企業ホームページ運営の心得

渋谷で働かないWeb屋のためのエリア戦略

営業エリアを地元に集中することで、経営資源を確保しやすくなります
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百七十七

広域 VS 地元

もう何社の「廃業」を見たことでしょうか。近所で競合Web屋(ホームページ制作業)の看板が上がれば、胸中穏やかではありませんが、しかし看板を下ろす姿は同業者として切ないものがあります。廃業するにはさまざまな理由があるのでしょうが、彼らのサイトにある「制作実績」をみて共通するのは広範なエリアに顧客を持っていることです。反対に堅調に事業を営む人は「地元」を中心に集客しています。

Web屋さんのホームページでフッターや欄外などに東京23区を列記しているものを見たことがあるでしょうか。かなり前に流行ったSEOで、「ホームページ制作+地域名」で検索する人を狙っています。なんでも自分で実験するのですが、これだけは一目見てスルーしました。方法論としては理解できますが、「商売」でみると得策ではないのです。

当社のクライアントの大半が「足立区」にあるのは「エリア戦略」。今回はWeb屋のためのエリア戦略について。

エリアに気がついた理由

営業マン時代、未開拓エリアを求めて北へ、北へと営業車を走らせていました。会社の周囲はすでに先人達に開拓されており、自分の客を得るには「新天地」を求めるしかありません。そうしてたどり着いたのは、片道1時間ちょっとの大宮市(現さいたま市)。そこで飛び込みをし、運良く「見積もり提出」までこぎ着けても、一兵卒に決裁権はなく上司の判子を貰うために足立区と大宮を往復していました。そしてある日気がつきます。

赤字じゃん

ガソリン代、車両維持費、人件費で足がでます。そこで「近場」をまわるために、開拓されていない「隙間」を探し「新規事業」に出会いました。

会社で新規事業を立ち上げ、土曜日も祝日も絵に描いた餅になった頃のことです。毎朝4時に起床して9時に家を出るまで自宅で仕事をし、9時10分に出社します。営業車での通勤時間は10分未満。夜は10時まで仕事をしても、10時30分には自宅の湯船で汗を流します。フリーターから社会復帰する際に「自転車で通える」というふざけた理由で探した会社でしたが、これが奏功しました。

投資できる時間は財産

通勤という移動時間が短ければ、純粋な労働時間を増やすことができると知ります。そもそも新規事業も、「移動時間」の少ない近場をまわりはじめ、客とコミュニケーションをとる時間が増えたことで見つけたものです。つまり「移動時間」を圧縮すれば、経営資源(リソース)を多く確保できるのです。そして「移動時間」を削減する基本は営業エリアを限定することです。渋谷で働く社長なら、渋谷を営業エリアに、足立区の私は足立区をということです(渋谷の場合は広域戦略や利便性が考えられているでしょう)。

先ほどの「SEO」が成功して、足立区舎人の私のところに板橋区高島平からの発注があったとします。先方まで電車を乗り継いで1時間以上、駅までの徒歩、先方の最寄り駅からの移動時間を加えて往復すると3時間近くかかることも考えられ、1日の労働時間の半分近くが「移動」で消費されてしまいます。

金が貰える客を捜す方法

小さな会社は「営業エリア」を限定すべきと考えます。営業エリアを絞り移動時間を削減し、削減した時間を実務に投資することで、大きな組織に対抗しうるパフォーマンスが実現可能となるからです。

私は独立してホームページ屋になり、「足立区」に特化しました。営業方法は以前にも書きましたが「DM(ダイレクトメール)」で、日曜日に新聞に折り込まれる「求人チラシ」に掲載している企業に送るのです。

商売で取り組む以上、取引先の「支払い能力」は大切な要素で、有料の「求人広告」を出している企業は、確率的に「余裕」があります。これは飛び込み営業マン時代の経験則。また、業績拡大から求人している可能性も高く、ホームページを開設する「余裕と意欲」があるのではと考えました。そしてスタートダッシュに成功しました。

飲みニケーションのトップダウン

次に狙ったのは「法人会」や「商工会」などの各種団体です。異業種交流会などもいいでしょう。こうした団体の中には内部での営業活動を禁じているところもありますが、そこでの「出会い」をきっかけとした取引を禁止しているところはまれです(商売人同士が集まれば、自然と商談がはじまりますので)。

「法人会」や「商工会」では地域単位で、年に何回か親睦会と称した「飲み会」が開かれるのが一般的です。そこに顔を出し名刺を配ります。最大のメリットは「経営トップに会える」ということ。ほとんどの中小企業では社長がOKをだせばすぐにGOです。末端の社員から打ち合わせを繰り返し、積み上げていくプロセスを省略できるのは移動以上に「時間」を節約できます。何度か紹介している「ヤスリ.jp」の社長とは、こうした会合がきっかけで、気がつけば取引がはじまっていました。

客が客を連れてくる構図

ネット上での「つながり」も大切ですが、ご近所というエリアでの「つながり」がビジネスに与えるメリットは「Web屋」にとって大きいと断言できます。ツイッターやブログではなく「リアル」な「クチコミ」はその1つ。手伝った企業や関係者が宣伝マンとなって「ご近所さん」を紹介してくれます。もちろん「結果」にもよりますが。

最後にエリア戦略の難しさにも触れておきます。エリア戦略の難しいところは「地域性」に大きく左右されることです。たとえば我が町、足立区では「地元出身を軽んじる住民性」があり、一方、都心から来た人間を有り難がる傾向があります。国産を唾棄し、舶来を奉るIT業界に似ています。また、年齢や学年、出身中学といった「序列」にこだわる人も少なくありません。こうした地域性への「対策」もエリア戦略には不可欠です。

と、まあ偉そうに書きましたが、エリア戦略を採用した理由の1つは、

地元で知り合いを増やして、地元の飲食店などで少しだけ特別なサービスを受けたい

という下心です。おかげさまで、行列ができる焼き肉屋「スタミナ苑(足立区鹿浜)」で裏メニューを注文できるようになりました。

今回のポイント

エリアを絞ることで経営資源を効率投資。

移動時間というロスを見逃すな。

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