初代編集長ブログ―安田英久

企業依頼によるオープンなCMコンペ「filmo(フィルモ)」

企業依頼によるオープンなCMコンペ「filmo(フィルモ)」

株式会社エニグモ filmo プロデューサー 有田智治氏
株式会社エニグモ filmo プロデューサー 有田智治氏

最初に登壇したのは株式会社エニグモ filmoプロデューサーの有田智治氏。「filmo(フィルモ)」は、企業のCM側の制作依頼に従って、一般クリエイターがCMを制作・応募できるサービスだ。制作された作品の中から選考/投票により制作者へ賞金や制作費が支払われる仕組みとなっており、企業主体である分、ビジネスモデルもはっきりとしている。投稿動画のほとんどは、もともとバイラル指向のミニムービーが多かったが、ここ最近の動画は、企業のCMをまねる・トリビュート動画、そしてさらにオリジナル動画へと進化しているという。filmoは消費者参加型の動画CM制作ネットワークを目指しているが、やはりネックとなるのは著作権、そして公序良俗の観点だ。filmoではこれらをすべて目視でチェックした後、YouTubeにアップ、審査や講評を行っている。

filmoではすでに50点を超えるコンテストが行われており、バンダイナムコゲームス、JR九州、住友スリーエムなど、多彩な有名企業がCM(CGA)を募集・公開している。テレビの映像紹介番組などで、よく「海外のオモシロCM動画」といったものが紹介されることがあるが、クリエイティビティがフルに発揮された動画の数々は、非常に見応えがある。実際、海外の人が参加した動画の応募もあったとのこと。

こういった現状に対して、有田氏は「ブログのようなテキストコンテンツだとひとり歩きしない。動画の力はやはり強い」と、動画の持つ潜在パワーを指摘した。動画が流行ることで、クリエイター気質の消費者だけでなく、さらに一般の消費者をも巻き込めるというのがなにより大きいという。ただ、その潜在パワーに比較して、CGA動画の活用方法がまだまだ見いだせていないという課題を指摘して、コメントを締めくくった。

エニグモが手掛けてきた事業は、複合的に展開中
エニグモが手掛けてきた事業は、複合的に展開中
世界の動画CM事例も紹介された
世界の動画CM事例も紹介された
filmoの会員は約2万人
filmoの会員は約2万人
海外からの参加者も見受けられる
海外からの参加者も見受けられる
filmoの持つメリット
filmoの持つメリット

企業CMへのオマージュあるいはパロディ「勝手広告」

続いて登壇したのは株式会社ムービーインパクト代表取締役の神酒大亮氏。「勝手広告」というのは、自分の好きな企業やプロダクツを、とくに頼まれたわけでもないのに、CMを作ってしまう活動だ。もともとは好きで始めたことだったため、とくに宣伝したり活動したりしたわけでもないのに、ほっておいたら、ものすごいヒット数になっていたという。2か月前時点でほぼ400万件の再生件数となっており、クリエイターが自分の腕を発表していく場ともなっているようだ。

勝手広告
「勝手広告」はすでに645万件がヒットする。ただし、海外でこれに当たる造語がないことが悩みだとか。

そんな勝手広告が話題になったところ、テレビ東京の番組「うぇぶたま」で採り上げられたことで、ますます知名度がアップ。それまでの勝手広告は40/50代の視聴者が主だったが、テレビでの紹介以降はM1層が増加したという(YouTubeInsightで調査)。

神酒氏自身は「勝手とはいえ失礼があってはいけない」「かといってベタボメではない」として企業側のイメージを尊重。著作権においても十分に配慮して、映像を作り上げているという。ロゴや映像についても、あくまで“似ている”ものを使用し、企業オリジナルのものは使用していない。また勝手広告を作るときのスタンスは、徹底的に調べて、ものすごくいい点を調べ上げて、それをテーマとして宣伝するというものだとしている。

広告を見てもらうために広告を打つのはダメ」「勝手広告に興味が湧いたら、ぜひ検索してみてください」というのは、なにげなく神酒氏がいった言葉だが、従来のCMと違い、「消費者が興味が湧いたら、ネットで検索して視聴できる」というのも、CGAの大きな特徴だ。

勝手広告チャンネルにはさまざまな作品が掲載されている
勝手広告チャンネルにはさまざまな作品が掲載されている
勝手広告の最後には、コーションが表示される
勝手広告の最後には、コーションが表示される
地方の個人が作成したという、雄大な個人CM。神酒氏のお勧め作品だ
地方の個人が作成したという、雄大な個人CM。神酒氏のお勧め作品だ

そしてついには、企業(Z会)側からのアプローチで「うちの“勝手広告”を作ってくれないか」という話になった。会場にはZ会の担当者である、商品企画本部の寺西隆行氏も来場しており、勝手広告される側のスタンスなども語られた。寺西氏は「クリエイターの気持ちを尊重したい」「世界観が違うから良い」として、勝手広告においては、とくに制限を設けなかったということを明らかにした。実際、「勝手広告 Z会 女子高生篇」など、通常のCMであれば、企業イメージに配慮して絶対に採用されないような手法が使われている。企業側のスタンスがCMそのものの枠組みまで変える可能性が出てきているわけだ。

Z会の広告を勝手に作成し、YouTubeにアップロード。それがTVで採り上げられるという流れ。
Z会の広告を勝手に作成し、YouTubeにアップロード。それがTVで採り上げられるという流れ。
「勝手広告 Z会 女子高生篇」は、通常のCMでは考えられない作りとなっている
「勝手広告 Z会 女子高生篇」は、通常のCMでは考えられない作りとなっている
ムービーインパクトの磯田氏(画面中央)。「勝手広告 Z会 女子高生篇」に出演し、女子高生を演じたという
ムービーインパクトの磯田氏(画面中央)。「勝手広告 Z会 女子高生篇」に出演し、女子高生を演じたという
Z会 商品企画本部の寺西隆行氏は、企業側の立場から「勝手広告」と企業の関係について解説してくれた
Z会 商品企画本部の寺西隆行氏は、企業側の立場から「勝手広告」と企業の関係について解説してくれた

CGAの「C」はConsumerだけでなく、Createrでもある。勝手広告は広告ではなくコンテンツであり、クリエイターの“腕の見せ所”=勝手広告、という発想が垣間見える。ニコニコ動画などの投稿文化が充実しつつある今、豊富な機材があるクリエイターなら、当然腕を振るってみたいだろうし、「Windows ムービーメーカー」など無償ツールの充実で素人も参加できるなど、その境界は限りなく曖昧になっている。

実際、氏の指摘によれば、全国にアニメ系学校が87校、CG系アニメ学校が137校、映像学科のある大学が69校あるなど、全国でクリエイターは育ってきている。一方でそれだけのクリエイターの受け皿となる企業は、147社。しかもうち133社は関東で、とにかく偏りが目立つ。勝手広告は、地方や就職難のクリエイターにとっては腕の振るいどころとなるかもしれないのだ。

今年は映画作品とコラボし、勝手広告として企業CMを展開している。その境界はきわめて曖昧だ
今年は映画作品とコラボし、勝手広告として企業CMを展開している。その境界はきわめて曖昧だ
神田氏の司会も熱を帯びてくる
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