広報インタビュー

モンスター広報に困ってます! 広報のあるべき姿を教えてください――ビーコミ加藤さんに聞いた

モンスター広報に困っているので、本来あるべき広報の姿をビーコミの加藤さんに聞いてきました。
写真
ビーコミ代表取締役 加藤恭子氏

Web担当者Forum(以下、Web担)編集部では、毎日500件くらいのプレスリリースを受け取り、その中から媒体に関係のあるネタ、読者にとって役立つであろうネタをニュースにしたり、取材しにいったりして日々記事を作っています。その情報提供者である企業の広報さんには、とても感謝しています。

しかし、なかには「モンスター広報」と呼ばれる、記者を絶句させるような特殊能力を持った人もいますし、ちょっと残念だなと思わせる「モンスター広報予備軍」の人もいます。

「それって企業の顔である広報活動としてどうなの?」と感じたので、今回は本来あるべき広報の姿をビーコミ社長の加藤恭子さんに聞いてきました。◎写真 吉田浩章

会社や自社のサービスが好きすぎて思いがあふれている人はモンスター広報予備軍

――モンスター広報(予備軍)に頻繁に出会って困っているんです。加藤さん! まっとうな広報の姿を教えてください。

加藤恭子氏(以下、加藤): 困っている記者さん多いですよね(笑)。たいていの場合、そういう広報さんって、自分の会社が好きすぎたり、一生懸命すぎたりします。実は好きな気持ちを他と共有したい、みんなに知ってもらいたい、という気持ちが強すぎて空回りしてしまう人が、モンスター広報になりやすいです。

もちろん企業側にも問題があります。適切な指導がなく、広報経験のないままに現場に出される「一人広報初心者」が多いこともモンスター広報の原因でしょう。広報活動の伝承が正しく行われていないのです。

かたや記者さんは、売り込みは要らなくて、読者のためになる情報・ネタが欲しいわけです。モンスター広報にならないためには、相手(記者)が求めている情報がなんなのか、それを知る必要がありますよね。

数年ほど、私も記者をやっていたことがあるので、記者さんの気持ちはよくわかります(笑)。

――ちなみに、モンスター広報さんあるあるを教えてください。

加藤: 記者さんから聞いた話ですが、取材して書いた記事が、広報の思い描いていた内容と違っていたらしく、その後「こう書いて欲しかった(怒)!」と赤字を入れた記事を渡されたことがあるそうです。

この背景にあるのは、メディアに載る記事内容の決定権は、記者や編集部にあるということを理解していないからでしょう。彼らが記事を出すのは、読者のためであって、取材先のためではありません。広報はこの点を勘違いしてはいけません。自分たちの伝えたいことを臨む形で確実にアピールしたいのであれば、それは宣伝(広告)です。

宣伝とは、CMやPR記事などです。お金でCMの放送時間や記事の掲載枠を買って、自社の良いところを望む形でアピールするわけです。通常の取材は、それとは違います。

自社の良い所が記事に盛り込まれる可能性もありますが、記者は中立な立場で書きますので、必ずしも好意的に紹介されるわけではありません。

記者に強引な売り込みや自己主張をやり過ぎた結果、「あなたの会社の記事はもう書きません」と言われてしまった広報さんがいたという話を聞いたことがあります。

――他にもありますか?

加藤: 記者と面会できたら(取材されたら)必ず記事になると思い込んでいるとかでしょうか。

この背景には、そもそも「取材=記事化される」という広報さんの思い込みがあるからだと思います。記者からすると取材をしてみたものの、内容が不十分でニュース性がなく、お願いしても追加情報が出てこないなんてことがあります。そういった場合、記事化を見送ることがあります。

でも確実に記事化されると思い込んでいると、「いつ載るんですか?」としつこく問い合わせをしてようやく、掲載されないと理解するわけです。

プレスリリースを打つだけが、広報の仕事じゃない

――「プレスリリースを出しました」と電話してくる人も結構いて、困りものです。

加藤: 「プレスリリースを出しました。届いていますか?」という電話を皆さんがかけたら記者が迷惑しますよね。

毎回するのではなく「この内容ならA記者の興味関心と合いそうだ」という場合に連絡するのはありです。「プレスリリースを出すこと」は広報の仕事の1つではありますが、電話は必須ではありません。もっと別のことをしてもらいたいです。

――別のこととは?

加藤: たとえば、記者が記事にするには画像が必要な場合が多いです。

  • 記事に関連する画像(製品のスクリーンショット、パッケージ、社長の写真)
  • 企業のロゴ

これらを「プレスルーム(プレスキット)」といった形で、すぐにダウンロードできるようにしておくべきですが、その用意がないことがあります。

あとは、リリースにちゃんとつながる問い合わせ先を記載しておくことです。記事を書くにあたり、プレスリリースに不足している情報があると、記者は問い合わせ先に電話をかけます。それなのに担当者につながらず……って場合は、そのネタが掲載見送るになる可能性もあります。まずはそういった部分を強化してみるのはどうでしょうか。

――確かに、一括ダウンロードできると助かりますね。問い合わせについても、電話したけど「担当者不在」ってパターンは経験ありすぎます(笑)。

加藤: プレスリリースを出したのに記事にならないという声を聞きますが、そういった準備不足が多いです。あと、よく「プレスリリースはどう書くべきですか?」と聞かれることありますが、文章がうまい必要はないです。記事になるのに、必要な情報や素材がそろっているかのほうが重要です。

もっと言うと、「新製品が出た!」といって、最初の手段がプレスリリースだとは限りません

――と言いますと?

加藤: プレスリリースを出す以外の方法もあるということです。たとえば、次の通りです。

  • 説明会を開いて記者を集め、そこで情報を開示する
  • 製品情報に加えて、それに関する調査データを加えて記者に提供する
  • 実際の使い心地や利用した効果を記者がリアルユーザーさんにインタビューできる機会を作る
  • プレスリリースを大量にばらまくのではなく、その情報を持って、興味をもってくれそうな記者に会いに行き、説明する

いいネタ(情報)があったら、どうすれば記者が興味を持ってくれるような情報にできるか。広報の腕の見せ所ですね。

どんな仕事にも共通しますが、相手が望んでいることを感じ取って、それをカタチにする。難しいですがこの経験を積んでいくと、広報として一歩成長できるかもしれません。

プレスリリースの件名は大事

加藤: プレスリリースに関して言えば、Web担の安田さんが数年前に書かれたプレスリリースの書き方の記事が参考になります。これは広報界隈では伝説のエントリーとして語り継がれています。

詳しくはリンク先を見てもらいたいのですが、プレスリリースで大事なことはいくつかありますが、その1つはリリースのタイトルです。

プレスリリースのお願い

上記のような件名のプレスリリースのメールが来ても、「一体なんの情報なのか」クリックしないとわかりません。記者さんが受け取るリリースは昔に比べると増えていますから、載りたい媒体の記者さんに目に留まるような件名にしないとですよね。

――それ大事ですね! プレスリリースのタイトルがそのまま記事のタイトルに使えそうなぐらいすばらしい場合、「うちに的を絞ってプレスリリース打ってきているのかしら……」なんて思うこともあります(笑)。

広報の基本を学ぶには

――広報の基本ってどうやって学べばいいんでしょう?

加藤: まったく広報をやったことがないという人にお勧めしているのが次の2冊です。

『広報・マスコミハンドブック PR手帳2018年版』

PR手帳は、「手帳」と名前が付いていますが、そのわりにメモがほぼありません。広報の基本がぎっしり書かれているものなんです。

たとえば、取材されるまでに広報として注意すべきことや準備すべきこと、広報の基本用語、そして記者クラブやメディアの情報などがわかりやすい表現でまとまっています。新人広報や新しく会社を立ち上げて、広報不在の会社などの場合はこの本をおすすめしています。

他には宣伝になりますが、私は新人広報向けに寄稿や講座もやっているので、広報活動で困っていることがあったら、参加してみてください。直近だと、広報マーケティングサロンのメンバー向けに、メディアの編集部訪問や、海外プレスリリースの書き方講座を予定しています。告知は弊社のFacebookページで行っています。

それから私も何度か講師をしましたが、宣伝会議の広報担当者養成講座(全10回)も毎回テーマに合わせた広報の専門家が登壇するのでオススメです。一連の広報の流れを掴むことができますよ。大阪や名古屋での開催もあります。

社内から情報を引き出すには、成功体験を積み上げる

――企業から出される情報をとりまとめて対外的な折衝の窓口を担う広報ですが、広報が社内の情報に精通していないことがあると感じています。社内から情報をうまく引き出すコツってありますか?

加藤: 成功体験を積み重ねることですかね。

たとえば、「メディアに自社のサービスが取り上げられる(掲載される)」って、それに携わった人にしてみたら、誇らしいし、うれしいことだと思うんです。その体験を社内の多くの人に、体感してもらうことが大事です。そういう体験をした人が社内に増えてくると、自然と広報に情報が集まるようになってきます。

あとは、社内に広報活動の理解者を増やすことですかね。「理解者を増やす」というと大げさに感じるかもしれませんが、ランチに一緒に行くとか、休憩中にちょっと会話してみるとか、そんな小さな一歩から相手に歩み寄ってみることをおすすめします。

加えて、経営層に広報の重要性を理解してもらうことですね。広告とは別に、記事としてユーザーに情報が届くことがどのくらい大切なのか。そこにリソースを費やすと、どんなリターンが得られるのか。そこを理解してもらうことも大事ですね。そのためには適切な手法で効果測定を行って、結果を経営層に数字で示せるといいですね。

準備が大事

――最後に、加藤さんから困っている広報さんへ一言もらえませんか?

加藤: 広報のイベントなどで「有名企業の広報活動を真似ているのに効果が出ない」と言うベンチャー企業の相談を受けますが、たいていの場合、自社とその有名企業の立ち位置の違いを理解できていません。

有名企業はすでに「知名度の貯金」があるので、記者に取材してもらいやすいです。しかし無名な場合は、まず知ってもらうための別のやり方があるのです。

私は「数年で有名になった企業の無名時代の広報活動を真似てみてください」とアドバイスしています。メルカリ、LINE、Sansan、サイボウズ……そして弊社でPRのお手伝いをしたスマートニュースやマルケトなどの活動はとても参考になると思います。ネット上に公開されているPR活動や掲載記事を時系列で追いかけるだけで見えてくることがあると思いますよ。

――確かに! 得るものがたくさんありそうですね。

PR代理店の仕事をしていると、「多くの記者を紹介してほしい」「とにかく記者に会いたい」と相談を受けることもあります。しかし、記者にたくさん会っても、お伝えする情報が読者を想定せず、自社本位のものであれば、取り上げてもらえる可能性は低いです。単に記者の名刺を集めるコレクターになることだけは避けて欲しいと思います。

また、広報初心者だけで集まると、解決策は見つかりにくいです。たとえば、婚活をするなら既婚者にアドバイスをもらった方がいいですよね? すでに他の誰かが解決して成功の法則が見えていることを、まだ解決できていない人だけで延々と悩んでは時間の無駄です。すでに解決している人に聞いたり、アドバイスをもらったりしてみてください。

――とても参考になりました。ありがとうございました!

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