オーバーチュア株式会社
われわれは検索連動型広告のパイオニアであり
国内最大のシェアを持つ市場のリーダー
取材・文:柏木 恵子
写真:渡 徳博
検索連動型広告の生みの親といえるのがオーバーチュア(基本的な情報はこちらを参照)。検索エンジンの検索結果にキーワードに関連したテキスト広告を表示させるというビジネスモデルを発案し、広告業界に革命を起こした。これにより、「きっとお客さんも見てくれる」というある種の賭のようなものであった広告を、「情報を欲しがっている人に向けて表示する」ものへと変化させたのだ。そのオーバーチュアのシステムが生まれ変わる。日本でも新システムへの移行がもうすぐ完了する予定だ。オーバーチュア株式会社 代表取締役副社長の竹尾直章氏に、同社の戦略と新システムについて伺った。
検索連動型広告によって日本経済も活性化
●編集部 2006年にオーバーチュアへ入られたとのことですが、その経緯と入られてからの印象は。
●竹尾 私は、1987年から日本アイ・ビー・エムやコンパックコンピュータなどでさまざまな営業の仕事をしてきました。コンパックコンピュータではチャネルマーケティングやeCommerce営業本部長を経て、シンガポールでEコマースを含むダイレクトビジネスのオペレーションを担当。2005年4月に帰国した後は、ヒューレットパッカードのオペレーション&ITの執行役員統括本部長を務めました。営業からバックエンドまで幅広い経験をしてきたので、そろそろ次のステップをと考えていたときに縁があり、オーバーチュアの副社長に就任しました。
自ら検索連動型広告のサービスを提供する立場になって改めて感じたのは、これはやはりすごいビジネスモデルだなということです。能動的に検索した人をターゲットに広告を配信するというのは、他のメディアではできませんからね。これは大げさかもしれませんが、日本経済の活性化につながっているのではないかと思っています。なぜなら、今まで全国ネットで広告を打つ方法がなかった、ロングテールのテールに相当する広告主の方に、新たに広告展開の機会ができたわけですから。また、インターネットユーザーにとっても、今まで自分の欲求とは関係なく一方的に見せられていた広告しかなかったものが、能動的に取りに行って、欲しい広告を見て買い物ができる。いい社会ですよね(笑)。
画期的なビジネスモデルを発案した業界のパイオニア
●編集部 オーバーチュアといえば、検索連動型広告の「スポンサードサーチ」ですが、実際にサービスを利用していてもオーバーチュア自体がどのような会社なのか、意外と知られていない気がします。
●竹尾 確かに、ビジネスモデル自体はかなりお伝えできてきていると思うのですが、オーバーチュアという会社やブランドの認知という面では、もっと広報活動をやらなければいけないと思っています。特にウェブに関連した仕事の現場にいる方はご存じなのですが、経営層になってくるとあまり知られていない。目に見えないものなので、とっつきにくいのかもしれません。
●編集部 オーバーチュア(正確には本体であるYahoo! Inc.)が「検索キーワードに連動して検索結果ページに広告を表示し、オークション形式で表示位置を変える」という、いわゆる検索連動型広告のビジネスモデルの特許を持っているということなんですよね。
●竹尾 オーバーチュアには大きな特徴が3つあります。1つ目がそのモデルです。検索連動型広告のビジネスモデルは、オーバーチュアの前身であるGoTo.Comの創始者が発案したもので、われわれはこの分野のビジネスのパイオニアであり、リーダーであるということ。2つ目は、ネットワークパートナーとして日本ではYahoo! JAPANをはじめとする強力なサイトと提携しているなど、検索において大きなシェアを持っているということ。そして、3つ目が「お客様第一主義」です。
IT業界にしてはかなりベタな表現になってしまいますが、本当なんです。われわれにとってお客様というのは、広告主ももちろんですが、すべてのインターネットユーザーに対しても良いものを提供するというのが使命です。ですから、そのユーザーに対して表示される広告のクオリティには気を遣います。
実は、本体であるYahoo! Inc.の方針も、今まではプロダクトとテクノロジーに焦点を当てていましたが、今年からは「お客様のために」となっています。日本のオーバーチュアは歴史的にも以前からそうでしたが、全体的な動きに合わせてもう一度見直そうという流れになっています。
●編集部 オーバーチュア自身では検索エンジンやポータルサイトは提供しておらず、それと連動する広告掲載の仕組みだけを提供してますよね。Yahoo! Inc.とその広告部門であるYahoo! Search Marketing(YSM)は不可分な関係にありますが、日本では中立的な立場のままということですか(オーバーチュアはYSMの事業を日本で展開している)。
ヤフーはオーバーチュアを100%子会社化する方針を2007年4月に発表している。
●竹尾 米国の場合は、Yahoo! Inc.が検索エンジンを作ったりポータルを運営していますが、日本の場合はYahoo! JAPAN(ヤフー株式会社)がソフトバンクの子会社ですので、ちょっと様相が違います。基本的にはネットワークパートナーとしての提携です。ヤフーやエキサイト、MSNといったパートナーとシームレスな形で事業展開しています。
「ヤフーの傘下」という言い方をすると、Yahoo! JAPANの広告部門というとらえ方をされることがあるのですが、もちろんそうではありません。「グーグルのアドワーズ広告に対してヤフーのオーバーチュア」と、まるでヤフーの1つのサービス名のように捉えるのは違いますよね。われわれはオーバーチュアという別の会社として、スポンサードサーチなどのサービスを提供しているわけです。
●編集部 日本向けのサービスの開発やローカライズは、どのような体制で行われているのですか。
●竹尾 開発とローカライゼーションを含めて、米国が中心となって進めています。日本の窓口になっているチームは日本からのニーズを吸い上げて、それを米国に伝えるとともに、ローカライズのクオリティを高める取り組みを行う、という形です。
システムのコアとなるエンジンに関しては、すべて米国でコントロールしています。その中に日本からの要望をいかに入れていくかが、各国の責任者の仕事です。ただ、システムを支えているのは、フロントの目に見える部分だけではありません。たとえば、バックエンドで代理店をサポートする仕組みといったものは、日本で開発したものです。また、現在は日本と韓国と台湾がアジア地区となっていますが、たとえば「日本と韓国向けにこういうサービスを作ろう」といったことはやっています。先日、NTTデータと共同で発表した「コンテンツマッチ モバイル」もそういったものの1つです。日本は、モバイルの世界では一番進んでいますから、オーバーチュアの中でも今回のモデルは世界に先駆けた日本発のサービスとして発表しました。
米国の会社だから日本の要求が取り入れられないとか、ローカライズが遅いとかいったことはありません。特に日本はワールドワイドの売り上げで相当なシェアがあり、米国を除くと全世界ではNo.1ですから重要な市場です。
まだまだ伸びる国内市場でさらなるシェアの拡大を
●編集部 最近のオーバーチュアや市場の動向についてお聞かせください。
●竹尾 オーバーチュアのサービス開始は米国では1998年ですが、日本では2002年の12月からなので、5年目に入ったところです。これまで、おかげさまで非常に順調な伸びを見せており、昨年も対前年比40%以上の伸びを続けています。今年も、引き続き同じくらいの水準で伸びるのではないかと予想しています。
インターネット広告全般に関して言えば、2005年にラジオを抜き、2006年には雑誌広告と肩を並べました※1。そのインターネットマーケティングの中でも、特にSEM(検索エンジンマーケティング)の分野が伸びています。ただ、インターネット広告全体におけるSEMの割合は20数%くらいでしょう。米国では40%くらいですから、まだまだ伸びしろがあると言えます。また、日本における広告の市場規模が6兆円あります。その中でSEMの割合は1.5%。そういう意味でもまだまだこれから伸びる余地がありますね。
われわれは日本のSEMでのシェアが60%以上と現在でもいい位置にいると思っていますが、さらに成長するために今年やっていかなければならないと考えていることがあります。
広告市場6兆円の中でトップ1000社だけで2.5兆円くらい使っているのですが、そのトップ1000社の中で、私どものサービスを定常的に使われている企業は25%くらいです。つまり、75%くらいの企業はまだ定常的にはサービスを使っていません。まずはそこをいかにキャッチアップしていくか。去年あたりからテレビCMで検索窓を取り入れるなどクロスメディアの動きが大きくなって、リーチもどんどん広がりつつあるタイミングですので、それをいかに広げていくかというのも大きなチャレンジです。
もう1つは、中小規模の企業や特に地方のお客様をいかに取り込んでいくか。今はまだ、サービスを買っていただくと問答無用で全国ネットで広告が出てしまいます。キーワードに地名を組み合わせて設定すれば絞り込みはできますが、それをしなければ全国に出てしまいます。間もなく「地域ターゲティング」というシステム的に地域を限定する新しい機能を提供し始めますので、それを使っていただいて、その市場を拡大していくつもりです。
●編集部 「パナマ」(Panama)と呼ばれている新システムのことですね。
●竹尾 パナマというのは社内向けの開発コード名で、正式には「新スポンサードサーチ」という名称になります。内容として、これまでのスポンサードサーチから大きく生まれ変わったポイントが7つあります。
広告主の方が使うシナリオに即した形で機能の強化点を紹介しましょう。
今までは「プロダクトとテクノロジー」
これからは「お客さまのために」がスローガン
まず1つ目として、管理画面をより使いやすくしました。今までも、さまざまなレポーティングツールを使ってCTR(クリックスルーレート)やコンバージョンレートといったものを確認していただく機能を提供していました。新システムではそれがダッシュボードの形式になって、キーとなるアラートやその指標をグラフィカルに表示できるようになりました。タブで画面を切り替えてプルダウンしていくとか、期間設定の際にカレンダーが出てきて簡単にいつからいつまでと指定できるなど、操作性も良くなっています。それぞれの企業で毎日チェックする項目は異なりますので、必要な項目をピックアップしてウォッチリストとしてトップページに置いておくといったこともできます。管理画面は日々使うものですから、これが使いやすいというのは非常に重要なことだと思います。
2つ目が、スピーディな広告審査です。今までわれわれは、検索した結果がいかにフィットしているかという“質”を保つことに相当な手間をかけてきました。それが逆に、申請してから審査完了までの期間が長いという不満にもなってました。現状は、申請から審査が完了するまでだいたい1.5日ですが、過去の一時期、4日、5日かかってご迷惑をおかけしたこともあります。それが、今回の機能強化で基本的には申請提出から審査完了までの時間が大幅に圧縮されるようになります。
●編集部 具体的には審査方法の何が変わるのでしょうか。
●竹尾 当然ながら、違法なものとかアダルトといった、私どものガイドラインから外れるものはシステムで排除します。これに関しては、掲載先のパートナーに迷惑かかりますので。その排除したものの中にも実際には微妙なケースもありますので後であらためて審査を行い、掲載可能なものは掲載に至ります。それ以外のものについては、審査完了までの時間が短縮されます。今回のこういった変更によって何が可能になるかというと、たとえばすぐ開始したい何かのキャンペーンやセールの場合、タイミングを逃さず開始できる。あるいは、何か突発事項が発生したときの変更も比較的スムーズにできる。そのあたりは、これまで少しご迷惑おかけしていましたが、かなり改善されています。
3つ目が、先ほども少し触れた「地域ターゲティング」です。今まで通り全国的に表示されるもの、関東や近畿、東北といった地域で絞り込めもの、都道府県で絞り込んで表示されるものの3段階があります。掲載する地域を選べるので、特に地方限定のサービスを提供している企業や地方ごとにさまざまなサービスを提供している企業には、効率的に使っていただけます。新しい管理画面ではスライダーで予算が調整できますが、その予算設定も、ここで設定した地域への絞り込みが反映されています。
4つ目が「広告テスト/広告最適化機能」です。今までは1つのキーワードに対して1つのタイトルと説明という形でしたが、新システムからひとつのキーワードに対して複数のタイトルや説明を設定できます。広告テスト機能を使うと、どのタイトルと説明文が一番ユーザーの目をひいてクリックされるかテストできます。さらに、複数のタイトルと説明文をローテーションで出して自動的にCTRを計測し、なるべく効果の高いものを多く出すといった広告最適化もできます。これまでもいろいろなツールを使って同様の検証と分析をしている広告主もいらっしゃいましたが、キーワード数が多くていちいち見ていられないという場合でも、それをシステムに任せられるようになります。他社と違うのは、オーバーチュアではその機能を使用しないという選択肢があることです。均等に出したいという場合もありますよね。
5つ目は、「キャンペーン単位の予算/スケジュール管理」です。新システムでは1つの会社で複数のキャンペーンを同時に走らせることができます。実際のシーンでは、恒常的に使っているキーワードとある季節だけ使いたいというキーワードを分けて、恒常的なキーワードにはいくらで、季節ものはいつからいつまでで予算はこれだけという設定ができます。たとえば、お歳暮のシーズンの百貨店のようなものです。キャンペーンが自動的に立ち上がって、自動的に終わる。終わったものが出っぱなしになっているという場合は、実は結構あるんですよ。シーズンでもないのに出していても意味がないので、そんな無駄もなくなります。
6つ目は一部のお客さま向けサービスなのですが、「目標管理機能」というのがあります。インプレッション、クリック数、コンバージョの数、CTRなどのいろいろな指標で、閾値を越えたら何かのアクションをするという機能です。たとえば、単価があまりにも上昇していたら、露出の回数を減らすといったことです。企業によって重視する項目が異なるので、どの項目のしきい値をどのくらいにするという目標設定を最初に行って、あとはそれに合わせて自動運用します。
企業のマーケティング戦略において
コアとなるサービスを提供していく
●編集部 自動入札ツールがやってくれるような機能ですね。
●竹尾 これまで推奨認定代理店や認定代理店を通じて一部のお客さまには別ツールとして提供してきたものがあったのですが、それが管理画面の中に統合されたというイメージです。一部のお客さまというのは、代理店経由とプラスアルファ。推奨認定/認定代理店に限らず一般代理店を通じてご利用の方、あるいはオンラインで利用していても一定の条件を満たしている方です。
掲載順位の新たな指標となる品質インデックスの導入
●竹尾 7つ目が品質インデックスの導入です。広告の品質を表す5段階の指標が導入されます。これまでは、広告料金の金額のみで掲載順位が決定されていましたが、それ以外に広告掲載以降のクリック率や表示位置(におけるクリック率の差)、リンク先ページとの適合性など、複数の指標をかけ合わせて順位を決定します。
これは、利用される方にとって非常に興味のある内容だと思いますが、最後の7つ目としているのには理由があります。というのは、最初の6つについての移行が済まないと、この品質インデックスは導入できないからです。ユーザー数が大きいので、各機能の移行は一気にはできません。順次進めていただいて、すべて完了した段階で、次のステップとして品質インデックスの導入となります。米国でも、2006年10月に移行が開始されて、2007年2月5日に品質インデックスの導入が開始されました。
システムの刷新によって広告主と検索ユーザー双方にメリットを提供
●編集部 今回システムを新しくした大きな理由は何でしょうか。
●竹尾 1つは、広告主のニーズに応えるためです。この新しいビジネスモデルで4~5年やってきて、まだお使いでない方もいるとはいえ、企業のマーケティング戦略の中のかなりコアな位置づけになってきています。そのなかで、エンドツーエンドのマーケティングアクティビティの中で、スムーズな運用を行うためのさまざまなツールを十分に提供できているかというと、できてはいません。それを解決するためです。
もう1つは、インターネットユーザーのニーズです。これは品質インデックスで目指すものですが、インターネットユーザーのニーズにフィットした優先順位を出していかなければいけない。インターネットユーザーにとって、納得していただける結果を提示できる技術を提供したいということです。これまでも品質チェックには相当な手間をかけていましたが、さらにシステムも使って品質の高い検索、クリック、マッチングをインターネットユーザーに提供したいのです。
●編集部 今後の展望については。
●竹尾 繰り返しになりますが、やはりシェアの拡大です。インターネット広告の中でもバナーに比べてシェアは小さいですし、広告業界においては1.5%ですから、まだまだ可能性はあります。広告の世界で、企業がマーケティング戦略を立てる際にコアとなるサービスを提供できればと思っています。
●編集部 ありがとうございました。
オーバーチュア株式会社
- オーバーチュア株式会社
- 所在地 ● 東京都港区虎ノ門(東京本社)/大阪府大阪市北区梅田(西日本営業所)
- 取締役社長兼CEO ● ジェームス キム
- 設立 ● 2002年1月28日
- URL ● http://www.overture.co.jp/
- 事業内容 ●
- 検索連動型広告「スポンサードサーチ」とコンテンツ連動型広告「コンテンツマッチ」を中心とした広告事業。これらを、Yahoo! JAPANやエキサイト、MSNなどの提携パートナーサイト14社(2月現在)を通じて提供している。2月には、モバイル版コンテンツ連動型広告「コンテンツマッチ モバイル」を世界に先駆けて開始した。米国Yahoo! Inc.の広告部門Yahoo! Search Marketingの事業を日本で展開している。
※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時のものです。
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