「本物」だけでは伝わらない。スニペットとキャッチコピーとマイナーチェンジ
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百弐十伍
見た目は文句ない失敗
知り合いの社長から呉服店を紹介されました。いままで依頼していたフリーのWebデザイナーが会社に就職することになり、今後の更新が難しくなったというのです。よくある話です。「フリー」の仕事は制作の実務から営業活動、入出金の管理と多岐にわたり、会社員の方が「ラク」と出戻る人は少なくありません。
呉服店のサイトを拝見するとデザインは大胆すぎず地味すぎず、細部も作り込まれており、ソースを見ても無駄なコードが少なく、グーグルアナリティクスのコードも埋め込まれており、技術的な基本はしっかりと押さえられていました。ところが呉服店の社長に「アクセス数」を尋ねると「わからない」と答えます。「イヤな予感」が走ります。
今回は成果のでないホームページの「マイナーチェンジ」について。
南の島のサイト
レンサバ(レンタルサーバー)のユーザーIDとパスワードを頂戴します。「わからない」ということは、前任者が埋め込んだグーグルアナリティクスは、導入しただけで利用されていないのでしょう。そこで自社で用意したスクリプトを埋め込み、計測から一週間後、イヤな予感は的中。我が目を疑いました。1日平均2PVと、私が見てきたなかでも最低のPVです。
サイト開設は5年前。グーグルのページランクは「0」、被リンク数も「0」でした。誰も見つけることができない「南海の孤島サイト」です。サイト単体としては基本に沿って作られていましたが、「商売用ホームページ」としての基本が疎かになっていたのです。これがイヤな予感の正体です。
アクセス数はわからない
これを聞いたときに直感しました。前任者が「客が集まるホームページ」という基本を念頭に管理していたのなら、日々のアクセス数は「成果」としてクライアントに語られ、Webに不慣れだとしても、5年も運営していれば「アクセス数」という単語ぐらいは覚えているものだからです。
クローラー誘致作戦
そこで「マイナーチェンジ」です。基本は押さえているので現状のサイトに手を加え、商売上の効果を上げてみせることで、アクセス数すら興味がない「消極的不支持」の客の目をWebに向けさせるところから始めます。
まず、圧倒的に少ない訪問者対策として「クローラー誘致作戦」を決行します。南海の孤島の存在を知ってもらうのです。グーグルに巡回申請すると共に、ツイッターでつぶやくことでクローラーを誘致できることは以前にも述べました。他にも、ブログやメルマガで紹介し、地元企業でしたので、弊社で運営する地域サイトからリンクを貼ります。クローラーに触れる機会、ひいては客に出会う機会を少しでも増やします。
便利なグーグルアナリティクスですが「クローラー」の訪問はわかりません。グーグルのクローラーの訪問状況であればウェブマスターツールで確認できますが、「生ログ」をみることができる解析ソフトも併用し、誘致作戦の進捗状況を確認します。
本物は使えない
同時に「スニペット」に手を加えます。「スニペット」とは、検索結果に表示されるサイトの説明文で、主に「meta description」で定義されたものが拾われますが、コンテンツの一部が拾われる場合などもあるため絶対ではありません。
同一サイトにあるコンテンツで同じ「meta description」を使い回す……要するに全ぺージ同じ説明の場合はこれを無視して、本文中から拾うようです。マイナーチェンジの際は、必ずページごとに最適な内容を用意してあげます。検索結果に新しいスニペットが表示されれば、クローラー誘致作戦は成功です。
そしてスニペットは「説明」ではなく「キャッチコピー」だと頭におきます。リニューアル前の呉服店では次のようなキャッチコピーにしていました。
本物の着物・本物の友禅をご存じですか
ダメなキャッチコピーの典型です。本物を連呼しただけで客が信じるならコピーライターは誰も苦労しません。むしろ「本物」と大上段に構えているのに理由や根拠が示されていなければ、論拠の脇の甘さを客は不信に思うことでしょう。
虚勢という広告手法
どうしても「本物」という言葉を使うのならこうです。
並んで差がつく本物の友禅
着物を着ていくのは「ハレ」の場です。そこで着物を見比べる女性心理を刺激します。
なにより問題は「問いかけ」です。素人ほど使いたがるのですが、雑踏で見知らぬ他人に問いかけても振り向かないように、積極的興味のない層に問いかけるキャッチコピーを用いても効果が望めません。いっそこちらの方が良いでしょう。
本物の着物ならここにある
日本人は長いものに巻かれる幸せを知っています。「断言」は耳目を集めやすいのです。自信がなくても胸を張る。広告のテクニックです。ついでに「今すぐチェック」と加えるとより効果的です。
電話のベルを鳴らせ
マイナーチェンジにあたり「(グローバル)メニュー」は要チェックポイントです。ページ左右のどちらかに縦配置された「メニュー」の最上段が「トップページに戻る」と、「トップページ(正しくはホームページですが)」にリンクされているなら論外です。例によって呉服屋のサイトはこうなっていました。
サイト内でも特に目立つこの場所は、もっとも誘導したいページへのリンクの設置場です。トップに戻している場合ではありません。メニュー部分を一括管理するCMSやオーサリングソフトのテンプレート機能を使っていると陥りやすい失敗です。ご注意ください。
最後にクライアントにホームページの効果をもっとも実感させるマイナーチェンジが「電話番号」です。そこには「ホームページを見たとお伝えください」と添えます。これは受話器を手に、なんと話しはじめればよいだろうと迷う気弱なお客さんに、「最初のひと言」を教えて上げる魔法です。その結果、客から電話がかかれば、クライアントがホームページは「役に立つ」と実感し、その後の管理運営は飛躍的に楽になるという寸法です。スクロールするページなら、どの画面からでも電話番号が目に入るようにし、もちろん、スニペットにも電話番号を追加します。それは検索結果だけで電話をかけてくる気の短いお客さんもいるからです。
今回紹介した方法は商売用ホームページを作る上で基本的なことばかりです。それを徹底させることが「マイナーチェンジ」。過去には「クローラー誘致作戦」だけで客に感謝されたことも。そもそも客の目に触れていないのですから、問い合わが来るようになっただけでも効果を実感します。
なにごとも「基本」が大切。PDCAサイクルを回して改善、というのはある程度の経験や運営規模のある企業だから言えることです。もっとも、マイナーチェンジだけではWeb屋はあまり儲からないのですが。
今回のポイント
スニペットはキャッチコピー
基本の見直しがマイナーチェンジ
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