HCD-Net通信
「人間中心設計 (HCD)」を効果的に導入できるよう、公の立場で研究や人材育成などの社会活動を行っていくNPO「人間中心設計推進機構(HCD-Net)」から、HCDやHCD-Netに関連する話題をお送りしていきます。
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人間中心設計を企業で導入するには&1月イベントのお知らせ/HCD-Net通信 #7

山崎和彦(HCD-Net副理事長)

2009年1月8日 10:00

※2009-01-09 11:40 イベント情報に変更があったため、記事を修正いたしました。

人間中心設計を導入する企業が増えてきた。11月にパシフィコ横浜で開催された組込み総合技術展(ET2008)の「人間中心設計フォーラム」では、日本ビクター、日産自動車、カシオ計算機の3つの企業が人間中心設計の導入の事例を話してくれた。

日本ビクターの和井田さんが話をしてくれた事例では、「ユーザビリティ手法で問題の共通認識を」というタイトル。日本ビクターにおける人間中心設計プロセスの考え方と、設計者に教育をしている内容を紹介した。具体的にはヒューリスティック法、認知的ウォークスルー法や簡易プロトコル分析を活用している。

書画カメラとビデオカメラに導入した事例を示し、最後に先行機種や仕様書の問題点の整理・把握にユーザビリティ手法を活用して、問題点を整理して解決していくことが重要であると話してくれた。

日産自動車の美記さんが話をしてくれた事例では、「ユーザーの特性と習熟を考慮したユーザビリティ評価」というテーマで、対象ユーザーを分類する事例を解説してくれた。クラスター分析により4つのユーザー分類をして、それぞれのユーザビリティを比較してみると顕著な違いがわかる。これを考慮してユーザビリティを改良していく事例を紹介した。

カシオ計算機の澁澤さんは「カシオ計算機における人間中心設計へのアプローチと製品開発事例」という話をしてくれた。カシオのデザインフィロソフィーを実行するためのHCDの実践を、明確に定義している。その上で、同社のデザインセンターがリードしてHCDを実践している事例を紹介してくれた。

澁澤さんは電子辞書の事例を挙げ、最初にUCD仕様書作成を作り、問題点を明確にして、コンセプト、仕様、デザインを文書化し、そしてキックオフミーティングで関連者の同意を得る。次にユーザー評価計画をして、ユーザーテストを実施して、改善案を作成して、と実装検討をする。最後に全体報告会で報告する、というプロセスを解説してくれた。また、メニューのユーザーテストの事例とキーレイアウトの事例では、社内のメンバーでクイックに数日間で評価する事例を紹介した。

※UCD:ユーザー中心設計

今後の課題として、HCDプロセスを社内への浸透が重要(含む海外)であることと、HCDの価値創造への活用が重要であると澁澤さんは述べた。

最後に僕の話では、人間中心設計をどのようにプロジェクトに導入したらよいか解説した。人間中心設計を導入するためには、まずは人間中心設計の認知と運営サポート、そして企画開発プロセスや、人間中心設計のプロセスと手法が重要となる。下図のように、人間中心設計の導入に必要な項目を6つに分けて検討すると導入しやすい。

図1 人間中心設計を実施するための6つの要素
1. 人間中心設計の認知
  • 社内で人間中心設計が理解されている(役員、部長、企画、開発等)
  • 人間中心設計に関して、サポートを得られる
2. 企画・開発プロセス
  • 商品企画や開発プロセスが定義されている。
  • 商品企画や開発プロセスに従って、効果的に進められている。
3. 人間中心設計のプロセス
  • 人間中心設計に関するプロセスが定義されている。
  • 人間中心設計に関するプロセスに従って、効果的に進められている。
4. 人間中心設計の手法
  • 人間中心設計に関する手法やツールが準備されている。
  • 人間中心設計に関する手法やツールを効果的に活用している。
5. 人間中心設計のチーム
  • 人間中心設計に関するチームや専門家が認められている。
  • 人間中心設計に関するチームや専門家を効果的に活用している。
6. 人間中心設計の運営サポート
  • 人間中心設計を推進する組織や担当者がいる。
  • 人間中心設計を推進する組織や担当者が効果的に活動している。
図2 人間中心設計を導入するには
1. 啓蒙と
現状把握
2. 部分的な
導入計画
3. 部分的な
導入
4. 本格的な
導入計画
5. 導入の推進
1. 人間中心設計の
認知
人間中心設計の啓蒙活動 人間中心設計の6つの要素から、現状の調査・分析し、課題を把握。 現状の分析、結果とあるべき姿から、部分的な導入計画を策定。 パイロットプロジェクト、教育、講演会、推進組織など通して、部分的な導入活動を実施。 部分的な導入活動を評価して、各社に合う人間中心設計のフレームワークを定め、本格的な導入計画を策定。 導入計画に基づき、事業部全体、または全社的な規模への導入を推進。
2. 企画・開発
プロセス
3. 人間中心設計の
プロセス
4. 人間中心設計の
手法
5. 人間中心設計の
チーム
6. 人間中心設計の
運営サポート

また、人間中心設計をまずは部分的に導入することが、本格的な導入を検討する第一歩となる。

部分的な導入をして、人間中心設計の一部を実施してみるパイロットプロジェクトというアプローチがある。パイロットプロジェクトは、開発の一部のプロセスを実施する場合と、製品やサービスのある要素だけを対象する場合と2つの方法があるので、プロジェクトによって導入しやすい方法をとるのがよい。

図3 人間中心設計を導入するために、最初にやること
1. 人間中心設計の認知 講演会の実施(役員、事業部長の人にも参加してもらう)
2. 企画・開発プロセス 対象ユーザーを明確にする活動(例:ペルソナ)
3. 人間中心設計のプロセス 対象ユーザーを明確にする活動(例:ペルソナ)
部分的でも、人間中心設計の一部をやる(パイロット)
4. 人間中心設計の手法 人間中心設計の手法の講習会の実施
5. 人間中心設計のチーム 人間中心設計の専門家のコアになる人を育てる
6. 人間中心設計の運営サポート 人間中心設計の推進する担当者を決める
人間中心設計の導入の基本は「なぜ取り組むのか」をみんなが納得すること。
社内に専門家がいない場合は、外部の専門家のアドバイスを得るといいだろう。

重要なことは、パイロットプロジェクトを一度実施して終わらせるのではなく、次のプロジェクトへ繋げていくためのHCDのライフサイクルを考慮することである(下図参照)。

パイロットのUCD活動のライフサイクル
図4 パイロットのUCD活動のライフサイクル

イベント「iPhoneに超えるには」1月23日開催

1月のHCD-Netは、「iPhoneに超えるには」というイベントがあります。

趣旨近年、HCDの対象は使いにくいものを使いやすくするだけでなく、より魅了的なデザインを生み出すために活用されています。今回は近年、話題になっているiPhoneを題材に、より魅力的なUIを生み出すための議論をしたいと思います。皆様のお越しをお待ちしております。

参加申込方法メールタイトルを「第4回HCD-Netサロン参加希望」として下記をhcdnet_registration@hcdnet.orgまでご連絡ください。

・氏名
・所属先名
・HCD-Net会員種別(賛助会員/正会員/学生会員)
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