サーチテリア
代表取締役社長 兼 CEO 中橋 義博
取材・文:柏木 恵子
写真:渡 徳博
検索エンジンで、入力したキーワードに合わせて検索結果画面に広告を表示するSEM(検索エンジンマーケティング、検索連動型広告)は、PC向けのインターネット広告として広く普及している。しかし、日本では携帯電話によるインターネットアクセスが海外に比べて格段に多いにもかかわらず、モバイルインターネット分野でのSEMはまだそれほど普及していない。サーチテリアは、そのモバイルSEMにフォーカスしてサービスを展開するベンチャー企業だ。その設立経緯や、SEMの巨人オーバーチュアの特許をいかに回避しているか、代表取締役社長兼CEOの中橋義博氏に伺った。
サーチテリア株式会社
所在地 ● 東京都港区六本木
最高経営責任者 ● 中橋 義博
設立 ● 2004年1月15日
資本金 ● 3億925万円(資本準備金含)
URL ● http://www.searchteria.co.jp/
事業内容●
世界初となる携帯電話向けの検索連動型広告の配信。2004年1月の設立から約7か月後となる2004年8月にサービスを開始。表示順位ではなく、露出割合を入札するという入札方式、キーワードをカテゴリー別にして広告主に提供するなど、他社にはない独自のサービスを提供している。
モバイルSEMで世界を制し、
マッチングを追求して100年続く会社になる
外資系で日本向けサービスの開発ができないというストレス
●編集部 まずは、サーチテリアの設立経緯などを教えてください。
●中橋 2004年1月に設立して、サービス開始が2004年8月です。その間はシステムの開発と携帯電話の媒体を持っている媒体社との契約、お客さんとのパイプである代理店の契約を同時に進行してサービスの仕込みをしていました。
資本金は、最初は3人の役員が1万円ずつ出し合って3万円。資本金1円で株式会社を設立できるようになりましたが、3円ではあんまりだということで3万円にしました。その後、何回か役員で増資をしたり第三者割り当てをしながら、今は資本準備金を含んだ形で、3億925万円(2006年5月現在)です。ベンチャーキャピタル2社に入っていただいています。
役員が4人いますが(中橋義博、滝田秀樹、三浦光、大森拓也)、全員PCの検索連動型広告最大手オーバーチュアの出身です。創業の経緯としては、このオーバーチュアにいたということがポイントになっています。
オーバーチュアは、当時PCで検索連動型広告を展開していましたが、当時は日本のために新しいサービスを作ったり既存のサービスを改善したりということは基本的にはなく、日本語が文字化けせずに通ればいいという感じでした。日本市場ではモバイル広告が米国よりも進んでいるのでやりたいジャンルではあったのですが、当時は開発はすべて米国で行っていて日本向けやモバイル向けのエンジニアがいない。現場で仕事していてストレスが溜まるし、やりたいことができないというのが起業に向かうきっかけになりました。モバイルの検索連動型広告は絶対にニーズがあるだろうが、米国を待っていたらいつまでたってもやらないだろう。それなら自分たちで起業して、エンジニアも日本で採用して、日本のモバイルに特化した仕組みを日本で作ろうと。
実は私は、オーバーチュアの前はヤフー・ジャパンにいました。あの会社はものすごくペースが速いので、3、4年もいると長年やった感じがしてくるんですよ。「もうヤフーはわかった」みたいな気分になっていて、次に来るのは何だろうと米国の状況を調べていたら、ポータルのポータルみたいなサイトがあるぞと。それがオーバーチュアだったんですね。どういう意味かというと、ヤフーにいるかぎりヤフーの仕事しかわからない。けれど、オーバーチュアは、ヤフーともマイクロソフトともその他いろいろな検索サイトと取り引きがあって、すべての検索サイトがそこに集約されている感じだったんです。収益もすごく高くて、これはインターネット広告のトレンドになるぞとヤフーにいた頃から感じていました。
オーバーチュアでの私の仕事は、エディトリアル関係です。広告のタイトルや説明文といったクリエイティブを管理したり適合性をチェックする部署です。滝田は営業の責任者でした。三浦が大きな広告主を個別にフォローする仕事で、大森は代理店のマネージメント。代理店に広告主の予算をもっと上げるようにといったフォローをしたり、コンバージョンが悪いと言われたらクリエイティブを見直すなり入札価格の順序を検討するなりといったことをマネージメントしていました。
そうやってオーバーチュアで仕事をしていたら、突如ヤフーに買われてしまいました(2003年)。すると、いろいろな媒体社がオーバーチュアから離れていきました。媒体社になってしまうと、他の媒体から嫌われてしまうわけです。せっかくポータルのポータルだと思っていたのに、またヤフーに逆戻り。起業にはそんな経緯もありました。
●編集部 1月設立で8月サービスインというのは、スケジュール的に相当厳しかったのではないですか。
●中橋 厳しいですよ。まず、媒体社がどこに出るかもわからない時にはお客さんは入らない。お客さんがいないと、媒体者に話しに行っても、どんなお客さんがいていくらもうかるのかも出ない。システムを作るにも資本金3万円ではお金があるわけでもないですから、サービスインまでは、1人のプログラマーに無給で作ってもらいました。ただ、アイデア自体はその前からずっと温めていたものがあったので、それを形にするだけでした。
キーワードをカテゴリーにすることでさまざまな問題を解決
●編集部 温めていたアイデア、つまりサーチテリアのサービスの特徴とは、具体的にはどのようなものですか。
●中橋 比較のために、まずオーバーチュアのやり方を説明します。たとえば保険会社が検索連動型広告を出すとしましょう。一番最初の作業は、こういうキーワードで検索した結果に広告を表示させたいというキーワードを選ぶことです。「生命保険」「保険」「ほけん」「見積」「見積もり」など、ほかに「養老保険」や「年金保険」など、無限に出てきます。
次に、それぞれのキーワードに対して、タイトルと説明文を付けていきます。検索結果の画面に表示される内容ですね。それをすべてのキーワードに対して入れていきます。さらに、飛び先のURLを入れます。最後にクリック金額を設定します。クリック金額はキーワードごとに決められます。検索結果に表示させたこれらのタイトルと説明文がクリックされた時に支払う金額のことです。
これって、面倒だと思いませんか。説明していても面倒くさいのに、これが5000キーワードとか1万キーワードに対してやるんです。たとえばアマゾンが広告を出す場合、本の名前が全部入っていて、それぞれにタイトル、説明文、URLを入れていく。保険会社Aはひらがなの「ほけん」を入れないけれどB社は入れているといった違いもあります。
オーバーチュアとしては、とにかくいろいろなキーワードに入札してほしいけれど、お客さんは面倒だと思っている。そこが不満でした。キーワードを考えたり提案したり、入札金額をコントロールするのが大変だし、分析も大変。タイトル、説明文、URLの適合性を見るのはエディトリアルの部門の仕事ですが、本当に大変でうんざりなんです。
これがいやでいやで考えた仕組みが、キーワードをカテゴリーとしてパックにするという方法です。
保険会社のキーワードはだいたい決まっているから、それを保険カテゴリーという形でパックにする。広告主は、カテゴリーを選ぶだけでキーワードは何も考えなくてよく、そのカテゴリーに対して1つのクリエイティブを入れればいい。これは、編集チームも楽だし、営業チームにとっても無駄がない。広告主に見えるのは、カテゴリーの下にあるサブカテゴリーと、その下にあるキーワードというツリー構造だけです。カテゴリーは350くらいありますが、これを日々細分化していっています。
最初が楽だというだけではありません。検索キーワードのレポートを見ながら、新しく出てきた言葉を追加するのも簡単です。オーバーチュア方式では、広告主なり代理店なりが新しい言葉にアンテナを張って追加しなければならなりません。新しいクリエイティブを作る必要もある。しかし、サーチテリアでは、カテゴリーの中に新しいキーワードを追加しますので、広告主は気を遣わなくていいのです。たとえば新人の芸能人などは、データベースから拾って先回りしてキーワードとして登録していきます。だから、検索要求に対して何割返せるか(カバレージ)は高くなります。さらに、検索結果については完全一致でしか当てないようにしています。たとえば「悪徳金融」で検索しても「金融」カテゴリーの広告は表示されません。適合性にこだわるというのは、会社のポリシーなんです。それに、カテゴリーにしてあると審査も楽です。
●編集部 オーバーチュアの仕組みでは出稿時にキーワードや広告の内容に審査がありますが、キーワードが審査にひっかかって掲載できないという問題は解決されますね。
●中橋 キーワードはサーチテリア側で用意していますからね。
あとは分析も楽です。通常、このキーワードでの結果はどうだったから上げるとか下げるといった分析をします。しかし、キーワードをばらばらに見ても意味がわかりませんから、オーバーチュアの場合でも結局はカテゴリー分けして見ていくことになります。サーチテリアの方式では、もともとカテゴリー単位でしかレポートを見る必要がない。
●編集部 逆に、あまり人が使わないようなキーワードは入れられないわけですね。
●中橋 安いからこれをという、お宝キーワード的なことはできないですね。でも、弊社としては、まとめて買ってもらった方がありがたいんですよ。というのも、モバイルSEMの市場はPC市場の10分の1の規模なんです。だからPCの市場と同じ手間はかけられません。しかも3キャリア分入れなければいけないわけですから。だから、カテゴリーについて3キャリア分という方法を採っているわけです。
特許を回避するための秘策
露出割合を販売する
●中橋 もう一点は、少し技術的な話になります。
企業A、B、C、Dがあるキーワードに入札をする場合、ある媒体では上位2社が表示されるとしましょう。入札したクリック金額がA社100円、B社50円、C社30円、D社20円とします。オーバーチュアの場合は上位2枠ということなので、AとBが表示されます。クリック金額を高くするほど検索結果で上に表示されるので、クリックされやすいということですね。媒体によっては3枠目や4枠目まで出ますが、とにかく一定の順位以上にいないと、表示すらされない。つまりクリックもされないし、広告として意味がなくなってしまう。だからこそ、クリック金額がつり上がっていくわけです。
入札金額による順序で表示するというこの方式が、そもそもオーバーチュアの特許です。これが大問題。グーグルは、クリック金額にクリック率をかけて順位を決めるという工夫をしましたが、オーバーチュアに訴訟を起こされて和解金300億円を支払っています。それほどに、順位で表示するモデルが重要だということです。インターネット広告において、バナー広告やメール広告などはありとあらゆる会社がサービスを提供していますが、検索連動型広告のシェアがオーバーチュアの一人勝ちという状態になっているのは、この特許があるからです。
もちろん、この点は十分にわかっていました。そこで、我々は相当頭をひねりました。順序ではだめなら、この例のような入札があったときは、100円の人は50円の人の2倍の金額を出しているのだから、2倍有利になったらいいのではと考えました。
どういうことかというと、まず入札されているクリック金額を合計します。この例なら100+50+30+20で200です。これを分母にします。そして、クリック金額を分子にした数値の確率で、1位に表示する。つまり、分母が200で入札金額が100だったら、200回のうち100回がトップ、入札金額が30だったら200回のうち30回がトップという確率論を使うわけです。2位まで表示されるなら、仮にAが1位に表示されたら次はB~Dの合計(100)を分母として計算し直して、2位になる確率を出す。すると、必ずしも2位の表示はBにはならない。30パーセントの確率でCが2位になるわけです。検索リクエストが来て結果を返すときに、表示は毎回違う。リロードするたびに変わります。つまり、1位を買うことはできない。入札金額は順位とは無関係で、露出割合を買うわけです。管理画面で入札金額を入れると、何パーセントというのが出ますが順位は出ません。
この仕組みは、オーバーチュアの特許回避が第一義ではありますが、結果的にモバイルに適したものであるとも言えます。モバイルの検索サイトは画面が狭いので、SEMの表示枠は1枠しかもらえないことも多い。オーバーチュアのモデルでは、永遠にA社しか表示されないので、それ以外の会社はやめてしまいます。サーチテリアの方式なら、たとえば20円の人がたくさんいても、まったく問題ない。入札者が増えたら、露出割合が微妙に減るだけです。表示されるのが1枠でも競争が起きるというのが、モバイルに向いています。
しかも、オーバーチュアのモデルだと、自分が何位なのかを意識しながら、入札金額を変えていく必要がありますよね。管理画面を見て金額を上げたり下げたりしなければいけない。しかし、サーチテリアのモデルではいくらならペイするかを考えたら、あとは放置していいわけです。買った露出割合分は表示されるから、管理画面は見なくていい。
●編集部 なるほど。これはサーチテリアの特許ですか。
●中橋 キーワードをカテゴリーにするのと露出割合による表示は、海外も含めて特許出願中です。
マッチングを追求して100年続く会社になる
●編集部 モバイルの検索連動型広告やこのサーチテリア方式は、どのような分野の広告に効果があると考えていますか。
●中橋 業種は問わないでしょうが、携帯電話特有の着メロや待ち受け画面といったビジネスをされている企業にはぜひ試していただきたい。PCではダウンロードできないわけですから。モバイルサイトを持っている企業でしたら、20円から始められて費用対効果を見ながらできますので、まずはやってみることです。予算1万円でもいいんですよ。1万円分クリックされたら止まるようにできます。モバイル広告をやるなら、一度うちのSEMを使ってほしいですね。多分、損はしません。やめるお客さんなんて滅多にいませんから。今までのモバイル広告の費用対効果とはまったく違うと思ってください。
あとは、確率を使うとかキーワード管理をカテゴリーにするという仕組みを、他の媒体社に使ってもらうというライセンスビジネスもやっていますので、そちらも増やしていきたい。いろいろな企業に使ってもらっていい評価をいただき、これがモバイルSEMのスタンダードという形で海外にも出していきたいです。
●編集部 現時点で、競合はどこですか。
●中橋 競合はもちろんオーバーチュアとグーグルです。しかし、この2社に関してはオペレーションの部分がまったく違うので差別化できていると思います。それ以外の会社は特許に抵触しないように固定金額によるサービスなので、類似サービスではありますがライバルだとは思っていません。
実は、グーグルのスタイルはモバイルには適していないのではないかと思っています。ページの被リンクによってページランクをつけるという仕組みが、携帯サイトではうまく機能しません。携帯サイトは、そもそもあまりリンクを張り合いません。いいサイトというのは例えば公式サイトだと思うのですが、普通は公式サイトにリンクを張らないし、クロールも公式サイトをカバーできていない。モバイルはページが狭いのでいいサイトがより上にいなければならないのに、ページランクがうまく機能しないでしょう。
●編集部 注目している企業などはありますか。
●中橋 米国のVivisimoというクラスタリングの会社です。弊社は媒体ではありませんが、媒体社にこうしたらページビューが伸びるとかウケるよということを提案できるようにしたい。そのために、検索結果がたくさんある中で、これとこれはグループだという見せ方をするクラスタリングの技術が今一番のお勧めです。
例えば、「ゴルフ」というキーワードなら、「ゴルフ場」「ゴルフウェア」「ゴルフクラブ」、車の「ゴルフ」というカテゴリーをまず見せて、どのジャンルで探しているかを特定してから結果を表示する。モバイルは画面が狭いので、クラスタリングはPCよりもさらに有効だと思います。
●編集部 会社プロフィールに、全員参加型経営とありますね。
●中橋 ヤフー時代にはいろいろなサービスを作ってきましたが、今回は初めてサービスではなく会社を作るのだから、それならいい会社を作ろうと思いました。いい会社というのは、まず長く存続する会社ですよね。ちゃんと利益が出ていかないと存続しない。そのためにはどうすればいいかを考えて、たとえばカリスマ社長がいて社長が倒れたらどうにもならないような会社はだめだろうと。ということは、4人の脳みそを1つにまとめて1人の経営者だというくらいのスタンスでやったらいいのではないかと。また、社員全員の知恵を集めて、会社作りに活かす。それが、言ってみれば全員参加型です。
いずれ私もいなくなるかもしれませんが、また新しい人も入ってきます。それでも、全体として同じ方向を向いてマッチングのサービスを追求していく。100年後に携帯電話はないかもしれませんが、マッチングは残っていると思っています。その辺を考えて、こだわるところはマッチングにしようということでやっています。
今はキーワードでのマッチングですが、コンテンツのマッチングとか人のマッチングといったものもやらなければいけない。たとえば「マック」という言葉だけでは、何のことか明確にはわかりません。コンピュータのことかハンバーガーのことか、または口紅のことかもしれません。それは過去にそのユーザーが見ていたページを見れば、あ、この人のマックはこれですねとわかる。こういうマッチングだってありますよね。
場所と時間で言葉の意味が変わるかもしれないし、あるいは人の行動で、結果を出し分けられるのではないか。そういうところをひたすら追求したい。別にSEMが永遠に存在するわけではないですからね。モバイルの検索連動型広告だけというつもりは全然なくて、鍵はマッチングなんです。
●編集部 今後の可能性についてはどう考えていますか。
●中橋 PCと同様に、モバイル広告も50パーセントが検索連動型になってほしいし、その中の半分くらいのシェアをとりたいというのが、当面の目標です。今はモバイルの中での検索連動型広告の割合は多分数パーセントでしょう。モバイル検索連動型広告の業界自体が伸びてもらいたい。
10年後は、まったく違う、マッチングのものをやっているでしょうね。それが何かは読めないです。ただ、それを探すためにアンテナを張り巡らせることは怠りません。
●編集部 ありがとうございました。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.1』掲載の記事です。
※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時(2006年9月)のものです。
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