―何を解析すればいいのかわからないあなたに―
Webサイトの“見える化”&“カイゼン”講座
これからは「ウェブKPI」の発想で効果向上を目指そう!
経営者はいつも数値を眺めて先を考えている。たとえば営業利益は売上高の何%にあたるか、社員1人あたりの利益はいくらか? こうした数値を「KPI」(キーパフォーマンスインジケータ、重要経営指標)という。
KPIという考え方をウェブでも活用できないかという発想から出てきたのが「ウェブKPI」だ。企業ウェブマスターは、ウェブKPIをにらみながら、着実にウェブの効果を高めていってほしい。
ウェブの指標はいつまでも「単独の数値」でいいのか?
企業ウェブマスターにヒアリングすると、多くの企業がウェブサイトを評価するためにさまざまな数字を使っていることがわかる。ある会社では「ページビュー数」が指標となっており、別の会社では「資料請求数」が指標となっている。前月が10万PVで、今月が12万PVだったら、今月は伸びたことになる。資料請求数が100から150に増えたら、サイトが成長し効果が上がったことになる。
だが、本当にそうなのだろうか?
これらは単独の、しかも結果としての数値だ。これらをもって“本当にサイトが成長した”と判断することは、2つの意味で難しい。
まず、これらの数字は単独のものであって、他の数字と並べると意味が変わってしまう。ページビューが10万から12万に伸びたとしても、もしかしたら訪問者数も5万人から7万人に伸びていたかもしれない。だとすると、
- 5万人が10万PV(平均2.0ページ)
- 7万人が12万PV(平均1.7ページ)
となるわけで、1人が見た情報(1人あたりのPV数)は、先月よりも今月のほうが少ないことになってしまう。
資料請求数にしても、
- 1万人が訪問して100人が資料請求(CVR 1.0%)
- 2万人が訪問して150人が資料請求(CVR 0.8%)
となっているかもしれない。どちらのケースも、実際には「リスティング広告やキャンペーンで多数の訪問を集めたが、それはあまり成果に結び付いていない」といった状況であり、こうした内訳になってしまっているサイトも実は多いのだ。成果を評価せず、広告出稿をあわてて行っているために、コストはかかっているのに効果が出ていない状態となっている。ページビューや資料請求の実数が伸びるのはうれしいことではある。しかし、それに魅かれるあまり、バランスを欠いた投資をすることになっては元も子もない。
そして第2に、こうしたデータを眺めても“理由や要因”がわからない、ということがある。ページビュー数が10万から12万に伸びた。それは“実態”である。しかし、そこにどんな理由があったかはわからない。もしかしたら季節性だけのことかもしれない。あるいはたまたまYahoo!ニュースなどの影響力の強いサイトからリンクされたのかもしれない。別にそれが悪いことだとはいわないが、「理由がわからない」ということは「また減る恐れがある」ということでもある。それでは、減ったときにどういう手を打ったらいいのかわからない。つまり、安定した経営という考え方からは、ほど遠い状態だということになる。
サイトを正しく位置づけるには、要所ごとに「目標」を明確にすることが欠かせない。この目標以外のことは見なくても構わないぐらいに思ってほしい。その代わり、その目標に近づいているかどうか、正確に測ることが重要である。
売上高が下がったのに利益が倍増することがある?
まずは、目標に合致した数値を、他の数値と組み合わせることで、ひと目で理解できる「指標」を持つべきだ。これは経営の世界では昔から当たり前のように行われていることだ。この指標の値は刻々と変わるが、それを常ににらんでいれば、良くなっているのか、悪くなっているのかがすぐに判定できる。悪くなった場合には、どこに問題があるのかもある程度推測できるようになっている。
売上高から利益にいたる数字の流れを見てみよう。こうした数字の流れを見ていれば、次の手を考える手助けとなる。
例として表1を見てほしい。
この例では粗利率は40%となっている。ここで割合が悪化しているなら、利益率の悪い商品の扱いをやめたほうが良いかもしれない。売上高営業利益率は5%だが、売上高経常利益率が2%と大きく下がっているとしたら、本業以外の活動で損が大きいということになるかもしれない。企業活動を本業に集中させて、本業以外で損が増えるのを止めないと、会社にお金が残らないということになってしまう。
このように、指標の値を見れば、どこに問題があってどう手を打てばいいのかが、おおむね絞り込めるのである。経営の世界ではこのように数値を使うのは当然のこと。上記の指標も、「粗利は4億円」といった単独の数字ではなく、「売上高での比率なら4割」などと、他の数字と組み合わせることで指標として働いているわけだ。
たとえば、この会社で売上高が8億円に下がったとしよう。これは問題だろうか? 表2で指標を見てみよう。
このように、「売上高は下がったが、粗利は変わってない」ということが起こりうるのだ。実はこの会社は、利益率の低い商品の扱いを切ったことによって、売り上げが2億円減っていたのだ。しかし、粗利率の高い商品が残ったため、売り上げは減ったが変わらぬ粗利が残ったということだ。率の悪い商品が減るということは、仕入れだけの問題ではない。それにかかる人手や営業関連費用が減るかもしれない。となれば、売り上げは減っても営業利益は増える可能性さえあるのだ(表3)。
この例では、全体の売上高は下がったが、率の悪い商品がなくなって販管費が少し下がったことで、営業利益率は倍増、営業外の損は同じ額だが、経常利益は0.2億→0.5億と2.5倍増、経常利益率では2→6.3%とさらに大幅増を達成している。
こうして商品構造は良くなったわけだから、この構造のままに売上高を伸ばせれば理想的だといえる。その状態が表4だ。売上高経常利益率がさらに高まり、儲けがさらに拡大していく形となっている。
経営の世界では当たり前の「KPI」という考え方
読者の中には、「何を今さらそんな初心者向けの数字を」と思っている経営者の方もいるだろう。経営の世界ではこうした数字の使い方は常識以前のものであり、もっと複雑に見える指標を使いこなして経営改善に結び付けているものだ。
こうした指標値をにらんで問題点を発見、改善を行うことについて「KPI」という言葉が使われている。これがようやくウェブの世界に導入されてきたのが、今回ご紹介する「ウェブKPI」という考え方だ。
KPIとは、「重要経営指標」などと訳されるが、英語のほうが簡単で、“Key Performance Indicator”の略。キーとなるパフォーマンスがちゃんと出ているかどうかを示すインジケータだということだ。
1語ずつ見ていくと、“Key”(キー)については難しいものではない。そのまま「重要な」「キーとなる」と訳して問題ないだろう。
末尾の“Indicator”(インジケータ)だが、これは機械に付いている「計器」や「警告灯」のこと。それ自体はただ豆球が点いたり消えたりするだけだ。たとえば車を運転しているとき、豆球が光ったのを見て「ガソリンが切れかけている」と知ることができる。これがインジケータの働きだ。訓練をつめば、ジャンボジェット機のコックピット並みにインジケータが並んでいても、それぞれの意味を読み取り、すぐに反応できるだろう。これと同じようにKPIを見ていれば、的確なタイミングでの対応が可能となる。このインジケータの役割を果たすものは、必ずしも実測値ばかりとは限らない。たとえば、街を歩いていて私たちは無意識に「コートを着ている人が減った」ということを感じ、季節の変化に気づく。これも一種のインジケータだといえるかもしれない。しかし、こうした客観性の低い指標では、判断が分かれる危険がある。「いや、私はコートが減ったとは感じない」とだれかが言い出したらまとまりがつかない。ガソリン警告灯なら、だれもが近い結論にたどり着き、近い行動をとるだろう。経営におけるKPIとは、できるだけ客観性がある数字的な指標によって、情報を共有し、判断を揃えて、行動を決定できるものでなければならない。
そして難しいのが残る1つ、“Performance”(パフォーマンス)である。パフォーマンスとは、スポーツ選手の動きを評価する際にも使われるようになってきたが、辞書には「実行」とか「行為」といった訳語が書かれている。演劇とアートの間のような芸術行為をさすこともある。コンピュータ用語なら、処理能力を意味する。日本語にぴたっと来るニュアンスの言葉がないからカタカナのまま使われるのかもしれないが、幅広い意味を持った言葉だ。KPIで使われているパフォーマンスの意味としては、「目標を達成する過程が効率良く流れているかどうか」ということになるだろう。「パフォーマンスが悪い」と言えば、何か障害があって、うまく成果が出ない状態をいう。スポーツ選手の評価に使う場合が近いかもしれない。
あらためてKPIの意味を定義すると、「重要な目標を達成する過程が効率良く流れているかどうか、ひと目でわかる警告灯」ということになる(図1)。
毎日体重計に乗っていれば、ちょっと太ってきたぞ、とすぐにわかる。すぐに気づけば、食や運動をコントロールして、それ以上体重を増やさないようにできるだろう。年に1度の健康診断でしか体重を量っていないのでは、簡単にはやせられないほどに太ってしまっているかもしれない。
KPIでも「すぐに気がつく」ということが大切である。警告灯は2〜3か所にしかけておいて、流れを管理できるようにすることが大切だ。プログラマがプログラムの随所にエラーアラートをしかけるようなものだ。プログラムの流れの中に3か所エラーアラートを入れたとしよう。実行したらアラート2が出て止まったとしたら、アラート1とアラート2の間に問題があるわけだ。アラート1までのプログラムはとりあえず疑う必要がない。こう判断できるだけで、問題個所の切り分けが非常に楽になる。KPIのインジケータも、目標にいたる流れの中に何か所かしかけて、「2番目の警告灯が点いたから、問題はここにある」と判断できるようにすれば、次の行動を決めやすくなるだろう。
売上高と利益の例に戻ろう(表5)。
この例では、表1と比べると、売上高は伸びている。粗利率は変わらないが、売上高営業利益率が下がっている。そのため、営業外損益は変わらないのに、経常利益は減ってしまった。いわゆる増収減益である。売上高営業利益率悪化というインジケータが光ったら、販管費が割高になったということだ。経営者はただちに経費をチェックして、どこに問題があるのか探し出すことができるだろう。
ウェブの世界でどのようにKPIを使うか?
KPIという考え方は、問題をすぐに解決して高いレベルの成果を維持することに役立つ。これはウェブの現場でもぜひ応用したい考え方だ。だから「ウェブKPI」という言い方が次第に広まってきたのだが、これを導入するのには、いくつかの注意点がある。
第1に、多くの会社でウェブを運営する目標が明確に定まっていない。ここが定まっていないと、目標を生み出す過程を決めることができないし、警告灯は使いようがないのだ。
第2に、ウェブマスターや経営者がウェブの数字に慣れていない。まずはいつでも数字をもとに議論する癖を付けよう。
第3に、ウェブの数字と運営作業との関係が結び付けられていない。どんな分野でもそうだが、数値などの“変化”を見るのが大切である。化学の実験でも、政権の支持率でも、何かが行われたから変化が起こるのだ。水を蒸発させたら結晶が現れた。首相の発言が批判されたから支持率が下がった。では、ウェブの場合はどうだろうか? 数字=変化を見るという前提なしにいろんなことを同時に行うから、成果が上がっても原因が特定できない。風邪に効くということをいろいろやった結果、どれが良かったのかわからない状態と似ている。実際には、ボタンの位置を入れ替えるだけでクリック率は変わっていくのだ。ページAが見られることが望ましいなら、ページAへのリンクを増やしたり目立たせたりすべきである。ウェブは難しいという人も多いが、実際にはウェブは「打てば響く」もの。「おお、あの作業をしたらちょっと良くなったな」という実感を積み上げることが大切だ。
ウェブにKPIを導入するには、そうした実感を積み上げてから考えると成功しやすい。まずは目標を決める。その目標に関連する項目を洗い出して、どのポイントの数字をチェックすれば目標への動きをチェックできるかを決めるのである。たとえば、あるリフォーム会社では、資料請求と電話でのお問い合わせを増やすことが目標だった。そこで、目標に到達した訪問者とはどんな人かを詳しく洗い出した。その結果、次のようなことがわかった。
- 地名で検索して訪れた人が多い。
- リフォーム事例のページを見てから資料請求した人が多い。
- 電話のお問い合わせは会社の近所の人が多く、成約率が高い。
KPIは常に「警告灯を見てすぐに行動できる」ものでなければならない。この場合、リフォーム会社はサイトをどうすれば良いだろうか?
KPIとして、まず「地名検索の回数」を見ることにしよう。また、「リフォーム事例ページの訪問数」もKPIとなる。
地域検索を増やすために、全ページに会社の所在地や営業エリアの情報を入れよう。フッターに加えれば不自然ではなく、現在のデザインをあまり変えることなくすぐにできそうだ。電話番号もフッターに同時に加えて、電話問い合わせが増えるようにしよう。トップにも資料請求ページにも電話番号を大書して、成約率の高い電話問い合わせが増えるようにする。さらに、重要なリフォーム事例を増やし、事例を地域別に見ることができるようにする。ついでに地域ごとの気候とリフォームの関連について記事を増やすことにする。
こうした作業は「リニューアル」と呼ぶには手軽すぎるかもしれない。しかし、成果に一直線に向かう効果的な「カイゼン」の作業だ。
KPIとして、総訪問者数に対するリフォーム事例のページ閲覧数の割合を見ていくことにしよう。この割合が下がってきたら、対策が必要である。
まずは、リフォーム事例のページを詳しく解析するといい。トップページから移動してくる人が多いということがわかったら、トップページを改善しなければならない。そういう目でトップページを見ると、リフォーム事例以外のニュースやバナーが増えて、事例へのリンクが埋もれがちになっていることに気づく。あらためてリフォーム事例へのリンクがわかりやすいようにしてみよう。他のページからももっとリフォーム事例に訪問者を誘導したいところだ。そこで、検索から入り口になっているページに最近のリフォーム事例を画像入りで少し掲載し、それをクリックすると事例のページに移動するようにしていこう。同じようなリンクを毎日3ページに加えていけば、1か月に60ページ以上を改善できる。
KPIが悪化しているという警告灯が光ったら、すぐにこうした手を打ち、指標を高めることができるのだ。
コンバージョン率はあくまで「成績表」、売り上げへの過程があってこそのKPI
通常多くのサイトが注目しているのは「コンバージョン率」だ。“総訪問者数に対する顧客行動数(資料請求や問い合わせなど)”の割合だから、複数の数値を組み合わせて作られる指標である。だれもが客観的に理解できるし、良くなったり悪くなったり変動する。
ではコンバージョン率はKPIとして使えるものだろうか? 残念ながら、コンバージョン率はKPIではない。コンバージョンは「成果」にあまりにも近く、いわば“結果論の数字”だからだ。これが悪化したとしても、どこが悪いのか、ただちに原因に迫ることができない。すぐ行動に移して改善することができない。それではKPIとしては働かないのだ。
何を成果とするか、という考え方はいろいろあるが、成果=実際の売り上げだとすると、売り上げにつながる資料請求などのコンバージョンは「重要な目標を達成する過程」のポイントであるかのように思えるかもしれない。しかし、実際には売り上げとコンバージョンは近すぎる。
少なくともウェブ上にはコンバージョンまでの段階しかないから、その後工程をウェブが管理することではない。営業のフォローが下手で、資料請求があったのに売り上げにならない、ということはウェブを良くしても改善されないのだ。現実には大半の会社では、資料請求があって見込み客リストが作られれば、一定の割合で契約にいたる確率を持っている。営業チームの実力だといってもいいだろう。ということは、ウェブでコンバージョン数が増えれば、それがそのまま契約増に一定の割合で反映されるわけだ。
この意味で、コンバージョンは「売り上げへの過程」というより、売り上げというゴールを直接反映する「成績表」であるといえる。経営の世界では、こうしたゴールが直接反映される指標を「KGI」(キーゴールインジケータ、重要成果指標)と呼んでいる。KPIをウェブに導入する際には、「まず目標を定めよう」と先ほど書いたが、それは実は「KGIを決めよう」という提案だったことになる。KGIを設定して初めて、そのプロセスの上にKPIをしかけることができる。多くのサイトで目標が定まっていない、というのは、ゴールを反映するページがないということが多いのだ。
さてこうして解説してきたが、実際に皆さんが自分のサイトを振り返ると、次のように思うかもしれない。
- うちのサイトはブランディングが目的なので、ゴールが決められません。
- 通販ではなく商品や店舗について知ってもらうだけなので、ゴールがありません。
- B2Bサイトなので、素人がいっぱい来てもしょうがないのですが……。
- 採用、調達、英語版、中国語版など、商品以外にもたくさん目的があって、KPIが絞れません。
KPIについて相談を受けるとき、真っ先に質問されることが多い点でもあるが、こういったサイトは意外なほど多い。不動産会社は物件が多すぎ、しかも売り出し物件がどんどん変わるために、常にチェックする指標が立てにくい。専門学校は学校が各地にあって、教室検索から訪問者が分散し、どこをチェックすればいいのかわからなくなってしまう。
こうしたサイトでもゴールを反映するページは作らなければならないし、それを管理することで成果に結び付ける方法は必ずある。すべての企業は、ウェブで成果を出すべきだし、そのための客観的で論理的な手法を持たなければ、成果は偶然まかせになり、経営者は投資判断できなくなってしまう。成果が上がらない、予算が出ない。この悪循環に入るとジリ貧である。この問題の解決方法は、次回の記事で詳しく考えよう。
今回は具体的な解析方法を伝えるところまで論が進まなかったが、KPIはあまりにも重要で、1回の原稿では書ききれないため、今後数回にわたりできるだけ具体的に解説していきたい。KGIについても、さらに解説することにしたい。
ただ1つだけ言えることは、2008年は「ウェブKPI」がもっと普通のものとなり、企業ウェブマスターが仕事しやすくなる年だろう、ということだ。Web 2.0的なものを初め、にぎやかに紹介されるあらたなマーケティング手法に浮き足立つことなく、成果とは何か着実に考え実行する方法を手にする。それが今年の大きなテーマになるのではないかと考えている。
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