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Webサイトの“見える化”&“カイゼン”講座
企業のゴールとは? 「貢献するサイト」のためのKGI活用術
コンバージョンがどれぐらい起こるか、サイトの成績が下がっていないか、これをチェックするための指標が「KPI」だということを前回説明した。KPIはコンバージョン(ゴール)よりも手前で使うものだが、ゴールそのものの指標は「KGI」と呼ばれている。ただしKGIの場合は、本来の意味でのゴールとは少し違うものと考えたほうがよい。企業のゴールとは何か? そしてそれはウェブでどうあるべきか? あらためて企業の「ゴール」について考えておこう。
CVRとKGIは似て非なるもの
区分して考えられるように慣れよう
先日ある企業人と話していたら、CVR(コンバージョン率)とKGI(経営目標達成指標)の2つについて、意味をごちゃまぜにして使っておられたということがあった。同様にごちゃまぜにして理解されている読者もいるかもしれないので、今回の本論に入る前に、少し整理しておこう。
まず、CVRは、「Conversion Rate」、つまりコンバージョン率の略だ。「顧客転換率」と訳されるが、要は「サイトを訪問した人」が「顧客」へと立場を変える、転換する割合ということだ。CVRはウェブの成果を測る指標の1つだが、この「指標」という日本語は難しすぎるのかもしれない。CVRはあくまでウェブ上で得られた割合(数値)を表す。基本はパーセンテージで次の式で算出する。
コンバージョン数÷総訪問数×100=CVR(%)
例:1万人がサイトを訪問して、そのうち100人が購入したならば、次のようになる。
100人÷1万人×100=1.0%
そもそもコンバージョンとは、多くの場合、「もうお客様と呼んでくれてもよいですよ」と、“訪問者自身が何かアクションを起こしたこと”を軸にして測るものだ。ショッピングカートや資料請求、懸賞への応募といったフォームから、情報を送信することで、個人情報を相手に与えるということは、一種のパーミッションを与える行動だ。つまり企業と訪問者が、基本的な信頼関係を結んだことになる。
もちろん、そこまで本人があまり意識していなくて、ただ「資料がほしい」「プレゼントが当たればいいな」としか考えていないこともある。だから企業は冷静に「あなたは今、個人情報を送ろうとしているんですよ。うちではこういう目的で使いますよ」と宣言して、OKさせる必要があるのだ。どんなにOKさせていても、人は、自分がウェブサイトからプレゼントに応募したことを、3週間も経つときれいに忘れる。いざOKしてもらった項目に従って情報を活用しても、「どこで私の個人情報を入手したんですか!」と怒りのメールが届くこともある。企業側は慎重な上にも慎重であることが必要だ。
ともかく、コンバージョンは、「ある程度、訪問者本人が意識している行動」ということになる。ウェブ上にあらかじめ設計されている構造(送信フォーム、カートといった仕組み)だから、訪問者にもわかりやすいのは当然。
ただしコンバージョンは、あくまでウェブ上に閉じた行動のため、企業側も実は慣れていない場合がある。手渡しで「はいどうぞ」と渡しているパンフレットを、サイト上の「資料請求」という形にしたとき、個人情報だから扱いはていねいにするにしても、活用する手だてや準備が不十分で、せっかく得られた情報をそのまま寝かせて無意味化している会社も多い。「新商品発売」というタイミングでいざメールを送ったら、先ほどの例のように、怒りを買ったり、アドレス不在で帰ってきたり……。本当なら、あくまで目標は「パンフレットをより多くの見込み客に渡す」ことだったわけだから、情報活用はできなくても成果としては成功し完結しているというべきだろう。
つまりCVRは、ウェブサイトがウェブサイトとして設計され、そこで成果が出たかどうかという実態に限定された数値なのである。これはCVRを軽んじてよいという意味ではない。訪問者の意識の上に成り立っている、ウェブサイト上に限定されている、だからこそWeb担当者はCVRに対して真剣になるし、会社としても最も注目すべき値なのだといえる。
KGIとは「経営目標達成指標」のこと
では企業のゴールとは何か?
一方、KGIは「Key Goal Indicator」(キーゴールインジケータ)の略だ。経営の世界では、「経営目標達成指標」と訳されてきたものだ。ここで言う「ゴール」にはコンバージョンも含まれるが、それだけだとは限らない。企業にとってゴールとは何だろう。ミッションステートメントは会社ごとにさまざまだが、共通するのは株主への配当と社員の最大幸福である。その前提として「利益の極大化」がゴールだといってよいだろう。こんな話は当たり前すぎて、Web担当者には退屈かもしれないが、もう少し考えを進めてほしい。
利益を極大化するには、売り上げを増やして経費を減らすことである。これが実はそんなに当たり前ではない。売り上げ至上主義になっていて、経費がかさみ、結果「増収減益」となっている会社は非常に多い(図1)。
さらに、激しい競争が行われている業界では、シェア至上主義にならざるを得ず、値引き合戦の結果、「減収減益」でもシェアは伸びたという状態もよくある。経営の原則では、シェアが高まれば次の段階で価格決定力が手に入り、その結果、売り上げも利益も増えるはずだからだ。シェア争いに耐えるために厳しいリストラをくぐり抜けてきた企業は、この段階で大きな果実を手にするはずだった。が、残念ながら、そうはいかない。価格は結局は流通に握られている、消費者は値上げを許さない、などの事情から価格が低下し、シェアはとったが市場ドライビング力は上がらないということも多々ある。
売り上げ至上主義の会社は経費削減を考えていないという意味ではない。勝負する土俵、商品の付加価値などを見直すべきかもしれないということだ。つまり「売り上げ」「経費」の2極だけを見ているために、第3極である「対市場価値」が見えなくなっている恐れがあるのだ。
さて、こういった要素を踏まえたうえで、「企業のゴールとは何か」をもう一度考える必要がある。そもそも、あなたの企業のウェブサイトは、企業のゴールに貢献すべく作られているだろうか?
CVRはあくまで「数値」の表出
KGIは行動のための「指標」
私に言われなくても、企業経営者は常に自社のゴールを意識している。ここでまず言いたかった点は、「ゴールとは、ウェブのもう1つ奥にある」ということなのだ。そこがコンバージョンとの違いの1つである。
たとえば、自動車メーカーにとって、ゴールの1つは「車が売れる」ということだろう。このゴールの増加を反映するものとして、ウェブサイトからの資料請求がある。特に自動車などの高額商品では、資料請求と売り上げの間には比較的高い相関がある。ということは、「ウェブからの資料請求を増やせば、車が売れる」のだ。「ゴール=車が売れる」としたときに、「資料請求が増えるか減るか」がウォッチすべき「KGI」であるといえるだろう。ゴールが奥にあり、それを反映するものとしてウォッチするというところに「KGI」は存在する。インジケータとゴールは同じではないのだ。
そもそもインジケータとは警告灯・状態表示灯のことだ。インジケータを見ていればすぐに変化の意味が伝わり、何をすべきかわかり、行動に移すことができる。気がついたらすぐ行動に移せる、そのとき必要な行動が決まっているというのもインジケータを使う大きな意義だ。たとえば車を運転していて、ガソリン警告灯が光ったら、「残り30キロメートルぐらいの間でガソリンスタンドに入らなければ車が止まってしまう」とわかり、運転者はガソリンスタンドを探すだろう。
これらを踏まえて、あらためてCVRとKGIの違いを確認しておこう。まずCVRの「R」はレート、率、つまり1つの数値だ。その観点は
- 「大きい」「小さい」という絶対値で捉えられる
- 「伸びた」「悪化した」という変化がわかる
だけであって、「それが増えるのが、本当に良いことか」という見方や「どうしたら増やせるか」という行動は含まれていない。「量的」な意味に限定されたものだといってもよいだろう。
一方、KGIの「I」はインジケータ、警告灯だ。それは、
- 「表示されている状態」と「その意味すること」がすぐわかる
- 「光ったらどう行動するか」が、あらかじめ決まっている
という「質的」「計画的」「行動的」なものだということが決定的な違いなのである。
つまり、「CVRが悪いがどうしたらよいだろう」という質問はありえるが、「KGIが悪いがどうしたらよいだろう」では、それはそもそも、ちゃんとしたKGIではないということになる。
ウェブも現場的なゴールを目指すが
企業の「ゴール」は1つではない
大きなゴールは戦略の中にある。自動車の例ばかりで申し訳ないが、1990年前後に、オートキャンプやRVカーのブームがあった。この頃、自動車メーカーはこぞってRVカーや4WD車を販売したし、米国風の「SUV」(スポーツユーティリティビークル)という名称も広まるなど、少しずつ海外にも目が行った。
これを単純にオートキャンプブームだと思っていた人も多かったが、自動車会社首脳に言わせれば、これはもともと世界戦略だったのだ。自動車が売り上げも利益も拡大し続けるには、市場の開拓が必要。そのためには道路舗装率の低い開発「直前」国で売らなければならない。砂漠、ジャングル、山岳、寒冷の国なら、そこを走れるRVカーや4WD車が必要となったのだ。こうした世界戦略の一端として、オートキャンプブームが国内の現象となって見えていたのだ。このように戦略の一端がブームという形で現れることは多い。
しかし、営業現場は違う。そんな深みや時間の流れに付き合うべきではない。時代はオートキャンプだとなれば、オートキャンプを自己目的化して突き進まなければならない。経営者の世界戦略のように、何年がかりというわけにはいかないのだ。
今のウェブサイトは、より現場に近いものとなっている。そこで目指されるゴールは、「売り上げアップ」のように、現場的・短期決戦的・自己目的化されたゴールであることが多い。だから量的となりやすく、CVRでも把握しやすかったのだといえるだろう。
実際には、ゴールはいくつかの「極」で形成される。1つの極はもちろん「売り上げアップ」だ。多くのウェブサイトは、売り上げアップをゴールに想定して構築されている。だが一方で、もう1つの極に「コストダウン」もある。「売り上げアップ」と「コストダウン」が揃って初めて、図1で見たように「利益極大化のポートフォリオ」は成立する。
コストダウンも利益極大化に欠かせないものだが、こちらは現場の短期決戦的・自己目的的な考え方と対立することがある。しかしたとえば、ネット以外で獲得した顧客を営業マンがケアしているフローが、ウェブ化され、営業マンの手数が減るとしたらどうだろう。これも大きなコストダウンだ。データベースでOne to One化していけば、さらに客単価×購入頻度×継続年数といった要素からなる「LTV」(ライフタイムバリュー)を高められるかもしれない(ただし、現場にとっては、自分の仕事や成果を持続させたいという考えに反するものとなる)。
あるいは、海外の安価な仕入れ先から売り込みのメールが増えれば、助かるかもしれない。これは調達や製品情報、R&Dの英語版をウェブに掲載するのが効果的だ。もちろん売り上げ拡大・販路拡大にも英語版を始めとするウェブの海外対応は欠かせないものだろう。
このように、ウェブに設定できるゴールの座標は決して1つだけでない。ウェブが現場的なゴールを目指すことを否定するものでは、もちろんない。しかし、企業のゴールはそれだけではないこともまた事実なのだ。
企業のニーズとサイトの一致が重要
KGIがゴールを明確に意識させる
さらに「実際の収益」を配慮した順列組み合わせを含めて考えると、多くの状態が成立する(表1)。
給料のベースアップや仕入額の増加、設備投資といった要因があるので、経費を横ばいで抑えるだけでも並たいていの仕事ではない。そのうえ、得意先からの値下げ要求もある(いや、私の経営者としてのグチを言っているわけではないが)。
あるいはゴールの極として、もっと別の側面、たとえば企業・製品の“付加価値”を重視する場合もあるだろう。たとえば、「個人株主を集めたい」という考えはどうか。敵対的買収に備えるために、企業のファンだから株を買い、長期的に保有しようという安定株主が増えれば、TOBは難しいものになる。安定株主は多くが一般の個人だ。また、ネットでどんどん株の売買をしようというデイトレ系の人よりも、タンス株券化するタイプの人が望ましい。
企業にこうしたニーズがある場合、ウェブサイトはどう行動すればよいか。その目標にウェブが貢献しているかどうか、どう評価し、貢献度を高めるにはどう行動したらよいのだろうか。
大半の上場企業のサイトで、個人投資家向けの情報は足りていないように思う。たとえば、典型的なB2B裏方型の企業がテレビCMでおもしろい映像を流して話題になることがある(本当に黒衣をキャラにCMしている会社まである)。こうしたことがウェブ側ではどう位置づけられ、コンテンツが形成されているだろうか。CMコーナーに行けばそのCMが見られるが、IRコーナーにはCMと連動したイメージもなければ、別の何か個人投資家向けの情報もなかったりする。投資家向けの商品詰め合わせプレゼントが人気で個人株主を集めている有名B2C企業もあるが、そのIRコーナーにも、そうした記述がないこともある。
経営者の戦略の中にある、他の、あるいはもっと深いゴールが、ウェブサイトにまったく反映されていないのでは困るのだ。現場のゴールだけでもたくさんある。CVRでは測りにくいものも多い。企業ブランド向上といった目標もそうだろう。たとえば「“良い大学”の学生から新卒採用エントリーを得る」というのも、「質的」という意味でCVRでは測れないものだ。
今回、ウェブの世界に「KPI」「KGI」という言葉が入ってきて、一番強く光が当たったのはこうした側面ではないかと思う。ウェブサイトに「ゴール」が作られているか? 「KGIを考える」とは、そこに照り返すものなのだ。
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