―何を解析すればいいのかわからないあなたに―
Webサイトの“見える化”&“カイゼン”講座
ストライカーとアシストにみるウェブサイトの「ゴール前」 〜コンバージョン改善の動線設計
「何のために企業はウェブサイトを運営しているのか?」と問われれば、ユーザーの利便性向上や情報提供などいろいろな答えがあるだろう。しかし、せんじ詰めれば「効果を上げる」ためになるだろう。
では、そもそも「効果」とは何か? どこを見ればその効果を増やすことができるのか?
今回は「ゴールページ」というとらえ方で、ウェブサイトを分析していこう。
最も重要な「ゴールページ」はどれか?
ウェブサイトを評価する指標としては、ページビュー数や訪問者数などいろいろ考えられる。しかし、訪れる人数が増えたなら、企業はブランディングを進めることができるのか、売り上げや知名度を高めることができるのか。これは残念ながら直結しない。なぜなら、今のウェブサイトにはたくさんの「通りすがり」訪問者がいるからである。
たとえば、「B2Bの食品商社のサイトなのに主婦ばかり訪れている」というケースがある。その商社では、ウェブサイトで人気が出る企画として、食品商社ならではの「レシピ集」をサイト上に掲載することで、目的どおりに多くの人を集めて、情報を得ていたようだった。しかし、実際にサイトを分析してみると、夕方に多数の訪問者が訪れ、1人1ページだけ、それもレシピ集のあるページだけ見て帰ってしまっていたのだ。主婦が夕食の献立を考えて検索して、1ページだけ見たら、あとは買い物に外出してしまう……。こうした検索者の場合、ページの中身は見るが、会社名やロゴマークなどは見ない傾向がある。会社名さえ覚えてくれたかどうか心もとない。いくらサイトに人が来たとしても、肝心な商品のページを見てくれて、問い合わせや資料請求などの行動を起こしたり、企業情報を見て取引を検討したりといった動きがなければ、「商社のサイト」としては効果が上がるはずがない。レシピ集を楽しんでいる人数は、このサイトの効果とは関係のないものとしてむしろ除外するべきかもしれない。「訪問者総数が増えた」といって、喜んではいられないのだ。
ここで大切なのは、「ねらっている具体的な効果は何か」ということだ。ページビュー数や訪問者数以外の「目的」だ。
ウェブサイトが難しいのは、「何にでも役に立ちすぎる」ことだ。販売から営業、顧客管理、広報、ブランディング、採用、教育、福利厚生、調達などなど、多方面に役立てられるため、どこにフォーカスして考えればいいのかわからなくなってしまうことが多い。巨大有名企業でない限り、「うちの会社がウェブサイトなんか持っても、だれが見に来るのか?」という心配もあり、どうしても関心は全体の訪問者数やページビュー数になるのだが、これではいけない。
まずは目標を設定しよう。このサイトが効果を上げるための「ゴール」となるページはどこか、ということをはっきりさせることだ。“商品の資料請求”なら、ユーザーが入力フォームを経由してサンキューページに行くのがゴールだ。“店舗への誘導”なら、店舗紹介や個別の店舗のページにユーザーが行けばゴールだ。“環境に優しい企業というイメージの向上”ならば、当然、環境活動のページを見られることがゴールだろう。
グローバルナビゲーションに頼らず
ゴールページへの“誘導”をしっかり意識
ウェブサイトを作る場合、いくつか盲点がある。これまでも指摘してきたが、その根本にあるのは「ウェブサイトは、ページの集合体だ」という考え方を忘れがちな点である。だから、重要なページを作ったら、それを作ったということで納得してしまいがちだ。しかし、ウェブ全体が“ウェブ(クモの巣)”と呼ばれているのと同様に、ウェブサイトの中も、網の目状の「リンクの集合体」であるという点が重要なのだ。サイトにページを置いておいても、リンクがしっかりしていなければ、有効な訪問者がゴールに到達できない。良いページがいくらあっても意味がないのだ。
それでも「いや、私たちはちゃんとリンクを行っている」と多くの人が考えている。だがそれは、単なる1対1や、目次による1対多のリンクではないだろうか?(図1)。
これでは人は、ただ矢印に従って道すじを通り、拡散してしまうだけだ。かえってゴールへの到達率を下げているのだ。ウェブサイトが効果を上げるためには、より多くの人がゴールへ向かわなければならない。人はウェブサイトのさまざまなページを入り口にしてやってくる。トップページを入り口にしてサイトを訪れるのは、総訪問者数のせいぜい3割。トップページだけに大きなボタンを付けても、重要なページまで多くの訪問者を導くことは難しいのだ。ということは、「たくさんのページから、ゴールに向かって誘導しなければならない」ということだ(図2)。
こういうときに、「○○のページは、グローバルナビゲーションにボタンがあるから、全ページからリンクされている」と考えて安心してしまう人が多い。だがアクセス解析して実態を見てみるとわかるが、グローバルナビゲーションのボタンは、あなたが思っているよりもはるかに活用度が低いのだ。グローバルナビゲーションは「サイトの全体像を理解している人が迷子にならないための道しるべ」でしかない。
道路の案内看板に、次のように書かれていたとしよう。
山田村がどんなところで、上町に行けば何があるか、理解している人には役に立つ標識だろう。しかし、地名を聞いてもぴんと来ない人にこの案内を見せても、どっちに行けばいいのかは判断できないだろう。
本当の道路なら、どこであれ移動しなければならないから、「とりあえず“町”なんだから、上町のほうが栄えている地域だろう。上町のほうへ行こう」とわからないなりに選ぶだろう。しかし、ウェブサイトの場合だと「よくわからないから、どちらも選ばないで帰ってしまう」ということが起きる。グローバルナビゲーションに書かれた「製品情報」といった言葉は、「この会社はどんな製品分野を持っているか」を理解しているユーザーには、地名を知った看板程度の役割は果たすかもしれない。しかし、検索などで深い階層のページにいきなり訪れた人にとっては、「製品情報」というボタンを見てもそこに何があるのか見当もつかない。聞いたこともない地名ばかりの道案内と同じで、その先に何があるか想像できず、クリックしたくならないのだ。
ウェブサイトはグローバルナビゲーションをしっかり作ったら完成、と思っているクリエイターもいるようだが、企業としては1人1人のお客様を、ゴールページまできちんと案内しなければ、効果はさっぱり上がらない。グローバルナビゲーションに頼り切っている今のウェブサイトでは、残念ながらゴールページへの誘導は非常に弱い状態となっているのだ。その結果、10万人訪れるサイトで、資料請求のページに0.1%の100人しか訪れていない、ということも少なくない。これでは成果が上がるはずがない。
サッカー日本代表ではないが、いかに華麗なパスを回し続けても勝つことはできない。「ゴールにボールを入れないといけない」のだ。
ゴールをねらう「ストライカー」はどのページか?
サイトの現状が実際にどうなっているかは、アクセス解析で分析することになる。
最初に調べるべきなのは、総訪問者数だ。これは延べ人数でかまわない。ユニークユーザー数にこだわる会社も多いが、ユニークユーザーであっても通りすがりの人が多く含まれていては仕方がないし、資料請求や店舗検索を行うまでには何度もサイトに足を運ぶことも多いのだから、ユニークユーザー数である必要はないのだ。
この総訪問者数に対して、ゴールページに到達した人の数や割合がどれぐらいかを調べるのだが、ここで、どのページをゴールページとするかが問題となる。
たとえば資料請求だと、ゴールとなるページは、フォームのページなのだろうか、サンキュー(送信完了)ページなのだろうか。本当のゴールはサンキューページだが、まずは誘導を強化したいわけだから、今回はフォームのページでかまわないといったぐあいだ。
店舗案内ならどうだろうか。店舗一覧と個別店舗の詳細ページという構成の場合には、まずは一覧のページを見ておこう。
企業サイトの場合、望ましいゴールというのは、このように2段がまえになっていることが多い。
- 資料請求 → サンキュー
- 店舗一覧 → 店舗詳細
- カート → サンキュー
サンキューページや詳細ページが本当のゴールにシュートが決まった状態だとすると、その手前の資料請求ページや店舗一覧ページは、ゴールをねらうストライカーがボールを持った状態だといえるだろう。
困ったことに、このストライカーが結構ゴールを外すのである。“決定力不足”という奴だ。資料請求のページには多くの人が訪れているのに、実際に資料請求を申し込むにまで至らない。店舗一覧はとりあえず見られているが、各店の詳細ページがあまり見られていない……。
しかし、ここでストライカーを責めるのはかわいそうかもしれない。現在のサイトは通りすがりの訪問者が多く、もともと確率の低い人たちばかりかもしれないからだ。「とりあえず資料請求ってページに、何が書いてあるのかな?」ぐらいの興味でページを表示しただけ、という人が多いのでは、ゴール率が上がるはずはないのだ。ストライカーとしては「もっといいセンタリングを数多くよこせ」と言いたいところだろう。このように、「ストライカー」と「センタリング」になるページは、それぞれが大切な役割を持っているのだ。
ストライカーに「良いパス」を出しているのはどのページか?
アクセス解析で次に調べたいのは、だれがストライカーにパスを出しているのかだ。ストライカーがゴールを決められるかどうかは、センタリングのパス精度にかかっているからだ(図3)。
ストライカー役の資料請求や店舗一覧のページを対象にして、そのページへの動線を調べよう。この機能はほとんどのアクセス解析ツールに搭載されている。たとえばGoogle Analyticsなら、[コンテンツ]>[上位のコンテンツ]の表からストライカーページを選んでURLをクリックすれば、そのページの詳細データが表示される。その「ナビゲーションの分析」の中に[ナビゲーションサマリー]というリンクがあるからクリックしてみよう。そのURLの参照元トップ10が表示される。これが、センタリングを出すアシスト役となるページトップ10ということになる(図4)。
非常に意外なページも混ざっているから、よく見ておこう。私の経験では、ゴールページの参照元トップ10に多く見られるのは、「商品の詳細ページ」「導入事例などの詳細ページ」「全体のトップページ」などだ。つまり、以下のような流れで、御社のサイトはゴールを決め、効果を上げているのである。
- 商品詳細 → 資料請求 → サンキュー
- 導入事例詳細 → 資料請求 → サンキュー
- トップページ → 資料請求 → サンキュー
商品詳細を見て資料請求に行くのはわかりやすいが、トップページからなぜいきなり資料請求に行く人が多いのか? これはリピーターだと考えられる。いったんサイトを訪れて商品のことを詳しく見て帰る。ライバル商品サイトなども見比べてから、後日「今日はこの会社で資料請求するぞ」と決めて再訪するのである。特にB2B系では比較が非常に重要だから、こうした動きが多い。さらに大学や専門学校などの教育機関では、複数を見比べた後で入試案内などを取り寄せるから、「トップページ→資料請求」という動きが多くなる。
その「センタリングページ」は効果に結びついているか?
センタリング役のページがわかったら、次に判断すべきは「そのページは、ゴールに結びついているか?」ということだ。今、資料請求が少ないと考えているのなら、それはおそらくゴールに結びついていない、ということだろう。これに対応するには、次の2つの選択肢がある。
- 同じページをもっと強化する。
- 他のページからストライカーページ(資料請求など)への誘導を強化する。
具体的な例をあげて見よう。表1のように、関連ページのアクセスを整理してみたところ、「商品1」の「詳細03」というページから資料請求に移動している人が多かった。この場合、どう考えればいいのだろうか?
総訪問者数 | 50000人 | |
---|---|---|
商品1 | 商品トップ | 3000人 |
詳細01 | 1500人 | |
詳細02 | 1000人 | |
詳細03 | 300人 | |
資料請求 | 1000人 | |
詳細03から資料請求への移動回数 | 80回 |
「詳細03」ページは、資料請求ページにとっては最も多い、8%(80人/1000人)の訪問者をもたらしているページだ。また、自身が300回見られたうちの80回(26%!)も資料請求に誘導しているのだから優良ページだと考えてもいいだろう。
しかし、いかんせん「詳細03」が見られている回数自体が少なすぎる。訪問者は「詳細01」と「詳細02」を見て、「ここらでもういいや」と引き返してしまっているかもしれない。
となると、やるべきことは、次のどちらかになるだろう。
- 「詳細03」のページに到達する人を増やす。
- 「詳細01」と「詳細02」からも資料請求に移動させられないか考える。
もし「詳細01」「詳細02」からも資料請求に移動させられれば、サンキューページが表示される回数はもっと多くなる、つまり効果が高まるだろう。
たとえば、カイゼン策の1つとして、「詳細01」「詳細02」の2ページだけを修正した。「詳細03」への誘導を強化し、かつ、資料請求に行きたくなるようにしたのだ。その結果、「詳細03」の訪問数が伸び、そこから資料請求への移動も少し増え、「詳細01」「詳細02」からの資料請求への移動も加えて、資料請求の訪問数が120件アップした(表2)。
総訪問者数 | 50000人 | |
---|---|---|
商品1 | 商品トップ | 3000人 |
詳細01 | 1500人 | |
詳細02 | 1000人 | |
詳細03 | 375人 | |
資料請求 | 1120人 | |
詳細03から資料請求への移動回数 | 100回 | |
詳細02から資料請求への移動回数 | 50回 | |
詳細01から資料請求への移動回数 | 50回 |
資料請求ページのゴール決定力が同じなら、これだけで資料請求数が12%増えるのである。どこを直せばいいかを確実につかみながら進めば、たった2ページに手を加えるだけで、成果を高めることができた例だ。
「欲しい」というモチベーションのある人をゴール前に届けるために
もちろん、肝心の資料請求ページや店舗一覧ページがストライカーとしてゴールを上げる力を強化すること、つまりサンキューページや店舗詳細ページがもっと見られるように「決定力を高める作業」も忘れてはいけない。
ただし、ウェブサイトというものは「クリックする」のはだれでもできるため、資料請求なんて興味のない人が資料請求ページにフラフラと来ることや、店舗へ行くつもりもない人が店舗一覧ページになんとなく訪れる状態が、あまりにも多い。それは、それらのページから次にどこへ移動したかを見ればわかる。ぜんぜん関係ないページへポンと移動してしまうことが多く、そこでアクセスを終了してしまうことも少なくない。
こうした状況を放置して、資料請求フォームのページにいくら手を加えても、効果は十分上がらない。それよりは、ゴール前に近いところを調整して、「資料請求したい」と思っている人を1人でも多く資料請求ページに届けることが先決なのだ。良いセンタリングがたくさん上がれば、ゴールの決まる確率は自然に上がるのである。
ところで、資料請求したい、と思っている人を資料請求のページに移動させるにはどうすればいいか? ただ大きなリンクボタンを置けば解決するものではない。それでは「たまたま目立つボタンがあったからクリックした」という人を増やすだけかもしれない。
唯一の解決策は、先の例でいえば商品の詳細01〜03のページで、「資料請求したい」と思わせることだ。詳細ページを見ている訪問者は、商品Aの詳細情報を読んでいるわけだ。その人は基本的には「良い商品だ」と感じている。しかも、ただイメージ的に良いと感じているだけではなく、詳細を読んでいるのだから、商品Aについて詳しい情報を得たいと思っているはずだ。そういう人に向かって、「この商品Aのこの機能について、良い資料がありますよ」と誘ってあげるのだ。資料があれば、B2B商品なら会社で会議にかけて稟議書に添付し「この商品はこの部分が特長」と言いやすくなるだろう。B2C商品なら家族を説得するのに役立つかもしれない。店舗紹介なら、「ただ今、商品を展示中。店舗に行けば実際に動いているところが見られます!」と言われれば、行ってもいいと感じる人が増えるだろう。ただ単に「店舗案内はこちら」と書いてあるのとではまるで違ってくる。
大切なことは「欲しい」「そこへ行きたい」と感じる“モチベーションを与える形でリンクする”ことなのだ。こうしたリンクを、そのページ内容と連携する形で追記すれば、効果は非常に高まる。
ページごとに内容に関連したリンクを強化すること。
たくさんページがあるのにいちいちそんなことをやっていたら大変だ、と言う人もあるが、アクセス解析をして、今、成果を出しかけているページから順番に検討していけば、全ページを直さなくても効果が出るだろう。
集客から成果までの一貫した動線設計へ
このようにアクセス解析を行って、チャンスのあるページを見つけ、望ましい動線を加えていくことで、サイトは確実に効果を上げていく。アクセス解析でさらに調べたいこととして、サンキューページに対する貢献度も加えておきたい。
- サンキューページに到達することの多い入り口ページ
- サンキューページに到達することの多い検索キーワード
- サンキューページに到達することの多い経由ページ
サッカーの例示を続けるなら、良い位置でボールを奪って、すばやくゴール前まで運んでいくことが大切だ。「ボールを得るポイント」というのは、ウェブサイトでいえば、入り口ページやキーワードということになる。資料請求完了に至りやすいのは、訪問者がどんなニーズを持って訪れたときなのか、それがわかれば、そのニーズを増やせばいいのだ。
実際に解析すると、キーワードリストの30番目になっているような下位の言葉が、サンキューページに行き着く確率が高いといった結果が出てくることがある。50回検索訪問があり、そのうちの3回はサンキューページに到達していたとする。数は少なく見えるかもしれないが、コンバージョン率にして実に6%、これは宝の山である。この宝の山を現状から見つけ出すのがアクセス解析だ。そして、この宝の山をもっと伸ばす作業が「SEO」なのだ。SEOとはどんなキーワードでも検索エンジンで1位にすることではない。また、サンキューページと相関性の高いページを見つければ、そのページから資料請求までの流れにより多くの人を合流させていけばいいことになる。
こうして、検索からどのページを入り口にして、そこから何を見せて資料請求完了まで進ませるか。これを「動線設計」という。アクセス解析に基づいて動線の再設計を行い、今ある流れをより大きな流れにしていくことができれば、サイトは自然に論理的にしかも短期間にローコストで、効果を伸ばすことができるのである。
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