コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百弐十四
100万円などはした金の世界
すべて君に任せるからこの商品をプロデュースしてくれたまえ
といった声がかかるような「プロデューサー像」を期待しているのでしたら本稿は期待に応えることはできません。こうした仕事をしたいのなら、大企業の宣伝部での成功事例をひっさげて独立するか、コンサルティングファームで修行を積むのが近道です。この手の仕事を受注するには「看板(実績)」と「人脈」がすべて。100万円単位の案件がごろごろ転がっている世界ですが、中小企業で地道にWeb担当者をしていてもそんな依頼が来ることはありません。
本稿でお話しする「Webプロデューサーの育て方」は、もっと地味な話。前回に引き続き、中小企業において本当に必要な戦力の「育て方」についてです。プロデューサーを目指す方の「自己研鑽」の方法としても使えます。
プロデューサーの定義
プロデューサーの仕事とはなんでしょうか。前回、管理職としてプロデューサー(ディレクター)、マーケッター、プランナーを並べましたが、「すべて同じだという突っ込みはパス」と注釈を入れたことが、すべてを語っています。コンサルティング系の会社なら、細分化された肩書きを持つ人もいるでしょうが、現場においては基本的なマーケティングやプランニングはできて当然というのが、わたしが定義する「プロデューサー」です。
組織によってはWebディレクターという場合もあるでしょう。ただ、現在では「Webデザイナー」、あるいは「Webデザイナー主任」ぐらいの役割でも「ディレクター」の名刺を持っていることもあり、一段上の「プロデューサー」にしております。ちなみに肩書きの格上げは、ただのプログラマが「SE(システムエンジニア、本来は設計責任者)」と名乗るようなIT業界の因習です。
道具の選び方
今回は、Webデザイナーを経験して、Web制作業務や運営についてだいたいの基礎知識は身についたという前提で話を進めていきます。こちらはWeb業界の悪弊で、基礎知識のないクライアント(発注主)を軽んじる、さらには馬鹿にする傾向があり、業者の並べる専門用語を聞き流すぐらい(つまり完全に理解する必要はまったくありません)のリテラシーを備えていないと、これから紹介する育成方法は使えないからです。
まず、担当者にはできるだけ多くのWeb制作会社と商談させるようにします。可能なら来社いただき、時間が許せば訪問します。最低でも10社以上と商談します。Web担当者の属性を「プロデューサー」にするということは、制作作業を外注するということです。
外注とはパートナーであり道具です。切れ味するどい包丁なら、料理人の腕は問わずにトマトが切れることは毎夜、通販番組が証明しています。初心者こそ、優れた道具を選ばなければならず、出会うためには1社でも多くの業者と商談します。
プロデューサーの実力
制作会社によって得手不得手は変わります。デザイン、ライティング(作文)、プランニング、マーケティング、プログラム、納期、プロモーション。数多くの業者との商談を通じて、A社のデザインに、B社の説明文、そしてC社のプロモーションと比べてみると、素人にでも品質の違いはわかるものです。実際に発注するのは1社でも、こうした違いを知っておくことが後の成長につながります。そしてなにより「専門知識」は、プロに学ぶのが早道。それぞれ得意な業者の話から「学ぶ」ことは多いのです。そして、この手法はどの業界、現場でも使えます。
さらに商談で名刺交換した相手には、帰社後すかさずメールを送り、その年の年賀状までは必ず出させます。発注にまで至らない場合でも
機会があればぜひ、一緒に仕事をしましょう!
と一筆添えて投函させるのです。なぜなら、折角の出会いで得た「人脈」や「情報」もプロデューサーの実力だからです。
業者を選ぶポイント
初心者の間は業者を選ぶのに苦労します。悩んで時間を浪費するぐらいなら、「フィーリング」で選んでOKです。個人の直感は意外と正しいのです。ただし最低限、同業他社の制作実績について探りを入れておきます。
今年の節電ブームで叫ばれる「スーパークールビズ」から、タンクトップ着用のWeb制作会社があるとワイドショーが報じていました。これに理解を示すなら問題ありません。しかし、打ち合わせの時に、腋毛や胸毛といった体毛が気になるのならやめたほうがよいでしょう。それは長髪に金髪、ヒゲ、洋服のセンスなども同じで、「フィーリング」とは「価値観」に基づいており、わたしの経験則から「フィーリング」はかなりの確率で正解です。ちなみにノーエアコンでWebと格闘する弊社も似たり寄ったりの「作業着」ですが、接客時は「それなり」の格好で応対しています。
欠かせない、2つの才能
プロデューサー職に就かせる担当者には、業者を決める作業と同時進行で「数的目標」を決めさせます。お題は、
Webプロデューサーになったら達成する数字
ポイントは「●●の数字」と指定しないところ。プロデューサーとは船の船長です。新大陸を目指すのか、マグロの魚影を追いかけるのかでは、目指す星座が異なるように舵取りこそがプロデューサーの仕事です。その「●●」を自覚していないようなら人選からやり直してください。
前回「パソコンの前に座っていられる人」を絶対条件としてあげましたが、プロデューサー的Web担当者を望むなら、あと2つの才能は重要です。それはなにか、
好奇心と責任感
この才能があれば、制作会社との商談を繰り返すなかで、おぼろげながらでも数字を自覚していることでしょう。なぜなら、今時のWeb制作会社は、かならず商談中に数字をアピールするものだからです。知名度向上ならPVやユニークユーザーだけではなく、YouTubeの再生回数や、ツイッターのフォロワー・リツイート件数、Facebookの「イイネ!」の数、販売なら売り上げや粗利、あるいは資料請求の数など、各社の訴求ポイントはさまざまです。
こうした商談を経て「●●」が浮かばない「候補生」ならプロデューサーにしても成果は望めません。人選からやり直します。「人を育てる」とは「自分を育てる」こと。また成長の機会が与えられたと、急がば回り、焦ることなく。
Web担当者が決まらなければ、サイト運営に支障をきたすというのであれば、Web制作業者を「Web担当者」にしてしまうという方法もあります。こちらについてはいずれ機会があれば。
今回のポイント
人脈と業者の電話番号はプロデューサーの基礎体力
商談とは他流試合のまなびの場
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