バナーやテレビCMとは異なるオンラインビデオ広告の活用法とは、日米最新事例に学ぶ
Web広告研究会のネット・プロモーション委員会が主催する、「事例にみる“ここまで来た”動画活用法!TV-CMとの基本的な違いはここだ」と題した第5回月例セミナーが7月22日に開催された。動画広告の潮流や広告主にとってのメリットについて、先進的な米国事例やYouTubeでの掲載、広告主各社の活用例などが解説された。
米国オンラインビデオ広告市場は2016年までに3倍へ成長
第一部の「動画広告市場の動向」と題した講演では、アドテクノロジー企業であるオムニバスの山本章悟氏が登壇し、「オンラインビデオ広告がインターネット広告をどう変えていくかをまとめ、今何が起きていて、どのような可能性があるのかという話をしていきたい
」と述べ、日米の動画広告市場について解説を進めた。
まず山本氏は、MacBook Airのバナー広告と動画広告を見せ、同じ30秒の広告視聴でも表現が大きく違い、動画広告の方がMacBook Airの先進性や薄さが表現できていることを示す。
米国ではオンラインビデオ広告市場が伸びており、2012年から2016年で約3倍の成長率を見込んでいる。また、2016年には全広告フォーマットのうち14%を動画広告が占め、市場規模は約90億ドルを超えることが予測されている。
オンラインビデオ広告は、静止画のバナー広告のシェアを置き換えていくと予測され、RTBによる配信も可能だ。広告主側での購買コントロールも可能であり、「RTBによってさらにオンラインビデオ広告がドライブする可能性がある
」と山本氏は話す。
これまでのオンライン広告の流れを説明する山本氏は、まず広告枠がRTB化されて一括で購買できるようになり、これらにオーディエンスデータなどを連結することで、狙ったオーディエンスにピンポイントで広告を配信できるようになったことを示す。そして、現在はどのようなものを配信するかが重要となってきており、広告枠をリッチ化して音声や動画を配信できるような流れになってきているのだ。
ここで、山本氏はRTBの広告主側と配信側でどのようなメリットがあるかに話を移す。広告主側としては、これまでメディアが決めていた広告枠単位ではなく、広告主が配信を管理できるようになった。また、単一のサイトではなく、複数のサイトを利用することでユーザーリーチが拡大し、オーディエンスデータやリターゲティングを駆使することで、ユーザー単位でのターゲティングが可能となったことがRTBのメリットだ。地域別の配信や個別のフリークエンシーを設定できることも広告主にとってのRTBのメリットだろう。
配信側のメリットとしては、売れ残りなどを1インプレッション単位でマネタイズできることがあげられる。また、クッキーターゲティングや入札競争による単価の上昇、営業リソースなしで収益を向上できることも配信側にとってのRTBのメリットといえる。一方で、配信先サイトの不透明化、デマンド低下による単価の低下、広告管理の煩雑化、プレミアム広告枠の価格とのコンフリクトなどは、RTBのデメリットとなる。
これらの課題を解決するために、オンラインビデオ広告ではプライベートエクスチェンジを構築する流れが生まれてきていると山本氏は説明する。有力メディアが有力な広告主と直接つながり、広告主側としては安心できる環境で、さまざまなターゲティング広告を活用できるメリットが生まれてくる。また、配信側にとっても広告の質の向上やフロアプライズ(最低入札額)の設定といったメリットがプライベートエクスチェンジによってもたらされる。
大手メディアのビデオコンテンツ化が進む
続けて山本氏は、米国ではさまざまなコンテンツのオンラインビデオ化が進んできていると説明する。たとえば、「USATODAY」などのニュースサイトでは、トップページのメインコンテンツとして動画が置かれるようになってきている。また、「ESPN」のようなスポーツサイトでも動画コンテンツは多用され、広告の後に本編動画が流れるプレロールが利用されている。
Webのコミュニケーションはテキストから始まり、画像が利用されるようになって、現在は動画化してきている。エンターテインメント系のサイトでもビデオコンテンツが増え、プレロールなどで広告収入を得ているのが米国の現状だ(山本氏)
コムスコアの調査によれば、米国全体で1億8,221万人がオンラインビデオサイトに滞在し、ユーザー1人あたり月間20時間ほどオンラインビデオコンテンツを閲覧しているという。動画視聴サイトのランキングでは、1位のYouTubeに続いて、Yahoo!、VEVO、AOL、Facebook、MSNなどのプレミアム媒体が並んでいることも特徴的だ。
また、動画アプリのVineや画像アプリのInstagramなどのUGC(User Generated Content)系のメディアも台頭してきており、スマートフォンなどでカジュアルに動画をアップロードしたり、コミュニケーションしたりできる環境も整ってきている。
こうした動きにともない、クリエイティブにも変化が起きていると山本氏は説明する。身近に感じられるような表現で、思わずシェアしたくなるような、2~4分の短い動画が多くなってきているというのだ。
オンラインビデオ市場を牽引する4つの要素
ここまで、米国オンラインビデオ市場について解説してきた山本氏は、米国市場の牽引要素を次の4つにまとめている。
- エコシステムやRTB環境の発達
- プレミアムエクスチェンジの発達
- コンテンツのオンラインビデオ化
- 視聴環境の整備によるユーザーリーチが拡大
さらに、山本氏はAOLネットワークが世界中のマーケッターに行った調査を紹介し、75%以上のマーケッターがブランデットビデオ広告やオンラインビデオ広告の予算を増加させると答え、その50%が予算をテレビ広告やディスプレイ型バナー広告からシフトさせると回答していることを示す。同調査では、オンラインビデオ広告の方がテレビ広告よりもユーザーに近く、エンゲージメントする力が強いことや、アウェアネスの力はまだテレビ広告のほうが強いとマーケッターが考えていることも示されている。
同調査では、オンラインビデオ広告予算を増やすための条件も問われ、73%がより精緻なターゲティング、67%が広告指標、54%がリーチを条件にあげている。2013年1月にStarcomがユーザーに対して行った調査では、テレビCMにポジティブなユーザーが22%、オンラインビデオ広告にポジティブなユーザーが25%であった。一方、テレビCMとオンラインビデオ広告にネガティブなユーザーは、それぞれ39%、45%となっており、よくも悪くもオンラインビデオ広告のインパクトが大きい結果となっている。
国内でのオンラインビデオ広告の新たな価値に期待
続いて山本氏は、日本におけるオンラインビデオを取り巻く環境についての解説を始める。
「あまりデータはないが、自分たちが活動するなかでわかってきたことを中心に話したい
」と語る山本氏は、まずコムスコアの調査を示し、日本全体では、2013年5月の時点で6,096万人がオンラインビデオサイトに滞在し、ユーザー1人あたりの視時間は月間2,848.5分(約47時間)、1ビデオあたり約9分間動画を視聴していると解説。
視聴されているサイトのランキングは、米国に比べてプレミアム媒体が少なく、YouTubeやニコニコ動画などのシェアリング系サイトが上位15位中8サイトを占めており、まだまだコンテンツオーナー側が手を加えられていない状況となっている。しかし、「オンラインビデオへの接触は非常に増えているため、非常に大きなチャンス。企業や媒体を問わず、ちゃんとしたコミュニケーションやマニタイズの方法をとれば、すでに動いているユーザーに対して事業を作っていける可能性がある
」と山本氏は説明する。
また、年齢別のユニークビューワ数と1ユーザーあたりの接触時間のグラフを示した山本氏は「若年層の接触時間が高い一方、年配層もオンラインビデオに接触しており、ユニークビューワ数が日本の人口分布と比例しており、オンラインビデオを見るということが年齢を問わず一般化している」と説明した。
主要な広告フォーマットとして、前述のプレロールビデオとインディスプレイビデオ(通常のバナー枠でクリックやマウスオーバーなどのアクションに合わせて動画が配信されるフォーマット)があることを説明した山本氏は、ビデオRTBサービスのTubeMogulを使った日本国内での配信可能インベントリを示す。配信期間1か月で、プレロール広告で約3億インプレッション、インディスプレイ広告で約10億インプレッションのRTB枠に接続されているとした。
オンラインビデオの評価に必要な視聴計測
オンラインビデオ広告の効果指標についての説明に移った山本氏は、従来のインターネット広告の評価指標に加え、オンラインビデオ広告では見せることに対する指標が追加されていると説明する。TubeMogulのレポーティングを例にすると、次のような評価指標が設けられており、いかに動画でメッセージを伝えていくかが指標化されている。
- Play time per View
ビデオ広告が何秒間再生されたかを計測する
- Completion Rate
何人のユーザーがビデオ広告の何%を閲覧しているかを計測する
- View
インプレッションではなく実際に動画が再生された回数を計測する
- Total time Viewed
全広告配信で動画が再生された延べ時間を計測する
また、TubeMogulのクリエイティブレポートでは、閲覧ユーザー数と動画時間のグラフが示され、どの時点でユーザーが離脱しているかがわかるようになっている。これによって、クリエイティブのどの部分でユーザーが興味を失っているかがわかり、全数調査でクリエイティブの良し悪しのA/Bテストを行え、「テレビCMなどに流す前のテストにも使え、クリエイティブをWebならではのやり方で調査できることは大きな価値だと思う
」と山本氏は説明する。
TubeMogulでは、これら以外にもアンケートバナーを使った調査機能を提供しており、視聴中にどのような態度変容が起きたのかリアルタイムに集計できるという。
実際の事例として山本氏は、英会話サービスの15秒間のオンラインビデオ配信の例を示す。この事例では、130万インプレッションで100万人が13秒間動画を閲覧し、延べ4,837時間視聴されたという配信結果が得られているが、前述のCompletion Rateも示され、50%まで動画を視聴したユーザーが90%、100%まで動画を視聴したユーザーが83%といったデータも調べることができる。
また、従来の広告配信同様、クリック率やブランド検索の増加率などの波及効果も調査することが可能だ。山本氏はその他にもいくつかの事例を紹介し、プレロールではCTRが高く、自動再生型のインディスプレイでは、効果指標としてはプレロールよりも落ちるが平均再生時間を長く取れるといった特徴を解説。米国でもプレロールビデオの人気が高いという。
インターネット広告が表現力を持つことで、今後はいろんな価値を提供できるようになる。これまでは、どちらかというとダイレクトレスポンスのキャンペーンでインターネット広告を使うことがメインとなっていたが、今後はそれ以外の部分でビデオ広告を使うことで可能性が広がっていくと感じている(山本氏)
最後に山本氏は、オンラインビデオ広告ならではの表現力によって、従来型の広告で重視されてきたような、ダイレクトレスポンスとは異なる活用の可能性を示唆し、第一部講演を終えた。
オリジナル記事はこちら:「バナーやテレビCMとは異なるオンラインビデオ広告の活用法とは、日米最新事例に学ぶ」2013年7月22日開催 月例セミナーレポート(1)
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