無名企業の発表会に記者60名+WBSやガイアの夜明けを呼んだ「攻める広報」のマインドとは
管理職やスペシャリストを中心にした会員制転職サイト「ビズリーチ」を運営する株式会社ビズリーチ。同社がまったくの無名だった最初の記者発表会に、記者60名、テレビカメラ6台、WBS、ガイアの夜明け、NHKらメディアを殺到させた広報担当、田澤玲子さんに話を伺った。
広報=舞台監督
Q. まずは広報の活動内容について教えてください。
いわゆる広報全般を担当しています。特にメディアリレーションズを主軸に活動していまして、「攻める広報」をテーマに、広報イベントの開催や積極的なプレスリリースの発信など、弊社が伝えたいメッセージを届けていくことを第一の目的としております。 広報担当は去年まで1人でしたが、今年から2人体勢になりました。会員制転職サイト「ビズリーチ」と、関連会社のタイムセール型ECサイト「ルクサ」を主に担当しています。
Q. 「攻めの広報」というのは、よく使われる言葉だと思いますが、なぜ必要なのでしょうか?
弊社はインターネットの事業会社です。形のないサービスに実感を持っていただくためには、ただ取材依頼を待っているような守りの広報では、不十分だと思っています。
お客様が本当に知りたいのはサービスそのものについてではありません。そのサービスを通じて自分がどう変わるのか、どんな良いことがあるのか、なのです。サービスのうわべを知ってもらうだけでなく、世界観までを含めて知ってもらうためには、こちらからのアプローチが不可欠だと思います。
Q. サービスのより深いところまで理解していただく必要があるわけですね。
攻めの広報は、「ひとつの舞台」にたとえるとわかりやすいと思います。広報は舞台における舞台監督です。自分たちが持っているサービス ―― つまり役者にストーリーや、照明・音響、演じる舞台を与えて、観客であるお客様・記者の方々の感情を動かすのです。
認知度ゼロから掲載多数の大成功
Q. 御社は広報担当だけでなく社員の皆様が「全員広報」であると伺いましたが、社内で「全員広報」が浸透するようなったきっかけはなんですか?
起業直後の認知度がまったくない時に行った、グランドオープンのイベントがきっかけだと思います。攻める広報の真骨頂とも言えるイベントでした。
時は2009年、リーマンショックの直後でした。当時、ニューヨークのウォールストリートで話題になっていたピンクスリップパーティーにヒントを得ました。「ピンクスリップ」というのは解雇状のことで、リストラの憂き目に遭った方々とヘッドハンターが集まり「転活パーティー」を催していたのです。
転職サイトを運営する弊社の世界観を表すのにピッタリだと感じ、このピンクスリップパーティーを日本で初めて開催することにしたのです。
Q. 日本初の「ピンクスリップパーティー」の反響はいかがでしたか?
大成功でした。約150人のヘッドハンターやビジネスパーソンにいらしていただき、大盛況でした。さらに記者発表会を併催し、マスメディアの方が60人ほど、ムービーも6~7台入り、立ち見が出てしまうほどでした。
国内メディアの方にも多数取り上げていただきましたが、反響の中で特に印象に残っているのがブルームバーグに取り上げられ、全世界へ発信されたことです。
弊社代表の海外の知り合いから「記事を見たよ!」という連絡がたくさんきました。大げさかもしれませんが、無名だった事業がいきなり世界デビューしたのです。「自分たちの世界を知ってもらう」ことに対する社内全体の動機付けにもなりました。
Q. まさに成功体験ですよね。ゼロからのスタートでここまでの成果を予想されていましたか?
まさか!ビズリーチは魅力的なサービスだと思っていましたが、予想外の成果でした。実は、このグランドオープンの時、私はまだ週末だけのお手伝いで、社員は社長ともう1名の二人だけ。広報に充てられるお金も無くて、パーティーのドリンクはワンコイン制にして一杯500円を参加者の方に払っていただいたんです。通常のメディアイベントではあり得ないですよね(笑)。
でも、みんなの手作りでここまでの舞台を作り上げることができました。知名度ゼロ、予算もほぼゼロ、人員不足、かつ、目に見えないウェブのサービスでもなんとかできたのです。ですから、いろんなモノを持っている企業さんはうらやましいです。広報の力を信じて、社員みんなで行動したら必ず成果に結びつくと思います。
広報は一人ではなにもできない
Q. 広報に対して、会社全体が呼応している印象を受けますが、社員の方々の広報に対する意識もやはり高いのでしょうか?
13年間、様々な場所で広報としての仕事をさせてもらってきましたが、社員全員が広報の重要性を認識してくれて、ここまで協力をしてくれるというのは初めての体験です。そういう意味では日本一広報に協力してくれている会社かもしれません(笑)。
Q. やはりグランドオープンイベントの成功が大きかったのですね。しかし成功体験後、広報任せになってしまうケースもあると思います。その後もずっと社内一挙体勢で広報意識を保てているのはなぜでしょうか?
あまりに大きな成功だったので、以後、越えるべきハードルも上がってしまいましたけどね(笑)。広報任せにならないのは、私自身がふろしきを広げておきながら、自分一人ではどうにもならないので「みなさん困っているんです、助けてください」と頼っているからだと思います。
「またきたか」って苦笑いされてしまうんですけど、一緒にプロジェクトを成功させた後は「やってよかったね」「楽しかった」と言ってもらえています。
Q. 人に頼るというのは、簡単なようで難しいことなのではないかと思いますが、なにか秘訣はありますか?
良い意味で「空気を読まない」ことだと思います。たとえ煙たがられても、みんなにいつもお願いに行く心がけが必要なのではないでしょうか。実施したいプロジェクトの意義や期待される効果について丁寧に熱意をもって話せば、みんな理解してくれます。そして、全力で取り組み、結果を出す。
広報は1人では何もできないので、コミュニケ—ションを密にして本音で正直に「助けてください」ということが大切だとおもいます。
人と人を繋ぐ——みんなのチアリーダーに
Q. 広報のチカラはなんだと思いますか?
「人と人をつなぐ」チカラだと思います。自分たちのサービスとそれを必要とする人とを結んで、笑顔になる人を爆発的にふやすことができるんです。
社外の人だけでなく、社内の人間も幸せにすることができます。私のモットーは、「みんなのチアリーダー」です。弊社の中の誰かがメディアで紹介されたり、新しいサービスを担当しているエンジニアのすごさを世間に知ってもらえると本当にうれしいです。そして、記事を読んだ一般の方が弊社のサービスを知って喜んでくださると、二重にうれしいですね。
Q. 攻めの広報を目指したいという広報のみなさんへアドバイスがあればお願いします。
ネタの善し悪しがまず大切です。新鮮で良質なネタというのは寿司と一緒で、ちょっと握るだけで美味しい料理に仕上がります。半面、リリースから時間が経ったサービスなど、古くなってしまったネタは、見せ方を変え、ひと工夫しないと目新しさがありません。
そして、誰に食べてもらうかも重要です。メディアや取り扱われるコーナーによって、求められているものは違います。手持ちのネタの中で、時流に合わせて、どんなものを、どう料理して伝えるかという視点が大切です。
Q. それは営業にも似たアプローチですね。
攻める広報は営業に近いと思います。事実、もう一人の広報は営業出身です。相手を知り、その人に合わせた切り口で魅力を伝え、相手に自分たちを選んでもらうという基本的な部分は一緒ですよね。
ですから、もし掲載されたい媒体があれば徹底的に読みこみます。その媒体がどういったことを伝えたいと思っているのか? そして、それはどんな切り口でどんな要素があるのかという研究をするわけです。
作り手の立場になって、記者やディレクターになりきり、その目線で自分の会社を見ることで見えてくるモノはたくさんあります。
メディアは読者の喜ぶモノを見ている。私たちは舞台監督だと先ほど言いましたが、舞台の観客席側に行ってみないと、観客に求められている私たちの良さは伝えられないのです。
Q. ブレイクスルーのための足がかりはどうやって築けばいいのでしょうか?
いきなり大きなことをやるのではなく、小さなことから少しずつ積み上げていくことが大切です。繋がるチカラというのはやはり大きくて、メディアリレーションにおいても、どんなに小さな掲載でも、掲載されることが大切です。読者数があまり多くないインターネット媒体への掲載でも、キーワード検索を経由してテレビの取材依頼が来たという経験は何度もあります。
また、メディアの方はネタ探しのプロですから、お話をする中でたくさんの気付きがあります。どんなところに反応してもらえるか、どこが足りていないのか、どんな切り口であればより魅力を伝えることができるかをメディアの方から学び、次に話すときには改善できていることも大切です。
Q. 最後に今後の展開について教えてください。
弊社のメイン事業は転職サイト「ビズリーチ」ですが、私たちは人材サービス会社ではなく、インターネット事業の会社です。弊社のミッションは「インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく」で、インターネットで社会をよりよくしていくことを大切にしています。今後はその想いについても攻めの広報をしていきたいですね。
この20年間で働きが一番変わったのがプロスポーツだと思います。ニュースを見てください。20年前は国内の試合結果だけだったのが、今や世界の試合結果が流れてきます。これは一人の男が変えた。野球なら野茂英雄選手。サッカーなら三浦知良選手です。
世界に飛び出た一流のプロフェッショナルの背中を見て、みんながその後に続いていったのです。ビジネス界も同じだと思います。ロールモデルとなるビジネスプロフェッショナルをメディアにどんどん取り上げてもらうことによって、大げさかもしれませんが日本から世界を変えていければと思います。
(取材日:2013年9月30日/取材と文:桂 唯祐)
- ■企業名
- 株式会社ビズリーチ
- ■設立
- 2007年8月
- ■所在地
- 東京都渋谷区渋谷2-15-1
- ■URL
- http://www.bizreach.co.jp/
- ■プロフィール
- 田澤 玲子さん
大学卒業後、PR会社勤務・5年、事業会社広報・4年という広報畑を経て2009年、株式会社ビズリーチへ。
※本記事はValuePress!に掲載された記事「世界観をひとつの舞台にする「攻める広報」」の転載です。
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