効果測定以外にも、たとえば、広告クリエイティブに対する評価によって、クリエイティブやメッセージを改善していくという使い方があります。

調査に時間がかからないため、キャンペーン実施中に、データを見ながら、ブランドリフト効果の高いクリエイティブに差し替えていくこともできます。もちろん、そうしたクリエイティブは事前に用意しておく必要はありますが。

また、テレビCMを流す前に、YouTubeで広告として試して、ブランドリフト効果の高かったクリエイティブをテレビで使うという方法もありますね。

クリエイティブにもデータドリブンを

――このサービスは、どんな企業や商材で利用するのが良いのか。

中村 全信 氏 (YouTube プロダクトマーケティングマネージャー)

向いているのは、ブランディングにフォーカスしてきた企業の方ですが、次のような方も利用する価値があるはずです。

  • 動画広告を出稿しているが、効果はどの程度あったのか知りたい。

  • 動画広告が何回ぐらい再生されたのか(再生回数)はわかった。しかし、それによってどういった効果があったのか知りたい。

  • 広告クリエイティブのブランディング効果を数値で把握して、クリエイティブの作成や利用にフィードバックしていきたい。

  • ディスプレイ広告には、ブランディング効果があるはずだ。しかし、役員に対してその効果をうまく説明できなくて困っている。

これまでパフォーマンス(コンバージョン)を主眼に広告を利用していた企業が、パイを広げるためにこのサービスを利用するといった例が増えています。刈り取りだけではなく、購買ファネルの上のほうを広げるアクションを進めるということですね。

動画広告やディスプレイ広告を利用することで、企業や商品のブランドを知ってもらい、理解してもらって、あとはリマーケティングなどを利用してうまくファネルを進んでもらうやり方です。

また、YouTube広告で「サーチリフトの高いクリエイティブ」を作れれば、CVRが高いブランド指名検索が増えますし、「購買意欲が高まるクリエイティブ」ならばコンバージョンにもより繋がりやすくなります。

実際に、これまではラストクリックに寄った判断をしていたけれども、ブランド効果測定レポートによってYouTube広告の予算を増やしていった例が、エンターテインメント・金融・人材などの業種をはじめ、すでに幅広くあります。

広告主も代理店も、クリエイティブのブランディング効果の知見を貯めていってほしい

――仕組みもすばらしいし、無料で利用できるのはありがたいが、なぜグーグルの営業経由でしか申し込めないのか?

現時点では、より効果的なキャンペーンを展開していただくために、単に調査結果のレポートを提供するだけでなく、業界ごとのユーザーやクリエイティブに関する知見を広告主さまに提供しています。

その部分は自動化できておらず、グーグルの営業担当が動く必要があるため、営業経由でのお申し込みに限定しているのです。

もちろん、今後はオンラインでブランド効果測定を利用できるようにしていきたいのですが、現時点では時期は未定だとしか申し上げられず……。

それに関連することですが、広告代理店が先導して、「日本の○○業界では、今こういったクリエイティブが効く」という知見を貯めていっている動きもあると聞きます。

広告主も広告代理店も、今までの「勘と経験」だけではなく、こうしたデータをあわせて確認することで、変化し続けるユーザーに合ったクリエイティブを知見として蓄積できるのは、価値があることだと思います。

グーグルの「3Aフィロソフィ」が込められた効果測定サービス

――この効果測定サービスの裏には、グーグルの効果測定に対するフィロソフィがあると聞く。

グーグルには、指標や測定に関して「3A」というフィロソフィがあります。「Accurate(正確である)」「Agile(迅速である)」「Actionable(行動に結びつく)」です。

まず「正確である」ことですが、効果測定では当然のことながら正確性が重要です。

こうしたブランド評価を実地の会場などで行うと、非日常の環境であることから、評価が実際のものと異なる可能性があります。また、プレ調査やポスト調査では、季節要因が影響する可能性があります。

「Google広告 ブランド効果測定」は、こうしたバイアスを可能な限り排除し、「広告に接触したかどうか」だけを違いとして調査できるように設計されているのです。

次に「迅速である」ことですが、従来の調査は時間がかかり、調査結果がわかるのはキャンペーンが終わっていて、結果は来年のキャンペーンにしか反映できないということもありました。

しかし「Google広告 ブランド効果測定」の調査結果は3日ほどで結果が出るため、キャンペーン中にクリエイティブやターゲティングを最適化できます。

最後の「行動に結びつく」は、広告主にとって最も大切なことです。従来の調査は「データ」を提供するに過ぎませんでした。しかし「Google広告 ブランド効果測定」では、その結果を活かせるように設計されています。

まずターゲット・時間帯・訴求を変えた複数のキャンペーンを実施して、どのセグメントに響いていたのかなど細かい点を把握して、効果が出ていたものに最適化していくなどもできますし、効果の出るクリエイティブにあとから予算を寄せるといった活用もできます。

こうした3Aのフィロソフィに基づいているほか、サイトにトラッキング用のタグを埋め込む必要もない点や、モバイルやタブレットなどデバイスごとの結果もわかる点も特徴ですね。

※Web担編注 ただし、ユーザーのクロスデバイスでの名寄せには対応しておらず、広告非表示グループに選ばれたユーザーが、別デバイスで広告に接触している可能性はあるという。
用語集
AdWords / CPA / CTR / CVR / Googleアナリティクス / Google広告 / インプレッション / キャンペーン / クリエイティブ / クリック率 / コンバージョン / コンバージョン率 / フィード / 広告代理店
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